BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
「……着いたか」
俺は足を止め、目の前の大地に広がる大扉……アイリス・バルブを見据える。
木々が開けた広場のようになっている場所の中央に、その鋼鉄の扉は備え付けられていた。
このアイリス・バルブこそが、今回俺達が向かっている目的地……『
【遺跡】は全部で六階層で構成されており、第一階層から第三階層までが、特に立ち入りが制限されていない【通常階層】にあたる。
そして、探索者ランク二桁以内にならなければ立ち入りが許されない第四階層以降の階層の事を、【未踏領域】と呼ぶのだ。
この【未踏領域】は、それまでの階層とは文字通り
通常の階層であれば然るべき準備があれば、危なくなったら
しかし、一度【未踏領域】に入ってしまえば離脱は不可能となり、【未踏領域】にひしめく凶悪なエネミー、【キャンサー】の存在がネックとなる。
その為、生半可な実力の者が【未踏領域】に立ち入れば生きて帰って来れないどころか、下手をすれば連中の仲間入りを果たしてしまう。
故に探索者ギルドは【未踏領域】への立ち入りを制限し、序列二桁に達しない者は踏み入る事が出来なくなった。
このアイリス・バルブは、ギルドによって【未踏領域】立ち入りの許可プログラムである
先日その手続きは終えているので、俺がコードを撃ち込めばすぐにでもこの鋼鉄の扉の先へ進む事が出来る。
(手続き、か……チッ、余計な事を思い出したな)
不意に、その
俺の頭に、当時の情景が蘇って来た。
──昨日、探索者ギルドにて
「手続きを完了致しました。探索者証をお返しします」
「はい」
俺はギルドの受付嬢から探索者証を受け取ると、そこに刻まれた自身の
今回、俺は今までの功績が認められ、探索者序列が繰り上がり、91位という序列を手にした。
これでようやく、
それを思うと、やっと此処まで来れた、という感慨が沸いて来る。
俺は意気揚々とギルドを後にしようとして、耳障りな声によって呼び止められた。
「あぁ? 誰かと思えばぼっちの
渋々振り向けば、そこには頭を丸刈りにした如何にもガラの悪そうな男が立っていた。
名前は特に憶えていないが、確か中規模の
探索者は探索者同士で結成するチーム、探索部隊を立ち上げる事が出来、探索部隊を組織する事でギルドから様々なバックアップを受けられる。
探索部隊の立ち上げには序列三桁以上の探索者を含む二名以上の探索者が必要となるが、加入に際しては特にギルドからの制限は設けられていない。
その為、初心者の探索者は何処かの探索部隊に入り、腕を磨いていくのが基本となる。
しかし、俺は今まで探索部隊を立ち上げた事も、探索部隊に入った事もない。
……原因は、双葉である。
双葉は俺への依存度が高過ぎる所為で、
その為、俺が誰かと組んだとしても延々と嫌味を言い続けたりとあからさまに邪険にしてしまう為、俺は結局チームを組む事が出来なかったのだ。
だが、特級プログラマである双葉のサポートがあれば、チームを組まずとも問題なく探索を行う事が可能だった。
むしろ、チームを組まなかったのは双葉と相性の悪い人間を無理に組み入れて双葉のパフォーマンスを落とすより、最初から俺一人でやった方が効率的であるという判断もある。
そうやって俺をやり玉にあげる探索者は事欠かない為、いちいち名前など覚えてはいないのだ。
「それをお前に教える必要はあるのか?」
「スカしてんじゃねえよ。仲間の一人も集められねぇ、ぼっち野郎がギルドにやって来てんだ。仲間が欲しいですぅ、って泣きつきにきてんのかって思うのは当然じゃねぇか。あぁ?」
予想通りの絡み方に、俺は思わずため息を吐いた。
それを見て馬鹿にされたと思ったのだろう。丸刈り野郎の額に青筋が浮かんだ。
「テメェ! 今俺を馬鹿にしやがったろコラァ! スカしてんじゃねぇぞワレェ!」
「悪いな、序列二桁に上がったばかりで忙しいんだ。お前に構っている暇はない」
「んな……っ!? 序列二桁、だと……っ!?」
俺の言葉を聞き、目を見開く丸刈り野郎を尻目に俺は踵を返し、その場から立ち去ろうとする。
やり取りを見ていたギャラリーもざわつき始めたし、これ以上此処にいても面倒ごとが増えるだけだ。
そう思い、俺はそのまま立ち去ろうとする。
「……おい」
──しかし、そんな俺を呼び止める声があった。
声の主は見上げるような巨漢であり、見るからにいかつい外見をしている。
無骨な軍服を纏ったその男には、見覚えがある。
たしか、大手の探索部隊の幹部の男だった筈だ。
名前は……ホークス、とかいったか。
「……なんだ?」
「……序列二桁に、なったらしいな。挑むのか?」
何に、とは言わずともわかる。
序列二桁になった探索者が挑むべき場所は、【未踏領域】以外に有り得ない。
「ああ、準備が出来たら挑むつもりだ。それがどうした?」
「……可能であれば、仲間を連れていけ。【未踏領域】は、危険だ」
俺は半ば予想していた言葉に、再び溜め息を吐いた。
「……あのな、俺の事は噂とかで知っているだろう? 悪いが、俺は誰とも組む気はない。こっちにも事情はあるんでな」
「…………そうか。忠告はしたぞ」
ホークスはそれだけ言うと、そのまま踵を返して立ち去った。
俺はその後姿をしばし見ていたが、妙な居心地の悪さを感じてその場を後にした。
(……嫌な事を思い出したな。気になる言い方をしやがって……)
あの時のホークスの言葉に、丸刈り野郎のようなやっかみのようなものは含まれていなかった。
あの男は恐らく、純粋に俺の身を気遣ってあんな事を言ったのだ。
それは分かっているのだが……俺にはそれが、
自分はなんでもできる、とまで自惚れてはいない。
しかし、事実として序列二桁に到達したのだから、相応の実力は付いた筈だ、という自負はある。
それが正面から否定されたようで、あまり気分の良いものではなかったのだ。
(今、それを考えても仕方ない。それより、いよいよ【未踏領域】に挑むんだ。腕が鳴るな)
俺はそんな思考を強引に振り切って、探索者証越しにアイリス・バルブに解除キーを撃ち込んだ。
『バルブ、解放します』
周囲に
やがて完全にバルブが解放され、暗い闇に包まれた【未踏領域】の入口が広がっていた。
バルブの奥からは冷たい風が漂ってきており、近くに立っているだけで肌寒さを感じさせた。
まるで地獄の口のように開いたバルブの奥を見詰めながら、俺は意を決して口を開く。
「これより、【未踏領域】へ突入する。双葉、サポート頼むぞ」
『
俺は双葉の返事を聞き届けると、機体を動かし、バルブの奥へと身を躍らせた。
脚部のバーニアで落下速度を調整しながら、ゆっくりと地面に降下する。
やがて俺は地面に辿り着き、鋼鉄の脚部が【未踏領域】の大地を踏みしめる。
「……此処が、【未踏領域】か」
俺は周囲を見回し、その光景に息を呑んだ。
今まで俺が踏破して来た階層とは、何もかも違う。
あちらが日の当たる明るい庭園なら、此処はさながら朽ち果てた廃墟のようですらあった。
【未踏領域】である第四層の光源は天井に生えたヒカリゴケらしきもののみで、それも天井の所々にしか存在しない為全体的に薄暗い。
周囲の木々は全て枯れ果て、ウツボカズラやハエトリグサのような食虫植物をモチーフとしたオブジェクトが点在している。
中にはしゃれこうべに根を張る不気味な植物も存在し、ただ此処にいるだけで陰鬱な気分になりそうだった。
『……最悪、と言っていい景色ね。製作者は絶対碌な奴じゃないわ』
「同感。趣味が悪いにも限度があるだろ、これ」
とてもではないが、今までの階層と同じ【遺跡】であるとは思えない光景であった。
第三階層まではエネミーさえいなければ牧歌的な空気すら漂っており、全体的な雰囲気も悪くなかったので猶更である。
『怜二、早速来たみたい……キャンサーだよ』
「ああ、目視でも確認した」
そして、案の定
視界の先には、異形の怪物共が俺に向かって迫って来ているのが見える。
視認した敵影は、今までの植物をモチーフとしたエネミーと違い、有り体に言ってまともな姿をしていなかった。
……先頭にいるのは、二つの頭部を持った犬を模した化け物だった。
その二頭犬の頭部は片目が潰れており、骨格が露出している。
鋭い牙が並んだ口からは、黒いタールのような液体が流れ出ていた。
他にも二つの首を持った蛇、前後に頭を持つ巨人、双頭の烏等、様々な姿の異形の機影が並んでいた。
そのいずれも、口等から黒いタールのようなものを垂れ流している。
あの黒いタールのような液体こそが、キャンサーが持つウイルスが可視化されたものである。
もしもキャンサー達に喰らい突かれ、あのウイルスを流し込まれれば奴等と同じ存在にされてしまう。
しかも、キャンサーは高い再生能力を持っている。
通常のシュミクラムの火器では、殲滅するまでに相応の時間がかかってしまう。
故に、対キャンサー戦では特殊な武装、もしくは単純な大火力が求められる。
後者は心もとないが、幸い前者であれば心当たりがあった。
「双葉、予想より敵の数が多い。
『……それが一番よね。いいわ、けれど無理はしないで。今回はあくまで、様子見のつもりだもの。状況が悪化しそうならすぐに撤退するわ』
「
俺は双葉の返事を確認すると、機体の特殊武装……
機体のリソースを大幅に食う等の欠点はあるが、現代のシュミクラム戦では固有兵装の扱い方が勝敗を決めると言っても過言ではない。
そして、俺の固有兵装も……その名に恥じない、強力なものだ。
「
俺が固有兵装を稼働させると、俺のシュミクラムの胸部の狼の貌を象ったパーツの口腔内から冷気が溢れ出て来る。
その冷気によって周囲の気温が徐々に低下していき、地面が凍り始める。
そして、俺は右腕をキャンサーの群れに向かって突き出した。
「凍て付け……っ!」
俺が右腕を握り締める動作をすると同時に、俺に迫って来ていたキャンサー達が冷気の渦に絡め取られ、一瞬にして凍結。
次の瞬間には細かな振動と共に破砕され、跡形もなく消滅した。
これが、俺のシュミクラム…ヴァナルガンドの固有兵装、
その能力は、
周囲一帯に低温領域を発生させ、領域内の対象を凍結・破砕する事が可能である。
実弾系の武器は悉く凍り付いて砕け散り、接近戦を仕掛けて来た敵は瞬く間に氷の彫像と化す。
攻防一体の強力な能力だが、当然そんな力には
まず、この能力を行使する為には
やろうと思えば自動防御の展開も出来なくはないのだが、あまり現実的ではない。
何故ならば、この凍土領域の使用に必要なリソースは、
つまり、この固有兵装を使えば使う程俺のシュミクラムのライフゲージが減少する為、基本的にこの能力は
ライフゲージの減少量は凍結範囲と能力使用時間に比例する為、自動防御など展開しようものなら瞬く間にライフゲージが尽きてしまう。
故に俺は、少しでも能力使用のリスクを抑える為に俺のシュミクラムには武装スロットを幾つか犠牲にして、一定以上ライフゲージが減少すると自動でライフゲージを回復する
ライフゲージ回復の電子体アイテムは幾つか持ち歩いているが、回復量や即応性を考えると固有兵装の代償でライフゲージの消費が激しい俺にとってはライフチャージャーの装備は必要不可欠だ。
そういった事情がある為、俺も今回の探索では無理をするつもりはない。
双葉が今回はあくまで
今回の【未踏領域】探索はあくまで実際にキャンサーと戦闘を行い、現状の装備で問題ないかを確かめる事が目的である。
その為、今の戦闘で最低限の目的は果たした事になる。
俺は、固有兵装のリソースとして使用して減少したライフゲージを確認し、思案する。
キャンサーとの戦闘自体は、固有兵装を活用すればどうにかなる。
しかし、まだキャンサーの襲撃ペースが分からない以上、このまま探索を続行して良いかは判断し難い。
襲来したキャンサーが二、三機程度であれば、まずは通常兵装で再生速度や再生限界を確認する、という手もあった。
しかし初っ端から想定以上の数が出て来た為、固有兵装を使わざる負えなかったという面がある。
あのペースで出現し続けるのであれば、現状の装備では不安が残ると言わざる負えない。
『怜二、どうする? 一度戻って準備し直すって手もあるよ』
「……そうだな。モタモタしていると次の襲撃が来るか……」
俺は双葉に催促され、しばし思案した後撤退を決める。
それを双葉に伝えようと口を開こうとする。
「……っ!?」
──途端、言い様のない悪感が迸る。
予感に従って前に目を向ければ、視界の先に黒い影が映し出された。
『……っ! 怜二、前方に敵影……っ! 嘘、この反応は……っ!』
一瞬遅れて双葉からの通信が届き、俺はその敵影を凝視し……息を呑んだ。
……それは、一見すればシュミクラムのように見えたが……違う。
人が乗っているにしては、纏う雰囲気が異常に過ぎた。
あまりにも細すぎるその外観はまるで骸骨が鎧を纏って立っているかのようであり、しゃべこうべを象っている頭部の口からは黒いタールが流れ出している。
そして何より目を引くのは、
腕部と一体化しているそのチェーンソーからは絶えず黒いコールタールのようなものが流れ落ちており、チェーンソーの不快な回転音と共に周囲に黒い液体がまき散らされている。
「……チェーンソーを装備した、黒い機体……まさか、あれは……っ!」
『……っ! データが一致した……っ! あれは【
……最悪の予感が当たり、俺は思わず舌打ちした。
目の前の機体の脅威を、正しく理解したが故に。
──【
統率個体はキャンサーの
統率個体はシュミクラムのような姿をしているが、その機体から溢れ出る黒いタールと……そして、
その為、探索者の間には暗黙の了解として
もしもチェーンソーを装備していれば、統率個体と間違われて攻撃されても文句は言えないのだ。
『66、tnk4z09! 6]t5i3t@ljdq!』
視界の先の統率個体、イニクィタティスは意味不明な音を垂れ流し、その虚ろな眼窩でじっとこちらを見据えている。
奴の垂れ流したコールタールからは次々と新たなキャンサーが生み出されており、徐々に包囲網を構築している。
最早、戦う以外に道はない。
「チィ、止む負えない……っ! これより、統率個体との戦闘に入る……っ! サポート頼むぞ、双葉……っ!」
『気軽に言ってくれるね……っ! 仕方ない、生存を第一に考えこの場からの離脱を最優先目標に設定……っ! いける……っ!?』
「
──
そして、俺は全力で固有兵装を稼働させ、統率個体と対峙する。
はい、というワケで更新です。明日は更新出来ないけど、今後も更新は基本的に数日以上途切れさせないのでよろしくお願いします。