BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
(……橘、玲佳か……)
俺は【声】の告げた名を復唱し、妙な感覚を覚えた。
【橘玲佳】、この【V.S.S】の社長であり双葉の洗脳に使われた技術を作り出した
更にこの【怪物】も元を辿れば、その人物が原因で生み出されたものらしい。
名前からすると女性のようだが、相当に碌でもない人物だったに違いない。
洗脳技術なんてものを開発し、数々の人体実験を繰り返していた以上ある意味ではジャビット以上の鬼畜外道だ。
ジャビットの場合は自分が悪人であるという自覚は備わっていたが、堂々と会社の社長なんてものをしていた以上その玲佳という人物に良識なんてものがなかったであろう事が予想出来る。
支配型のサイコパスの場合、周囲の人間には精神破錠者である事が悟られ難く、カリスマがあり会社の社長等のリーダー職に就く事が多いという話を本で読んだ事がある。
だからと言って社長だからサイコパスだ、なんて考えは短絡的だが、こいつは実際に碌でもない事をしていたワケだからまともな人間性を持っていなかった可能性が高い。
生来のものだったのか何らかの経験を経てそうなってしまったのかは分からないが、好ましい人格でなかった事は容易に想像出来る。
【声】は、そんな人物の人格データが管理AIとしてサルベージされている、と言った。
それは、つまり……。
────……いるんだな? 今もその構造体に、そいつが────
────ああ、そうだ。あのババアは、【リヴァイアサン】に取り込まれたまま死んだからな。【リヴァイアサン】をサルベージした時に、ついでに引っ張り出したんだろうぜ。ったく、俺もそうだが悪人ほどしぶてぇよなあオイ────
心底侮蔑するような感じで、【声】は吐き捨てた。
【声】は自分の事を
けれど、こうも思ってしまう。
こいつもまた、
あの極悪非道なジャビットでさえ、【被造子】として生まれ良識を人工的に消し去られたという
だからといってあいつの所業を許すつもりは微塵もないが、完全にあの世に行った後で手を合わせる程度はしてやってもいいと考えている。
恐らく、この【声】の主も何らかの事情で
そして恐らく、本当の意味での
【声】が橘玲佳の事を語る時、その声色には明確な
この【声】が生前、その橘玲佳の
あくまで状況からの推測であるが、そう的外れな考えではない筈だ。
むしろ、そう考えるとしっくり来るのだ。
────何故なら、あの【リヴァイアサン・デブリ】の存在が明らかになった前と後で明確に【声】の態度が変わっていたからだ。
それまであの【声】はある意味では心底どうでも良さそうに、気紛れに俺に囁きかけている感じがした。
あの時はまだ、不本意に眠りから覚まされて苛立っていた八つ当たりをしていたに過ぎないのだろう。
最初に俺の身体を乗っ取ったのは、その意趣返しだった可能性がある。
或いは、
意味もなく起こそうとするなという、【声】の主なりの抗議だったのかもしれない。
…………けれど、【声】の態度というかスタンスがあの【リヴァイアサン・デブリ】を見てから明確に変化した。
俺にしきりに撤退を促し、自分の力を安売りしてでもあの場から逃がそうとした。
今だって、渋々といった体ではあるがあの怪物にまつわる情報を教えてくれている。
有り体に言えば、【声】のモチベーションが変わったように思えるのだ。
無論、証拠はない。
ただ、【声】の声色や会話内容から推察しただけの
だが、俺はこの【仮説】が正しいだろうと考えている。
そうでなければ、わざわざこんな講釈をしてくれる理由がないからだ。
この【声】は、学者のようなタイプではない。
考えるよりも先に身体を動かす、根っからの戦闘者の筈だ。
その証拠に、【リヴァイアサン】の説明をする時のこいつは手元に辞書を置きながら喋っているような、妙なたどたどしさがあった。
恐らく、そこまで頭が良いタイプではないのだろう。
失礼極まりない推測だが、そう間違ってはいない筈だ。
この【声】からは、ノインさんのような落ち着いた知性は感じられない。
どちらかと言えば、双葉のような感覚派の天才に近い。
双葉はプログラミングを行う時、
脳の計算能力が、常人の比ではないのだ。
故に、初めて目にしたプログラムコードでも
恐らくは脳に細工をされて生まれて来た【被造子】故の能力なのだろうが、ノインさんのような真っ当な研究者からしてみると双葉のやっている事は理解の外にあるらしい。
双葉のプログラムコードを初めて見た時のノインさんは、「どうやったらこんなものが出来るのか分からない」と絶句していた程だ。
この【声】の主は、そんな双葉と似たタイプの天才肌だ。
「やってみたら出来た」という、過程を無視して結果を出すタイプに違いない。
そういったタイプは結果を出す事は得意だが、その
事実、双葉に興味本位でプログラミングを習おうとしたところ、五分で頓挫した経験がある。
双葉は専門用語を多用するばかりか、自分の頭の中で
そして、そうやって双葉が省略した過程には、結果を得る為に必須な知識が混じっている事が多い。
要は、頭の中で全てを完結させてしまっている為に、双葉の中では
常人が頭を捻って勉強してやっと覚える難解な知識であっても、双葉にとっては
そんな状態で、普通の人相手の指導など出来る筈もない。
名選手が名コーチになれるとは限らないという、典型的な例だ。
恐らく、この【声】に詳しい説明を求めても望む答えは返って来ないだろう。
こちらで質問事項を明確にしなければ、どう答えていいか分からないからだ。
俺はそれを踏まえた上で、こいつから一つでも多く有力な情報を聞きださなければならないのだ。
────それで、その橘玲佳の人格データは今何処にいるんだ?────
────多分だがよ、【リヴァイアサン】…………いや、今は【
────あの怪物の傍が、安全だと……?────
とてもではないが信じられない言葉に疑問符を浮かべた俺に、【声】はああ、と言って続ける。
────言ったろうが。あのババアは、あの怪物からサルベージされたもんだってよ。管理AIとして独立しちゃいるだろうが、元々今の奴は【リヴァイアサン・デブリ】の中に遺されてた人格データに過ぎねぇ。あの怪物にとっちゃ、自分の一部みてぇなモンだ。だからあいつは、怪物に
自分の毒で死ぬ蛇はいねぇだろ、と【声】は鼻で笑った。
────だから、テメェがあの怪物の中に飛び込んだ時、そこにゃあぜってぇあのババアがいる筈だ。今、テメェの女を言葉責めしてるのもあいつだろうからなあ────
なにせ、と【声】は続ける。
────あの怪物は、文字通り
────……っ!────
…………【声】の言葉に、ハッとなった。
あの怪物は、確かに
内に無数の死霊を蓄えていたとしても、あれ程の巨体をバラバラの意志で統御出来る筈がない。
それに、あのアイリス・バルブが開いたのは管理AIの操作に依るものであると双葉は言っていた。
ならば、少なくとも管理AI橘玲佳は怪物の制御権を持っている、もしくは行動を誘導出来る立場にあると考えた方が自然だ。
目的は、分からない。
だが、碌なものでないのは嫌でも分かる。
橘玲佳はあの怪物を復活させて、何かをやろうとしている。
そして、双葉を助け出すにあたって一番の障害になるであろう事も理解した。
それだけ理解出来れば、充分だ。
あとは準備を整えて、
接触の時は、近い。
「あ、ああ、あああ……」
双葉は、嗚咽を漏らして崩れ落ちる。
それを幼い双葉は、否────
「うふふ、良い表情ねえ。じっくりと、心を嬲った甲斐があったわあ」
幼い双葉に見えるナニカは、悪意たっぷりの笑みを漏らす。
それはどう考えても幼い少女が見せるようなものではなく、老獪な女狐を思わせる微笑みだった。
「こいつが起動するには、どうしても頭脳体を据える必要があるのよねえ。その為に研究者共に媚を売って従順な振りをしながら人工的な人柱を作り出したっていうのに、その人柱を連れて逃げちゃう馬鹿がいるなんてねえ…………本当に、忌々しいわ」
でも、と少女は続ける。
「こうして、手元に戻って来てくれたのだもの。今はそれで充分。洗脳の下地はもう仕込んであったし、後はどうとでもなるわよね」
くすり、と嗤い少女は双葉の顎に手を添えるが双葉はされるがままで抵抗一つしない。
今の双葉の表情は人形のそれに近く、その事を確認した少女は唇を歪めた。
「ふふ、貴方は私好みの容姿だし、丁重に扱ってあげるわ。これからは一蓮托生なんだし、仲良くやっていきましょう?」
少女の姿が、変わる。
幼い頃の双葉そっくりだった橙色の髪は長い黒髪になり、左目は髪に隠れて見えなくなる。
簡素な手術衣のようだった服は華やかなドレスになり、露出度の高いドレスの下にはボンテージ風のインナーが見える。
全体的に淫猥な雰囲気が漂っており、その眼には少女らしい純真さは欠片もない。
どす黒く染まった悪意が、少女の姿をしたナニカの瞳には充満していた。
「ふふ、私の会社で暴れた分は、しっかり代価を戴かないとねえ。さあ、いらっしゃい怜二君。存分に、歓迎してあげるわよ」
少女は、悪意の塊は、嗤う。
怪物の腹の中、一つの悪意が芽吹いている。
これこそが、この
この世界の是非を問う、災厄の根幹だった。
年増の敵キャラは好きじゃないのでロリバージョンにしました。
他に他意はありません。