BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
(…………もう、止めて……っ! こんなの、見せないで……っ!)
双葉は目の前の光景を直視出来ず、その場で蹲る。
あれから双葉は幾度となく、幼い自分が父親の
その光景は、嫌が応にも双葉に当時の情景を想起させた。
来る日も来る日も、発達していない性感を刺激されて痛みに悶え、逆らえば電流を浴びせられる。
全ての匙加減が父親の機嫌次第で決まるその地獄のような日々によって、幼い双葉の心は折られていった。
父親が双葉に施した洗脳教育は、対象に痛み等を与え続けて心を折り、自分に逆らう意志そのものを削り取り言う事を聞かせる為の人形を作り上げる代物だ。
日々の
幼い頃から延々と性感を弄られた影響か、双葉の乳房は同年代より明らかに発育しており、明確な膨らみが見え始めていた。
毎日続けられている拷問の際にも、声に艶が出始めている。
何年にも渡って続けられて来た洗脳調教は、確実に双葉の精神を蝕んでいた。
────い、や…………あ、あ……っ!────
────まだ声が出るか。全く、手間をかけさせおって────
────ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……っ!!────
(やめて、やめてよぉ……っ! 聞きたくない、思い出したくない……っ! だって、もうこれは終わった事なんだから……っ! なんで今更、こんなものを見せるのよ……っ!?)
双葉が目を閉じても、過去の自分が虐め抜かれる光景は延々と脳裏に流れ込んで来る。
過去の忌まわしい記憶が、双葉の精神をガリガリと削っていく。
もう、終わった事。
そう割り切った筈なのに、双葉の記憶の奥底にはまだその恐怖が刻み込まれている。
地獄としか形用出来ない、幼い時の日々。
その記憶が、心を抉る刃となって双葉に突き立てられる。
(もう、終わった事なのよ……っ!? だって、あいつは、あいつ等は……っ!!)
「────貴方が殺したんだもんね。お姉ちゃん」
────不意に、背後から声が響く。
振り向けば、そこには目の前で父親に拷問を受けている存在と瓜二つの、
「え……? なに、これ……?」
手術台のような場所に拘束されている幼い双葉は、今も尚父親の拷問を受けている。
だが、今双葉の目の前にいる少女もまた、幼い頃の双葉と同一の容姿をしていた。
まるで鏡映しのようにそっくりな
「何をとぼけているのかしら? 私は、貴方なのよ? 貴方の犯した
「……っ!!」
…………双葉の顔色が、変わった。
見当違いの事を言われて憤っている、からではない。
むしろその顔は真っ青になり、何か後ろ暗い事を指摘されたかのようだった。
「あ、なたは……」
「ウフフ、ならハッキリと思い出させてあげるわ。ちゃあんと、言葉にしないといけないものね」
幼い双葉の姿をした
「────貴方はあの日、自分の両親を殺したのよ。貴方が仕掛けた、【致死性防壁】に誘い込んで、ね」
『転送完了。周囲に敵影なし、いけるわ』
「『
怜二は有栖と共に、【V.S.S】構造体の地上部分へ転送していた。
ナビゲートを担当しているのは、ノインさんである。
準備を完了させたノインさんは何処からか自前の【
流石に双葉と同じように、とはいかないだろうが、それでも充分過ぎる程頼りになる。
ノインさんの本業は、あくまで【医者】だ。
プログラミング能力は双葉には当然及ばないだろうし、戦場にも慣れてはいない。
だが、依頼した内容をこなしてくれるだけの技量は持っている。
今の俺達にとっては、それだけでも充分な支援だ。
なにせ、支援があるとないとでは作戦の難易度がまるで変って来る。
オペレーターなしで大規模な作戦に挑むなど、目を瞑って戦場に飛び込むようなものだ。
故に正規の【探索部隊】は、必ずオペレーターを用意して作戦に臨んでいる。
特にマップが定期的に切り替わる【遺跡】においては、オペレーターの存在は必須だ。
今回挑むのは【遺跡】ではないが、未知の脅威が存在する構造体である事に違いは無い。
オペレーターなしでの作戦決行は、まず有り得ない。
だからノインさんが名乗り出てくれなければもう一度【ミョルニル】に頭を下げてオペレーターを借り受けるしかなかったので、非常にありがたかった。
何せ、今回は俺だけではなく有栖もいるのだ。
有栖は前回の襲撃時、【ヒャズニング】に潜入していた【ミョルニル】の密偵を殺害している。
理屈の上ではお咎めなしとしてはいても、【ミョルニル】の隊員達は有栖を良く思ってはいない筈だ。
【ヒャズニング】への密偵自体一般隊員には極秘で行われていただろうが、上位陣のオペレーターであれば詳細を聴いている可能性は高い。
自分の所の隊員を殺した女のオペレートなど、したいと思わないのが普通だ。
故に作戦行動中の諍いや下手をすれば意図的なオペレートミスの可能性も出て来てしまう為、今回は出来れば【ミョルニル】の手を借りたくはなかった。
聞くところによれば【ミョルニル】隊長の八木澤は未だに特別任務から戻れないらしく、【ミョルニル】に協力を要請しても出す事の出来る人員はあくまで一般隊員である。
【ミョルニル】の練度を侮るワケではないが、正直は話八木澤隊長のような特級戦力であればともかく、一般隊員クラスではあの化け物の相手は荷が重い。
これはもう、練度云々よりは
有栖は持ち前の超高速機動で早々的に捕まる事はないし、俺の今回の役割はあの怪物の目前まで無事に辿り着く事だ。
極論、俺は怪物と直接斬り結ぶ必要はない。
俺は有栖の護衛を受けながら、怪物の前に到達しノインさんの
有栖からも、俺一人のカバーであればなんとかなるとお墨付きを貰っている。
…………逆に言えば、人数が増えれば有栖一人ではカバーしきれなくなるという事だ。
有栖の気性を考えれば、足手纏いと判断した味方は容赦なく見捨てる可能性が非常に高い。
そうなれば、有栖と【ミョルニル】の決裂は決定的なものになってしまう。
今回危険な任務に同行を申し出てくれた有栖に対し、それはあまりにも不誠実だ。
上手く行かない事が明らかである以上、徒に同行者を増やす必要はない。
俺はそう判断し、有栖も俺の意志を支持した。
どうやら有栖は以前にも【ミョルニル】に睨まれるような事をしでかした事があるらしく、共闘はまず上手く行かないだろうという話だ。
彼女の立ち振る舞いを見る限り無理もない話だったので、今回は【ミョルニル】の協力は見送りとなった。
…………一応、ホークスさんにだけは今回の作戦の事を伝えてはいる。
当然のように「危険だ」と止められたが、今回ばかりは頷くワケにはいかない。
何せ、双葉の無事が懸かっているのだ。
引き下がる事など、出来る筈もなかった。
俺の意志が固い事を知ると、ホークスは「危なくなったら呼べ」と話し、
有栖が共にいる事も伝えてあるが、それでも構わないと言ってくれたのは嬉しかった。
何度かやり取りを重ねるうちに、ホークスの世話焼きでお人好しな部分が分かって来た。
ホークスは寡黙で口数も少ないが、落ち着いた大人としての視点で危険な行動を諫めてくれている。
良い大人、というのはああいう人の事を言うのだろう。
とても頼りになる、素晴らしい人格者と言えた。
「…………今の所、何も反応はないか。いや、あっても困るんだが……」
周囲を索敵しているが、レーダーに敵の電子体反応は見受けられない。
かつて【ヒャズニング】が占拠していたこの構造体は、最早ゴーストタウンと化していた。
いや、真実そうなのだろう。
あの怪物は、どう見てもこの世のものではない。
あれは、死者の怨念そのものだ。
何らかの原因で死者の怨念が寄り集まり、実体を得てしまった生ける屍。
それが、あの球体の本質なのだろう。
無論、これはあくまで直感を用いた予想だ。
しかし不思議と、この予想が間違っている気はしなかった。
あれはそういうものなのだと、俺の本能が訴えていた。
俺達は、有栖が地面に開けた大穴の上にやって来ていた。
穴の中は暗く、鋼鉄の体躯を得ているというのに震えが止まらない。
俺の頭の中に間借りしている
地の底から吹いている冷気は、気の所為ではない。
確実に、あの時より外気温が下がっている。
これは、冥府の気配だ。
あの世の入口が、この下に開いている。
そうとしか思えない、不気味な空気だった。
「…………けど、先に進むしかない。有栖、此処から降り────」
「待ちなさい……っ! 下を、良く見なさい……っ!」
叫ぶような有栖の声に、俺はカメラアイを穴の中へ向ける。
「…………っ!!??」
…………声をあげなかったのは、奇跡と言えるだろう。
何故なら、穴の下…………俺達があの時最初に降りた広間の床には、床の下から突き出た無数の白い腕が花畑のように広がっていたのだから。
「な、なんだ、あれは……」
俺はその光景に恐怖を感じ、絶句する。
床から生えた白い腕はまるで生者を手招きするように、不気味に蠢いている。
海底に生えた海藻のように揺らめくそれは、生者をあの世に引きずり込む死者の誘いにしか見えなかった。
「おぉぉ、あぁぁ……」
何処からともなく、亡者の呻き声が聞こえる。
そして、次の瞬間には床から突き出た無数の白い腕に幾つもの
腕に浮かび上がった無数の眼が、俺達の姿を捉える。
すると、瞬く間に変化が始まった。
「な、に……?」
無数の白い腕が寄り集まり、一つの形を形成していく。
それはまるで巣に群がる幾億の蜂のようで、見る者に生理的な嫌悪感を齎した。
折り重なった腕はやがて人型のシルエットを形成し、腕や足が欠けた亡霊のシュミクラムへと姿を変えていく。
…………その中で、見過ごせないものがあった。
次々と生まれい出る鋼の死者の、中央。
そこに、見覚えのある
白装束を纏った、赤黒いシュミクラム。
【兎】を模したそのシルエットは、間違えようがない。
「…………シュラウド、ラビット……っ!」
────それは、死した後にあの怪物に取り込まれたジャビット=アンサーペのシュミクラム。
【シュラウド・ラビット】に、他ならなかった。
ジャビットはゲンハリスペクトのキャラだからね。
当然、しつこさもそれ相応です。