※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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兎狩りーRabbit Huntー

 

『シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……ッ!!』

『チィ……ッ!』

 

 憎悪に身を焦がすジャビットは、全身に濃密な殺意を纏いながら上空へ跳躍。

 

 それを見た有栖も一歩遅れて跳躍し、二機の【兎】が空中へ跳び上がる。

 

『シャア……ッ!』

『ハッ……!!』

 

 二機は空中を縦横無尽に駆け巡り、ニーブレードとフットブレードが交差する。

 

『……ッ!』

 

 だが二つのブレードが交差する直前、ジャビットが何かに気付いたようにその場から真後ろに飛び退く。

 

『ハァ……ッ!』

 

 有栖は後退したジャビットを逃さず追撃し、脚部を振り抜きブレードを振るう。

 

『な……っ!?』

 

 だが、ジャビットは白い布────【生ける経帷子】を広げ、それを纏ったフットブレードで刃を受け止めた。

 

 その光景を見て、有栖は舌打ちする。

 

 双葉は、有栖から彼女の【固有兵装】について事前に説明を受けていた。

 

 彼女のシュミクラム、【ヴォーパル・ラビット】の【固有兵装】は────【絶対切断(インフィニット・ディバイド)】。

 

 自身の攻撃に触れた対象に切(・)断(・)状(・)態(・)を(・)上(・)書(・)き(・)す(・)る(・)能力を持つ、防御無効の強力極まりない能力である。

 

 ブレードの切断力で斬るのではなく、切(・)断(・)状(・)態(・)を(・)デ(・)フ(・)ォ(・)ル(・)ト(・)に(・)書(・)き(・)換(・)え(・)る(・)能力である為、通常の防御兵装は意味を為さないどころか、対象が明確な形を持たないプログラムであってもこの能力は有効であるらしい。

 

 つまり、有栖の攻撃を受(・)け(・)た(・)時点でその刃を止める事は出来ず、あらゆるものが紙屑同然に斬り裂かれる。

 

 それが、有栖の【固有兵装】…………剥き出しの刃の如き彼女の精神性を具現化したような、攻撃極大特化の能力だ。

 

 …………しかし、絶対の【剣】にも例(・)外(・)というものがある。

 

 ジャビットの【固有兵装】、【生ける経帷子】は接(・)触(・)対(・)象(・)を(・)死(・)亡(・)状(・)態(・)と(・)誤(・)認(・)さ(・)せ(・)る(・)即ち────停(・)止(・)させる能力を持つ。

 

 有栖の能力は確かに防御無効の恐るべき力だが、その力があくまで【固有兵装】に依るものである事に変わりはない。

 

 故に、ジャビットが【生ける経帷子】を自身のブレードに巻き付けた事で、絶対の矛を受け止める事が出来る刃が生み出されたワケだ。

 

 ジャビットは、有栖の【固有兵装】の能力を知らなかった筈だ。

 

 恐らくではあるが、ジャビットは天性の勘のようなもので有栖の攻撃の危険性を察知し、直感で最適な対処法を講じたのだろう。

 

 憎悪に身を任せていても、ジャビットの戦闘勘は失われていない。

 

 否、敵(・)を(・)殺(・)す(・)事に全神経を集中させた事で、その直感は極限まで研ぎ澄まされている。

 

 既に今のジャビットに、常に存在していた遊(・)び(・)の余地はない。

 

 ただ、如何に目の前の怨敵を殺すか────それだけを、思考している。

 

『シャアアアアアアアアアアアアアアアアア……ッ!』

『チィ……ッ!』

 

 ジャビットは再び虚空を蹴り、空中機動を開始する。

 

 当然有栖もそれに応戦し、空中機動を開始。

 

 二機の【ラビットシリーズ】は共に空中を駆け巡り、度々ブレードを交差させる。

 

 しかし、いずれも互いのブレードが鍔迫り合うのみで、ダメージには至らない。

 

 鈍い金属音が立て続けに鳴り響き、度重なる鍔迫り合いによってソニックブームが発生。

 

 周囲のオブジェクトを斬り裂き、余波だけで地形を変えていく。

 

『シャア……ッ!』

 

 だが、無論それだけでは千日手だ。

 

 ジャビットは状況を変えるべく、有栖と刃を交差させると同時に右腕にニードルガンを装着。

 

 攻撃後の硬直を狙い、有栖の機体を銃撃する。

 

『この……っ!』

 

 有栖はすぐさまその場から離脱し、ニードルガンによる銃撃を回避。

 

 ジャビットを距離を取りつつ、無数の回転刃、ラディカルスピナーを射出した。

 

 回転する刃が円を描くようにしてジャビットに迫るが、当然【ラビットシリーズ】にとって遠距離からの飛び道具など何の意味もない。

 

 シュラウド・ラビットはすぐに空中機動を再開し、ラディカルスピナーの包囲から脱出した。

 

『シャハア……ッ!』

『ハァ……ッ!』

 

 通常兵装による遠距離攻撃では、【ラビットシリーズ】の超高速機動相手では被弾確立は絶望的だ。

 

 故に、二機は共に空中機動を継続しながら脚部を振るい、空気の刃を連続して射出。

 

 その刃と同等のスピードで自身も敵に突っ込み、脚部のブレードを振り抜く。

 

 二機のブレードが、ガキン、という硬質な音と共にぶつかり合う。

 

 更に遅れて到達した空気の刃が、二機に向かって殺到する。

 

『く……っ!』

『死ネェ……ッ!』

 

 当然その刃を素直に受けるワケもなく、二機は共にその場を離脱。

 

 しかしジャビットはそのまま真上へ跳躍し、連続して脚部を振り抜き四方八方へ空気の刃を射出。

 

 雨あられと降り注ぐ空気の刃を回避しつつ、有栖はジャビットの上を取るべく滑空する。

 

 だが、ジャビットは攻撃の手を緩めず、有栖が高度を上げる事を許さない。

 

 戦況は一転して、制空権の一歩上を行かれた有栖が劣勢となった。

 

(チッ、あの自爆野郎に右腕をやられた事が響いてるわね。両腕が揃っていれば、幾らでもやりようはあるってのに)

 

 この戦況を作り出した一因として、ジャビットの実力もそうだがフェネジールの自(・)爆(・)で有栖の機体の右腕が失われている事がある。

 

 脚部での斬撃を主武器とする【ラビットシリーズ】にとって、両腕は空中での細かな姿勢制御の意味を併せ持つ。

 

 その片方が失われている以上、普段より動きに精密性が欠けてしまうのは当然だ。

 

 無論、バランスを崩して落下する、という事は有り得ない。

 

 しかし、普段のような精密軌道が行えなくなっている事も、また確かだ。

 

 有栖の戦術は攻撃一辺倒の力押しと思われがちだが、その戦闘を支えるのは綿密に計算された冷徹な戦闘論理だ。

 

 敵の動きを瞬時にシュミレートし、最適な追撃ルートを算出。

 

 ありとあらゆる要素を使い、敵を追い詰めていく狩(・)り(・)。

 

 それが、有栖の持つ戦闘理論だ。

 

 だが、今の有栖にはその狩りに不可欠な精密性が欠けている。

 

 精密性が欠けた事によって、どうしても取れる選択肢は普段より限られてしまう。

 

 その状態で万全の状態の【ラビットシリーズ】を相手にするのは、分が悪いと言わざる負えなかった。

 

≪双葉……ッ! 念の為に聞くけど、今私の右腕を修復する事は可能……っ!?≫

≪流石に無理よ……っ! 幾ら私でも、そんなとんでもないスピードで跳び回ってるアンタ相手に修復プログラムの適用なんて出来るワケないでしょ……っ!? 一瞬でも立ち止まれるならともかく、今アンタにそんな余裕があるワケ……っ!?≫

 

 もしやと思って直接通話で聞いたみたものの、双葉の答えはNO。

 

 幾ら双葉でも、この超高速戦闘に割り込む形で右腕の修復をかける事は出来ないらしい。

 

 この戦闘で一瞬でも足を止めれば、それは即ち致命的な隙を晒す事になる。

 

 そんな真似など、出来る筈もなかった。

 

≪なら、こういう事は出来る……っ!?≫

 

 …………だが、それで諦めるような有栖ではない。

 

 最初から駄目元だった案を即座に破棄し、次(・)な(・)る(・)策(・)を双葉に伝えた。

 

≪…………それなら、可能よ。でも、あいつは……≫

≪そこはこっちでなんとかするわ。タイミングはこっちで指示するから、お願い≫

≪…………了解(ヤー)≫

 

 双葉は有栖の策(・)を了承し、有栖は続けざまに別の相手へ直接通話を繋げた。

 

≪話は聞いていたわね。────────というワケだけど、出来る?≫

≪…………ああ、可能だ。双葉、悪いけどこっちのサポートも頼むぞ≫

≪了解(ヤー)≫

 

 通話相手、怜二の了承の返答を聞き、有栖は高速軌道を続けながらジャビットの様子を伺った。

 

 ジャビットの機体は依然として制空権を確保したまま、四方八方に空気の刃を撃ち出している。

 

 構造体は見るも無残に斬り裂かれ、ある程度原型を保っていた筈の建物は各所が斬り裂かれ至る所が崩落していた。

 

 戦場は拠点であった元【V.S.S】社屋から離れ、社屋前の広場へと移行している。

 

 周囲に積み上げられたコンテナを盾にしながら、有栖はジャビットの攻撃を回避し続ける。

 

 ジャビットのシュミクラムは【ラビットシリーズ】特有の超高速軌道と特殊な性質を持った【固有兵装】が武器であり、同様の超高速軌道を可能とする有栖相手では攻撃能力では一歩劣る。

 

 シュラウド・ラビットの【固有兵装】はどちらかといえば絡め手向きであり、攻撃能力を極限まで突き詰めた有栖の【固有兵装】と違い、攻撃力そのものを上げる効果は保持していない。

 

 故に、有栖のように防御無効であらゆる障害物を斬り裂けるワケではなく、充分な物量さえあれば防(・)御(・)も有効ではあるのだ。

 

『いい加減、くたばりやがれええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ……ッ!!』

 

 故に有栖が劣勢とはいえ、状況はほぼ千日手。

 

 一刻も早く有栖を殺してやりたいジャビットとしては、いつまでもそんな状態に甘んじる事を許容出来る筈もない。

 

 ジャビットは有りっ丈の空気刃を射出すると同時に、機体を急降下。

 

 有栖目掛けて、一直線に飛来して来た。

 

『今よ……ッ!』

『────【致死性防壁(クラック・アイス)】、限定展開……ッ!』

 

 双葉がプログラムを奔らせ、一瞬にしてジャビットの眼前に小規模な【致死性防壁】が展開される。

 

 触れた者の脳を焼き切り、死に至らしめる光の壁。

 

 それが顎を広げ、ジャビットを迎え入れんとその姿を現出させた。

 

『無駄だァ……ッ!』

 

 だが、そ(・)の(・)程(・)度(・)の罠など彼にとって意味はない。

 

 ジャビットは前面に【生ける経帷子】を纏い、【致死性防壁】に突入。

 

 白布はジャビットを致死の壁から護り切り、何事もなかったかのようにジャビットは【致死性防壁】を突破した。

 

『オラァ……ッ!』

『ハ……ッ!』

 

 ジャビットはそのままフットブレードを振り抜き、有栖のニーブレードと交差する。

 

『捉えたぜぇ……っ!』

 

 そして、ジャビットはそれまで纏っていた白い布を伸ばし、有栖の右足に巻き付けた。

 

 途端、有栖の機体の右脚部が動かなくなり、ヴォーパル・ラビットがバランスを崩す。

 

 その隙を逃さず、ジャビットは左脚部を振り被った。

 

『死ねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ……ッ!!』

 

 態勢を崩した有栖に、この刃を受け止める術はない。

 

 そう、思えた。

 

『────脚部装甲、部位排出(パージ)』

 

 ────だが、その瞬間無機質な機械音声が響き渡る。

 

 同時に有栖の脚部を覆っていた装甲が弾け飛び、白布の拘束が外された。

 

『な……っ!?』

 

 その光景に、ジャビットは驚愕した。

 

 当然だ。一度【生ける経帷子】に拘束された以上、その部位はあらゆる稼働を行えなくなる。

 

 システム上死亡状態と誤認されるのだから、動かせる筈がないのだ。

 

『けど、死んだ状態と誤認されていても────外(・)か(・)ら(・)なら、どうとでも出来るでしょう?』

 

 …………そう、ジャビットの【固有兵装】はあくまで対象を死(・)亡(・)状(・)態(・)と誤認させる事で機能停止へ誘うものだ。

 

 確かに、死亡状態…………即ち停止状態になれば、自(・)分(・)か(・)ら(・)動く事は出来ないだろう。

 

 ────だが、外(・)部(・)か(・)ら(・)であれば話は別だ。

 

 故に有栖は双葉に自身の機体のパスコードを譲渡し、双(・)葉(・)の(・)手(・)に(・)よ(・)っ(・)て(・)【部位排出プログラム】を起動させたのだ。

 

 死体は自ら動く事はないが、第三者の手で動かず事は出来る。

 

 有栖は、その事に気付いて双葉にこの作戦を伝えたのだ。

 

 そして、有栖が仕込んだ作戦はこれで終わりではない。

 

『ぐ……っ!? 重、い……っ!?』

 

 排出した有栖の脚部装甲に引っ張られるように、ジャビットは己の纏う白布によってガクン、と態勢を崩す。

 

 双葉は脚部装甲を排出する際に、その重量データを改竄して置いたのだ。

 

 結果、外された脚部装甲は極大の重量を持つ重(・)石(・)として機能し、ジャビットの機体の動きを押し留める。

 

『お願い……っ!』

『了解(ヤー)』

 

 そして、ジャビットは見る。

 

 こちらに掌を向け、今にもそれを握ろうとする青いシュミクラム(怜二の機体)の姿を。

 

『────凍て付け』

 

 怜二の拳が握り締められ、周囲の冷気が収束。

 

 ジャビットの両腕が凍り付き、粉々に砕け散る。

 

『ぐおおおおおおおおおおおお……っ! だが、腕を失った程度で……ッ!』

『────いいえ、これで終わりよ』

 

 その宣言と共に、有栖の機体が全身でジャビットの機体を蹴り上げる。

 

 装甲を排出し身軽になった右足の蹴りが、ジャビットの機体を浮き上がらせた。

 

 その先には、先程ジャビットが突破した【致死性防壁】がある。

 

 ────そして、今のジャビットには【生ける経帷子】を掴む為の腕(・)はない。

 

 【生ける経帷子】は独立して動かす事は出来るが、手動でやるよりその動作は緩慢になる。

 

 当然、【ラビットシリーズ】の脚力で蹴り飛ばされるジャビットに追いつける筈もない。

 

『ち、ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……ッ!!』

 

 罪人は、処刑台に上る。

 

 ジャビットの機体は、【致死性防壁】の放つ光の中に飲み込まれた。





 こういう戦術を考えるの、結構楽しい。

 戦闘の細かな内容なんかは割と思いつきで書いたりするけど、それを頭の中でこねくり回すのが楽しいよね。
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