BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
『さて、まずは小手調べね』
中空に躍り出た有栖は眼下の怪物、【リヴァイアサン・エコー】を見据え不敵な笑みを浮かべる。
怪物も、有栖の存在に気付いたのだろう。
不気味な単眼を光らせ、触腕を有栖に向かって伸ばして来る。
『ハッ……!!』
有栖は空中で脚部を振り抜き、空気刃を射出。
彼女を捕らえようとしていた触腕は空気の刃によって両断され、触腕が解けて無数の白い腕が水面に落ちる。
『…………そう簡単にはいかないか……』
だが、斬り落とされた触腕の根元から無数の白い腕が溢れ出し、瞬く間に両断された触腕を修復してしまう。
切断面からの
矢張り、図体だけの化け物ではないらしい。
あまり考えたくはなかった事態だが、それでも有栖はやるしかない。
足止めを任された以上、攻撃の効果がなかった程度で諦めるワケにはいかないのだ。
────333、33333333333333333333333333333333333333!!!────
【リヴァイアサン・エコー】は自らに害成そうとする不届き者を註すべく、再び触腕で追撃をかける。
だが、それに黙って捕まる有栖ではない。
空中を幾度も蹴り、縦横無尽に空を駆ける。
鈍重な触腕の大ぶりな攻撃が、有栖に当たる筈もない。
全ての触腕は空を切り、有栖は無傷で攻撃を凌ぎ切った。
────qr:w、qr:w、qr:w9666666666666666666666666666666666666666666666666666666!!!────
『く……っ!? これは……っ!?』
────だが、その程度で【リヴァイアサン・エコー】の攻撃は終わらなかった。
【リヴァイアサン・エコー】が悲鳴じみた咆哮をあげると共に、有栖の身体に────否、空間全体に重圧がかかった。
空気が軋み、耳鳴りが聞こえる。
身体が重く、手足は鉛のようだ。
それは先程あの怪物から感じた、深海の重圧。
暗く冷たい海の底に囚われたような感覚が、突如有栖を襲った。
データを確認すると、この周囲の空間だけが処理速度が落ちている。
正確には、
『これは、一定空間内のデータ処理そのものに過度な負荷をかけている……っ!? こんな負荷、容易に捻出出来る筈がないのに……っ!』
ノインの言う通り、現在の有機AIの処理能力は優秀である。
現実のほぼ完璧なシュミレートを行い、仮想空間をもう一つの現実として構築する。
現実と差異のない仮想空間の構築は、有機AIの膨大な処理能力あってのものだ。
その処理能力を超える負荷を出せるデータ量など、聞いた事もない。
『……っ! そうか、双葉の演算能力を利用して意図的に負荷を上げているのね……っ!? 流石にこれは、想定外だわ……っ!』
『…………成る程、双葉の力を悪用したワケなのね……』
ノインの報告を聞き、有栖はギリ、と唇を噛んだ。
なんだかんだで、有栖は双葉の事を気に入っている。
少なくとも、双葉の為にノータイムで命を懸ける事を承諾するくらいには。
その双葉の能力が、あんな怪物に良いように利用されている。
それは断じて、許容出来る事ではなかった。
『けど、そうと分かればこっちにもやりようはあるわ……っ! 有栖、一旦上の階層まで退避して……っ!』
『
不埒な真似をした怪物に一泡吹かせる為にも、対抗手段を持つであろうノインの協力は必須だ。
有栖はノインの指示に従い、自らが空けた穴を通って上の階層へと跳び上がる。
「……成る程……」
すると、身体にかかっていた重圧が嘘のように消え果てる。
圧迫感から解放された有栖は、油断なく眼下で触腕を蠢かせる【リヴァイアサン・エコー】を睨みつけた。
『その負荷フィールドは、一定範囲を区切ってそこに負荷情報を集中させる事で
『だから距離を取るのが一番手っ取り早い対策、というワケね。けど、流石にこのままじゃ私も攻撃出来ないわよ?』
『分かっているわ。まず、このデータを見て頂戴』
ノインはそう告げると、有栖の下にマップデータを送信する。
すると有栖の視界にこの場所のマップデータが表示され、その下部には揺らめく並のようなものが映し出されていた。
『その
『ええ、当然。この程度、労苦の内には入らないわ』
有栖は不敵な笑みを浮かべ、再び眼下の階層に飛び込みマップデータに従って空を駆ける。
負荷フィールドのスレスレを跳び回り、次から次へと空気の刃を撃ち出していく。
彼女は全霊を以て、【リヴァイアサン・エコー】の足止めに徹していた。
(さあ怜二、早く双葉を助けて来なさい。その為の時間は、私が稼いであげる。貴方がやり遂げられるって、信じてるわ)
有栖は怪物の中で奮闘する怜二にエールを送り、【リヴァイアサン・エコー】の足止めを続行した。
一方、怜二とゲンハは次から次へと襲い来るエネミーの撃滅を行っていた。
「さっきから、敵の数が多いな……っ!」
『ハッ、あのババアが焦り始めたんだろうよ。きっと俺達にゃ、自分のトコに辿り着いて欲しくはないんだろうぜ……っ!』
会話を続けながらも怜二とゲンハは共に回転刃を射出しながらの斬撃で、着実に敵の数を減らしていく。
あれから様々な敵エネミーが出現しているが、個々の強さはそれ程でもない。
連携されると厄介だが、それをさせる前にゲンハが先制攻撃を叩き込んで出鼻を挫いていた。
ゲンハが蹂躙し、怜二が撃ち漏らしをフォローする。
そんなコンビネーションが、二人の間で出来上がっていた。
『こいつは……っ!』
エネミーを倒しながら進む内に、怜二達は開けた場所に出た。
その大きさや意匠からしてエントランスホールなのだろうが、床や壁はこれまでと同じように赤黒く変色しておりおぞましい空気が充満している。
そんな中、視界の先に三つの巨大な影が見える。
────それは、巨大なシュミクラムだった。
通常のシュミクラムの数倍はあろうかという、巨大な体躯。
白系統で統一されたカラーリングに、肩に印字された【V.S.S】のマーク。
二つの巨腕は見る者に威圧感を齎し、脚部はその全体を考えればあまりに細い。
どう見ても、重装甲重武装型の大型シュミクラムの姿だった。
それが、三機。
怜二達の行方を塞ぐように、立ち並んでいた。
「……これは……」
『たしか、【キュクロプス】とかいったか。生前あのババアの私兵の中でも、特にお気に入りの奴に使わせてた機体だ。光学兵器が山程積んであるから、割と面倒だな』
ゲンハの言葉を聞き、俺は敵のデータを元に思考を巡らせる。
重装甲・重武装型なのは見れば分かるが、メインウェポンが光学兵器というのは割と厄介だ。
光学兵器は実弾系の兵装と違い、俺の【固有兵装】で凍結させて不発にする、といった真似は出来ない。
大体が超高温のレーザーである為、氷の壁を作ってもすぐに貫通されてしまう。
相性的に言えば、俺が一人で勝てる相手ではなかった。
…………そう、
『ヒャハハハハハハハハハ……っ! トロいんだよ、デカブツがぁ……っ!』
ゲンハは哄笑をあげながら突貫し、彼の攻撃を察知した三機の【キュクロプス】はサテライトレーザーによって光弾を雨あられと降り注がせる。
しかしゲンハはその光弾に一発も被弾する事なく、驚異的な身のこなしですいすいと光の雨の中を進んで行く。
【キュクロプス】の懐に入らんとして跳び上がると、敵も頂戴なスタンロッドで迎え討たんとする。
『遅ぇ……っ!』
『────っ!』
だが、そんな大振りな攻撃がゲンハに通用する筈もない。
ゲンハはスタンロッドによる攻撃を難なく回避すると、そのままブレードで攻撃。
ブレードを【キュクロプス】の胸部に突き立て、そのまま上に向かって抉るように刃をかち上げる。
胸部から頭部までをブレードで抉り斬られ、一機目の【キュクロプス】は崩れ落ちながら爆散した。
これで、まずは一機。
ゲンハの機動力と反射神経があれば、面倒ではあるがどうにかなる相手と言える。
無論、俺に同じ事をしろと言われても無理がある。
今の攻防はゲンハの人並外れた反射神経あっての代物である為、デフォルト状態の俺では出来る筈もない。
一歩先でその光景を見ていた残り二機の【キュクロプス】に、変かはない。
形こそシュミクラムのそれだが、この【キュクロプス】にパイロットはいない。
これまでのエネミーと同じく、
故に行動は機械的で、プログラムからは滅多に外れない。
仲間がやれてもそれを数字でしか認識出来ず、当然恐れや怒りといった感情もない。
拠点防衛としては悪くはないが、本当の戦闘勘を持つ歴戦の兵であれば対抗手段は幾らでもある。
今の攻防は、その経験の差が如実に表れていると言えるだろう。
『ヒャハハハハハハハハ……ッ!』
ゲンハは同じように光弾の雨を掻い潜り、二機目の【キュクロプス】の下に迫る。
今度は一撃目で両腕を斬り落とし、二撃目を頭部に叩き込む。
そうして切り込んだ後、味方ごとゲンハを撃とうとする三機目の【キュクロプス】が視界に入る。
ゲンハは爆散する二機目の【キュクロプス】を尻目に、三機目の【キュクロプス】に襲い掛かる。
既に充分近付かれていた三機目の【キュクロプス】に逃げ場はなく、足を斬り落とされ姿勢を崩した隙を突かれて頭部にブレードが叩き込まれる。
頭部を抉り抜かれた【キュクロプス】はその場で爆発四散し、三機の敵機体は全滅した。
『ハッ、図体だけのデカブツに負けるわきゃねえだろ。行くぞ、そろそろ上に着くぜ』
『ああ、急ごう。必ず、双葉を助け出すんだ』
俺はゲンハと共にエントランスを後にし、先へ進む。
双葉の囚われている場所は、着実に近づいて来ていた。