※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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死線ーDead Lineー

「……行くぞっ!」

 

 俺は正面からイニクィタティスと相対し、戦闘を開始する。

 

 周囲にはイニクィタティスの生み出したキャンサー達が跋扈しており、各々の牙からは黒いコールタールのような液体……可視化されたウイルスが垂れ流されている。

 

 キャンサー達は統率個体の指示に従い、黒い液体を撒き散らしながら一斉に俺に飛び掛かって来る。

 

「させるか……っ!」

 

 だが、黙ってやられるワケにはいかない。

 

 俺は固有兵装を稼働させ、周囲に冷気の帯を展開。

 

 右腕を薙ぎ払うような動作と共に掌を握り込み、同時に飛び掛かって来たキャンサーが瞬く間に凍結。

 

 次の瞬間には粉々に破砕され、第一陣の迎撃は成功した。

 

『2ffffffff! x3、ehc@!』

 

 だが、今此処にいるのは通常のキャンサーだけではない。

 

 統率個体、イニクィタティスが不気味な咆哮をあげながらチェーンソーを振り上げ、襲い掛かって来る。

 

 眼窩のない虚ろなカメラアイが俺を見据え、俺はその双眸が笑っているような錯覚を覚える。

 

 不気味な異形の怪物が、自身に迫って来る。

 

 その恐怖は如何ともし難いが、此処で折れるワケにはいかない。

 

「喰らえ……っ!」

 

 俺はその場から後退しながら、ラディカルスピナーを射出する。

 

 回転する刃がイニクィタティスに向かい、滑空していく。

 

『]q@q@9!』

 

 ……だが、その刃がイニクィタティスに届く事はなかった。

 

 イニクィタティスのチェーンソーから垂れ流されている黒いタールのような液体が泡立ったかと思えば、瞬時に巨大な花のようなオブジェクトを形成。

 

 ラディカルスピナーはそのオブジェクトに直撃し、滑空が止まる。

 

 その隙に、イニクィタティスは花型オブジェクトを足場に跳躍。

 

 そのままこちらに躍りかかって来た。

 

「く……っ!」

 

 俺は目眩ましとしてスライドボムを射出し、その場から更に後退。

 

 一瞬後に俺のいた場所にチェーンソーが振り下ろされ、間一髪での回避が成功する。

 

『bd'hu!』

 

 だが、イニクィタティスの攻撃は終わらない。

 

 間髪入れずにチェーンソーを振りかぶり、後退した俺に追い縋ろうとしていた。

 

「チィ……っ!」

 

 今度は、回避は間に合わない。

 

 俺は手に大型のブレードを出現させ、イニクィタティスのチェーンソーを受け止めた。

 

 

『1yZ!』

「く……っ!」

 

 ガギャギャギャギャ、という耳障りな音と共に、イニクィタティスのチェーンソーブレードが俺のブレードと鍔迫り合う。

 

 だが、矢張りと言うべきか俺のブレードはイニクィタティスのチェーンソーブレードの回転鋸によって徐々に削られている。

 

 更に言えば、元々軽量型の俺の機体では、明らかにパワーが足りていない。

 

 このままでは、チェーンソーが俺に叩き込まれるのも時間の問題だ。

 

 しかも、それだけではない。

 

 イニクィタティスのチェーンソーから滴り落ちた黒い液体が、再び何かの形を取ろうとしている。

 

 先程見た限りでは、イニクィタティス……いや、統率個体は自身から流れるあの黒い液体からキャンサーを生み出す事が出来る。

 

 恐らく、先程防御に使用した花型オブジェクトはその応用で作り出したキ(・)ャ(・)ン(・)サ(・)ー(・)の(・)成(・)り(・)そ(・)こ(・)な(・)い(・)だろう。

 

 使い捨ての防壁として使用する為に瞬時に製作したものであり、この能力の本来の用途は眷属の生成である筈なのだ。

 

 他の統率個体を知らない為に推測でしかないが、恐らくこのイニクィタティスはその応(・)用(・)が取り分け器用に出来ているように思えた。

 

 ……だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)、俺にブレードを捨ててその場から退避するという選択肢を取らせた。

 

 案の定、黒い液体は鋭い針と化し、俺のいた場所目掛けて突き出された。

 

(……やっぱりか。こいつは、あの液体を利用したオブジェクトの生成を得意としていると見た。接近戦は論外だな)

 

 恐らく、これこそがイニクィタティスの持つ能力の肝なのだろう。

 

 眷属作成能力を応用した、オブジェクトの瞬間精製能力。

 

 それが、イニクィタティスの固有能力に違いない。

 

 もっとも、この分析が正しいという保証はない。

 

 他の統率個体と戦った事などある筈もないのだから、データ不足は当然だ。

 

 しかし、だからといって諦めるワケにはいかない。

 

 俺の帰りを待つ双葉やノインさんの為にも、こんな所で死ぬワケにはいかないのだから。

 

(……長期戦は元より不利。考慮にすら値しないな)

 

 このまま戦いが続けば、奴は無尽蔵にキャンサーを生み出して俺を追い込もうとして来る筈だ。

 

 キャンサーに対する有効打が今の所俺の固有兵装しかない以上、徒に戦いを長引かせれば俺の重要なリソースであるライフゲージは加速度的に減少していくだろう。

 

 消耗戦になってしまえば、その時点で詰(・)み(・)だ。

 

(なら、一気に叩くしかない……っ! 奴を兵隊を生み出し始めたら終わりだ……っ!)

 

 俺は意を決し、双葉に確認を取る。

 

 双葉は俺の考えを知るとこくりと頷き、俺の作戦を肯定してくれた。

 

「行くぞ……っ!」

 

 俺は装備を稼働させ、イニクィタティスに向かってミサイルランチャーを乱射する。

 

 しかし、イニクィタティスは黒い液体を瞬時に壁のようなオブジェクトに変性。

 

 自身を護るように、四方に配置する。

 

 ミサイルはオブジェクトに着弾し、爆発。

 

 オブジェクトはその衝撃で破壊されるが、イニクィタティスには傷一つない。

 

 ──しかし、既に目的は達せられた。

 

 これでイニクィタティスは一瞬であれど足を止め、防(・)御(・)の(・)態(・)勢(・)を(・)取(・)っ(・)た(・)。

 

 つまり、今のイニクィタティスは動(・)か(・)な(・)い(・)的(・)と同義の状態である。

 

 だが、足を止めたとはいえそれは一瞬。

 

 先程のように固有兵装を稼働させる素振りを見せれば、奴は即座にその場から離脱するだろう。

 

「──終わりだ」

 

 ──だから、俺は予(・)備(・)動(・)作(・)な(・)し(・)で(・)固(・)有(・)兵(・)装(・)を(・)稼(・)働(・)さ(・)せ(・)た(・)。

 

 イニクィタティスの周囲の空間が一瞬にして冷気で満ち、凍結。

 

 統率個体は逃げる間もなく凍り付き、破砕。

 

 絶対の脅威として立ち塞がっていた統率個体は、呆気なく撃破された。

 

「……やったか」

 

 俺は破砕され粉々になったイニクィタティスのいた場所を見据え、溜め息を吐いた。

 

 確かに俺は今まで固有兵装を稼働させる際、機体の腕でその稼働場所を指定していた。

 

 だが、それはあくまで効(・)率(・)化(・)の(・)為(・)の(・)手(・)順(・)であり、固有兵装の稼働そのものに必須は動作ではないのだ。

 

 当然、リスクはある。

 

 俺が固有兵装の稼働時に腕で範囲を指定するのは、そうする事によって座標計算の効率を上げ、負担を少なくする為だ。

 

 今のように予備動作なしで固有兵装を稼働させた場合、座標計算の負担を軽減する事が出来ず、大量のリソースを消費する。

 

 事実、今の固有兵装の使用で俺のライフゲージは一気に一本まるごと消費されていた。

 

 間違っても、多用出来る手段ではない。

 

 こんな場合でもなければ、まず使わない手でもある。

 

 しかし、故に効果は絶大だった。

 

 恐らくイニクィタティスは、何をされたかも分からないまま消滅した筈だ。

 

 代償は大きいが、それ故に初見殺しの効果も高い。

 

 結果的にはあの統率個体を撃破出来たのだから、問題はない。

 

「……しかし、なんとか撃破出来たようで良かったよ。思い切って正解だった」

『そうね。相手の能力的に、消耗戦は愚策だしね。ともあれ、お疲れ様怜二。結果的に見れば、大戦果じゃない』

「そうだな」

 

 双葉の言う通り、【統率個体】の撃破は紛れもなく偉業にあたる。

 

 今まで誰も踏破出来なかったからこそ【未踏領域(アウターゾーン)】なんて名のついた場所の、【統率個体】はいわばボスだ。

 

 そのボスを倒してしまった以上、それは【未踏領域】の踏破となんら変わりはない戦火と言える。

 

 ギルドからの報酬も、かなりの額が期待出来る筈だ。

 

『……っ!? 怜二、危ない……っ!』

「え……? が……っ!?」

 

 ──反応は、出来なかった。

 

 双葉の遅過ぎる警告に返事をする間もなく、俺の機体の中央に回転するチェーンソーが突き立っていた。

 

「ぎぃ、がぁっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ……っ!」

 

 一瞬遅れて身体を抉られる激痛が迸り、俺は絶叫する。

 

 反射的に振り向けば、そこにはいつの間にか先程倒した筈の敵……イニクィタティスが、俺の機体にチェーンソーを突き立てていた。

 

「馬鹿、な……」

 

 俺は絶句する他なく、痛みに悶えながらイニクィタティスを見据えた。

 

 ……その機体は確かにイニクィタティスに酷似していたが、細部が異なっていた。

 

 目の前にいるイニクィタティスは先程のものより丸みを帯び、何処か女性的な印象を抱かせた。

 

 もっとも、その頭部は二つのしゃれこうべを前後に張り付けた歪なものであり、見るからにおぞましい外観である事に変わりはない。

 

 腕部は四本存在し、そのうち二本は禍々しいチェーンソーを装備しており、残り二本は先端が槍のようになっていた触腕だった。

 

 俺の機体はイニクィタティスの上部右腕のチェーンソーによって穿たれ、回転する鋸が俺の機体内部をガリガリと削り取り継続的におぞましい激痛を与えている。

 

「……が……っ!?」

 

 女性型のイニクィタティスは俺の機体から乱暴にチェーンソーを引き抜き、俺の機体(ヴァナルガンド)はその勢いで地面に転がり落ちる。

 

 鈍い音を立てて、俺は受け身も取れずに無様に地面を転がった。

 

「ぐ……っ!? がぁ……っ!」

 

 ──そして機体が地に倒れ伏した次の瞬間、俺は身体を貫かれた激痛とは別種の痛みに機体(からだ)を痙攣させた。

 

 内臓を得体の知れないものが這い回り、至る所に牙を突き立てている。

 

 そんな不快な感触が、俺の全身を支配していた。

 

 ……腹の中から、どうしようもない痒みを感じる。

 

 今すぐに腹の中に手を突っ込んで、中身を掻き出したい衝動に駆られた。

 

 脳内に俺の腹の中を蠢く無数の蟲のイメージが沸き上がり、その妄想に思わず嘔吐感が沸き上がる。

 

 気持ちが悪い。

 

 現実の認識はぼやけているのに、思考は驚く程のスピードで回っている。 

 

 脳裏に様々な情景が浮かんでは消え、走馬灯のような光景を見せつけて来る。

 

 ……否、真実これは走馬灯なのだろう。

 

 その証拠に、機械音声が冷酷に俺の現状を伝えて来る。

 

『警告。ウイルスタイプ・浸蝕細胞(キャンサー)による機体浸蝕を確認。現在浸蝕率50%を突破、自決プログラム(メメント・モリ)を使用しますか?』

 

 そうして脳裏に響き渡った無機質な機械音声により、俺は現状を正しく認識した。

 

 今俺は、イニクィタティスの……即ち、キ(・)ャ(・)ン(・)サ(・)ー(・)の(・)統(・)率(・)個(・)体(・)の(・)一(・)撃(・)を受けた。

 

 傷を負った場所が腕や足であれば、探索者証にプリインストールされている部位排出(パージ)プログラムでどうにかなったが、貫かれた場所は胴体だ。

 

 幾ら何でも、胴体を部位排出する事は出来ない。

 

 詰み、と言える状況だった。

 

「ぐ、ぎぁ、あぁ……っ!」

 

 おぞましい感覚に、口から嗚咽が漏れる。

 

 既に浸蝕は手遅れな域に達しており、俺の内部が組み替えられ始めている。

 

 この組み換えが全身に及べば、俺はおぞましいキャンサーの仲間入りを果たすのだろう。

 

 たとえ無残に死ぬのだとしても、そんな未来だけは、断じて受け入れるワケにはいかなかった。

 

「……悪、い……双、葉……俺は、此処まで、らしい……」

『怜二……っ!? やだ、やだ、やだよ……っ! 怜二が死んだら、私、私……っ!』

 

 通信の向こうで、双葉がその顔を歪めて絶叫している。

 

 その悲痛な声を聞き、彼女を悲しませた事を深く悔やむ俺がいた。

 

 ……いつかはこんな日が来るとは思っていたが、こんなに早いものだとは思わなかった。

 

 無論、未練など幾らでもある。

 

 こんな所で死にたくはなかった、という思いも当然ある。

 

 しかし、現実は現実として受け止めなければならない。

 

 今の俺に出来る事は、他者の迷惑にならないよう自決プログラムを起動して消滅する事だけだ。

 

 ……後悔がないと言えば、嘘になる。

 

 やりたい事やこれからやるべき事、考えていた事はたくさんあった。

 

 けれど、もう俺に先(・)はない。

 

 後は自決プログラムを起動するだけで俺のいた痕跡はこの場から消失し、俺という人間はいなくなる。

 

 そうしなければ、俺はあのおぞましいキャンサーと化してしまう。

 

 みすみすキャンサーと化してしまえば、更に悪い結末が待っているのだ。

 

 解除キーを所持した俺がキャンサーと化せば、それが感染爆発の引き金になってしまう。

 

 この世界に生きる一人の人間として、そんな結末を許すワケにはいかなかった。

 

 ……既に頭には靄がかかり、いつ意識を失ってしまうか分かったものではない。

 

 そうなる前に、俺は自分の後始末をしなければならないのだ。

 

 俺は自らの死を決意し、自決プログラムを起動しようとする。

 

『──本当に、それでいいのかな? 君はまだ、何(・)も(・)思(・)い(・)出(・)し(・)て(・)は(・)い(・)な(・)い(・)のに?』

 

『え……?』

 

 ──何処からともなく響いた声に、俺の動きは硬直した。

 

 視線を向ければ枯れた木のオブジェクトの枝の上に、一人の電子体と思わしき少女が座っていた。

 

 少女はシルクハットを目深に被り、表情は伺えない。

 

 その服装は下着そのもののようなキャミソールの上にマントを羽織り、下半身は足の付け根までを露わにしたレオタードのみという露出過多なもので、その口元には歪んだ笑みが張り付いている。

 

 ……俺はそれが、人間の少女だとはとても思えなかった。

 

 少女の持つ雰囲気がまず異常であるし、何よりこんな場所で通常の電子体でいるなど正気の沙汰ではない。

 

 気狂いの類かと考えたが、それでも何故か少女の言葉に耳を傾けてしまっていた。

 

 何故か、少女の言葉には引き込まれる何かがあったのだ。

 

『嗚呼、大衆の為に自らの命を投げ出す……それは、とてもとても美しい美談だろう。何も知らない大衆はそんな君を英雄と称し、よく知りもしない君の事を称えるだろう。けれど、けれどけれどけれど……っ! 君は、本当にそれでいいのかい? お涙頂戴の最期を飾って、それで君は本当に納得出来るのかい?』

「それ、は……」

 

 ……その少女の言葉に、心が揺らいだ。

 

 当然だ、俺とて好きでこんな場所で死にたいとは思っていない。

 

 ただ、そ(・)う(・)す(・)る(・)し(・)か(・)な(・)い(・)か(・)ら(・)死(・)を(・)選(・)ん(・)だ(・)だけだ。

 

 出来る事なら、死にたくなどないに決まっている。

 

『成る程成る程、生への執着実に結構! ならば、ならばならばならばっ! 君の取るべき手段は、自決などというつまらないものではないっ! さあ、思(・)い(・)出(・)す(・)んだ■イ■ツ■■■! 君の記憶を、君の記録を……っ! 全てに繋がる、深淵の叡智を……っ!』

「……っ! 俺、は……っ!」

 

 少女の言葉を聞いた瞬間、俺の意識は混濁し……そして、頭の中に無機質な声が響き渡る。

 

 ──異常確認。原因特定……判明。結論、■■■■■■■・■イ■スによる電子体浸蝕現象──

 

 ──■■■■■■・■イ■ラ■より対抗処置を検索……該当有り。プログラムコード、反転(フリップ・フロップ)を検出──

 

 ──コード、反転(フリップ・フロップ)……実行します──

 

 ──反転(フリップ・フロップ)──

 

 ──聴覚信号に響き渡るそのメッセージを聞いた瞬間、薄膜(ベール)に覆われつつあった俺の脳の靄が晴れ、意識が急速に澄み渡って行く。

 

 興奮剤(カフェイン)の数倍の覚醒感が訪れ、腹の中を蠢いていたウイルスの感触が消失していく。

 

 身体の中に存在した異物が完全に除去され、俺の意識は完全に覚醒した。

 

 俺は手足の感覚を確かめ、機体(からだ)を起こし立ち上がる。

 

『え……?』

『ui……?』

 

 ──そして、八雲怜二(おれ)は自分の意志で仮想の大地を踏みしめ、困惑する双葉の声を聞きながらイニクィタティスと相対した。

 

 これが、始まり。

 

 俺の運命を決める為の、戦いの狼煙だった。




 宣言通り昨日は更新出来なかったけど本日更新しました。

 バルドを知らない人にもある程度内容を理解して貰う為に色々と説明を付け加えてはいるけど、どうだろうか。

 色んな人に読んで貰って評価感想も頂きたいので、是非とも目を通して貰いたい。

 サイバーパンクものとしての出来は高いと自負しているので、今後ともよろしく。
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