BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
『喰らえやぁ!』
先陣を切ったゲンハは卍型の回転刃を射出し、迫りくるコードの触腕を斬り刻む。
ゲンハを狙っていた四つの触腕の内、二つは回転刃によって切断。
残る二つは俺が射出した回転刃により斬り裂き、両断。
触腕の囲いを突破したゲンハは、先へ進む。
『333333333333333333333333333333333!!』
だが、触腕の追撃は終わらない。
何処からともなく反響して来るおぞましい咆哮と共に、切断されたコードが再結合。
再び巨大な触腕と化し、ゲンハと俺に狙いを定める。
俺達を囲い込むように、前方から四つ、背後から四つの触腕が振り下ろされる。
「くっ、仕方ない……っ! ゲンハ、前は頼むっ!」
『ああ、いいぜぇ……っ!』
俺はゲンハに前方の四つの触腕の相手を任せ、反転。
【固有兵装】を起動し、両掌を触腕に向ける。
「凍て付け……っ!」
掌が閉じられると、同時。
俺を狙って振り下ろされた触腕が凍り付き、砕け散る。
パラパラと粉々になった触腕の破片が降り注ぐが、それに構っている暇はない。
「連続稼働、行け……っ!」
俺は同じ要領で次の触腕を凍結、破砕。
そのまま三つ目、四つ目の触腕も冷気によって凍結させ、破砕した。
振り返ればゲンハもまた、前方から迫った四つの触腕を回転刃とブレードの合わせ技で斬り伏せていた。
流石と言わざる負えないが、状況は待ってはくれなかった。
『あぁ?』
「……っ!?」
俺が凍結破砕した触腕と違い、ゲンハの斬り裂いた触腕は形が残っている。
だからだろうか。
周囲から無数のコードが即座に断裂した触腕に絡みつき、再生。
四つの触腕は、瞬く間に元の姿を取り戻した。
『チッ、これじゃあキリがねぇなオイ。斬っただけじゃ駄目とか、クソ面倒だな』
「…………一応、俺の【固有兵装】で凍結破砕したやつは再生はしなさそうだが……」
俺の視線は、双葉が囚われているカプセルの真下に向けられている。
そこでは徐々にではあるが無数のコードが絡まり合い、新たな触腕を形成し始めている。
斬られた触腕を再生する時程のスピードはないが、触腕は時間が経てば再供給は可能なようだ。
俺の【固有兵装】が効果的である事は朗報ではあるが、手放しでは喜べない。
何せ、俺の【固有兵装】は使用に際しライフゲージをリソースとして消費する。
このペースで使っていては、じり貧に陥る可能性が高い。
何せ、此処ではライフゲージの補給手段など無いのだ。
サポートが望めない以上、無計画に使っていてはあっという間にリソースが枯渇してしまう。
ただでさえ、継戦能力に乏しい【固有兵装】なのだ。
攻撃を捌いていたらライフゲージが尽きてやられました、などという展開になっては洒落にならない。
その事を直接通話でゲンハに伝えると、ゲンハは俺の言葉を鼻で笑った。
≪ハッ、なら話は簡単じゃねえか。
≪…………あれか……≫
俺はゲンハが言いたい事を理解し、口ごもった。
ゲンハは確かに俺の身体を乗っ取って【統率個体】と戦った時、【凍結領域】の効果的な使い方を編み出していた。
彼は回転刃に冷気を纏わせ、触れたものを凍らせるという技を使っていた。
…………確かに、理屈の上では可能ではある。
俺の【固有兵装】は冷気を武器に纏わせ、武器に触れた対象を凍結させるという使い方も出来る。
だが、それはあくまで
一度俺から離れた武器に冷気を纏わせる場合、着弾までの距離と座標を正確に計算して冷気を纏わせなければならない。
俺が冷気を精密にコントロール出来るのは手足の延長までであり、一度でも機体から完全に離れた物体の冷気を操るのは難しい。
敵に
そのどちらも、今の俺には望めない。
俺の唯一無二のパートナーは今目の前で囚われているし、俺にはゲンハのような超人的な反射神経は持ち併せていない。
だから無理だ、と口にしようとした時、ゲンハが舌打ちした。
≪おいおい、最初から諦めてんじゃねえよ腰抜け。タマァついてんのか? やらなきゃテメェの女取り戻せねぇんだから、覚悟決めろや≫
≪けど、俺にはお前みたいな反射神経は……≫
ない、と言おうとしたが、ゲンハはそれを遮った。
≪あぁ? 俺がテメェの身体使って
≪……え……?≫
────それは、聞き逃せない言葉だった。
俺の中の、
ゲンハは、確かにそう言った。
そして、俺には……。
…………その、心当たりがあった。
そう、他ならぬ
当然の話だが、死者のデータへアクセスする手法など聞いた事はない。
精々が都市伝説の類であり、そもそも死者の魂というもの自体、ジャビットのあれを見るまでは信じてすらいなかった。
だが、現実問題として過去の時代に生きた人間であるゲンハを俺の脳内に呼び寄せる事が出来てしまっている。
普通に考えて、それは有り得ない事象だ。
普通の脳チップには、そんな機能は備わっていない。
…………そう、
これまでの経緯を鑑みるに、俺の脳チップは恐らく
何か、重大な秘密が隠されている。
それも、とんでもない秘密が。
──■■データ入力対象、検索……該当データ選出──
──個体名『ゲンハ』、詳細情報のインストールを開始します──
────あの時、俺の脳内に響いた声は確かに『ゲンハ』の名前を口にしていた。
そしてそのデータは、
…………恐らく、その
──■脳■製■、限定稼働開始──
この、俺の頭に響いた言葉。
これが恐らく、俺の頭に仕込まれた
所々ノイズが酷くて全ては聞き取れなかったが、俺の中に何かが仕込まれているのは最早確定だ。
そうでなければ、ゲンハの存在に説明がつけられる筈もないからである。
そんな俺の葛藤を、感じ取ったのだろう。
ゲンハは舌打ちしながら、俺に言葉をかけてくる。
≪テメェの中に何があるかまでは、知らねぇよ。けど、そいつの
≪けど、これは……≫
≪悩んでる時間なんぞあるワケねえだろ。さっさと腹ぁ括れや≫
確かに、ゲンハの言う通りである。
俺の中に仕込まれた
けれど、使用を躊躇っていてはいつまで経っても双葉の下に辿り着く事など出来はしない。
(そうだ、俺は────双葉を、救うんだ)
考えてみれば、簡単な事だった。
俺は、何に替えても双葉を救う。
そう、決めたではないか。
ならば、迷う事はない。
全力で、目的を達成するだけだ。
≪ゲンハ、行くぞ≫
≪ハッ、それでいいんだよ。行くぞコラァ!≫
俺は自身の奥深くにアンテナを伸ばし、
記憶の中から、該当するものを検索し、シュミレート。
記録映像を再生し、俺は俺の中のシステムと
────要請、受諾。■脳■製■、限定機能解放────
────対象、インストール人格データ『ゲンハ』の機体操作模倣────
────認識完了。機体制御模倣、開始────
────脳に、情報が差し込まれる。
差し込まれた情報は全身に模倣経験として行き渡り、かつて体験した動きを
全身の感覚が鋭敏になり、意識も先鋭化していく。
準備は、これで整った。
「行け……っ!」
俺は冷気を纏わせた回転刃を四本、射出した。
回転刃は俺の意志に従って四つの触腕に到達し、刃が触腕に触れる。
「今だ……っ!」
俺はその瞬間、刃に纏わせていた冷気を解放。
一瞬にして触腕全体に冷気が行き渡り、傷口から凍結を開始。
ものの数秒で触腕は全て凍結し、破砕。
四本の触腕は、その全てが粉砕された。
『ハッ、上出来だぁ……っ!』
ゲンハは上機嫌で俺を称賛し、回転刃を射出。
自身もブレードを携え、壁面に蠢くコードの群れに斬りかかった。
『eqeZ!eqeeqeeqeeqeeqeeqeeqeeqeeqeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!』
コードの群れの奥から悲鳴じみた咆哮が響き渡り、ゲンハによって傷を負わされた恨みを晴らすかの如く無数のコードが彼に向かって殺到する。
『遅ぇ……っ!』
だが、ゲンハはそれすら問題にしない。
襲い来るコードを次から次へと斬って捨て、獅子奮迅の活躍を見せる。
今この瞬間、
つまり、今こそが千載一遇の好機である。
────いいか、あの女に意識を届かせたけりゃあ直接あれに突っ込みやがれ。そうすりゃ、あの女の監禁場所に辿り着けるからよ────
此処に来る前、ゲンハは俺に直接通話でそう告げた。
ゲンハ曰く、あそこに見えている双葉を閉じ込めたカプセルこそが彼女が囚われている場所への
つまり、あのカプセルの
何故、ゲンハがそれを理解出来たのかは分からない。
しかし、この期に及んで彼が嘘をつく理由もない。
俺はゲンハの言葉を信じ、今その一歩を踏み出す。
「……っ!!」
ゲンハが敵の攻撃を引き付けている隙を突き、跳躍。
慌てたように迫りくるコードをブレードで斬り裂き、カプセルに向かって腕を伸ばす。
そして、双葉を閉じ込めたカプセルに、腕が振れる。
「く……っ!?」
一瞬の浮遊感の後、俺はカプセルの中に
俺の意識はその場から乖離し、水底へと向かって行った。
明日更新なし。明後日更新ありです。