BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
『ハァ……ッ!』
『aaaaaaaaaaaa!!』
二機の【兎】が虚空を蹴り、空中で交差する。
ガキン、という硬質な音と共に互いの脚部のブレードがぶつかり合い、火花が散る。
【
続け様に金属音が鳴り響き、空中で剣閃が幾度も煌めく。
戦闘は、完全な膠着状態に突入していた。
(……あの時ほどのスピードがないって事は、【超加速装置】は使えないって事かしら? 一端怪物に取り込まれたんだろうから、機能不全が起きてもおかしくはないけれど……)
戦いが拮抗している原因の一つは、紛れもなくジャビット側の
亡霊と化したばかりの時のジャビットは、自身の負担を省みずに【超加速装置】を最大限に使用する事で埒外のスピードを実現していた。
あのスピードで向かって来られれば有栖とて苦戦は必至だが、今のところジャビットの機動の速度は通常の【ラビットシリーズ】のものと大差はない。
ハッキリと言ってしまえば、動きに精彩を欠いていた。
【生ける経帷子】によって死後も自らの機体を動かしていた時のジャビットの機体は、本能しか機能していなかったとはいえ疑似的な
速度で挑んでも致命打にはならないと判断し、物量作戦による持久戦を仕掛けて来たあたりがそれだ。
しかし、今のジャビットの機体からは何の意志も感じ取れない。
焼け付く程の執念も、何がなんでも有栖を殺すという恩讐も、何一つ感じられない。
ただ、操り糸に従って仕方なく動いているだけ。
そんな、印象を受けた。
(……この様子からすると、もうジャビットの残した
他の機械の屍達のように、死霊としての疑似的な思念がない理由は分からない。
ジャビットの我の強さを警戒して、
今のジャビットは、与えられた命令に従うだけの
妄執ではなく与えられた
ハッキリ言って、自分で戦力を狭める愚策と言うしかない。
ジャビットの強みは、死しても尚我を通そうとする強力な
その思念は【固有兵装】の力を使ったとはいえ、死した己の身体を動かして目的を達しようとするレベルにある。
その自我を奪ってしまえば、ジャビットは単なる
強さを支えていた本能を捨てさせて操り易くしたのだろうが、
普通の相手であれば、その機動力だけでどうにか出来ただろう。
だが生憎、有栖は
誰もが認める、かつてのジャビットと同等の
それが、【首狩り兎】。
序列19位、六条有栖なのだから。
「────動きは、見切ったわ。いい加減、先へ進ませて貰うわよ」
────そして、戦況が変わる。
有栖はジャビットと刃を交わす寸前で敢えて態勢を崩し、【シュラウド・ラビット】のブレードは空を切る。
すかさず有栖は、機体の指からワイヤースレッドを射出。
ジャビットの機体の足首は、鋭い鋼糸によって切断された。
『gii……!?』
超速機動の根幹となる脚部を潰され、【シュラウド・ラビット】は空中でがくん、と姿勢を崩す。
有栖はその隙を逃さず、追撃。
ニーブレードがジャビットの頭部を両断し、そのまま胴体を切断。
【シュラウド・ラビット】はそのまま爆散し、無数の白い腕の残骸が風に溶けるように消えて行った。
『…………自我を奪われた奴の末路なんて、こんなものよね。あの怪物に取り込まれさえしなければ、もう少し手古摺ったでしょうに。まあ、不幸中の幸いとも言えるかしらね』
さて、と有栖は撃破したジャビットの事は一瞬で忘れ去り、地下に続く空間に目を向けた。
『邪魔者は消えたし、彼を追いかけましょうか。またあの時みたいな事になるかもしれないし、最後まで役目は果たさないとね』
有栖はそう呟くと跳躍し、暗い地下へと飛び込んだ。
【ラビットシリーズ】特有の高速機動で、瞬く間に有栖は奥へと消えていく。
有栖が立ち去った後の、広場の隅。
そこには、有栖に斬り飛ばされたジャビットの機体の頭部が転がっていた。
既に首から下を失い、頭部だけになったそれは。
────その
『怜二、もうすぐ着くわ。警戒して』
「
怜二は無数の階層を通り抜け、遂に【リヴァイアサン・デブリ】が待つ最下層の手前の階へと辿り着いた。
もうすぐ、あの怪物と対面する。
その事を考えると心臓が五月蠅い程に鼓動し、冷や汗が流れる。
出来ればもう二度と会いたいないと思うような怪物に、これから身を晒さなければならないのだ。
その恐怖は、想像を絶する。
可能ならば、今すぐ逃げ出したい。
覚悟を決めたつもりでも、下層から感じる圧迫感に屈してしまいそうになる。
何度、覚悟を決め直しただろう。
何度、引き返そうと思った事だろう。
俺は、あの怪物に恐怖している。
それは、紛れもない事実だ。
けれど、行かなければならない。
双葉が、俺の助けを待っているのだから……!
…………視界の先に、有栖が脱出の際に空けた無数の穴が見える。
俺は機体を減速させ、穴の淵からその下を覗き見た。
「…………これは…………」
────そこにあったのは、正に地獄の具現だった。
最下層は緑の海で満たされ、その中央にあの怪物が────【リヴァイアサン・デブリ】が沈んでいる。
【リヴァイアサン・デブリ】の断面からは今も尚無数の白い腕が蠢いており、緑の海の水面には同様の腕が無数に乱立していた。
それは、生者を呼び込む冥府の水面。
「……っ!」
ガタガタと、身体が震える。
あんなものが、あんなものがこの世に存在していい筈がない。
俺は今から、あんなものの
それが、どうしようもなく恐ろしい。
あんなものの中に入って、無事で済む筈がない。
あんなものの中に入って、正気でいられる筈がない。
双葉だって、きっとそうだ。
きっと、もう手遅れだ。
だから、だから俺は。
此処で、諦めても……。
仕方、な……。
────怜二────
「……っ!?」
────不意に、脳裏に双葉の声が聞こえた気がした。
苦しそうな、消えゆくような声が。
再び、眼下の怪物を見据える。
おぞましい、見る事すら躊躇うような姿。
その怪物の方から、双葉の気配を感じた気がした。
否、気の所為ではない。
双葉は、あの怪物の中に捕らわれている。
俺に、助けを求めている。
ならば、俺が取るべき行動は一つしかない。
恐怖は、消えない。
けれど、覚悟は決めた。
どれだけ辛い想いをしようが、俺は双葉を助け出す。
その為に、此処に来たのだ。
嗚呼、確かにあの怪物は埒外の存在だ。
正気のまま、相対出来るような相手ではない。
けれど、双葉は今も尚あの怪物の中で苦しんでいる。
俺の大切な女の子が、あんなものに囚われている。
それは、断じて許容出来る事ではない。
あいつは、俺のものだ。
俺が唯一、愛する女だ。
幼馴染である前に、サポーターである前に。
あいつは、俺の恋人なのだ。
身体から始まった、歪な関係かもしれない。
あいつの依存に付け込んだ、卑怯な関係かもしれない。
だが、だからどうした。
あいつは俺を愛してくれているし、俺もあいつを愛している。
関係を持った経緯がどれだけ歪だろうと、健全な関係性ではなかろうと。
あいつが、俺の女である事実は消えない。
俺は、あいつを受け入れたのだ。
どんなに歪な形であれ、あいつの求めに応じたのだ。
だから、俺には責任がある。
何が何でも、あいつの全てを背負いきる責任が。
あいつは、あんな怪物の好きにしていい女ではない。
あいつの一番は、いつだって俺でなきゃならない。
あんな怪物に、俺の女を取られてたまるものか。
あんな怪物に、俺と双葉を引き裂く権利なんて与えてなるものか。
許せない。
双葉を捕らえた、怪物が。
怪物を前にして、尻込みしてしまった俺自身が。
弱気は、此処に捨てていこう。
此処から先は、目的さえ覚えていればいい。
双葉を、助ける。
その為なら、なんだってする。
俺はその為に、此処までやって来たのだから。
「ノインさん、頼む……っ!」
『ええ、始めるわ……っ! 必ず帰って来なさい、怜二……っ!』
ノインさんが端末を操作し、俺の脳波パターンを覆うように双葉の脳波パターンを上書きする。
俺の座標に重なるように、別の脳波が出現する。
それは、俺にとっては慣れ親しんだ、双葉のそれだ。
傍に双葉がいるかのように、俺自身も錯覚してしまう。
変化は、すぐに訪れた。
眼下の怪物がざわつき始め、その断面から覗いた無数の
自分に突き刺さる幾億の視線に、明確な不快感を覚える。
そんな俺の怯えを見透かすかのように、緑の海が泡立っていく。
水面に蠢く白い腕も、何かを探すように動きを活性化させる。
そして、怪物の眼が、紅い光を放った。
──オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォン!!!──
怪物の、咆哮が響く。
意識が、何かに攫われるように遠くなっていく。
それと同時にノインさんが施したプログラムにより俺の機体は隔離空間に転送され、その場から消える。
────
そして俺の意識は、怪物の中へと取り込まれた。
はい、てなわけで怪物の中にダイブです。
この√がバルドフォースの色が濃いと言ったのは、まあこういう事です。
前作でもやったけどね、こういう展開。