※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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転換ーConversionー

 

 パキン、と硬質な音が響く。

 

 目を向ければ双葉が閉じ込められていたカプセルが粉々に割れており、そこにいた双葉の姿は風に溶けるように消え去った。

 

 同時に何処からともなく地響きが鳴り、崩落の音が聴こえて来る。

 

『ヒャハハハハハハハ! どうやら、やりやがったみてぇだなあ。流石、俺の宿主様ってトコかぁ……っ! ザマァねぇなあ、ババア! テメェの目論見は、これで終わりだぜぇ……っ!』

 

 その光景に怜二が双葉救出を成功させた事を悟ったゲンハは、高笑いをあげて玲佳を嘲弄する。

 

 橘玲佳からしてみれば、折角捕らえた【リヴァイアサン】の核を逃してしまったのだから、これ以上ない痛手である筈だ。

 

『…………そうね。確かにこれで、プランAは使えなくなったわ。でも、私が何の備えもしていないと思った?』

『あぁ?』

 

 負け惜しみか、とゲンハは吐き捨てようとするが、突如目の前に現れたスクリーンに映った玲佳の表情を見て、絶句する。

 

 スクリーンに映った橘玲佳は、笑(・)っ(・)て(・)いたのだ。

 

 それも、何もかも諦めたような諦観の笑みではない。

 

 ────それは、未だ尽きぬ野望を燃やす、狡猾な女狐の眼だった。

 

『貴方が怜二くんの味方になった事で、彼女の洗脳が完了するまでに彼が間に合ってしまう可能性が出て来た。だから、その時点で私は奈津枝双葉を核として【リヴァイアサン・エコー】を動かす計画に修正をかけたのよ。彼女を失っても、計画を続けられるようにね』

『…………テメェ、まさか……っ!』

 

 くすり、と玲佳は笑みを浮かべてゲンハの問いを肯定する。

 

『────ええ、そうよ。奈津枝双葉が本当の意味で必要だったのは、あくまで【リヴァイアサン・エコー】の起動時だ(・)け(・)。そこから先は、彼女がいなくても【リヴァイアサン・エコー】は止まらない。一度起動さえしてしまえば、後はどうとでもなるの』

 

 …………そう、橘玲佳が【リヴァイアサン・エコー】の起動を急いだ理由が、そこにある。

 

 あれは無論、双葉を中枢に取り込む事でいち早く【リヴァイアサン・エコー】を起動させ、彼女の救出を妨害する目的もあった。

 

 だが、その本当の狙いはあくまで【リヴァイアサン・エコー】の起動を完(・)了(・)さ(・)せ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)事(・)だった。

 

 【リヴァイアサン・エコー】はその起動にはどうしても、かつて調整した鍵(・)を仕込んだ双葉を一度取り込み目覚めを促す必要があった。

 

 …………しかし、本当の意味で双葉が必要だったのはそこまで。

 

 そこから先は、双葉がいなくても問題がないように橘玲佳は計画を練り直していたのである。

 

 いや、正確には予(・)備(・)と(・)し(・)て(・)温(・)め(・)て(・)い(・)た(・)プ(・)ラ(・)ン(・)に(・)切(・)り(・)替(・)え(・)た(・)とでも言おうか。

 

 見誤っていた、としか言いようがない。

 

 この女の、野望へ向ける執念を。

 

『へっ、けどまあそれがどうしたってんだ』

『…………なんですって…………?』

 

 けれど、ゲンハの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

 

 その様子を怪訝に思った玲佳は首を傾げるが、ゲンハはそんな玲佳を正面から睨みつけた。

 

『あいつの目的自体は、これで達成されたんだ。後は、テメェをぶち殺すだけなんだからよ。テメェを生かしておく気は、これっぽっちもねえんだからな』

 

 それによ、とゲンハは続ける。

 

『今回の事で、あいつ等もテメェの事はほとほと恨んでるだろうからな。精々、首を洗って待ってるこった。これまでの恨みつらみ、全部晴らしに行ってやっからよ』

『…………減らず口を……っ! これより私は、この【リヴァイアサン・エコー】の頭脳体となる……っ! 意の侭にこの怪物を操る私に、勝てると思っているのかしら?』

 

 ゲンハの挑発に玲佳は口調を荒げ、恐ろし気な形相で睨みつける。

 

 だがゲンハはそれに全く怯む事なく、鼻で笑って見せた。

 

『────勝てるさ。テメェはあの時も、そうやってふんぞり返っていて透達に負けたんだからな』

『…………な…………』

 

 意表を突かれたように、玲佳は思わず絶句する。

 

 そんな玲佳を見てゲンハは嘲笑し、馬鹿にするような笑いを漏らした。

 

『テメェは何もかも自分の思い通りになると考えて動いてたんだろうが、透が憐を解放出来るとは欠片も思っちゃいなかったろ。だから【リヴァイアサン】が倒された時に脱出の準備も碌にしてなかった所為で、そのままくたばったんだよ。自業自得たぁこの事だよなあ』

『貴様……っ!』

 

 痛い所を突かれたのか、玲佳の顔に激情が宿る。

 

 玲佳の怒りようを鼻で笑い、ゲンハもまた空気に溶けるように消えていく。

 

『────見てな、橘玲佳。今度はあいつ等が、テメェの薄汚い野望を止める所をなぁ』

 

 ────その言葉を最後に、ゲンハの姿はかき消えた。

 

 スクリーンの向こう側にいる玲佳は怒りを露わに拳を握り締め、ギリィ、と唇を噛んだ。

 

『…………負け惜しみはどっちよ…………っ! いいわ、そっちこそ見てなさい……っ! 【リヴァイアサン・エコー】が、この私が、この世界を席巻する所をね……っ!』

 

 玲佳の身体に無数のチューブが接続され、その身体が燐光に包まれる。

 

 名実ともに怪物の頭脳となった女怪は、その妄執を滾らせこの世界に牙を剥く。

 

 崩壊へのカウントダウンが、始まった。

 

 

♦

 

 

「…………此処は…………?」

 

 気付けば俺は、白い空間に出ていた。

 

 白く、白く、何処までも白い。

 

 地平線まで続くその白は、一種病的な清潔感を醸し出していた。

 

 気付けば視線の向こう側に巨大な鋼のオブジェクトが存在しており、その威容に目を見張る。

 

 何(・)か(・)を閉じ込めているかのような金属の筒のようなそのオブジェクトは威容な存在感を持っており、筒を支えるパーツは何処か昆虫の脚じみていてまるで生き物のようなイメージを受けた。

 

 そのオブジェクトがどうにも気になった俺は、無意識の内にそれに近付こうとしていた。

 

「待てよ。迂闊にそいつに近寄るんじゃねえ」

「……え……?」

 

 そんな俺の肩に手が置かれ、制止の声がかけられる。

 

 振り向けばそこには、厳しい目で俺を睨むゲンハの姿があった。

 

「ゲンハ……」

「────折角あの女を助けたっつーのに、こんなトコで馬鹿な真似してんじゃねえよ。テメェが行くのはあっちだあっち、間違えんな」

 

 ゲンハが強引に後ろを向かせると、その先には光る入口のようなものが見える。

 

 理屈ではなく、感覚で分かる。

 

 あの光の先にこそ、俺が戻るべき場所があるのだと。

 

 それを理解出来た事を察したのか、ゲンハはぐいっ、と俺を前に押し出した。

 

「分かったらさっさと行きな、ボケナス。あのババアは、まだくたばっちゃいねえ。引導を渡すのは、テメェの役目だろうが」

「…………ああ、でも、此処は一体……」

「テメェの心ん中だよ、気付けバカ。あ(・)れ(・)は、最初からテメェの中に仕込まれていた何(・)か(・)だ。詳しい事は知らねぇけど、ヤベェモンだってのは見て分かっだろ」

 

 …………あのオブジェクトが、俺の中に仕込まれていた何(・)か(・)。

 

 あんなものが自分の中にあったという事自体、薄ら寒いものを感じてしまう。

 

 自分は、一体何なのか。

 

 それは、今まで俺が求め続けていたものでもある。

 

 昔の俺なら、形振り構わずあのオブジェクトに向かっていたのかもしれない。

 

「…………ああ、そうだな」

 

 …………今の俺には、欠け替えのないものがある。

 

 もう二度と無くしたくない、大切な温もりがある。

 

 その為なら、これまで抱えて来たものを捨てる事も躊躇いはない。

 

 確かに、自分のルーツを探る事は俺にとって至上命題だった。

 

 その為に【遺跡】に潜っていたと言っても、過言ではない。

 

 けれどそれは、双葉を、今の世界を蔑ろにしていいものでは断じてない。

 

 あの女は、橘玲佳は放って置けば所構わず災厄を撒き散らす病原菌だ。

 

 更に言えば、今はあの怪物────【リヴァイアサン・エコー】を手中に収めている。

 

 放置すれば碌でもない事になるのは、まず間違いない。

 

 故に、今は真実から目を背けよう。

 

 もう俺は、真実より大切なものが出来てしまった。

 

 少なくともこの世界(今)の俺は、真実よりも自分の世界を護る事の方が大事だ。

 

 ならばもう、迷う事はない。

 

 俺は光の中へ向かって、歩を進めた。

 

「…………ゲンハ、ありがとう。お前のお陰で、此処まで来れた。この後も、手伝ってくれるか?」

「ああ、さっきみてぇに直接はもう無理だが、俺の力を貸してやるよ。勿論、主導権はテメェにやる。だから、さっさと行きやがれ。早くしねぇと、テメェの頭ん中に大音量でモーニングコール鳴らしてやっからな」

「…………そりゃ、ごめんだな」

 

 ゲンハの軽口に俺は苦笑しながら、一歩一歩、光の中へ歩を進める。

 

 段々と身体の感覚が鋭敏になり、浮遊感を帯びて来る。

 

「────じゃあ行くか、相棒。あのクソ女を、一緒にぶん殴ってやろうぜ」

「ハッ、いいねぇ……っ! ふんぞり返ってやがるあのババアに、目にもの見せてやろうじゃねぇか……っ!」

 

 そして俺は、光の中に消えていく。

 

 一瞬の浮遊感の後、俺の意識はあるべき世界へ浮上して行った。

 

 

♦

 

 

『あの怪物から、双葉の脳波パターンが消えた……っ! 作戦は成功、もうすぐ二人も戻って来るわ……っ!』

『…………そう。やったのね、怜二』

 

 【V.S.S】地下区画で【リヴァイアサン・エコー】の足止めに徹していた有栖は、ノインからの報告を受け笑みを浮かべた。

 

 【リヴァイアサン・エコー】はノインの報告を裏付けるように、先程とは打って変わって沈黙している。

 

 頭脳体である双葉を失った以上、もうあの怪物は置物に過ぎない。

 

 ならば大技で仕留められるか、と有栖が次の行動に出ようとした時────それは、起こった。

 

────3fffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffffff……Z!!────

 

 ────【リヴァイアサン・エコー】から、おぞましい咆哮が響く。

 

 それは、先程までの何処か物哀し気なものではない。

 

 悪意がそのまま凝縮されたような、人の醜さをそのまま音に変換したような暗く淀んだ咆哮だった。

 

 何かが、起きた。

 

 それを確信した有栖は、感知装置(センサー)を駆使して現状把握を行った。

 

『……あれは……っ!?』

 

 異変は、すぐに見つかった。

 

 それまで無秩序に荒れ狂っていた、怪物の白い触腕。

 

 それが徐々に形を変え、別の姿を取ろうとしている。

 

 それだけではない。

 

 怪物の本体そのものもまた、変貌を始めていた。

 

 生物的な印象の強かったそれまでとは裏腹に、表面は鎧のような光沢を帯び始め、球体の各所に刻まれた溝からは機械的な駆動音が聴こえ始めた。

 

 触腕は無数のコードに覆われて行き、白く不気味な触腕は無数のコードで覆われた機械の龍へと姿を変えた。

 

 球体の上部には角のようなパーツが突き出ており、その様相はまるで多頭龍の如きものに変じていた。

 

 中央のカメラアイの奥には人型のシルエットが垣間見え、それこそが怪物を操る元凶であると有栖は確信する。

 

────x3、fd@/jd)4! bkptef、0qdkmkiu.k9!! 3ffffffffffffffffffffff……Z!!────

 

 怪物の咆哮が、轟く。

 

 今此処に、【リヴァイアサン・エコー】は醜悪な亡霊を核として、蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

          Chapter4/冥府ーFear of Hadesー──終──





 次回より、最終章開始です。

 ラストまでもうすぐなので、もうしばしお付き合い願います。
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