※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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亡者ーDead Manー

 

 白布を被り、亡者の如き様相で蘇ったジャビットの機体は先程までとは違う、虚ろな眼差しでこちらを見据えていた。

 

 濁った赤色に染まるカメラアイが揺れ動き、有栖の機体を────捉える。

 

『お、まえ……こ、ろす……ころ、すころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすししししししししししししししねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……っ!!』

 

『『……っ!?』』

 

 ────その変貌は、突然だった。

 

 シュラウド・ラビットのカメラアイが有栖の機体(ヴォーパル・ラビット)の姿を認識した瞬間、濁った眼差しに明確な殺(・)意(・)が宿り、強烈な殺気が叩きつけられたのだ。

 

 そして、その殺気がこちらに到達するか否かというタイミングで、ジャビットの機体が視界から消(・)え(・)た(・)。

 

『……く……っ!?』

 

 ガキン、という硬質な音に目を向ければ、そこにはジャビットのフットブレードをニーブレードで受け止めた有栖の姿があった。

 

 有栖も間一髪といった様子で刃を受け止めており、表情画面越しの顔には冷や汗が浮かんでいた。

 

『おお、おお、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああ……っ!』

『くぅ……っ!』

 

 文字通りの亡者と化したジャビットの猛攻は、止まらない。

 

 認識すら不可能なスピードで跳躍を開始したシュラウド・ラビットは、続け様に連撃を有栖に叩き込む。

 

 有栖は防戦一方といった様子で、あの有栖ですら全霊を賭して攻撃を見切って受け止めるのが精一杯、といった有り様だ。

 

 スピードが、格段に上昇している。

 

 先程までは、ハイスピードカメラを利用する事でなんとか残(・)像(・)程度は視界に映す事が出来ていた。

 

 しかし、今はその残像すら映らない。

 

 文字通りの意味で、今のジャビットは目にも映らぬスピードで稼働していた。

 

 速(・)さ(・)という領域に置いてほぼ互角であった有栖が、そのスピードに対応出来ていない。

 

 攻撃こそが真骨頂である有栖が、防御に回らざる負えなくなっている。

 

 それは、有栖の埒外の力量を知る今だからこそ、ハッキリと異常事態だと認識出来る。

 

 これは、尋常な状態ではない。

 

『く……っ! これは、【超加速制御装置(アクセルリンカー)】を過剰稼働(オーバーロード)させている……っ!?』

『ちょ、何なのよその【超加速制御装置】ってのは……っ!?』

 

 そのスピードの異常加速の原因に、有栖は心当たりがあるらしい。

 

 彼女の言葉を拾った双葉が問いかけると、有栖は焦った様子のまま回答する。

 

『正式名称、【超加速稼働精密動作制御装置(アクセルリンク・マニピュレーター)】…………【ラビットシリーズ】に共通して搭載されている、超高速機動を行う為の機体制御を司るシステムの事よ』

 

 まず第一に、と有栖は前置きする。

 

『知っての通り、【ラビットシリーズ】は他のシュミクラムの追随を許さない超高速での機動が可能よ。そして、その絡繰りの大本がこの【超加速制御装置】なの』

 

 これはね、と有栖は続けた。

 

『【超加速制御装置】は、【ラビットシリーズ】の全身に張り巡らされている超高精度精密駆動を行う為の姿(・)勢(・)制(・)御(・)装(・)置(・)よ。このシステムによって【ラビットシリーズ】は空中を足場にする程の細かな駆動が可能となり、同時に超高速機動中にかかるGを分散する役割も持っている。これがあるからこそ、【ラビットシリーズ】はあんな機動が行えるのよ』

 

 ただし、と彼女は付け加えた。

 

『この、精(・)密(・)駆(・)動(・)ってのが曲者でね。このシステムは、基本的に使用者のイメージを反映させて稼働するから、超(・)高(・)速(・)機(・)動(・)を(・)脳(・)内(・)で(・)正(・)確(・)に(・)シ(・)ュ(・)ミ(・)レ(・)ー(・)ト(・)出(・)来(・)る(・)ってのが【ラビットシリーズ】を動かす為の最(・)低(・)条(・)件(・)になるワケ。私は手に入れた瞬間から自由に動かせたけど、早々適合者が見つからないってのは聞いてるわ』

『……成る程……』

 

 怜二は有栖の話を聞き、得心がいったように頷いた。

 

 言うなれば、彼女が説明した【超加速制御装置】の稼働に必要なのは、正確なシュミレートを思い描ける想(・)像(・)力(・)と、常人離れしたバ(・)ラ(・)ン(・)ス(・)感(・)覚(・)だ。

 

 しかも、そのどちらもかなり埒外の領域に足を踏み入れなければならない。

 

 ただの頭でっかちでは身体制御に欠ける為、動かせない。

 

 身体制御が行えても、そのイメージを明確にシュミレート出来なければ使いこなす事は出来ない。

 

 今まで誰(・)に(・)も(・)使(・)え(・)な(・)い(・)シ(・)ュ(・)ミ(・)ク(・)ラ(・)ム(・)などと揶揄されていたのも、ある意味当然である。

 

 【ラビットシリーズ】は、汎用性を度外視したワンオフ機体だ。

 

 通常のシュミクラムの設計思想にある筈の使(・)用(・)者(・)に(・)使(・)い(・)易(・)い(・)よ(・)う(・)に(・)というコンセプトが、丸々抜け落ちている。

 

 少々特殊な仕様の怜二の【ヴァナルガンド】でさえ、此処までのピーキーさは無い。

 

 使い易さを捨て去り、ただ機能のみを追求した窮極系。

 

 それが、【ラビットシリーズ】なのだ。

 

『……けど、今あいつはその制御を意(・)図(・)的(・)に(・)手(・)放(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。つまり、ジャビット=アンサーペは現在自身にかかる負担を度外視して、ひたすらに速度を上げる選択肢を取っている。あんな真似をすれば、全身がバラバラになってもおかしくない筈だけど……』

『でも、もうあいつは死んでる。死んでる以上、自分の身体に気を遣う必要はないってワケか』

 

 だけど、と怜二は続けた。

 

『そもそも、あいつは今何(・)で(・)動(・)け(・)て(・)い(・)る(・)んだ? あいつは、死んだ筈なんだろ?』

『…………ええ、その筈よ。でも、何故か今のそいつからは生きた電子体の反応が出ている。さっきまで、正真正銘の死(・)体(・)だった事は確認出来ていたにも関わらずね』

 

 …………そう、結局はそこに行き着くのだ。

 

 ジャビットは、確かに死んだ。

 

 【致死性防壁】に叩き込まれ、脳を焼き切られて壮絶な死を遂げた。

 

 それは、此処にいる全員が直に目撃している。

 

 計器の故障でも、混線による集団幻覚の類でもない。

 

 今目の前にいるのは、間違いなく動(・)く(・)死(・)体(・)なのだ。

 

『一体、何がどうなって……』

 

 怜二はいつでも動けるように身構えながらも、どう動けばいいかが分からなかった。

 

 今はなんとか有栖がジャビットの攻撃を防御してくれているからいいものの、もしも奴の矛先が怜二に向いてしまえばひとたまりもない。

 

 念の為、隠蔽(ヒドゥン)モードを起動して姿を隠してはいるのだが、それが果たして意味のある行為かは分からない。

 

 何せ、死(・)体(・)が(・)動(・)く(・)という目を疑う光景を前にしているのだ。

 

 自分の常識が何処まで通用するものなのかさえ、今の怜二には判断出来なかった。

 

(考えろ……奴は、何で動けている……? 何か、今までヒントになるような材料はあったか……?)

 

 怜二は現状の謎を紐解くべく、これまでのジャビットの行動や言動を洗い直していた。

 

 【海底都市】でのファーストコンタクトでの惨劇の目撃と、惨敗。

 

 【ミョルニル】を連れて【ヒャズニング】撃破を向かった先で起きた、偽りの討伐劇。

 

 そして、死んだと思っていたジャビットが現れ双葉を連れ去った事……。

 

 ────そう、死(・)者(・)を(・)生(・)者(・)と(・)誤(・)認(・)さ(・)せ(・)る(・)のさぁ! つまり、こいつを着せた死者は生きた電子体として認識される……っ! 当然、少し着(・)飾(・)っ(・)て(・)やれば、俺の真似事も出来るんだよ……っ!────

 

『……っ!? まさか……っ!』

 

 ────そこで、怜二は思い出す。

 

 ジャビットは、確かにこう言った。

 

 【(・)生(・)け(・)る(・)経(・)帷(・)子(・)】(・)を(・)着(・)せ(・)た(・)死(・)者(・)は(・)、(・)生(・)き(・)た(・)電(・)子(・)体(・)と(・)し(・)て(・)認(・)識(・)さ(・)れ(・)る(・)と。

 

 つまり、今のあいつは……。

 

『────っ! そういう事か……っ! あいつ、死ぬ間際に有(・)栖(・)を(・)殺(・)せ(・)ってプログラムを機体に残して、自分自身を【生ける経帷子】で操って標的を襲うように仕組んでいたんだわ……っ!』

『……っ!? チッ、何処までも面倒な真似をしてくれるわね……っ!』

 

 ────死の間際に遺したプログラムに従って動く、傀儡人形。

 

 それが、今のジャビットの正体だ。

 

 息絶える前にジャビットが機体に刻んだ、有(・)栖(・)を(・)殺(・)せ(・)という命令術式(プログラム)。

 

 今のシュラウド・ラビットは、その命令を忠実に実行しているに過ぎない。

 

 ジャビットは【致死性防壁】に叩き込まれた瞬間、自身の生存よりも有栖の殺害を優先した。

 

 自分自身が死亡しても憎き仇を殺せるよう、自分自身に命令を書き込んだ。

 

 それは、ジャビットの執念が生んだおぞましき末路。

 

 あのシュラウド・ラビットは、真実ジャビットの亡(・)霊(・)なのだ。

 

 憎い相手を殺す為だけに、その肉体を現世に遺した亡者。

 

 それが、あの生ける屍(リビングデッド)の真実だ。

 

 死の間際に強い念を残し、生者を害する怨霊。

 

 今のジャビットは、まさしくそれだ。

 

 ジャビットは、他の全てを捨てて有栖への復讐を選んだ。

 

 その意志の結晶こそが、あの姿だ。

 

 自分が死んでも、必ず復讐は果たす。

 

 その鋼(・)鉄(・)の(・)決(・)意(・)こそが、あの亡者を生み出した。

 

 必ず、仇を殺す。

 

 ただそれだけを求めた、一人の男の成れの果ての姿だった。

 

『し、ね……しね……こっちへ、きや、がれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ……っ!』

 

 いつまで経っても有栖を仕留めきれない事実に、業を煮やしたのだろう。

 

 シュラウド・ラビットは一度大きく跳躍すると、社屋の近くのオブジェクト目掛けてそのフットブレードを振り下ろした。

 

 コンテナのようなオブジェクトが真っ二つに割れ、その中(・)身(・)が転がり出る。

 

『……あれは……っ!?』

『死体……っ!?』

 

 …………コンテナから出て来たのは、無数の女の死骸だった。

 

 股や首が大きく抉られた裸の女の死体が、幾つも散乱している。

 

 恐らく、今までジャビットが殺めて来た被害者達に違いない。

 

 あのコンテナは、どうやら死体置き場(モルグ)として使われていたようだ。

 

『おき、ろ……っ!』

 

 ジャビットが纏う白布が幾つも千切れるようにして分離し、無数の死体へ向かって飛んでいく。

 

 死体の顔を白布が覆い、全ての死体が【生ける経帷子】のマスクを纏った。

 

『まさかこれは……っ!?』

 

 時は、既に遅し。

 

 白布を巻かれた死体の群れは【生ける経帷子】によって身体を起こし、次々にシュミクラムへ移行していく。

 

 瞬く間に、白布を頭部に巻いた数十体のシュミクラムが出現した。

 

『チッ、今度は他の死者まで叩き起こしやがったか……っ!』

 

 怜二は、思わず悪態をついた。

 

 埒外のスピードのジャビットだけでも手一杯だというのに、此処に来て圧倒的な物量までが加わってしまった。

 

 通常であれば幾ら物量があったとしても有栖の敵ではないが、今の有栖はジャビット相手に防戦一方。

 

 万(・)が(・)一(・)が起きてしまう事も、充分有り得る。

 

 数も、質も、全てが圧倒的。

 

 これまでの前提が、全てひっくり返った。

 

 痛快な無双劇は、これで終わり。

 

 亡者の行進が、彼等を飲み込もうとしていた。





 一応分かり易いヒントのつもりではあったけど、いちいち台詞一つ一つに目を向ける人はいないかな? 自分はこういう『仕込み』は割と積極的にするタイプです。

 明日は更新出来ません。明後日更新です。

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