BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
「回線経由の干渉は、排除されたか…………けどまあいいわ。それなら直接行って、【バルドル】を手に入れるだけだもの」
【リヴァイアサン・エコー】の中枢にて、無数のコードに接続され怪物の頭脳体と化した玲佳は暗闇の中で不敵な笑みを浮かべる。
手足は既にコードと一体化しており、眼球も不自然な程に赤く染まっている。
顔には罅割れのような文様が刻まれており、その形相は正しく魔女のようですらあった。
「上で有象無象が待ち構えてるみたいだけど、知った事ではないわ。この【リヴァイアサン・エコー】の力さえあれば、たとえ雑魚がどれだけ群れても関係ない。全て、喰らい尽くしてあげる」
怪物の眼を通して外の様子を凝視する玲佳の唇が、裂けたように吊り上がる。
目の前に迫る破壊を夢想し、知らず昂揚している。
破壊をこそ尊び、暴虐の空想に染まる。
その有り様は、怪物そのものと言えた。
「さあ、始めましょう。これは私が世界を統べる為の、前夜祭よ。目一杯、盛り付けてあげるわ。【
獲物を求め、破壊を求め。
破滅の化身が、来る。
地上では、八木澤の指示の下部隊の配置が完了していた。
【リヴァイアサン・エコー】の出現予測地点の周辺には【ミョルニル】の部隊が展開され、それを囲むように【都市自警軍】の部隊が展開している。
俺達は【ミョルニル】の部隊の一角に布陣し、怪物の到来を待ち構えていた。
『……っ! 来るわ……っ!』
『総員警戒、奴さんが出て来るぞ……っ!』
一秒、二秒、三秒…………不気味な沈黙の果てに、
ピシリ、と何かが罅割れる音が聴こえた。
その音はやがて各所で大きくなっていき、広範囲の地面が罅割れ崩落していく。
────3fffffffffffffffffffffffffffffffZfffffffffffZfffff……Z!!────
────咆哮と共に、それは姿を現わした。
罅割れた地面からは無数の龍頭が出現し、雄叫びをあげるようにその凶悪な顎を露わにする。
続いて陥没した地面の中から角のようなパーツの生えた巨大な球体が姿を現わし、紅いカメラアイが光り輝いている。
亡者の呻き声のような不気味な駆動音が鳴り響き、目覚めし怪物は遂に地上にその姿を現わした。
『…………これが、【リヴァイアサン・エコー】…………かつて存在した、電子の怪物の成れの果てか……っ!』
『こいつぁ、直に見ると想像以上だな……っ! 各自、絶対に近付くな……っ! 必ず距離を保って攻撃しろ……っ!』
『『『
通信越しに、ホークスと八木澤隊長の息を呑む声が聞こえる。
無理もない。
自分達でさえ、この怪物を目にした時は言葉を失ったのだ。
むしろ、我を忘れずに指示を飛ばしたあたり経験の違いがよく分かる。
『総員、一斉射撃……っ!』
ホークスの号令によって、【ミョルニル】の部隊が一斉に【リヴァイアサン・エコー】に対し攻撃を開始する。
八木澤の指示を守り、距離を取っての重火器による攻撃だ。
【リヴァイアサン・エコー】は避ける素振りもなく、次々と弾丸が着弾していく。
『効いていない、だと……っ!?』
『なんだ、あの装甲は……っ!?』
各所から、悲鳴のような呟きが漏れる。
ライフルやマシンガンによる銃撃は全て【リヴァイアサン・エコー】の装甲に弾かれ、ミサイルが着弾しても本体には傷一つない。
【ミョルニル】の部隊の総攻撃を受けても、【リヴァイアサン・エコー】の巨体は変わらず存在していた。
『まさかあれは……っ!? 八木澤さん、敵は機体表面に負荷フィールドを張ってるわ……っ! 生半可な射撃は、装甲に辿り着きすらしないわよ……っ!』
『ちぃ、そういう事かよ……っ!』
その様子を見た有栖の言葉に、八木澤ははっとなった様子で舌打ちした。
有栖の話によれば、【リヴァイアサン・エコー】は彼女との戦いの最中、負荷フィールドを展開する事で彼女の動きを鈍らせていた。
その時は多少身体が重くなる程度で済んだらしいが、この様子からするとそれだけではないのだろう。
『…………有栖の言う通りね。あの怪物の表面に、極薄の負荷フィールドが展開されてる。負荷を薄い板のように凝縮して張り巡らせる事で、弾丸や爆発から身を護っているんだわ。通常兵装じゃ効果は殆ど見込めないし、直接触れてもしたらシュミクラムが吹き飛ぶわよ』
「く、厄介な……っ!」
要は、広範囲に展開していた負荷フィールドを凝縮し、堅硬なシールドを形成しているらしい。
いわば、物理的な防御能力を備えた【致死性防壁】のようなものだろう。
遠距離攻撃は無効化される上に、直接飛び込めばそれだけで終わり。
このままでは、破壊どころか攻撃を届かせる事も出来ないだろう。
「対策は、何かないか……っ!?」
藁にも縋る想いで双葉に尋ねると、双葉は八木澤隊長に通信を繋いだ。
『そうね────八木澤隊長……っ! 【バルドル】がハッキングをされた時の
『…………ああ、そういった情報も俺の判断で使っていい事になってる。すぐ送るぞ』
『助かります……っ!』
【バルドル・デブリ】に関する情報は、些細な事でも重要な機密事項だ。
普通であればそう簡単に持ち出す事は出来ない筈だが、どうやら
実働部隊の総隊長にそんな機密情報の公開権限を与えているところから見ても、その本気さが伺える。
それだけ、今回の事態に緊急性が認められたという事なのだろう。
失敗すれば世界そのものがあの橘玲佳に乗っ取られ兼ねない事を考えると、あながち間違ってもいない。
『今から【バルドル・デブリ】に遺されたハッキングの
『構わん、やってくれ。必要な事なんだろう?』
八木澤の問いに双葉はええ、と答える。
『今は少しでも、あいつの処理能力に負担をかける必要があるわ……っ! だからなるべく各所に散って、全方位から絶え間ない攻撃を続けて欲しいの……っ! 根競べになるけれど、私の横槍だけじゃ到底怪物の演算能力を削り切れないからね……っ!』
『OKだ。よし、攻撃再開……っ! 距離を保ちつつ、攻撃を行い続けろ……っ! 奴さんに休む暇を与えるな……っ!』
『『『
八木澤の号令で、再び【ミョルニル】の部隊が一斉射撃を再開する。
当然の事ながら、射撃は負荷フィールドに阻まれて【リヴァイアサン・エコー】には傷一つつかない。
それでも攻撃の手を緩めるワケにはいかず、【ミョルニル】の部隊は攻撃を行い続ける。
『……っ! 触腕に熱源反応、
『……っ! 全員散開……っ!』
龍頭を模した触腕の顎が開き、その中に禍々しい光が収束していく。
八木澤の指示で部隊が散った直後、それは放たれた。
────d@'juk966666666666666666666666666666666666666666666666666……Z!!────
龍頭から夥しいエネルギーを収束させた砲撃が放たれ、漆黒の光が射線の先を焼き払う。
巻き込まれた部隊のシュミクラムを消し飛ばしながら、黒い極光は周囲の地形を無数の命と共に抉り取った。
黒い光が嘗め尽くした地表は真っ黒に炭化しており、未だに高熱を帯びている。
攻撃の凄まじさを、ありありと見せつけていた。
『あれだけデカイ上に射程持ちとか、そんなのありかよ。まったく、頭が痛いな』
砲撃の威力を直で見た八木澤隊長は、深い溜め息をついた。
今の攻撃で、少なくない数の部隊の人間がやられている。
責任を感じているだろうに。八木澤は、表向き動揺した様子は見せていない。
戦場での指揮官としての役割を、全うしようとしている。
それこそが、散った仲間への弔いになると信じて。
『オペレーター、今の攻撃情報をデータ化して全部隊で共有しろ。次に同じ反応が出たら、速退避だ。絶対あの龍の頭の真ん前に立つんじゃねえぞ』
『『『
八木澤はすぐさま部隊に指示を出し、俺達に向けて通信を繋げた。
『お前さん達は、とにかく回避に専念しろ。防御に綻びが見えた時、攻撃を叩き込むのがお前等の役目だ。酷な事を言うが、
「…………それは、部隊の人達がどれだけやられても、ですか……?」
ああ、と八木澤は俺の問いを肯定する。
『そうだ。重要なのは、あのデカブツの排除だ。言い換えれば、他の事に構っている暇はねぇんだ。指揮下に入った以上、ちゃんと従って貰うぜ』
「…………
俺は気乗りしないまま、八木澤の命令を受諾した。
しかし、当然と言えば当然だ。
あの怪物を止めなければ、大変な事になる。
だから、八木澤は部下を率いて此処に来た。
部下にどれだけの犠牲が出るか、覚悟した上で。
自分の部下を使い潰す選択を、どうとも思っていない筈がない。
幾ら理屈の上では正しいとはいえ、人間は理屈だけでは生きていけない。
飄々としつつも仲間を大事にする八木澤なだけに、その葛藤は俺が理解していいようなものではない。
俺が出来るのは、耐えて、先へ繋げる事。
八木澤隊長が作るチャンスを、逃さない事だけだ。
『この……っ!』
『うらあああああああああ……っ!』
各所で、【ミョルニル】の隊員達の怒声が聞こえる。
彼等は八木澤の指示の下、効かない事を承知で【リヴァイアサン・エコー】に銃撃をし続けている。
幾ら撃っても攻撃を効かない相手に攻撃を続けるのは、心理的にも相当な負担である。
いわば、終わりのないマラソンのようなものである。
何処までやればいいか分からない以上、内容としては大差ない。
そして当然、【リヴァイアサン・エコー】もただやられるだけではなかった。
『砲撃警戒』
『来るぞ、散れ……っ!』
通信越しに機械音声が鳴り響き、龍頭から一斉に砲撃が放たれる。
無数の光条が大地を焼き払い、数体のシュミクラムを消し飛ばしていく。
味方の反応が幾つもロストし、更に犠牲者が増える。
それを、先程から何度も繰り返している。
単純に、砲撃の範囲が広過ぎるのだ。
砲撃は全ての龍頭から一斉に発射され、様々な角度から地表を焼き払う。
その多角度的な砲撃に、【ミョルニル】は着実に数を削られていった。
(く、俺は…………俺は……っ!)
その光景を、俺は見ている事しか出来ない。
味方が何人も消えていく中、俺だけは自分の身を守り続けている。
命令とはいえ、これは理屈で処理出来る問題ではない。
自分の為に今も尚命が散り続けているのだとしたら、彼等の死には俺にも責任がある。
だから、なんとしてでも果たさなければならない。
このチャンスを、ものにする事を。
『……っ! 防御に穴が空いたわ、今よ……っ!』
待ち望んでいた双葉の号令に、俺は彼女がマーキングした箇所に掌を向ける。
同様に有栖も大きく跳躍し、空気の刃を射出。
刃が、千載一遇の好機に叩き込まれた。