BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
────私が配属されたのは【第七廃棄区画調査研究チーム】と呼ばれる部署だった────
────名目上は『廃棄区画に眠る技術資源を発掘、調査する部署』ではあるが、その実態はその区画で見つかった技術を試用する為の組織だ────
────その区画の構造体は【先史文明】において【V.S.S】と呼ばれる企業のものであり、その企業が有していた技術が埋蔵されていた────
────その企業は脳チップや脳そのものを弄る事によって様々な能力を持った人間を生み出す研究や、
…………双葉の父親の日記は、そんな書き出しで始まっていた。
どうやら、彼女の父親が洗脳技術を有していたのは偶然でもなんでもなく、あの構造体を調査した結果得たものであったらしい。
しかし、その割には双葉の父親が研究者であったという話は聞かない。
日がな一日を自宅で過ごしており、定職に付いていた様子もなかった。
生活費の殆どを双葉の稼ぎに頼っており、双葉が稼いでくる金額が膨大であった為に彼等の生活は両親が働かずとも回っていた。
…………双葉の自由という、掛け替えのないものを犠牲にして。
しかし、研究者であるならばわざわざ娘を洗脳教育して働かせずとも、食い扶持の稼ぎ方等幾らでもあった筈だ。
それが出来ないという事は、どうやら相当に後ろ暗いバックボーンを持っているらしい。
俺はそれが気になって、日記を読み進めた。
────前者の脳チップや脳そのものを弄って特定の能力を強化する研究は、政府によって禁じられている────
────脳チップや脳そのものを弄った場合、人格や精神に何らかの障害が発生するケースが多い為だ────
────その為、脳チップや脳そのものに手を加える事は基本的に法律で禁止されている────
────上記の危険性の他に、脳チップに特殊な操作を施す事でその人物の人格や思考さえ変質させてしまう事が可能である為だ────
────人道的ではないというのが政府の出した公的な見解だが、その裏には
────そもそも、研究者に人道や倫理を問う事自体がナンセンスだ────
────多少の犠牲と科学の発展、そのどちらに重点を置けばいいのかなど、分かり切っている事なのだから────
────そもそも、【探索者】等という野蛮な集団に貴重な【遺跡】の調査を任せる事自体許し難い────
────貴重な技術が眠る【遺跡】の調査を任せるのであれば、野卑な戦闘屋共が妙な気を起こさないようセーフティを設けるべきである────
────この構造体から発見された洗脳技術が実用化されれば、今まで好き放題やっていた探索者共を制御する素晴らしい方策が確立される筈だ────
…………読めば読む程、胸糞悪くなる。
この日記を書いた者は、人道や倫理といったものを軽視している。
科学の発展というお題目があれば、平気で人の尊厳を踏み躙る。
そんな性根が、この文面からは溢れていた。
────その為にも洗脳技術の確立も急務であるが、脳チップ操作による優秀な能力を備えた
────無論、実験体は我々に歯向かう事がないよう、製造段階で洗脳技術が刷り込みやすいように脳チップを改造しておく────
────実験動物に噛み付かれるなど、笑い話にもならないからだ────
────【
────人道なんてものを掲げて余計な制限ばかりを付ける鬱陶しいアーク社の眼さえ誤魔化せば、どうとでもなる筈だ────
「…………こいつら、【被造子】の製造にまで手を伸ばしてやがったのか……」
俺はその文面を見て、呆れて溜め息を漏らした。
【被造子】の技術に手を出す事は、とてつもない重罪だ。
もしも政府機関に【被造子】技術に関わった事がバレた場合、その時点で実刑は確定。
どのような事情があろうと、一旦【被造子】を生み出してしまった場合は終身刑か極刑は確実。
そして、その技術が流出する事がないよう記憶のリセットまでかけられる。
政府の【被造子】に関する対処は、一種病的な域に達している。
彼等は何が何でも【被造子】技術を抹消しようとしており、万が一【被造子】本人を発見した場合は厳重な監視が付けられる。
そういった事を知りながら【被造子】技術に手を出したのだから、こいつは相当な考えなしか、或いは
…………【被造子】は、多くの場合人格が破綻し易い。
通常ではまず持ち得ない高い能力を得た代償とでも言うかのように、情緒や性格に甚大な破綻を持っている事が多いらしい。
────【被造子】の製造は一先ず成功したものの、課題は多い────
────所長が何処からか持って来た遺伝子データを元に創り出した被造子は、身体能力に一定以上の上昇が見られたものの、頭脳面はあまり優秀ではなく身体能力自体も多少優れている程度だ────
────しかもとてつもなく我が強く自信過剰である為、言う事を聞かせる際は骨が折れる────
────いざとなれば心臓に仕込んだ爆縮装置を起動させて処分すれば良いとはいえ、この程度の能力で勝ち誇るような愚図に時間を費やす事自体がナンセンスだ────
────こいつの齎した功績といえば、【被造子】製造のノウハウが得られた事程度だ────
────別の失敗作で試したところ、爆縮装置の遠隔起動も問題なく可能である事が分かった────
────脳にある種の信号を送る事で心臓の装置を起爆させ、肉体を跡形もなく葬り去る────
────爆破の規模はそこまで大きいものではないが、肉体を完全に抹消し証拠を残さないという目的そのものは達成出来る────
────いざとなれば火急速やかな処理が行えるのは、リスクマネジメント的に無視出来ないポイントだ────
────今度は、極端な能力上昇を可能とする【被造子】を製造しても問題はなさそうである────
「…………こいつは…………」
紛れもない屑であると、俺は断じた。
自分達の都合で【被造子】を作ったばかりか、こいつは作られた【被造子】を無造作に
性根から腐っている、正真正銘の屑であった。
────今度の実験体は、ある意味では成功作だ────
────右脳を調整して反応速度や神経伝達を極限まで強化した結果、通常の電子体でシュミクラムと渡り合える程の能力を獲得した────
────隔絶した戦闘能力を発揮する為に障害となる良心も、脳チップの改造により削ぎ落としてある────
────結果的に粗暴で恐れを知らない扱い難い性格になったものの、他者を傷付ける事に一切の躊躇を持たせないようにする実験は成功した────
────この技術が確立すれば、洗脳技術と併用する事でより効率の良い兵隊を生み出す事が出来るようになるであろう────
「…………これは…………」
俺はその文面を見て、妙な既視感を覚えた。
通常の電子体でシュミクラムと渡り合える程の身体能力と、良心の欠落した人間性。
それらは全て、ジャビットの特徴に見事に当て嵌まる。
確証はないが、ジャビットもまた奴等の研究で生み出された【被造子】なのかもしれない。
そう考えれば、あの馬鹿げた戦闘能力や破綻した性格も説明がつく。
どうやら、双葉の両親が抱えていた闇は想像以上に深いものであるらしかった。
────次に着手したのは、頭脳特化型の【被造子】の製造である────
────実験動物程度が特級プログラマ相当の知恵を付けるのは鼻持ちならないが、外付けのハードディスクのようなものだと思えば良い────
────どうせ、洗脳技術によって人格を潰して運用する事が前提なのだ────
────妙な知恵を働かせないように、これらの洗脳技術の下地についてはより厳重なものを用意するべきだろう────
────実験動物は実験動物らしく、人間様に従って役に立っていればそれでいいのだから────
「…………まさか…………」
その文面に、俺は嫌な予感を感じ取った。
特級プログラマになれる程の技術力に、洗脳。
そのキーワードの符合に、激しい既視感を覚えてしまったのだ。
────本日、頭脳特化型の【被造子】の製作に成功した────
────全ての能力テストで想定以上の成果を叩き出しており、身体能力が脆弱で情緒が未熟である事を鑑みても成功作と言って差し支えない出来である────
────成果を褒めてやると過剰なまでに喜んでおり、正直鬱陶しい────
────良好な実験成果に、私も浮かれていたのかもしれない────
────実験動物に情を移す事がないよう、注意しなければ────
「……………………」
嫌な予感は、益々強まるばかりだ。
俺は無言のまま、ページを読み進める。
────成る程、娘がいるというのは存外こういうものなのかもしれない────
────私に妻はいるが、研究の邪魔になると考えて子供は作っていない────
────しかし、こうして疑似的な親のように付き合ってみるのも案外悪くないものなのかもしれない────
────少なくとも、以前より心にゆとりを持てたような気がする────
意外な展開に、俺は思わず瞠目した。
どうやら、この男はその【被造子】の子────
その子との交流を通じて、人間らしい感性が芽生えたらしかった。
しかし、ならば何故────その子に、
…………いい加減、気付いている。
双葉は、奴等の研究で生み出された頭脳特化型の【被造子】だ。
洗脳技術の下地が仕込まれていた事といい、特級プログラマになれる程の技術力といい、まず間違いない。
幼馴染が【被造子】だったと知ってどう反応していいか分からないが、双葉を助ける為にもこの日記は貴重な情報源だ。
俺はそのまま、日記を読み進めた。
────今日もまた、あの子が成果を自慢して来た────
────あろう事か、それは以前私が挑み挫折したジャンルの全く新しい研究成果だった────
────私があそこまで苦心しても得られなかったものを、こいつは与えられた才能だけで成し遂げてしまった────
────理不尽だ。理不尽でしかない────
────何故、実験動物如きがそんな我が物顔でかつての私の研究を愚弄するのだ────
────私は何を血迷っていたのだ。あれは実験動物に過ぎない────
────実験動物に人格は要らない。さっさと洗脳を施して傀儡にしてしまおう────
「…………っ!? この野郎……っ!」
俺は日記を握る手が震え、怒りに震えた。
この男はあろう事か、醜い嫉妬心で自身に芽生えた人間らしい情緒を否定し、双葉の人生を踏み躙った。
人として、超えてはならない一線を踏み越えてしまったのだ。
…………その後の日記は双葉と思われる少女に対する洗脳過程が記されており、その内容を知れば知る程怒りが沸いて来る。
もしも今、目の前にこの男がいれば間違いなく殴りかかっていただろう。
それ程、俺の心は怒りの感情で満ち溢れていた。
そして、日記が残り数ページになった所で、俺は思わず目を止めた。
何故なら、そのページは────感情のままに、血が滲む程の力で文字が殴り書きされていたのだから。
────なんだ、なんだあの化け物は…………っ!? あんなものが、あんなものがあっていい筈がない……っ!────
────駄目だ、あいつだけは起こしたら駄目だ────
────こいつさえ、こいつさえいなければあいつが目覚める事はない────
────逃げなければ。こいつを連れて、逃げなければならない────
────収入は、こいつを利用すればどうとでもなる。だから一刻も早く、あの怪物の傍から離れなければならないのだ────
「…………これ、は…………」
俺は、そのページを見て固まった。
思考が、理解を拒否していた。
日記に書いてある【怪物】とは、あの【リヴァイアサン・デブリ】の事であるに違いない。
そして、その起動には彼が洗脳を施した少女、双葉が必要であると読み取れる。
あいつが、双葉が【怪物】を目覚めさせる【鍵】だった。
何故そんな事になっていたのかは、分からない。
だが、これで原因は明確となった。
双葉は、あの怪物に捕らわれている。
【餌】として喰われたのではなく、【核】として取り込まれた。
この日記の情報からは、そんな悪夢のような真相を悟らざる負えなかった。
今回は丸々情報回です。
やっぱこういう情報は、日記として出すのが一番。
ホラーでも定番だよね。