※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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Chapter final/破局災害発生地点Ⅰ-battle of hazard point-
集結ーGatheringー


 

『────【破局災害発生地点(ハザード・ポイント)】が、完全に表出しましたか……』

 

 水晶に囲まれた幻想的なその部屋で、一人の女性が物憂げな溜め息を漏らした。

 

 正確には、女(・)性(・)の(・)姿(・)を(・)し(・)た(・)映(・)像(・)だろうか。

 

 その女性の姿は立体映像のようであり、実体はない。

 

 しかし、ただの映像として見るには、その女性の眼には明確な意志の光が宿っていた。

 

 その眼は何処か遠くを見据え、瞳の奥には決意が満ちていた。

 

『一度【破局災害発生地点】が表出してしまった以上、この世界(ルート)の結末はそれに沿うもので固定される。破滅であれ、救済であれ、私の目指すものには届かない……』

 

 けれど、と女性は前を向く。

 

『この街を預かっている以上、たとえ仮初で終わる世界であっても見過ごすワケにはいきません。この世界(こんかい)は、この【破局災害発生地点】の駆除に全力を注ぎましょう』

 

 そして女性は通信画面を開き、画面の向こうに八木澤の姿が現れる。

 

『八木澤さん、彼(・)女(・)の抑えはもう結構です。【破局災害発生地点】の駆除に向かって下さい』

『了解(ヤー)。まったく、人遣いが荒いねえ…………ま、でも取り返しのつかねえ事になるのはごめんだしな。行って来るよ』

『ええ、お任せします。都市の戦力も、貴方の裁量で動かして結構です』

 

 八木澤は女性の言葉にもう一度「了解(ヤー)」と答えると、通信画面を閉じた。

 

 そして女性は別のスクリーンを展開し、そこに映し出された脅威────【リヴァイアサン・エコー】の姿を捉えた。

 

『────橘玲佳。貴方の目論見通りには、決してさせません。この世界も、次(・)も、貴方の干渉は許しません。この世界の全力を以て、貴方を迎え撃ちましょう』

 

 水晶宮の中、女性は硬い決意で拳を握り締めた。

 

 舞台が、世界が、動く。

 

 

♦

 

 

「く……俺は……」

 

 俺は頭に残る鈍痛と共に、目を覚ました。

 

 気が付けば、そこは見覚えのある場所。

 

 【リヴァイアサン・エコー】の存在する、一つ上の階だった。

 

『戻って来たのね、怜二』

「有栖……」

 

 声の方を振り向けば、そこには有栖の機体────【ヴォーパル・ラビット】が佇んでいた。

 

 すぐさま表情画面が開き、有栖の端正な顔が映し出される。

 

『お帰り、無事で何よりよ。どうやら、双葉も連れ帰る事が出来たみたいだしね』

『────ええ、お陰様でね。一応礼は言っておくわ、有栖』

「双葉……」

 

 続いて、表情画面が開いて双葉の姿も映し出された。

 

 どうやら無事、双葉も実体に戻れたようである。

 

『…………再会を喜びたいのだけど、そうも言ってられないのよ。下を見て頂戴』

「下……? あれは……っ!?」

 

 有栖の言葉通り、俺は眼下を見据えた。

 

 そして、その光景に絶句する。

 

「……なんだよ、あれは……」

 

 ────そこにいたのは、前とは似ても似つかない【リヴァイアサン】の姿だった。

 

 生物的な印象を受けた以前のそれとは違い、球体は光沢を帯び触腕も無数のコードが絡まって機械の龍頭と化していた。

 

 カメラアイも生物的な眼球から機械的なモノアイに切り替わっており、紅い光が絶え間なく発光している。

 

 そして何より、怪物は緑の海から浮上しようとしていた。

 

 その速度は、そう速くはない。

 

 しかし、【リヴァイアサン】の巨体がゆっくりと、しかし確実に高度を上げている。

 

 あそこから出ようとしている事は、明らかだった。

 

「まさかあいつ、上に出るつもりか……っ!? それに、双葉は助け出したのに何でまだ動いてるんだ……っ!?」

 

 そう、まずそれがおかしい。

 

 【リヴァイアサン】の復活には、双葉が必要不可欠。

 

 そういう、話ではなかったのか。

 

 ────テメェの女が必要だったのは、あくまで起(・)動(・)の部分だけだったのさ。あの女の底意地の悪さを、俺様も甘く見ていたって事よ────

 

「ゲンハ……っ!? それは、どういう……?」

 

 ────言った通りだ。それより、いいのかよ? テメェの女共、テメェを変な眼で見てるぜ?────

 

「あ……」

 

 そう、先程までは普通に会話していたので感覚が麻痺していたが、ゲンハの声は俺にしか聞こえない。

 

 傍から見れば、大声で独り言を言っているだけに見えてしまうのだ。

 

 案の定、表情画面に映る有栖と双葉は怪訝な表情を浮かべている。

 

『…………怜二、あの中で頭でも弄られた?』

『それか、欲求不満が溜まって幻覚が見えているとか? 双葉さんがいない間、碌に発散してないんでしょう? 折角だから、私が付き合ってあげましょうか?』

『しれっと何言ってんのよアンタはぁ……っ!?』

 

 有栖の爆弾発言に双葉が過剰反応し、画面の中で姦しい口喧嘩が巻き起こる。

 

 傍から見る分には楽し気だが、当事者が自分であるだけにこのまま黙って見ているワケにはいかなかった。

 

『二人共、ちょっと聞いて欲しいんだが……』

 

 …………俺はしばし迷った末、ゲンハの事を正直に話す事にした。

 

 最初は信じていなかった双葉達も、俺の脳内チップのログに残ったゲンハとの会話を見せると一転して険しい顔を見せた。

 

 それはそうだろう。

 

 二人からしてみれば、ゲンハは俺の身体を乗っ取ろうとする元凶なのだ。

 

 口でどう説明しようが、信用出来ないという気持ちも分かる。

 

 だが、俺としてはゲンハを信じて貰わない事には話が始まらない。

 

 現在はゲンハに身体を乗っ取る気は全くない事、【リヴァイアサン】の中でゲンハに助けて貰った事を根絶丁寧に説明する事で、二人は渋々納得した。

 

 納得したと言うよりも、問題を考えないようにした、と言う方が正しいのだが。

 

 ともあれ、これで二人もゲンハの存在を認知した。

 

 今後はゲンハの持つ情報も、効率的に運用出来るだろう。

 

『…………言っておくけど、怜二に何かしたら容赦しないから。もし変な真似をしたらアンタを脳チップの中から引きずり出して、特性の精神拷問空間に放り込んでやるから』

 

『ケケッ、怖ぇ怖ぇ。安心しろって嬢ちゃん。俺の相棒を裏切るなんてこたぁしねぇからよ』

 

 双葉の脅迫に、ゲンハは軽い口調で答える。

 

 その声は俺だけではなく、その場の全員に届いている。

 

 実は双葉が俺の脳チップからゲンハが通信している事を知り、あっという間にゲンハと会話する為のプログラムを作製してしまったのだ。

 

 その間、僅か一分。

 

 それだけの時間で【声】だけの存在だったゲンハとの相互通信を可能とするプログラムを組み上げてしまうあたり、矢張り双葉の技術力は尋常ではない。

 

 傍で見ていた有栖や通信越しに見ていたノインさんも、改めてその手際を目撃して唖然としていたものだ。

 

 とうの双葉は片手間にやった、程度の感覚であり、相変わらず自分の桁外れの技術を出(・)来(・)て(・)当(・)然(・)のものとして当たり前のように行使している。

 

 何処までも心強い、俺の自慢のパートナーである。

 

『それで? あのクソ女の目的に何か見当はついてるワケ?』

『見当っつーか、あのババアのやりそうな事は分かるぜ。あの女は、生前洗脳技術を使って世界を効率運用、まあ要は世(・)界(・)征(・)服(・)だな。そんなモンを狙ってた。あの性根がそう簡単に変わるとは思えねーから、似たような事を企んでんだろうぜ』

『世界征服、ね。陳腐なカトゥーンみたいな目的だわ』

 

 確かに、【世界征服】というのはヒーローものの創作物の敵がよく掲げる目的だ。

 

 その単語だけを聴くと、どうにも陳腐なものに思えてならない。

 

 橘玲佳は、【V.S.S】という企業の社長という立場にあった。

 

 ならば、人を束ねる事の難しさは人一倍知っている筈だが……。

 

『あの女はな、妙な選民思想を持ってんだよ。世(・)の(・)中(・)で(・)真(・)面(・)目(・)な(・)の(・)は(・)自(・)分(・)だ(・)け(・)だ(・)。(・)自(・)分(・)が(・)怠(・)け(・)続(・)け(・)る(・)他(・)の(・)人(・)間(・)達(・)を(・)統(・)制(・)す(・)る(・)の(・)が(・)正(・)し(・)い(・)社(・)会(・)の(・)在(・)り(・)方(・)だ(・)、みてぇな感じでよ』

『…………何それ、仕切りたがりの委員長が増長したみたいな考え方ね』

『それをマジでやろうとしてんのが、あのババアって事だよ。洗脳技術を作るような奴が、まともな精神してるワケねぇだろうが』

 

 要は、自分以外の人間を怠(・)け(・)者(・)と決めつけ、自分の思い通りに他の人間達を支配するのが正しい、と思い込んでいるワケだ。

 

 それは、真っ当な人間の思考ではない。

 

 道を外れた、狂人の考え方である。

 

『もっとも、当時は自分の会社が作ったブラックボックス付きの脳チップをばら撒く事で一気に洗脳人数を広めるつもりだったようだが、昔と違って脳チップを幼少期に埋め込んで脳と同化させてる今の時代じゃその方法は通用しねえ。昔と今じゃ、技術も情勢も違うんだからよ』

 

 確かに、現在脳チップはアーク社が一括管理し、乳幼児の出生時に無料に近い価格で提供している。

 

 そこからシェアを奪うとなると、現実的ではない。

 

 昔と違って、今は【V.S.S】という会社は残骸でしかないのだ。

 

 人々が、そんな会社の作った脳チップを受け入れるワケがないだろう。

 

『けど、一つだけ確かな事は…………あのババアは、復活させた【リヴァイアサン】────【リヴァイアサン・エコー】だったか。あれを使って、何かをするつもりだ。あそこから出ようとしている以上、どっか目的地があるんだろうが……』

 

 ゲンハの言葉に、眼下の【リヴァイアサン・エコー】を見据える。

 

 【リヴァイアサン・エコー】はその全容を緑の海から晒しており、更に上昇を続けている。

 

 何処か別の場所へ向かうつもりなのは、明らかだ。

 

『ともあれ、此処に留まっていたらあの怪物にやられるだけよ。一端上に上がりましょう。必要なら、【ミョルニル】にも連絡を取った方がいいわ』

「そうだな。一端地上に出て、態勢を立て直そう」

 

 俺は有栖の言葉に同意し、機体を反転させて地上階を目指して疾駆した。

 

 

♦

 

 

「……地上に出たか」

 

 俺達は地上に到着すると、地下区画へスキャンを走らせた。

 

 【リヴァイアサン・エコー】は既に先程まで俺達のいた階層に到達しており、ゆっくりと階層間の壁を破壊しながら上昇を続けている。

 

 このままでは、地上に出て来るのも時間の問題だろう。

 

『じゃあ、早速【ミョルニル】に連絡を取りましょう。こうなった以上、私達だけで手に負える問題じゃないわ』

『────生憎だが、その必要はねえよ。もう、来てるからな』

 

 ────不意に、聞き覚えのある力強い声が聞こえた。

 

 視線を向ければ、そこには無骨な姿のシュミクラム────八木澤の機体、【アーサソール】が鎮座していた。

 

「八木澤隊長……っ!?」

『今までお前等だけに全部任せちまって悪かったな。仕(・)事(・)が一区切りついたんで、こっちに駆け付けて来たってワケだ』

 

 表情画面を開いた八木澤は不敵な、それでいて頼もしいと思える笑みを浮かべた。

 

『今から、俺の指揮下に入って貰うぜ。一緒に、あの怪物をぶっ倒そうや』

 

 此処に、現探索者最強の男、八木澤玄治が参戦を果たした。

 

 電子の怪物(リヴァイアサン)へ挑む勇士が、揃う。

 

 戦いの火蓋は、切って落とされようとしていた。





 最終章、開始です。
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