BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
『がっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……っ!!!』
【致死性防壁】に呑まれたジャビットの、断末魔の絶叫が響き渡る。
シュラウド・ラビットはその身を致死の光に囚われ、超高出力の神経パルスがジャビットの脳を焼く。
【致死性防壁】は一定区画に超高出力の神経パルスを張り巡らせる事で、領域に足を踏み入れた者の脳を文字通り
その危険性の高さから一般での使用は制限されているが、双葉は特級プログラマに与えられる特権の一部としてその使用を認可されている。
特級プログラマになる為には先天的なセンスが重要とされており、早々現れるものではない。
故に、その頭脳は政府としても保護の対象であり、政府機関への技術供与等の義務を果たす事によって様々な特権が与えられている。
その特権の中の一つに、【技術保護を理由とする特例報復認可権】というものが存在する。
有り体に言えば、特級プログラマはその頭脳が第三者によって脅かされた時に
故に、犯罪者は特級プログラマを標的にした時点で
無論、それでも尚特級プログラマの埒外の技術力を求めて営利誘拐や脅迫に踏み切ろうとする者達はいるが、特段バックボーンのない有象無象の犯罪者が彼等に手を出そうとする事はまずない。
この【特例報復認可権】の一部には、当然ながら【致死性防壁】の使用に関する項目がある。
【致死性防壁】は
【防壁】の名の通り、通常は迎撃を想定したセキュリティプログラムなのである。
その為、特級プログラマが仕掛けた【致死性防壁】によって第三者が死亡した場合、それを仕掛けた特級プログラマが罪に問われる事はない。
防壁に足を踏み入れた以上、その特級プログラマが防衛している領域に足を踏み入れたものと見做されるからだ。
今回の場合、ジャビットは双葉の誘拐を実行し、更に仲間に彼女を輪姦までさせようとした。
その時点で双葉はジャビットに対しあらゆる報復を行う権利が保障されており、そもそも盗掘者である時点で
【致死性防壁】は簡単に言ってしまえば、罠にかかった標的の脳を直接電子レンジにかけるようなものだ。
囚われた者は想像を絶する激痛と共に神経パルスによって脳を焼き切られ、瞬く間に死に至る。
加えて、双葉の【致死性防壁】は通常のそれよりも神経パルスの出力を数段階引き上げてある。
一度でも足を踏み入れれば、その時点でほぼ即死。
通常の【攻性防壁】と違い、第三者の助けがあったとしても触れてしまった時点で手遅れとなる。
『がっ、あ、ぐぁ……』
神経パルスによって脳を焼き切られたジャビットの機体が、力を失って地に落ちる。
重石と化した有栖の脚部装甲に地面に縫い留められた白布の上に落下する形で、シュラウド・ラビットは墜落した。
搭乗者の死亡によりシュミクラムの換装が解除され、除装されたジャビットの電子体が地面に投げ出される。
ジャビットの死体は全身の至る所から体液が流れ出しており、目はカッと見開いたまま白目を剥き、壮絶な表情で息絶えている。
頭部からは肉が焦げた嫌な匂いが漂っており、見るからに死に至っているのは明らかだ。
一足先にその場を飛び退いていた有栖は、そんなジャビットのグロテスクな死体を見て唇を吊り上げた。
『ふふ、首を斬って殺せなかったのは残念だったけど、これはこれで良い死に様ね。嗚呼、何度繰り返しても屑が死に絶える様を見るのは心地良いわ。これで、社会のゴミがまた一つ消えたわね。思っていたより苦戦させられたけど、最期は呆気なかったわね』
まるで愉快なものでも見るかのようにジャビットの死を貶した有栖は、上機嫌で笑みを浮かべている。
彼女にとって、悪人の殺害は明確な
そこに、人を殺した後の後味の悪さや無理に明るく振る舞う事で良心の呵責を誤魔化すような無理をしている様子は微塵もない。
有栖は心底、ジャビットの死を悦んでいるのだ。
双葉はそんな有栖の様子を見て、背筋が寒くなる感覚に襲われた。
人の死を喜ぶ、というのは基本的に不謹慎な行為だ。
幾ら相手が悪人であれ、そこには
しかし、有栖にはその手の理論武装をしている様子が一切見受けられない。
自己暗示の為の建前ではなく、心の底からその行為を
実際に【致死性防壁】を展開した双葉とて、
これまで散々実感した事ではあるが、有栖の精神は常軌を逸している。
ジャビットとはまた別のベクトルで、社会不適合者であると言っていい。
彼女の振る舞いは、裏側の世界でも更に極まった類のものだ。
とてもではないが、カタギの人間が持っていて良い精神性ではない。
そう考えたのは、怜二も同様だったのだろう。
しかし怜二は嫌悪すら滲ませた双葉の視線とは違い、何処か同情的な────ともすれば憐憫と取られかねない目で有栖を見詰めていた。
恐らく、そういった精神性を形成
双葉には理解し難い考えだが、怜二はそういう男なのだと知っているのでそれについて思う事はない。
そもそも、有栖は
双葉と怜二だけでは対処が不可能だったジャビットの討伐を買って出てくれただけではなく、実際に【ヒャズニング】を壊滅状態に追い込み、双葉達と協力してジャビットの打倒すら成功させている。
過程はどうあれ彼女が怜二達を助けてくれた事は事実であるし、それについては当然恩義があると思っている。
詰まるところ、有栖は
双葉はしてはこれ以上交流を深めるのは遠慮したいというだけで、有栖という個人に対してはそこまで嫌ってはいない。
彼女が嫌悪するのはあくまで有栖の異常な精神性のみであり、有栖本人の人格に関してはむしろ好ましく感じている。
無論、その事を表面上認める事はまずないのであるが。
『…………とにかく、助けてくれてありがとう。有栖がいなかったら、取り返しのつかない事になっていた。改めて、礼を言うよ』
怜二もまた、有栖に感謝している事に違いはない。
そう言って礼を言うと、有栖は悪戯っぽく微笑んだ。
『ふふ、そう言ってくれると嬉しいわ。けど、形式上は私が貴方達に協力を依頼した形だし、貸し借りはなしって事でもいいわよ』
『いや、流石にそういうワケにはいかないさ。形式上はどうあれ、助けて貰ったのは事実なんだから』
…………そして当然、こうなる事も予想の範疇ではあった。
双葉としてはこれで貸し借りなしの状態にしたかったのだが、怜二がこう告げてしまった以上はそうも行かない。
幸い、今回は前回のように双葉に依頼したワケではなく、利害の一致で共闘した形になる。
双方のメリットを勘定し、一時的に手を結んだのが今回の顛末だ。
故に、前回のように有栖から貸し借りの清算を求められる事はない筈だが、心理的に上位に立たれてしまっているのは間違いない。
今後も有栖からの頼みは断り難くなる事を予想し、双葉は溜め息を吐いた。
(…………まあ、こいつは戦闘能力
双葉は現状を鑑みて今後の想定を立てながら、ふとジャビットの遺骸に目を向けた。
別に、意識してやった事ではない。
強いていえば、
「ぉ……ぉぉ……」
『……っ!?』
────瞬間、全身が総毛だった。
双葉の視線の先、死んだ筈のジャビットの身体が────ぴくり、と腕を震わせそれと同時に不気味な呻き声が聞こえたからだ。
改めて死体を見回せば、決定的な違和感に気付く。
何故なら、おぞましい死に顔を晒していた頭部には────
『怜二、有栖……っ!』
『『……っ!?』』
鬼気迫る様子の双葉の叫びに、怜二達もまたその死体の異常に気が付いた。
死体は既に各所が不気味な痙攣を繰り返しており、それは最早死亡直後の生理的痙攣などでは断じて無い。
あからさまに
「おぉ、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
ジャビットの死体は文字通り亡者のような呻き声を漏らし、ゆらゆらと身体を揺らしている。
それは創作映画で見たゾンビのようで、生理的嫌悪と理解不能の恐怖が沸き上がる。
「────
────そして、ジャビットの死体がシュミクラムに姿を変えた。
先程まで散々見ていた筈のその機体はより赤色が濃くなっており、それはまるで全身から血を流しているかのような有り様だった。
頭部には移行前の死体と同じように白い布────【生ける経帷子】が巻かれており、布の隙間から垣間見えるカメラアイには混濁した赤い光が浮かび上がっている。
意味は分からない。
状況も理解出来ない。
ただ一つ言える事は、未だ脅威は過ぎ去っていないという認め難い事実だけだった。
ヒントは出しています。創作でもたまにある手です。次回で多分ネタバラシ。