※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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覚悟ーreadinessー

 

「やったか……っ!?」

 

 俺の【固有兵装】と、有栖の空気刃。

 

 その二つが、負荷フィールドを突き破って【リヴァイアサン・エコー】に叩き込まれた。

 

 【俺の機体(ヴァナルガンド)】の冷気が装甲を凍り付かせ、有栖の斬撃が凍らせた箇所を斬り裂く。

 

 俺達の刃は、届いた。

 

「な……っ!?」

 

 ────だが、それも無駄に終わる。

 

 確かに、【リヴァイアサン・エコー】の装甲は斬り裂かれ、ダメージも与えた。

 

 しかしその損傷箇所は、怪物の内側から湧き出て来た無数の白い腕によって埋め尽くされ、元の形を取り戻した。

 

 折角与えたダメージは、一瞬で無に帰してしまった。

 

『…………私の【絶対切断】で攻撃したのに、再生した。てことは、再(・)生(・)じゃなく厳密には増(・)築(・)って事か。厄介な……っ!』

 

 有栖もその光景を見て、唇を噛んだ。

 

 彼女の【固有兵装】は切(・)断(・)状(・)態(・)を(・)デ(・)フ(・)ォ(・)ル(・)ト(・)の(・)デ(・)ー(・)タ(・)と(・)し(・)て(・)上(・)書(・)き(・)す(・)る(・)為、元(・)に(・)戻(・)す(・)方法では再生は叶わない。

 

 なのに再生が出来たという事は、あれは文字通り別の場所からリソースを引っ張って来て損傷箇所を埋め合わせた、という事になる。

 

 頼みの綱だった有栖の攻撃でも無為に終わるのであれば、事実上手詰まりだ。

 

 今の一撃も、多大な犠牲を支払った末の攻撃だった。

 

 それが水泡に帰したとなれば、それこそどうすればいいか分からない。

 

「…………駄目、なのか……? あの怪物に、蹂躙されるのを黙って見ているしかないのか……?」

 

 絶望は、攻撃で被害を受けた時よりも攻撃が意味を為さなかった今の方がより大きい。

 

 倒(・)す(・)事(・)が(・)出(・)来(・)な(・)い(・)となれば、【リヴァイアサン・エコー】を止める手段はない。

 

 諦観の絶望が、思考を曇らせていく。

 

 手足から、力が抜けていく。

 

 もう、どうする事も出来ない。

 

 その無力感が、全身を支配していく。

 

 それは共に戦う【ミョルニル】の人々も同様で、渾身の一撃が通じなかった事で諦観が戦場を支配していく。

 

 もう、駄目だ。

 

 誰もがその言葉を、知らず漏らそうとしていた。

 

『────諦めないで……っ!』

 

 ────それを、止めた声があった。

 

 オープンチャンネルで響き渡った、その声は。

 

 紛れもない、双葉の声だった。

 

「双葉……?」

『今、そいつの再生のサイクルを解析した……っ! 傷口は、そいつの中央から送り込まれたリソースによって修復されてる……っ!』

 

 つまり、と双葉は声を張り上げた。

 

『狙うのは、そいつの中心核……っ! そこさえ壊せば、そいつはもう再生出来ない……っ! そこさえ壊せば、そいつは止められる……っ!』

 

 双葉はそのまま、大声で説明を続ける。

 

『カメラアイの奥が、その中心核に繋がってる……っ! でも、負荷フィールドはカメラアイの所が一番凝縮率が高い……っ! だから、もう一度ハッキングして今度はカメラアイ周辺の負荷フィールドを薄くさせてみる……っ!』

 

 一呼吸置き、双葉は声を張り上げた。

 

『攻(・)撃(・)を(・)続(・)行(・)し(・)て(・)……っ! なるだけ色んな所から、攻撃を加え続けて……っ! 少しでも負荷を増やして、私のハックを手伝って……っ! それしか、あいつを倒す道はない……っ!』

 

 だから、と双葉は告げる。

 

『私(・)の(・)為(・)に(・)、(・)死(・)ん(・)で(・)頂(・)戴(・)……っ! 貴方達の命を使って、私はそいつを倒す道を作る……っ! 恨んでくれてもいい、何を言われてもいい……ッ! だから、私を助けて下さい……っ!』

 

 お願いしますっ、と双葉は頭を下げた。

 

 オープンチャンネルを聴いていた者達の間に、一瞬の沈黙が降りる。

 

『『『了解(ヤー)!』』』

 

 ────そして短く、受諾の声があがる。

 

 怪物を倒す為に、死んでくれ。

 

 その理不尽とも言える双葉の願いを、その場に集う者達が受け入れた瞬間だった。

 

『…………まったく、俺が言うべき事を言われちまったよ。何が【無双無敗(マーチレス)】だ。これじゃあ、ただの冴えないオッサンじゃねえか』

『隊長……』

 

 その演説を黙って聞いていた八木澤が、深い溜め息と共に声をあげる。

 

 ホークスもまた、感慨深げな声をあげた。

 

 そして、二人の眼に炎の如き意志が宿る。

 

『お前等、指示が遅れてすまねえ……っ! 悪いが、あいつを倒す為に死んでくれ……っ! 後の責任は、全部俺が持つ……っ! だから、その命俺に預けてくれ……っ!』

『『『了解(ヤー)!』』』

 

 八木澤の号令に、部隊員達は揃って声をあげた。

 

 皆、分かっているのだろう。

 

 此処で止めなければ、何もかも終わってしまう事を。

 

 此処で止めなければ、取り返しのつかない事になる事を。

 

 だから、承諾した。

 

 自分の命を此処で使い切る事を、受け入れた。

 

 元より、彼等は都市の平和を守る為に戦う部隊。

 

 平和の為に命を捧げる覚悟は、とうに出来ている。

 

 その事を、双葉の言葉が思い出させた。

 

 皆を、初心に帰らせた。

 

 その上で、八木澤が全ての責任を負うと告げた。

 

 頼れる隊長が、そこまで言い切ったのだ。

 

 これで、沸き立たない隊員は【ミョルニル】にはいない。

 

 皆の心は、決まった。

 

 全ては、あの怪物を討ち滅ぼす為に。

 

 この場の人員の心は、一つになった。

 

『怜二、有栖……っ! トドメの一撃は、貴方達にお願いするわ……っ! 私の合図で、もう一度あいつに攻撃して……っ! 有りっ丈の一撃を、あいつの核に叩き込んで……っ! だから、死んじゃ駄目だよ……っ!』

『『了解(ヤー)!』』

 

 俺と有栖もまた、覚悟と共に応答の返事を告げた。

 

 最早、心は決まった。

 

 これだけの人員の命を、一身に背負うのだ。

 

 正直、重圧で潰されそうだ。

 

 けれど、泣き言なんて言っていられない。

 

 俺達が、勝負を決めるのだ。

 

 臆している状況では、ない。

 

『作戦開始だ……っ! 各自散開しつつ、攻撃を続けろ……っ!』

『『『了解(ヤー)!』』』

 

 八木澤の号令で、部隊が散っていく。

 

 『ミョルニル』の部隊が周囲を駆け回りながら【リヴァイアサン・エコー】に攻撃を行い、絶え間ない射撃が怪物を襲う。

 

 その全てが負荷フィールドによって相殺されるが、攻撃の手は緩めない。

 

 ただでさえ、【リヴァイアサン・エコー】の負荷フィールドを消すべくハッキングを試みている双葉の負担は大きいのだ。

 

 まずは【リヴァイアサン・エコー】に、休む暇を与えない事。

 

 それだけが、肝要である。

 

────d@'j966666666666666666666666666666666666666666666……Z!!────

 

 だが無論、【リヴァイアサン・エコー】もただ無抵抗で撃たれ続けるワケではない。

 

 再び龍頭から砲撃を放ち、熱線で攻撃手達を焼き払う。

 

『がぁ……っ!』

『ぐあぁ……っ!』

 

 一機、また一機と断末魔の声が響く。

 

 構造体(ストラクチャ)の各所を溶かすように焼き払う熱線が、シュミクラムを焼いていく。

 

 オブジェクトも、装甲も、盾にすらならない。

 

 ただ、熱線の通り道が機体ごと焼き尽くされる。

 

 熱線の通り道となった場所が高温で溶かされ、至る所に蒸気の立ち上る灼熱の道が出来上がる。

 

 地上が、地獄に侵されていく。

 

 形を持った地獄(リヴァイアサン・エコー)が、仮想を少しずつ地獄に塗り替えていく。

 

 あらゆる可能性の詰まった仮想が、怪物によっておぞましい色に染め上げられていく。

 

 周囲は【リヴァイアサン・エコー】が無差別に撃ち放った熱線の影響で、うだるような熱さと化している。

 

 鉄の焦げる不快な匂いが充満し、嫌な空気が溢れ出す。

 

 一歩一歩、死が近付いて来るのを誰もが感じ取っていた。

 

『うらあああああ……っ!』

『やあああ……っ!』

 

 けれど、絶望している者は誰もいない。

 

 仲間を幾人も殺されているのに、折れない。

 

 ただ、仲間が紡ぐ未来の為に誰もが命を燃やしている。

 

 彼等はただ、信じているだけなのだ。

 

 皆に必死の懇願をした、少女の願いを。

 

 自分達の命を背負ってくれた、隊長の意志を。

 

 だから、彼等は死を恐れない。

 

 今此処で、心が折れてしまう事。

 

 それこそが、彼等にとっての本当の死(・)。

 

 未来の架け橋となる為の礎になるのであれば、それは彼等にとって恐れるべき死ではない。

 

 希望。

 

 ただ、それだけの為に戦う。

 

 彼等は、その為に────自らの命を、使い尽くすつもりだ。

 

『俺達も、続けっ! 少しでも、あの化け物の気を引くんだ……っ!』

『『『了解(ヤー)!』』』

 

 それに呼応するように、【都市自警軍】も政志の号令で動く。

 

 規格化された装備から、無数の銃撃が放たれる。

 

 遠巻きに牽制するだけだった彼等が、一歩前に進んで攻撃に加わっている。

 

 それは、まさしく捨て身の攻撃だ。

 

 【リヴァイアサン・エコー】の気を引くという事は、その攻撃に晒される事をも意味している。

 

 これは紛れもなく、自分達の死期を早める行動だ。

 

 けれど、今更止めはしない。

 

 此処に集う者達は、その覚悟を一つにしている。

 

 【ミョルニル】も、【都市自警軍】も、俺達も。

 

 【リヴァイアサン・エコー】の打倒という一つの目的の為、動いている。

 

 そこに、制止の声はあまりにも無粋だ。

 

 無論、俺も政志が危険に身を晒しているとあっては心穏やかではいられない。

 

 今も尚散っていく友軍の者達の事を思えば、胸が張り裂けそうになる。

 

 けれど、俺の命は最早俺一人のものではない。

 

 この戦場で散って行った者達の命、その全てを俺は背負っているのだ。

 

 俺が機会を伺いながらも身を護っているのは、全て最後の一撃に繋げる為だ。

 

 その為に、彼等を見殺しにした。

 

 どう理由を付けても、それだけは確かなのだ。

 

 ならば、自分はその期待に応える義務がある。

 

 何を置いても、あの怪物を倒さなければならない。

 

 それが、今の俺に課せられた。

 

 唯一にして最善の、責任の取り方なのだから。

 

 

♦

 

 

「チィ、どいつもこいつも鬱陶しいわね……っ!」

 

 【リヴァイアサン・エコー】のコアの中心で、橘玲佳は外の状況を見て舌打ちしていた。

 

 幾度熱線を放ち犠牲者を増やそうと、彼等は間断なく攻め立てて来る。

 

 傷一つつかないと知っているとはいえ、鬱陶しいものは鬱陶しい。

 

 いい加減、玲佳は腹に据えかねていたのだ。

 

「…………本当に、しつこい。これだから、効率を理解しない無能共は……」

 

 ギリ、と玲佳は唇を噛んだ。

 

 彼女は、自分の理想こそが最善であると信じている。

 

 自分が全ての人民を支配し、怠け者のいない世界を作る事こそが最善の未来であると信じて疑わない。

 

 その思想そのものが歪んでいると、彼女は決して気付かない。

 

 彼女が思う程、人間は愚かではない。

 

 彼女が思う程、全ての人間は理屈を優先出来ない。

 

 当たり前の人々が、当たり前のように持つ常識。

 

 それを、彼女は軽んじている。

 

 常識も、良識も、自分のものが唯一絶対であると確信してしまっている。

 

 それこそが、橘玲佳の歪み。

 

 目的は崇高であるのに、その手段を間違えている。

 

 手段と目的が入れ替わり、明後日の方向に暴走している。

 

 それが、今の彼女の有り様と言えた。

 

「…………そこまで抵抗するなら、仕方ないわね。本当に、邪魔をする貴方達が悪いのよ?」

 

 だから、玲佳は嘲笑う。

 

 そして、あっさりと決めてしまう。

 

「────全て、消し飛ばしてあげる」

 

 後先を考えない、殲滅を。

 

 無差別の、破壊を。

 

 理想に狂じる橘玲佳(かいぶつ)は、止まらない。

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