BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
「…………そう。そういう事だったのね……」
俺の話を聞いたノインさんは、険しい表情でそう呟いた。
旧奈津枝邸で双葉の父親の日記を読んだ俺は、その内容に衝撃を受け暫くその場で固まっていた。
様子がおかしい事を察した政志が俺から日記をひったくり、その内容を見てどんどん眉間に皺を寄せて行った。
政志から見ても、あの日記の内容は────双葉の父親の所業は、許し難いものであった。
日記を見終わった直後は政志らしからぬ怒声をあげて壁を殴り、その音で俺が我に返った程である。
我に返った俺は政志を連れて奈津枝邸を後にし、その足でノインさんの所にやって来た。
目的は無論、この情報をノインさんと共有して少しでも事態の解決に繋げる事である。
…………また、それとは別に確かめたい事もある。
ノインさんが、双葉の事情を
かつて双葉のカウンセリングを行った時、ノインさんは当然彼女の家についても調べた筈だ。
双葉の両親が亡くなった後も、その実情を調べたに違いない。
間違いなく、俺よりノインさんの方が
俺のそんな疑問を、視線から察したのだろう。
ノインさんは溜め息を吐き、正面から俺の眼を見詰めた。
「……まず、貴方が感じているであろう疑問にはこう答えるわ。双葉が【被造子】である事は、知ってたわ…………いえ、
「それは、どういう……?」
まずね、とノインさんは話を切り出した。
「双葉の脳には、明らかに手を加えられた形跡があった。それも、生まれた後じゃなくて遺伝子の段階でね。そんな形跡がある以上、双葉が自然に生まれた子供じゃないのは明らかだった」
そして、と彼女は続けた。
「双葉の頭脳は、技術力は、ハッキリ言って
幼さに見合わぬ頭脳を持つ、脳に細工された形跡のある子供。
そこまでのデータが揃えば、俺だって分かる。
────【
【被造子】は政府が閲覧・使用を全面的に禁じている技術、【
【被造子】は遺伝子段階で手を加えられており、総じて何らかの能力に特化している。
常人離れした身体能力や、大人顔負けの明晰な頭脳、これらは【被造子】によく見られる特徴である。
…………そして、高い能力の反面精神が不安定な傾向があるのも【被造子】の特徴の一つだ。
【被造子】は遺伝子に人為的な手を加えた影響か、性格に異常を来す場合が多い。
それは恐らく遺伝子に手を加えたからというだけではなく、育った環境に依るものでもあるのだろう。
【被造子】が政府によって禁じられている以上、彼等が生まれて来るのは法や倫理を無視した違法研究所である場合が殆どだ。
そして、そういった研究所では大抵【被造子】はまともな人間扱いをされる事はない。
あの日記に書いてあった通り、単なる
手酷い扱いをされた結果、精神が歪んでしまう。
それは、当然の事と言えよう。
三つ子の魂百まで、という言葉があるように、幼い頃の環境は人格構築に大きな影響を与える。
幼い頃に親の愛情を知らず、人間の醜い部分ばかりを直視して来た子供が、まともな精神など形成出来る筈がない。
事実、あの研究所で生み出されたと思われるジャビットは普通とはかけ離れた異常者だった。
大人のエゴが、【被造子】の精神の歪みを生んだ。
そう考えると、あのジャビットでさえ被害者と言えるのかもしれない。
…………もっとも、とうの本人がどう思っていたかは最早分からないのだが。
「…………その事を、俺に隠していたのはなんでだ……?」
「双葉を、普通の子として見て欲しかったからよ。勿論、貴方を信用してなかったワケじゃないわ。でも、当時の貴方が双葉が【被造子】だったと知って、それまでと同じ目で見れたかしら?」
「……それは……」
当然だ、などと言える筈がない。
様々な知識を蓄えた現在ならともかく、当時の俺は僅か10歳。
しかもそれ以前の記憶がないのだから、【被造子】という
もしかすると、不用意な言葉をかけて双葉を傷付けていた可能性も有り得る。
そう考えれば、ノインさんの判断は正しいと言わざる負えなかった。
「当時の双葉に人間らしい情緒を育んで貰う為には、貴方と一緒に
私は既に知っていたから駄目だったしね、とノインさんは自嘲するように呟く。
確かに、幾らノインさんとはいえ事情を知ってしまった以上はある程度の色眼鏡をかけてしまう事は避けられないのだろう。
双葉は、人の視線には敏感だ。
それまでの彼女が誰かに視線を向けられる時は、彼女が
両親から双葉が受けた心の傷は、とてつもなく
今も一種の
だからこそ、双葉は人の視線に敏感になった。
これは彼女の凄惨な幼少期が生んだ、条件反射のようなものだったのだから。
「……話を纏めると、ノインさんは双葉が【被造子】である事も、双葉の両親が元研究者だった事も知っていたって事かな?」
「ええ、もっとも私は彼女の父親の日記は読んでいなかったから、詳細までは知らなかったのだけどね。ある程度想像は付いていたけど、実際に読んでみると本当に胸糞が悪くなるわね」
話題を切り替えようとする俺の意志を汲み取って、ノインさんはそう言って溜め息を吐いた。
そして俺の方に向き直り、微かな笑みを浮かべた。
「色々思い悩んでいるでしょうけど、双葉の現状に関して貴方は何も悪くないわ。プライベートで忙しかったとはいえ、私は何の力にもなれていなかったし…………せめてこれからは、少しでも貴方達の力になりたいの。こんな頼りない
「……ノインさん……」
何処か自嘲するようなノインさんの言葉に、俺は彼女の眼を真っ直ぐ見据えて答えた。
「────勿論だよ、ノインさん。俺や双葉にとって、ノインさんは本当のお母さんのようなものなんだ。だから、信用しないワケがないよ」
「……怜二……」
それに、と俺は続けた。
「あんな、ただ形式上の親だった連中と違って、ノインさんは双葉や俺を自分の子供のように愛情を注いで育ててくれた。俺も双葉も、ノインさんには返しきれない程の恩があるんだ」
だから、と俺は告げる。
「その恩を報いる為にも────必ず、双葉を助け出したい。ノインさんが協力してくれるなら、百人力だよ。だからノインさん…………俺達を、双葉を助ける為に力を貸して欲しい。お願い出来るかな、義母さん」
「……っ! ええ、ええ、勿論よ怜二……っ! ちゃんと、助けてあげるから……っ! 絶対、見捨てたりなんかしないからね……っ!」
「うわ……っ!」
俺の言葉に、感極まってしまったのだろう。
ノインさんは両腕で俺を抱き寄せて、俺はノインさんの胸元にすっぽり収まってしまった。
背の高いノインさんに抱すくめられているものだから、俺の顔がダイレクトにノインさんの胸に埋もれてしまっている。
胸元の開いてキャミソールの上からとはいえ直接ノインさんの柔らかな乳房の感触が顔全体に広がっており、かぁっと頬が熱くなってしまう。
幾ら母親代わりとはいえ、ノインさんは若々しい外見の美人だ。
直接の血の繋がりが無い事もあり、こういった過激なスキンシップを取られてしまうと俺としては慌てふためくしかなくなる。
ノインさんは未だ感激の中にいるのか、俺を抱き締める力は緩まるどころか一層強まっている。
余程、
そう考えると微笑ましくもあるのだが、如何せんこのままではノインさんの乳房の感触で血液が集まった下半身に気付かれてしまう。
親代わりであるノインさんに
だから急いでノインさんから離れようとしたのだが、無情にもノインさんがそこで
「……あら? この硬いのは…………ああ、成る程ね。ごめんなさい、貴方も男の子だって忘れてたわ」
「あ、う……」
ノインさんは俺の下半身の強張りに気付いて苦笑し、ゆっくりと身体を離した。
親代わりの女性相手に興奮していた事を知られてしまい、俺は思わず赤面してしまう。
そんな俺を見て、ノインさんはくすくすと笑いを漏らした。
「ふふ、まさかこんなおばさん相手に興奮してくれるなんてね。なんだか、少し嬉しくなっちゃった。双葉の代わりに、処理してあげましょっか?」
「い、いいい、いや大丈夫だようん……っ! こんなの、すぐに収まるからさ、ね……っ!?」
ノインさんの思わぬ言葉に、俺はあたふたと慌てながらそう釈明する。
その反応が、よほど面白かったのだろう。
ノインさんは一層笑みを深くさせて、にこやかに微笑んだ。
「ごめんなさいね、長らく女として見られていなかったから新鮮で。これでもまだ、性欲はあるのよ? 一応、女盛りの年齢だからね。経験は多分ないけど、身体が夜泣きしちゃう事だってあるんだから」
だからね、とノインさんはニヤリと笑みを浮かべて俺の耳元に顔を寄せた。
「────我慢出来なくなったら、いつでも言いなさい。双葉には内緒で、いつでも抱かせてあげるから」
「……っ!!??」
艶やかな声で囁かれ、俺はどう反応していいか分からず目を白黒させた。
視線は前屈みにになっているノインさんの深い胸の谷間やくびれた腰に向いてしまい、その豊満な肢体を思わず凝視してしまう。
たまにこうやって色仕掛けじみた悪戯をして来る事はあるものの、一度双葉という女の身体を味遭った俺にとって彼女のような魅力的な女体で挑発されるのは心臓に悪い。
なまじ女体の
そんな風に困っている俺を見て、満足したのだろう。
ノインさんは微笑を浮かべながら姿勢を正し、俺に向き直った。
「ふふ、ごめんなさいね。ついつい、悪戯が過ぎたわ。でもまあ、ある程度気が紛れたのなら何よりよ」
「……あ……」
そう告げるノインさんの言葉に、俺ははたと気付く。
確かに、先程まで双葉について知ったばかりの真実と相対し、心理的な余裕というものが全くなかった。
思考はネガティブな考えに支配され、無意識の内に悲観的になってもいた。
ノインさんはそんな俺の精神状態を察して、わざと色仕掛けじみた事をして一度思考をリセットさせたのだ。
実際、ノインさんに散々挑発された所為でそれまでの考えは何処かに吹っ飛び、思考はクリアになっている。
どうやら、まんまとノインさんの思惑に乗せられていたらしかった。
「まあ、でも怜二相手なら悪くないし、我慢出来なくなったらいつでも言ってね。若い子との火遊びも、中々面白そうではあるしね」
「あ、うう……」
冗談めかして告げるノインさんの台詞に、俺は改めて顔を赤らめてしまう。
つくづく、この
その事を、改めて思い知ったのだった。
ちょい暗い話が続いたのである程度気分を一新しないとね、というお話でした。
こういう緩急は大事だからね。