※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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残骸ーdebrisー

 

『おぉ、おぉぉ……』

『おぉぉ、おぉぉぉぉぉ……』

 

 ジャビットの【固有兵装】、【生ける経帷子】によって蘇った死者の群れが立ち並ぶ。

 

 彼女達は鋼鉄の肉体に押し込められ、濁った赤い光をカメラアイに宿している。

 

 その赤い眼差しは生者を羨む亡者のそれであり、ねばついた悪意が有栖達に向けられる。

 

 ジャビットの標的はあくまで有栖だが、無理やり冥府から連れて来られた彼女達は生きる者全てを憎々しく思っているのかもしれない。

 

 【(・)固(・)有(・)兵(・)装(・)】(・)の(・)効(・)果(・)に(・)よ(・)る(・)死(・)体(・)使(・)役(・)という理屈こそあるものの、視界の先にいる鋼鉄の亡者達の在り方は怨霊となんら変わらない。

 

 生者を羨み、同胞を求める。

 

 死の世界に生者を引き込む、想いに縛られた悪しき霊魂である事に違いはないのだから。

 

『…………このままじゃマズイか。怜二、双葉────足(・)場(・)を(・)崩(・)す(・)わよ』

『……了解(ヤー)……っ!』

『……っ!? 分かった、やってくれ……っ!』

 

 亡者の群れに取り囲まれた有栖は瞬時に判断を下し、天高く跳躍した。

 

 【ラビットシリーズ】の跳躍力に通常のシュミクラムが追い付ける筈もなく、機動力そのものは上がっているが、生前のような判断能力を喪失したジャビットの反応は鈍いと言わざる負えない。

 

 有栖は虚空を幾度も蹴り上げながら円を描くようにして上空に駆け上がり、社屋前の広場を超高速で周回し始める。

 

 遠心力によって加速を繰り返した有栖の機体はソニックブームを発生させながらそのスピードを加速度的に上昇させていく。

 

 その加速が頂点に達した時、有栖は天変より急降下。

 

 空から落ちる一筋の流星の如き一撃が、地面に突き刺さった。

 

『おぉ、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……っ!?』

 

 ソニックブームを引き連れた有栖の一撃は、一息で岩盤を突き破る。

 

 それを予期していた怜二はその場から飛び退き双葉が急遽作製した空中の足場に立つ事で崩落から免れたが、その地に集結していた亡者達はそうもいかない。

 

 亡者達は成す術なく崩落に飲み込まれ、岩盤の下へと消えて行った。

 

 

♦

 

 

『…………凄まじいわね。本当に』

 

 双葉は【携行式操作席】の中から周囲を見回しながら、溜め息を吐いた。

 

 現在有栖がいるのは崩落した岩盤の下、【V.S.S】社屋の地下区画である。

 

 天井に当たる部分は有栖がソニックブームを巻き込みながら飛来した事で完全に崩落しており、周囲は瓦礫の山で埋まっている。

 

 どうやらこの区画はシュミクラムか何かの演習場として使っていた場所らしく、そこそこの広さがある。

 

 元がどのような場所だったかは瓦礫に埋もれている所為で分かり難いが、演習場として作られていた為かそこそこの強度はあるらしい。

 

 少なくとも、この場の地面が抜けて落下する、などという事は現時点ではなさそうである。

 

『私のシュミクラムは殺(・)傷(・)力(・)はあっても大規模な大(・)量(・)破(・)壊(・)能(・)力(・)に欠けていたからね。そのあたりを技術でカバーするのは、当然でしょう?』

『…………破(・)壊(・)力(・)を技(・)術(・)でカバー出来るってあたりが、非常識よねアンタ』

 

 双葉は改めて感じた有栖の常識外れぶりに対し、再度溜め息を吐いた。

 

 戦闘の中での細かな技術を突き詰めていくのなら、まだ分かる。

 

 だが、純粋な破(・)壊(・)力(・)を技術で高めた結果がこの大崩落を引き起こした一撃だと考えると、瞠目する他ない。

 

 今の一撃は、戦術規模の破壊力を有している。

 

 それを純粋な技(・)術(・)で成し遂げる有栖の力は、埒外の域だ。

 

 敵にすれば恐ろしいが、味方である内は頼もしい事この上ない。

 

 普通ではない敵が相手となれば、猶更だった。

 

『……来たわね』

 

 有栖の視線の先に、ガァン、と言う音と共にシュラウド・ラビットが着地する。

 

 崩落に巻き込まれたのは奴が使役していた亡者達だけで、奴本人は傷一つない状態であの場から脱出していた。

 

『……さっさと、こい……っ!』

 

 ジャビットは亡者達が埋まる瓦礫を憎々し気に睨みつけると、白布を触手のように伸ばして瓦礫の中に突き立てた。

 

 更にその白布を引っ張り上げると瓦礫が弾け飛び、その下から布に引きずられるようにして無数の鋼鉄の亡者達が這い出して来た。

 

『チッ……!』

 

 有栖はその隙を逃さず、脚部を振るって空気の刃を射出する。

 

 ジャビット本人はその場から跳躍する事でその攻撃を回避したが、這い出して来た亡者達にその攻撃を避ける術はない。

 

 無数の鉄の屍達は、その胴体を半ばで両断され崩れ落ちた。

 

『おぉ、おぉぉ……』

『あぁ、あぁぁ……』

 

 …………だが、亡者達は機体を両断されても動きを止めていない。

 

 上半身だけになった身体で腕を伸ばし、半身を引きずるようにしてこちらに向かおうとしている。

 

 カシャカシャカシャカシャと、気味の悪い移動音が響き渡る。

 

 怜二はその光景を見て、生理的な嫌悪を感じた。

 

 肉体が千切れても、尚妄念で動く死者の群れ。

 

 それは、目にするだけで正気を削られるような、そんなおぞましさに溢れた光景だった。

 

『おおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああ……っ!』

 

 だが、余計な事を考える暇などジャビットが与えるワケがない。

 

 ジャビットは白布を糸の如き細さに枝分かれさせるとそれを半身を失った亡者の機体に接続し、思い切り引っ張り上げた。

 

『おぉぉぉぉぉぉ……っ!』

「な……っ!?」

 

 すると当然、亡者は慣性の法則に従って上半身だけでこちらに突っ込んで来る。

 

 それも、一機や二機ではない。

 

 総勢十数機にも昇る亡者達が、一斉にこちらに突貫して来たのだ。

 

『チィ……ッ!』

 

 無論、それを黙って見ている有栖ではない。

 

 すぐさまその場から跳躍し、亡者達の特攻を回避した。

 

『あああああああああああああ……ッ!』

 

 しかし、それだけでは終わらない。

 

 ジャビットは糸を手繰って更に亡者を振り回し、鉄の亡骸は飛び道具に成り下がりながらも火器弾丸を発射して追撃して来る。

 

『しつこいっての……っ!』

 

 有栖は舌打ちしながら蹴撃によって空気の刃を射出し、亡者達を斬り刻む。

 

 一機、また一機と確実に数を減らしていく亡者だが、生憎とその絶対数が多過ぎた。

 

 ジャビットが叩き起こした死者の数は、数十体。

 

 その物量は確かな脅威であるし、見ての通り普通であれば致命傷になる傷を負ったとしても原型が残っていれば動き続ける。

 

 相手が有栖でなければ、この攻勢を凌ぎ続ける事は出来なかった筈だ。

 

 だが、その有栖も永遠に戦い続けられるワケではない。

 

 スタミナ切れに追い込まれる可能性は、なくはないのだ。

 

(…………このままじゃ、千日手ね……)

 

 その事は無論、有栖本人も自覚していた。

 

 ジャビットは確かにスピードが上昇し死者の群れを操って来る難敵だが、戦闘に置いて最も重要な判(・)断(・)力(・)というものが欠如した状態にある。

 

 確かに、【生ける経帷子】に操られた死者の群れの使役は、厄介極まりない。

 

 しかし、窮極的にた(・)だ(・)の(・)物(・)量(・)は有栖にとって何の意味もない。

 

 どれだけの物量が相手であろうと、時間さえあれば駆逐出来る。

 

 それが出来るのが、有栖という凄腕である。

 

 故に、有栖にとっては量(・)よりも質(・)の高い敵の方がよほど厭わしい。

 

 その意味では、ジャビットが【超加速制御装置】の意図的な暴走によって得たスピードで迫って来る方が、有栖にとっては厄介なのだ。

 

 …………けれど、死者の群れによる攻性に意味がないという事はない。

 

 スタミナの限界というものがある生者(こちら)と違って、死者(あちら)にはスタミナ切れは有り得ない。

 

 シュミクラムには、活動限界というものがある。

 

 どれ程の凄腕だろうが、鋼鉄の体躯のまま戦い続ける事は精神の消耗に繋がる。

 

 その消耗が限界を迎えた時、シュミクラムは活動を停止せざる負えなくなる。

 

 鍛錬や生来の気質によってこの限界時間は引き延ばす事が可能ではあるが、それでもリミットはある。

 

 精神を持つ生命体である以上、精(・)神(・)的(・)な(・)限(・)界(・)というものは超えられない壁なのだ。

 

 …………しかし、今のジャビット達は与えられた命令に従って動くプログラムに近い。

 

 ある意味では、自立敵性体(エネミー)と似たような存在である。

 

 その為、精(・)神(・)的(・)な(・)限(・)界(・)などというものがそもそも存在しない。

 

 目的を果たすまで、延々と駆動を続ける殺戮機構。

 

 それが、今のジャビットだ。

 

 千日手になれば、いずれ待っているのは有栖達の敗北に他ならない。

 

 持久戦を選んだ時点で、生者が死者に勝てる通りなど無いのだから。

 

≪双葉、この近くに都合よくこいつらを叩き込めそうな場所とか無いか探してみてくれる? このままじゃ千日手になるわ≫

≪…………今、スキャンをかけてるから待ちなさい。条件に合う施設がないか、検索してみる≫

 

 有栖単体では、この状況を打開するのは難しい。

 

 そこで頼ったのが、双葉だ。

 

 この【V.S.S】社屋は、言うなれば疑似的な【遺跡】に近い。

 

 旧時代の遺物がどんな形で眠っているか分からないという点では、【遺跡】に匹敵する価値がある。

 

 今までそんな場所が放置されていたのは、政府が第一級の危険地帯として指定していた為だ。

 

 つまり、政府がそんな対応をする程の秘密がこの場所に眠っている可能性があるのだ。

 

【ヒャズニング】の連中もそういった思惑でこの場所を占拠して拠点としていたのだろうが、その全てを把握しているとは思い難い。

 

 【ヒャズニング】の実情を考えれば、そういった探索に向いた人員がいた筈がないのだから。

 

 ならず者達の集まりであった以上、そういった探索に必要な技能を習得した者がいた可能性は低い。

 

 ジャビットもフェネジールも、学があるようには見えなかった。

 

 …………つまり、この地下区画には奴等も知らない旧時代の何(・)か(・)が秘蔵されている可能性がある。

 

 それも、政府が立ち入りを禁止する程の危険性のあるものが。

 

 こういった場所には、旧時代の兵器が無造作に転がっている事もザラにある。

 

 万が一そういったものが見つかれば、奴らにぶつけて一網打尽にする事も不可能ではない。

 

≪……これは……≫

≪何かあった?≫

 

 何かを見つけた風な双葉の呟きを聞き、有栖がそう問うと双葉はええ、と返した。

 

≪…………地下のかなり深い場所に、正体不明の巨大オブジェクトがあるわ。機能は停止しているみたいだけど、厳重に隔離されてるわね。この念の入れようから考えれば、触れただけでアウトとか、そういう代物みたい≫

≪……そう……≫

 

 双葉の説明に、有栖は死者達の攻撃を捌きながらしばし思案する。

 

 その巨大オブジェクトの詳細は不明だが、少なくとも碌なものでないらしい事は推察出来る。

 

 そもそも、此処は洗脳技術などというものを生み出した経歴のある企業の構造体だ。

 

 どう考えても、楽しい想像は出来そうにない。

 

 しかし、今はそれに縋るしかない状況である事もまた事実。

 

 有栖は、その正体不明(unknown)が勝機を懸けるに値するものである可能性を感じ取った。

 

≪それで、何かそのオブジェクトについてのデータはないの?≫

≪…………それが、念入りに削除されてるみたいですぐにサルベージするのは無理ね。けど、名称はなんとか読み取れたわ≫

 

 そして、双葉からそのオブジェクトの名称らしき文字列が転送されて来る。

 

 有栖の視界に、その名称が映し出された。

 

 ──object code'Leviathan debri'──

 

≪────リヴァイアサン、デブリ……?≫

 

 ────思わず、有栖はその名を口にする。

 

 その響きは何処か不気味で、言い知れない不安が燻り始めていた。





 私がやった事あるのはバルドフォースとBALDR SKYです。それを踏まえた上で色々お考え下さい。

 当方は、原作を知る方々がニヤリと出来る要素をふんだんに盛り込んでおります。
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