BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
「……成る程ね。もしかしてとは思ってたけど、やっぱりそうだったか……」
有栖は俺の話を聞き、神妙に頷いている。
俺はノインさんとの情報共有を済ませた後、買い出しから戻った有栖も交えて今後の方策を練る事にした。
今は俺が知り得た情報を、有栖に伝えた所である。
事が事だけにあまり秘密を知る人間を増やしたくはないが、こと
有栖は倫理や常識を蹴り飛ばすタチだが、一度した約束は必ず守る律義さとまず揺らがないであろう強靭な意志がある。
あの規格外の怪物から双葉を助け出すには有栖の協力は半ば必須であるし、情報共有しないという選択は有り得ない。
有栖自身、この件に関しては無償での全面協力を確約している。
双葉が今の状態に陥った責任は自分にあると考えている有栖は、少なくともこの一件が終わるまでは俺達の味方をしてくれるらしい。
彼女のような大戦力が味方になるのは、大いに心強い。
…………ああいった常識外の敵の相手をする場合、重要なのは
残念ながら、並程度の質ではあの怪物に対抗する事は出来ないだろう。
有栖のような特級戦力があって初めて、
あれは、そういう手合いだ。
ともあれ、そういった経緯で有栖に現在分かる範囲での情報を伝えたワケである。
「…………もしかして、有栖は双葉が【被造子】だって気付いてたのか?」
「気付いていたというより、なんとなく
そもそも、と有栖は前置きする。
「貴方はずっと一緒にいて
そう告げると、有栖は溜め息を吐いた。
確かに、俺は双葉以外のサポートなど受けた事がない。
日常的に双葉のサポートを受けており、尚且つ比較する相手がいなかった為、双葉の能力に疑問を持った事はなかった。
双葉程プログラミングにはあまり詳しくはなかった為、双葉の技術がどの程度のレベルなのかを正確に測った事がなかった。
有栖はこれまで
単独でやる以上は当然、俺が普段双葉にサポートされている索敵や戦闘補助の面も自力で補って来たのだろう。
だからこそ、双葉の技術の異常性に気が付いたのだ。
「幾ら高性能な【携行式操作席】を使っていて尚且つ貴方の補助があったとはいえ、一つの構造体をあんな短期間で封鎖して即席の【致死性防壁】まで作れるなんて、尋常な技術力じゃないわ。あの時は屑共の掃除を優先していたから細かい事は考えてなかったけど、どう考えても普通の人間が持てるレベルの技術力じゃないもの」
「……成る程な……」
恐らく、俺が同じ経験をしていたとしても
戦場でのサポートがどれだけ大変かを理解している有栖だからこそ、気が付く事が出来たのだろう。
いや、そうでなくとも
そう考えれば、俺の交友関係の狭さが招いた事とも言える。
特級プログラマという色眼鏡抜きで考えれば、双葉の技術力の異様な高さは気が付けた筈なのだから。
「ま、それを知ったからと言って吹聴したりはしないから安心しなさい。なんなら、私の処女を賭けてもいいわよ」
「い、いや、そこまでしなくても大丈夫だからな」
「……ふふ、女を知っている割には初心なのね。もっとからかいたくなって来たわ」
有栖はそう言ってくすくすと笑い、俺は顔が熱くなる。
これまで直接言われたワケではないが、どうやら有栖は俺と双葉に肉体関係がある事を見抜いているらしい。
その事に気付いたのは、双葉だ。
双葉は有栖が自分達を見る視線やその言動から、彼女が自分達の関係に気が付いていると察したらしい。
そして、この言い様からしてそれは間違いない。
つくづく、
「……あまり、怜二をいじめないで欲しいわ。怜二がからかい甲斐があるのは確かだけど、話が進まないもの」
「そうね。悪ふざけしたのは認めるわ。さ、話を続けましょうか」
ノインさんに注意され、有栖はけろりとした様子で話題を切り替えた。
こういう切り替えの早さは女性特有のものだと思うが、もしかすると俺の周りの人間が個性的なだけかもしれない。
真相は、知らぬが花だ。
「まず、今の双葉がどういう状態かについては察しが付いてるのかしら?」
「…………ええ、まずはこれを見て頂戴」
ノインさんはそう告げると端末を操作し、虚空にスクリーンを展開した。
スクリーンには波形グラフが表示され、緑色のグラフとオレンジ色のグラフが一定の波長を刻んでいる。
「…………このグラフは……?」
「緑色のグラフが例の【リヴァイアサン・デブリ】の咆哮を解析したもので、オレンジ色のグラフは
確かに、二つのグラフは部分的に重なっている部分が見て取れる。
俺はそれを見て、嫌な予感が加速した。
「……まさか……」
「ええ、今の双葉の脳波グラフは【リヴァイアサン・デブリ】のそれと
────ノインさんの言葉に、俺の思考が停止した。
考えたくはなかった、一つの可能性。
【リヴァイアサン・デブリ】は双葉の意識を捕らえただけでは飽き足らず、双葉と
あんなおぞましい怪物の一部に、双葉が成り果ててしまう。
それは、何がなんでも避けなければならない最悪の未来だった。
「…………猶予は、あとどれくらいかしら?」
言葉を失っている俺に代わり、有栖が疑問を口にした。
有栖自身、ショックを受けているようだが今はそれよりも
そういった、彼女のシビアな判断に基づく行動だった。
「…………正直、正確な所は分からないわ。今の双葉は、あの怪物に意識だけが取り込まれている状態にある。だから、ある意味電子体が【リヴァイアサン・デブリ】という構造体から
けれど、とノインさんは続けた。
「恐らく、あの怪物の中で双葉は相当の精神的な責め苦を受けている筈よ。あの子は、抱えているものが多過ぎる。過去の記憶をフラッシュバックさせるだけで、あの子の精神状態はどんどん削れていくでしょうね」
その言葉に、俺はギリ、と唇を噛んだ。
双葉には、両親によって洗脳教育を施され、金を稼ぐ道具として扱われ続けた辛い記憶がある。
もしもその頃の記憶を繰り返し見せられていたのだとしたら、いつ発狂してもおかしくはない。
俺と出会う前の記憶を追体験させられているのだとすれば、その中に俺の姿は無い。
つまり、今双葉はたった一人きりでその辛い記憶と向き合わされているのだ。
その辛さは、察するに余りある。
今すぐそこに飛んでいけない事が、俺には耐え難い程口惜しかった。
どうにもならない事だとしても、あいつがそんな責め苦を味遭っている時に一緒にいてやれないようで何が幼馴染かとも思う。
そんな俺の心情を、察してくれたのだろう。
ノインさんは沈痛な表情を浮かべながらも、話を止めるワケにはいかず続けた。
「…………今はまだ双葉が抵抗しているからいいけど、もしも双葉の精神が擦り切れてしまったら…………最悪、【リヴァイアサン・デブリ】の頭脳体にされてしまう。もしもそうなれば、本体に残されたプログラムによって動いているだけのあの怪物に、
つまり、とノインさんは続けた。
「────あの怪物が、
────それは、俺にとっても、誰にして見ても最悪の結末。
おぞましい未来としか言いようのない、想定する事すらしたくない未来の暗示だった。
あんな怪物の頭脳体にされてしまえば、双葉を救い出せる可能性は最早絶望的だ。
一度相対したからこそ、分かる。
あれは、この世界そのものに終局を齎しかねない極めつけの
あの怪物が解き放たれてしまえば、
そんな確信を抱く程に、あの怪物から感じたプレッシャーは大きかった。
そして、その考えは恐らく間違ってはいない。
少なくとも、あの怪物が動き出せば万単位の犠牲者と致命的な災害が引き起こされる事はまず間違いない。
あれは、仮想世界そのものの
旧世界であの怪物をどうやって打ち倒したのかは分からないが、もしあの怪物が
そんな、漠然とした予感があった。
「…………あるのか? あの怪物から、双葉を救い出す方法が……?」
俺は掠れた声で、一縷の望みに縋ってそう口にした。
此処でもし、
双葉は大切な幼馴染で、今は欠け替えのないパートナーだ。
その双葉を怪物から救い出せる方法が、あるのかどうか。
今の俺の思考は、それのみで埋め尽くされていた。
「…………正直、明言は避けたいわね。確実性のある方法とは言えないし、何より負うリスクが高過ぎる。けれど、
「……それは……?」
ノインさんは数舜迷い、そして告げた。
「────貴方の脳波をあの怪物に双葉のそれと誤認させて、双葉の意識が捕らわれている所に送り込む。そこで、双葉の意識を目覚めさせるのよ。他でもない、怜二がね」
この双葉√はある意味バルドフォースリスペクトでもあります。
幼馴染が辛い目に遭うのもそうだし、作品全体の雰囲気もスカイよりフォースに寄せてあります。
あの陰鬱な感じも中々好きなのよね。