BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
「ジャビット=アンサーペ……ッ! あいつ、怪物に取り込まれた筈じゃ……っ!」
俺は眼下のシュミクラムの屍の群れの中心に立つ兎型シュミクラム、【シュラウド・ラビット】を見て思わず声をあげる。
確かに俺はあの時、【リヴァイアサン・デブリ】に取り込まれるあいつの姿を目撃している。
有栖の機体の腕に抱えられながら垣間見たあの光景は、現実の筈だ。
だというのに、再び俺の前に【シュラウド・ラビット】は現れた。
振り払ったと思っても、幾度でもやって来て脅威を振り撒く。
俺にとって【シュラウド・ラビット】は、ジャビット=アンサーペは、そういった存在になっていた。
正直、夢なら覚めて欲しいところである。
『…………取り込まれた、のでしょうね。恐らく今のあいつは、あの怪物の
『……ええ、私の観測データ上では
つまりこれは、正真正銘の亡霊の群れ。
ジャビットの【固有兵装】で動いていた亡者とは、違う。
あの怪物が取り込んでいた死者の念をこねくり回し、生前の形だけを整えたもの。
それが、あの機械の屍達の正体だ。
俺達は、無数の白い腕が寄り集まってシュミクラムの形になる瞬間を目撃している。
あれはただ、死者達が姿を変えてシュミクラムとしての体裁を整えているだけなのだ。
『oo,kottihekoiii』
『aa,urayamasii,uramesiiii』
死霊達は呻き声をあげながら、こちらを睨みつけている。
その叫びは、生者を羨む死者の怨嗟だ。
体温のある存在が、暖かな身体がある存在が、許せない。
あれは、そういった死者の恨みの念だ。
聞いているだけで寒気がして来るような、そんなおぞましい声。
やがてその声は屍のシュミクラム全体に広がっていき、明確な敵意が俺達に向けられる。
『aaaaaa,karadawo,yokoseeeeeee!』
『nande,omaetatidake,gaaaaaaa!』
『『『sine,sine,karadawo,yokoseeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!!!』』』』
それは、怨嗟の絶叫。
折り重なった悪意の叫びが、周囲一帯に響き渡る。
冥府の冷気が立ち上り、死者達が生者を道連れにせんと動き出す。
俺達を自分達の所まで堕とそうと、機械の亡者達が駆け上がって来る。
それはさながら、蜘蛛の糸に縋る罪人達のよう。
しかし、その糸を登り切ったとしても地獄からは抜けられない。
彼等は既に、あの怪物の虜囚に過ぎないのだから。
「くっ、こうなったら……っ!」
俺はその光景を見て、消耗度外視での【固有兵装】起動を決断した。
数が、違い過ぎる。
ただ数が多いだけならば有栖は一切問題としないだろうが、あの中にはジャビットの機体が混じっている。
【シュラウド・ラビット】の能力が怪物の一部になって何処まで残されているかは分からないが、あの超速戦闘に対応出来るのは有栖だけだ。
他の露払いの為に、有栖の力を無駄に消耗するワケにはいかない。
だから、俺は【固有兵装】起動に踏み切ろうとする。
『待ちなさい、怜二。
────だがその前に、ノインさんが
亡者の群れの中心近くに、一つのオブジェクトが転送される。
円筒型のそれはガコン、という音と共に信管が抜け、起爆。
途端、オブジェクトから大量の冷気が溢れ出る。
瞬く間にその冷気は地下の広間全体に広がり、亡者達の機体に纏わり付く。
足先から冷気に覆われた亡者達はその場に縫い付けられ、やがて冷気の帯が全身を覆い尽くす。
冷気の帯に絡め取られた亡者達の機体は凍り付き、物言わぬ彫像と化した。
辺り一面が、氷の彫像で埋め尽くされる。
一撃で戦場を凍結させる、広範囲凍結兵器の威力が開帳された瞬間だった。
「……これは……」
『怜二の【固有兵装】を参考に、私が作り上げた【
ノインさんは何処か得意気に笑みを浮かべ、説明を続ける。
『凍結範囲内の物体は何であろうと凍結対象になるけど、逆に言えば範囲外には冷気は漏れないからしっかり投下場所を見極めれば味方を巻き込む事はないわ』
もっとも、とノインさんはある地点にマーカーを押しながら続けた。
『────逆に言えば、
────そのマーカーの場所に、目を向ける。
そこには、凍結から逃れ悠然とこちらを見据える【シュラウド・ラビット】の姿があった。
その事実に、驚きはない。
確かにあの【範囲凍結機雷】の威力は凄まじかったが、冷気フィールドの展開までに若干の
ジャビットが、【ラビットシリーズ】がその隙を見逃す筈はない。
矢張り、怪物の一部になったとしても【シュラウド・ラビット】の機動力は失われていない。
有栖が、無言で前に出る。
此処は任せろと、そう考えているのが伝わって来る。
ならば、俺はこう告げるしかない。
「有栖、
「────
有栖は不敵な笑みと共にそう告げ、跳躍。
同じように【シュラウド・ラビット】も跳躍し、空中で二機のブレードが交差する。
俺はその光景を横目で見ながら、機体を反転。
冥府へ続く暗い穴へと、身を躍らせた。
「う、あ……」
双葉は、目を見開いた。
過去の自分の姿をした存在が言った事が、見当外れだったからではない。
「
でも、と少女は続ける。
「あなたは、
恋は盲目、とはよく言うしね、と少女はワケの分からない事を言ってくすくすと笑う。
「けど、そうなると邪魔な人がいるよね? あの人達がいる限り、あなたは永遠に
しかも、と少女は続ける。
「貴方の父親は、成長する貴方に劣情を抱きつつあった。あの頃には性感も成長して、あなたも喘ぐようになってたからね。そんな貴方を見る父親の眼が変わりつつあった事に、あなたは気付いていた」
くすくすと、少女は嗤う。
聞きたくない。
聞きたくないのに、耳を塞ぐ事が出来ない。
金縛りにあったかのように身体が硬直し、少女の言葉を遮れない。
「小さい頃から性感を刺激され続けて来た所為で、おっぱいも同年代の子よりずっと膨らんでたし身体も丸みを帯びてた。しかも、父親からしてみれば自分が好き勝手に出来る洗脳済みの
だから、と少女は告げる。
「貴方は、それを恐れた。折角恋を知ったのに、自分の身体を穢されるなんて許せない。洗脳なんて
…………気付いて、いた。
父親が自分を見る目に、段々と邪な視線が混じって来ている事に。
気付いていた。
遠からず、自分は父親に犯されるであろう事を。
気付いていた。
そうなれば、怜二に顔向けなんて出来ないって事を。
気付いていた。
そうなったら、自分に生きる意味など何もなくなってしまう事を。
気付いていた。当然、気付いていた。
────そんな
「────だから、殺したんだよね。父親を、母親を、自分の親を。もう、自分と彼の邪魔が出来ないように。もう二度と、自分が自由にならない事がないように」
そうだ。
その通りだ。
……私が、殺した。
誰を? 決まってる。
私の、両親をだ。
両親さえいなくなれば、私が穢される事はない。
両親さえいなくなれば、私の自由が縛られる事はない。
両親さえいなくなれば、私は怜二のものになる事が出来る。
だから、殺した。
わざと両親に見つかるように動いて、仮想に逃げて。
予め設置しておいた【致死性防壁】に踏み込むように、誘導した。
…………自分が罪に問われる事がないのも、分かっていた。
既にその時、自分は特級プログラマだった。
特級プログラマには、【技術保護を理由とする特例報復認可権】という権利がある。
その条文には、こう記されている。
『特級プログラマの技術及び心身が他者によって脅かされた場合、加害者を殺傷しても殺人罪に問われる事はない』と。
更に言えば、特級プログラマの仕掛けた【致死性防壁】に足を踏み入れて死亡した場合、自動的に
自分は、殺しをしても罪に問われる事はない。
殺しをしても、怜二と結ばれる障害にはならない。
だから、だから────っ!
「────殺したんだよね。計算づくで、自分の為に。自分が罪に問われないと知ってて、殺したんだもんね。ぜぇんぶ、自分の為だけに」
「あ、ああ……っ!」
────言葉の刃が、突き刺さる。
目を背けていた罪に、向き合わされる。
そして、少女はトドメの言葉を口にする。
「────気分はどう?
「あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…………っ!!!!!」
双葉は、絶叫した。
彼女の心が、折れる音がした。
【致死性防壁】に関してジャビット戦で出した説明は、この伏線です。
これをやる為に、あそこで情報を出しました。
全部、この展開の為です。
こういう話って、なんでこう筆が進むんだろうねえ。
あ、明日は更新ありません。明後日はあります。