※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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目覚めーAwakeningー

 

『この先ね……っ!』

 

 有栖は駆動系を全力で稼働させながら、怜二が向かった深層部への道を急ぐ。

 

 どうやら敵の手駒はあの時地上に出て来た連中で打ち止めらしく、新たな亡霊が生成される気配はない。

 

 今の所、ノインからの献策は上手く行っていると言える。

 

 あの場で大多数の亡霊を破(・)砕(・)せずに凍(・)結(・)のまま放置したのは、無尽蔵の敵戦力の再出現(リポップ)を防ぐ為だ。

 

 敵は数多の亡霊であり、幾度破壊してもリソースさえあれば幾らでも再利用出来る。

 

 たとえ一度や二度破壊しようが、大(・)本(・)である【リヴァイアサン・デブリ】が存在する限りその供給は尽きる事はないだろう。

 

 …………だが、亡霊は無(・)尽(・)蔵(・)であっても無(・)限(・)ではない。

 

 幾度破壊されようが復活して来るのは厄介極まりないが、その数の上(・)限(・)は存在する。

 

 大海の如き水量があったとしても、それを排出する蛇(・)口(・)の大きさは限られているのだ。

 

 そして、亡霊を動かす為の魂(・)は、その器(・)となる機体が破壊される事で【リヴァイアサン・デブリ】の下に戻る。

 

 【リヴァイアサン・デブリ】はそうして自分の所に舞い戻った魂に新たな機体を精製して器とし、再び亡霊として出現させている。

 

 あくまでこれは仮説だが、ノインはジャビットによる人口亡霊使役の件や現場の状況から、【リヴァイアサン・デブリ】の亡霊生成プロセスについてこの考えに至った。

 

 前回の時はまだ【リヴァイアサン・デブリ】は白い腕を伸ばすだけで今回のように亡霊を使役するなどという事はしなかったが、あの時ジャビットが使役していた亡霊は残らず【リヴァイアサン・デブリ】に飲み込まれている。

 

 その事から、ノインは【リヴァイアサン・デブリ】も亡霊を使役出来る可能性について考えていたのだ。

 

 【リヴァイアサン・デブリ】が内に閉じ込めていた魂達はあくまで思念のみの存在であり、器を持たない霊魂に過ぎなかった。

 

 だからこそ白(・)い(・)腕(・)という形にして強引に顕現させていたのだろうが、ジャビットの使役していた亡霊達はあくまで死(・)者(・)の(・)電(・)子(・)体(・)そのものを利用したものだ。

 

 密かに保管していた死者の電子体に【生ける経帷子】を被せる事で強制的に動かし、自らの手駒とする。

 

 それが、ジャビットのやっていた【亡霊使役】の方法である。

 

 …………つまり、ジャビットが使役していた亡霊は電(・)子(・)体(・)ご(・)と(・)【リヴァイアサン・デブリ】に飲み込まれた事になる。

 

 そう、死んでからもジャビットの戦(・)力(・)として運用するべく補完されていた機(・)能(・)停(・)止(・)し(・)た(・)電(・)子(・)体(・)が、である。

 

 更に言えば、あの時の亡霊はジャビットの【固有兵装】として生(・)き(・)た(・)電(・)子(・)体(・)としてAIに誤認させられている状態にあった。

 

 【リヴァイアサン・デブリ】からしてみれば、生(・)者(・)の(・)電(・)子(・)体(・)を取り込んだ事と大差はない。

 

 つまり、【リヴァイアサン・デブリ】の中にいる死者達は生(・)者(・)に(・)干(・)渉(・)可(・)能(・)な(・)実(・)体(・)を得た事になるワケだ。

 

 あの亡者の機体は、あの時取り込んだジャビットの操る亡霊達の機体を再利用したものに違いあるまい。

 

 だからこそ、【リヴァイアサン・デブリ】の使役出来る数の上(・)限(・)が存在する。

 

 その上限とは、ジ(・)ャ(・)ビ(・)ッ(・)ト(・)が(・)用(・)意(・)し(・)た(・)亡(・)霊(・)の(・)数(・)まで。

 

 それ以上の数は、器が足りずに同時生成する事は出来ない筈だ。

 

 だからこそ、破壊せずに氷に閉じ込めたままの状態であるならば、【リヴァイアサン・デブリ】には利用する為の器(・)が存在しない為、新たな手駒を精製する事は出来ない。

 

 死者の怨念は、単純な力押しより封(・)印(・)の方が効果的。

 

 その通説は今回も、間違ってはいなかったようだ。

 

『…………そろそろ、到着するわね。ノインさん、状況は?』

『怜二はもう【リヴァイアサン・デブリ】の中に飛び込んでいるわ。怜二の機体は予定通り隔離空間に転送してあるし、あとは怜二が双葉を連れ帰るまで時間稼ぎが出来るかどうかね』

 

 通信でノインから現状を聞いた有栖は、単純に疑問に思った事を口にする。

 

『時間稼ぎをするのは構わないけど、制限時間(リミット)は? 幾ら私でも、永遠に時間を稼ぎ続ける事は出来ないわよ』

『…………それは、現時点では答えようがないわね。中(・)での時間の進み方がこちらと同じである保証はないし、もしも夢(・)と同じ原理であれば数分後かもしれないし、数時間後かもしれない。だから悪いけれど、可(・)能(・)な(・)限(・)り(・)としか言いようがないわ』

『そう。分かったわ』

 

 ノインとしてはかなりの無茶な事を言ったつもりなのだが、軽く答える有栖に彼女の方が瞠目する。

 

『…………いいの? 我ながら、かなりの無茶を押し付けてる自覚はあるんだけど……』

『必要なら、幾らでもやるだけよ。私はね、や(・)る(・)と一度決めた以上は何があろうとやり遂げるって決めてるの。それがどれだけ困難な事だろうと、私がやる事に変わりはないわ』

 

 それにね、と有栖は続ける。

 

『────あいつには、恰好良い所見せたいじゃない。怜二が漢を見せようとしている以上、黙って手伝うのが良い女の在り方よ』

 

 毅然と、何の迷いもなく有栖はそう口にした。

 

 彼女には、迷いが無い。

 

 その傍若無人な性質から見誤りがちだが、有栖は人一倍責(・)任(・)感(・)が強い。

 

 特に、自分から言い出した事をやり遂げようとする姿勢は一貫している。

 

 自分がやろうとした事には自分で責任を持つべきだし、何か非(・)が生じたのであれば全力でそれを清算する。

 

 そういう心構えが、有栖には備わっているのだ。

 

 有栖は、自分の行為から眼を背けない。

 

 彼女は確かに酷薄で非情な面があるし、ならず者を殺す時に見せた猟奇性も彼女の一面である事に間違いはない。

 

 けれど、有栖は一度たりとも自分の行為の責任を誰かに押し付けた事はない。

 

 有栖は、自由に伴う代償をきちんと理解している。

 

 好き勝手やればやる程、その報(・)い(・)は自らに返って来る。

 

 有栖が生きていた場所は、そういう世界なのだ。

 

 だから、有栖は自分の所業から眼を逸らさない。

 

 自分の行動には、相応の責任が付随する。

 

 その責任から逃れ続ければ、それは手痛いしっぺ返しとなって自らを焼く炎となる。

 

 その事を、有栖はよく理解しているのだ。

 

 彼女は双葉が【リヴァイアサン・デブリ】の中に囚われた事を、自分の責任であると考えている。

 

 その負債を清算する為には、どんな労苦も惜しまない。

 

 彼女の中には、その覚悟があった。

 

 だから、彼女が迷う事は有り得ない。

 

 たとえ、何(・)が相手であろうともだ。

 

『もうすぐ、【リヴァイアサン・デブリ】が視認出来る位置に到達するわ。警戒して……っ!』

『了解(ヤー)!』

 

 そして有栖も、【V.S.S】構造体地下区画の最深部に到達する。

 

 彼女自身が空けた天井の穴の淵に立ち、有栖は眼下を見据えた。

 

『これは……』

 

 有栖は眼下に広がるおぞましい光景を見て、絶句する。

 

 一面に広がる毒々しい緑の水面に、その中に浮かぶ巨大な漆黒のオブジェクト────【リヴァイアサン・デブリ】。

 

 水面には無数の白い腕が蠢いており、【リヴァイアサン・デブリ】の断面からもまた白い腕が蠢いていた。

 

 地獄そのものといった光景に、有栖でさえ息を呑む。

 

『…………大丈夫? あまり、ああいうものを見続けない方がいいわ。呑(・)ま(・)れ(・)る(・)危険があるから』

『平気よ。臓物は見慣れているし、死体に関しても同様よ。生憎、このくらいでへこたれるような普通の心臓は持っていないわ』

 

 有栖はあくまで毅然と、そう断言する。

 

 確かに未知の光景に瞠目したものの、有栖の心が揺れていない事は確かだ。

 

 罪から眼を背け続け葛藤を終える事の出来ない双葉とは対照的に、有栖はあらゆる意味で開き直っている。

 

 自分がまともではないという自覚はあるし、自分がどれだけ罪に塗れているかも知っている。

 

 それはある意味で諦観に等しく、故に彼女の心が揺れる事はない。

 

 有栖は、一人で全てが完結している人間だ。

 

 他者が存在せずとも生きていけるように、自らの人格を強固に組み上げてしまっている。

 

 他者を必要としない人間は、強い。

 

 けれどそれは、孤独を代価とした強さだ。

 

 彼女がこれまで、他者の力を借りた事などなかったに違いあるまい。

 

 故に、双葉に協力を申し出た件は彼女からしてみれば初めて他者を頼ったケースになるのだ。

 

 だからだろうか。彼女は双葉や怜二に、特別な何(・)か(・)を見出しているように思える。

 

 責任を果たす、という意味合いは勿論あるが、それ以上に有栖は双葉や怜二に執着している。

 

 それは明らかな変(・)化(・)であるが、彼女自身がその事をどう思っているかまでは分からない。

 

 もしかすると、双葉達と交流を続ける事でその変化に対する答えを探しているのかもしれない。

 

 だからこそ、双葉を助ける事に対して此処まで協力的なのだとも言える。

 

 正真正銘の怪物を前にしても、有栖の覚悟は変わらずに存在している。

 

 ノインにはそれが、何処か眩しく見えた。

 

『……っ!? これは……っ!? 【リヴァイアサン・デブリ】の【核】が、稼働を始めている……っ!?』

『なんですって……っ!?』

 

 …………だが、そこで明確な異変が起きた。

 

 各種機器が異常を訴え、自動警報(アラート)が五月蠅い程鳴り響く。

 

 有栖はハッとなって、眼下の【リヴァイアサン・デブリ】の方を向いた。

 

 そこで、気付く。

 

 【リヴァイアサン・デブリ】の中央、半壊した巨大なカメラアイ。

 

 その無機質な眼に、光が灯った。

 

『……っ!!??』

 

 その光を見た瞬間、有栖の全身を言い様の無い悪寒が奔った。

 

 言うなれば、それは明確な脅威の認識。

 

 眠っていた筈の怪物を、起こしてしまったかのような感覚。

 

 そしてそれは、間違いなどではなかった。

 

──オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォン!!!──

 

 怪物の、咆哮が響く。

 

 けれどそれは、あの時のような悪意に満ちた攻(・)撃(・)ではない。

 

 ようやく目を覚ました事に対する、歓喜の咆哮(うぶごえ)だった。

 

 【リヴァイアサン・デブリ】の形が、変わっていく。

 

 抉られている断面に無数の白い腕が折り重なり、幾億の触腕を形成していく。

 

 それはまるで海洋生物の髭のような、身(・)体(・)の(・)一(・)部(・)のような有り様を呈していた。

 

 無秩序に水面に蠢いていた白い腕は束ね、連結され【リヴァイアサン・デブリ】の手足(しょくしゅ)として具現化する。

 

 半壊したカメラアイは生物的な単眼に置き換わり、ぎょろりと血走った眼で周囲を見回している。

 

 それは、先程までとは別物だった。

 

 先程まではあくまで壊れた冥府の門として機能していたものに、明確な意(・)志(・)が宿った。

 

 確証はないが、そう断ずるには充分な変化だった。

 

────qr:w、qr:w9666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666666!!────

 

 ────怪物の、咆哮(ひめい)が轟く。

 

 【リヴァイアサン・デブリ】は、目覚めの時を迎えた。





 こちらを書きつつ、ワートリ二次長編の準備も進めております。

 この長編も終わりまでそう長くはかからないので、此処からもお楽しみに。
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