※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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悪夢ーnightmareー

 

『ハッ……!!』

 

 有栖はノインから送られたデータを元に、【リヴァイアサン・エコー】相手に時間稼ぎの戦闘を継続していた。

 

 宙を跳び回る有栖を捕らえんと、【リヴァイアサン・エコー】の触腕が振るわれる。

 

 空中でのジグザグ機動を繰り返しながら脚部を振るい、空気の刃を射出。

 

 迫りくる【リヴァイアサン・エコー】の触腕を切断し、追撃を回避。

 

 一端上の階層まで跳び上がり、一時的に休息を取った。

 

『…………取り敢えず、時間稼ぎは出来ているわね。何処まで続けられるかは、正直分からないけれど』

 

 有栖は溜め息を吐き、そう呟いた。

 

 現状、確かに【リヴァイアサン・エコー】の足止めは行えている。

 

 一度たりとも奴の触腕には捕まっていないし、負荷フィールドに触れるようなヘマもしていない。

 

 今(・)の(・)と(・)こ(・)ろ(・)、戦闘に問題は無い。

 

 …………だが、それはあくまでも今(・)の(・)と(・)こ(・)ろ(・)である。

 

 今後【リヴァイアサン・エコー】が新たな攻撃手段を獲得する可能性もあるし、単純に持久戦を仕掛けて来る場合もあるだろう。

 

 持久戦は時間稼ぎが目的である有栖にとっては願ったり叶ったりではあるものの、有栖にも戦闘限界というものは存在する。

 

 心ない機械ではないのだから、どうしたって精(・)神(・)的(・)な(・)戦(・)闘(・)継(・)続(・)限(・)界(・)時(・)間(・)というものはあるのだ。

 

 無論、可能な限り粘る心づもりではある。

 

 しかし、この状況では【リヴァイアサン・エコー】に致命打を与える事は難しい為、ある程度の距離を取りながら散発的に攻撃と回避を繰り返している。

 

 有栖の戦闘勘は、味方の援護が望めない状況で大技を使う為の隙を晒せば、その時点でやられると訴えている。

 

 致命打を与えられない以上、出来る事に限界があるのもまた事実だった。

 

(……だけど、貴方はやると言った。なら、私はその助力をするだけよ。出来れば、早くしてくれると嬉しいのだけどね)

 

 有栖は覚悟を決め直し、その身を【リヴァイアサン・エコー】の待ち受ける階層へと躍らせた。

 

 【兎】は再び縦横無尽に空中を駆け、機動戦を再開した。

 

 

♦

 

 

「…………あそこか……っ!」

 

 俺達は【社長室】と書かれた部屋の前で一瞬立ち止まり、そのまま扉に突入した。

 

 蹴破られた扉が音を立てて床に転がり、俺達はその中に立ち入った。

 

 そして、その光景を、見た。

 

「…………これは……っ!?」

 

 ────それは正しく、生物の腸の中だった。

 

 壁は不気味に蠕動し、床からも奇妙な不協和音が聞こえる。

 

 部屋の中は何処か生暖かく、生理的な不快感が全身を襲う。

 

 何より、その部屋の中央に存在するものが異彩を放っていた。

 

 四方八方から無数のコードが伸び、所狭しと絡まり合っている。

 

 幾重にも折り重なったコードの、その中央。

 

 そこに、双葉はいた。

 

 正確には、双葉を閉じ込めた【操作席】のようなカプセルが。

 

 双葉はそのカプセルの中で、苦悶の表情を浮かべている。

 

 瞼は硬く閉じられているが、額には脂汗が浮いている。

 

 明らかに、尋常な状態ではなかった。

 

「双葉……っ!」

 

 俺は思わず双葉に向かって飛び出しそうになって、気付く。

 

 …………橘玲佳が、いない。

 

 てっきりこの場で待ち構えていると考えていた首魁の姿が、部屋の何処にも見当たらないのだ。

 

『あら、行かないのね。うふふ、感動のご対面じゃなかったのかしら?』

「……その声……っ! そこにいたか、橘玲佳……っ!」

 

 俺の言葉に呼応するかのように、頭上にスクリーンが展開されてその中に橘玲佳の姿が映し出される。

 

 玲佳は変わらず酷薄な笑みを浮かべており、その瞳には有りっ丈の悪意が伺えた。

 

 玲佳は映像越しで嘗め回すように怜二を見ており、その様子には生理的な嫌悪感が沸いて出た。

 

「……双葉は、返して貰うぞ」

『ええ、どうぞ────出来るものなら、ね』

 

 ニィ、と玲佳は歪な笑みを浮かべる。

 

 それと、同時だった。

 

 双葉を閉じ込めたカプセルが不気味な光を発し、それと共に繋がれていたコードがざわめいた。

 

 カプセルに繋がれていたコードは途中で枝輪別れし、無数の触手を形成していく。

 

 10,20,30とどんどん触手の数が追加されていく。

 

 それはまるで、食い物に群がる無数の虫の如しだった。

 

 折り重なった無数の触腕は巨大な腕(・)を形成し、怜二達の行く手を阻んでいる。

 

 それを見て、俺は唇を噛んだ。

 

 やっと手の届く場所に来たというのに、またもや邪魔される。

 

 それはもう、懲り懲りだった。

 

 けれど、現実問題として俺達の行く手には無数の触腕が立ち塞がっている。

 

 心臓部(ふたば)を護りに来た、白血球のような役割のようなものとして。

 

 …………触腕は、一定の挙動を繰り返しながら威圧するように蠢いている。

 

 動けば、仕留める。

 

 そんな意志が、その動きからは感じられた。

 

『うふふ、まさか今更怖気づいたのかしら? 案外ヘタレなのね、ナイト君』

「ふん、それを言うならお前だろう? こそこそ逃げ隠れするなんて、卑怯者らしい立ち回りだな」

『それの何が問題? 悪いけれど、私は自分で斬った張ったをするような野蛮人じゃないのよ。適材適所、そう言って欲しいわね』

 

 俺の挑発にも動じた様子はなく、玲佳は薄っすらと笑みを浮かべた。

 

 このあたりは、戦場に身を置く探索者と企業を束ねていた社長との価値観の違いだろう。

 

 玲佳は後退を恥とは思っていないし、自分が矢面に立たないのも当然だと考えている。

 

 その場での勝ち負けよりも最終的な戦(・)果(・)を見据えて動いている為、局所的な戦闘の是非にさほど興味がないのだ。

 

 …………とは言っても、現在最も重要だと思われるこの場での戦闘に介入しない可能性はないとは思うが。

 

『……う、ああ、うああ……』

 

 カプセルの中で、双葉が苦し気に呻いている。

 

 その表情を見ていた俺は居ても立っても居られず、ゲンハに声をかける。

 

≪おいゲンハ、お前はあそこまで行けるか……?≫

≪誰に物を言ってやがる。行けるに決まってるが、そりゃ意味ねえぞ。あくまで、テメェが辿り着かなきゃな≫

≪……? それは、どういう……≫

 

 直接通話(チャント)でゲンハに話しかけると、彼から予想外の返答が届く。

 

 困惑する俺に対して、ゲンハは呆れた様子で続けた。

 

≪…………あのな、何の為に此処に来たと思ってやがんだ? テメェがあの女に、自分の言葉を届かせる為だろうが。殻に閉じ籠ったあの女の心を開くには、テメェ自身の言葉で口説くしかねえだろうが≫

≪…………あ…………≫

 

 確かに、その通りだった。

 

 周囲の様相に圧倒されて初心を忘れかけていたが、元々俺はこの場所に双葉を説得に来たのだ。

 

 自分の罪を無遠慮に暴かれ、心を閉ざしてしまっている双葉に声をかける為に。

 

 俺はその為に、この場所までやって来た。

 

 確かに、こればかりは俺がやらないと意味がない。

 

 断じて、他人任せにしていい事ではないのだ。

 

≪……悪い。俺が、あいつの所に辿り着く。サポートを頼めるか?≫

≪了解(ヤー)! 最初からそう言えっつーんだよ、タァコ≫

 

 ゲンハは俺の返答にニヤリ、と笑みを浮かべてそう答える。

 

 俺を護るように前に立ち、武器を身構える。

 

 いつでも飛び出せるように姿勢を低くし、身体を沈めた。

 

『さあ、行くぜえ……っ!』

 

 そのまま地を蹴り、跳躍。

 

 ゲンハと俺は、双葉のいる場所目掛けて疾駆を始めた。

 

 

♦

 

 

 ────双葉は、悪夢の中にいた。

 

 脳裏に過るのは、決まってあの日の情景。

 

 自分が両親を、殺した時の映像だ。

 

 ────好き勝手な行動は許さん……っ! 来い、教育のやり直しだ……っ!────

 

 ────全く、手間を取らせないで頂戴……っ! 実験体の分際で……っ!────

 

 父親と母親は凄まじい形相で仮想の地を逃げる自分を追い、捕まえようとしている。

 

 その眼はどう見ても親が子を見るそれではなく、脱走したペットや檻の中の獣を見る眼のそれだった。

 

 そして自分は逃げながら、予め想定していたルートへ両親を誘い込む。

 

 自分が追う側だと、絶対的優位の側だと信じて疑わない両親を、致死の罠にかける為に。

 

 ────がっ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……っ!!??────

 

 ────ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……っ!!??────

 

 …………遂に、両親が罠に────【致死性防壁】に、足を踏み入れた。

 

 設置者の想定通りに起動した【致死性防壁】は足を踏み入れた哀れな獲物の脳髄を焼き切り、両親を名乗っていた二人の人間の命を容赦なく断つ。

 

 標的の死亡を確認すると同時に【致死性防壁】の効果が終了し、二人分の遺体がドサリと地に落ちる。

 

「あ、ああ……」

 

 …………その顔は、凄まじい形相だった。

 

 至る所から血液が流れ出しており、肉の焼けるような不快な匂いが鼻を突く。

 

 眼は出目金のように飛び出しており、氷上は苦悶のそれを描きながら硬直している。

 

 あの日から、一度足りとも忘れた事のない光景。

 

 凄惨な両親の死体が、そこにはあった。

 

 ────ヨクモ、ヨクモ殺シタナ────

 

 ────実験体如キガ、ヨクモ────

 

 幻聴が、聞こえる。

 

 もう言葉を発さない筈の両親の口から、自分を恨む言葉が聞こえて来る。

 

 それは、これまで何度も双葉が見て来た悪夢。

 

 自分を殺した両親に苛まれる、双葉の罪の象徴だった。

 

 …………甘く、見ていたのだ。

 

 人を殺すという事が、どういう事なのかを。

 

 確かに、あのままなら自分は無事では済まなかっただろう。

 

 危険視した通り、父親の手で汚されていたかもしれない。

 

 けれど、それでも殺すのはやり過ぎだったと言わざる負えない。

 

 あの時知り合っていたノインさんを通じて警察に通報するなり、アークに保護を求めるなり幾らでも方法はあった筈だ。

 

 しかし当時の双葉はそれを思い付く事が出来ず、殺(・)す(・)し(・)か(・)な(・)い(・)と考えてしまった。

 

 その結果が、これだ。

 

 自分が犯した罪をまざまざと見せつけられ、夜ごと悪夢に苛まれる。

 

 両親が死んだ当時は、怜二かノインに添い寝して貰わなければまともに寝る事すら出来なかった。

 

 時間が経ち、折り合いを付ける事は出来たと考えていた。

 

 考えていた、のに…………それを、橘玲佳が蒸し返した。

 

 最悪の形で、双葉の罪を暴いたのだ。

 

 故に、今の双葉は自分の殻に閉じ籠っている。

 

 閉じ籠って、延々と自分の罪を見続けている。

 

 ────ごめん、なさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……っ!────

 

 延々と、延々と謝り続ける。

 

 病的に、そうするしかないように。

 

 双葉は、謝り続ける。

 

 ────助けて、怜二────

 

 その真意を、押し殺しながら。

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