BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
勝負は、一瞬だ。
双葉の説明では、そう長い時間カメラアイ周辺の負荷フィールドを消し去る事は出来ない。
そもそも、【リヴァイアサン・エコー】が展開している負荷フィールドは【致死性防壁】のようなシステム的な攻性プログラムと違い、あくまで一定領域の負荷を極大まで引き上げて
つまり、【致死性防壁】と違って形あるプログラムというワケではない為、有栖の【固有兵装】でも斬り裂く事は出来ないのだ。
たとえるなら、それは極小の台風のようなものだ。
幾億も積み重なった
ただ、荒れ狂う暴風雨に身を晒すだけの結果に終わる。
その
…………だが、
その時が過ぎ去れば、すぐさま
だからこその、一瞬のチャンス。
こればかりは、逃すワケには行かない。
(…………その為には、あの
そのチャンスを掴み取る為には、あの龍頭は障害になる。
こちらの攻撃の際に、あの触腕に邪魔されれば作戦が失敗に終わる可能性が高まる。
それだけは、看過出来なかった。
≪…………有栖、あの
≪…………少し、厳しいかもしれないわね。見たのなら分かると思うけど、あの技には充分な
案の定、有栖からは現状では厳しいとの声があがってきた。
この場での最大の攻撃力を持っているのは、間違いなく有栖だ。
自分の【固有兵装】は応用力は高いが、単純な
一応八木澤隊長にも尋ねてみたが、どうやら隊長の機体の能力は白兵戦に特化しており、単純な破壊力を突き詰める事は難しいらしい。
曰く
一瞬の隙を突いて敵のコアを破壊するには、時間が足りないのだ。
更に言えば、【リヴァイアサン・エコー】の
多少大きい程度の相手であれば幾らでも料理出来るらしいが、流石の【
サイズは、単純且つ抗い様のない
単純な質量の暴力だからこそ、正攻法以外での攻略が難しい。
だから必然的に、機動力と突破力に極限まで特化した有栖以外に【リヴァイアサン・エコー】への致命打を与えられる適役はいないのだ。
…………だが、先程のような空気刃では焼け石に水だ。
あの空気刃による攻撃は確かに汎用性と攻撃範囲は優れているが、突破力となるとどうしても直接攻撃に劣る。
故に、有栖が【リヴァイアサン・エコー】のコアを貫く為には天井破りの時に見せたような
しかし、有栖があの技を放つには大きく跳躍し、円を描くように繰り返し加速をかけ続けるというプロセスが必須となる。
そして、迂闊に上空に飛び出せばあの砲撃の餌食となる事は自明の理だ。
かといって助走なしの一撃では、【リヴァイアサン・エコー】の核まで到達すつ為の
(此処まで来て、あと一歩が足りないのか……っ! これじゃあ、犠牲となった人達に顔向けが出来ない……っ!)
俺は口惜しさのあまり、唇を噛む。
此処に至るまで、俺は大勢の友軍を犠牲にしてしまった。
彼等は、俺達があの怪物を打倒出来ると信じて、その命を散らせていったのだ。
今更「出来ませんでした」などとは、口が裂けても言えない。
だが、有効な方策が浮かばないのもまた事実。
俺の思考に、暗雲が垣間見えた。
『あぁ? 何俯いてんだタァコ。テメェの力がありゃ、そんなんどうとでもなるだろうが】
────そこに、口を挟む声が、一つ。
ゲンハが、俺の内から呆れたような声をあげていた。
「ゲンハ……っ!? それは一体……っ!?」
『ちったぁ頭使えタコ。助走が出来ないってえなら、テメェが
「あ……」
その言葉に、俺の頭に一筋の光明が差した。
それは、確かに盲点だった。
助走が出来ないのならば、レールを作って打ち出せばいい。
そして、俺の【固有兵装】ならばそれが可能だ。
だが……。
「…………いや、駄目だ。あからさまな【レール】を作れば、あの砲撃で吹き飛ばされる……っ! それに、【レール】の
そう、確かにこの方法であれば助走なしで有栖を打ち出せるが、それを【
こちらの狙いを看破すれば、必ず【レール】かその【発射口】を狙って来る筈だ。
そうなれば、助走を得られないどころか有栖が格好の的になってしまう。
『なら、話は簡単だろ。
「な……」
…………だが、ゲンハはその解決方法としてとんでもない手段を提示した。
つまりゲンハは、
確かに、
有栖が攻撃を仕掛ける瞬間に有栖の加速に合わせて逐次【レール】を設置し、反撃を回避しながら最高速度を叩き出す。
それが叶えば、【リヴァイアサン・エコー】の打倒は夢物語ではなくなる。
…………問題は、その
加速し続ける有栖のスピードに合わせて氷の【レール】を設置するには、超絶的な反射神経が必要になる。
なにせ、コンマ一秒でもしくじれば有栖は【レール】の途中で滑落し、攻撃は失敗に終わる。
シビアなタイミングを逃さず実行する正確さと、常識外の反射神経。
その二つがあって、初めて成功する作戦だ。
正直、俺の
正確さにはそこそこ自信はあるが、反射神経となるとどうしようもない。
自分には、【ラビットシリーズ】を乗りこなせるような常人離れした反射神経は持ち併せていない。
不可能だ。
そう告げようと、した。
『阿呆。何の為に俺様がいるんだよ。少しは頭使えや、間抜け』
「…………っ!?」
────天啓が、降りた気がした。
何故、今まで気付かなかったのだろう。
何故、その発想に至らなかったのだろう。
彼は散々、
『俺と感覚を
それとも、とゲンハは続ける。
『まだ、俺様が信用出来ねぇか? テメェの身体を乗っ取ろうとして調子いい事言ってるんだとか、思ってんのか?』
ゲンハは含み笑いを漏らしながら、俺に問う。
そんな、分かり切った事を。
「────いいや、もう俺はゲンハを信用してるよ。お前の言葉に、疑いはない。力を貸してくれ、ゲンハ」
『ハッ、最初からそう言やいんだよ馬鹿が……っ!』
脳内に、脳チップの最奥に、接続する。
俺の中のゲンハのいる場所を探知し、感覚の接続を試みる。
あの口は悪いが世話焼きな相棒へ、自ら手を伸ばす。
────
────【■脳■製■】、追加インストールデータへの接続を開始────
────インストールデータ、フォルダ名【ゲンハ】へ接続────
────対象の脳神経伝達速度を
────
「く、うぅ……っ!」
身体の中を、何かが這い回るような不快感が迸る。
血管や神経に、自分のものではない
全身を掻き毟りたくなるような違和感が、体中を駆け巡る。
同時に、機体にも変化が生じ始めた。
腕部や脚部はより細く、鋭角的に。
機体の各所には黒いラインが刻まれ、血管の如く光が脈動する。
頭部には
その変化が終わった時には、身体の違和感はなくなっていた。
≪…………怜二、それは……?≫
俺の機体の変化を見た有栖が、直接通話で問いかけて来る。
勿論、俺の答えは決まっている。
≪ゲンハの力を、借りたんだよ。心配するな。俺は、俺のままだよ≫
≪…………そう。貴方がそう言うのなら、信じるわ≫
それで、と有栖は続ける。
≪そういう準備をしたって事は、何か策を思い付いたのね? それも、貴方がその野卑な男を頼らざる負えないような作戦が≫
≪ああ、作戦は思いついた。簡単に説明するから、聞いてくれ≫
俺は有栖に、ゲンハの言葉を受けて考えた作戦を簡潔にレクチャーする。
作戦とは言っても、単に俺が【固有兵装】を用いて氷のレールを作り、有栖を加速させて打ち出すだけのものだ。
作戦内容を聞いた有栖は瞬時にその内容を吟味し、こくりと頷いた。
≪それでいけると思うわ。私が槍になって、あの怪物を、その中にいるっていう屑を討ち滅ぼす。それだけの事よね≫
≪ああ、頼んだぞ。有栖≫
≪ええ、任せなさい≫
それと、と有栖は続けた。
≪あまり、気負わないでね。多少の失敗は、私がフォローしてあげる。だから、構わずやりなさい。恨みはしないわ、何があってもね≫
≪…………ああ、ありがとう≫
≪ふふ、どういたしまして≫
有栖の気遣いに、俺の心が晴れていく。
なんだかんだ言いながらも、有栖は此処まで俺を助けてくれた。
多少人格や性質に問題はあっても、その性根は善性だ。
欠け替えのない、戦友。
そう言って、差支えの無い相手だ。
≪ちょっと、二人だけの空気を作られても困るんですけど。怜二の恋人は、私なのに≫
そんな時、何処か拗ねるような双葉の声が割り込んで来た。
表情画面には、頬を膨らませた双葉が映っている。
≪人が一生懸命仕事をしている最中に、良い度胸ね。二人共、後で覚悟しておきなさい≫
≪ふふ、構わないわ。後で、なんでも言う事を聞いてあげる。貴方の前で怜二に奉仕しなさい、とかでもいいわよ?≫
≪それ、単なるアンタへのご褒美じゃないの……っ!?≫
二人の姦しいやり取りが、緊張をほぐしていく。
短いやり取りだったが、俺には分かる。
二人共、俺が必要以上に気負っていた事に気付いていたのだ。
だから、敢えて道化を演じて緊張をほぐしてくれた。
つくづく、俺には勿体ない程の良い女達である。
≪怜二、準備は終わったわ。いつでもいけるわよ≫
≪私も、いけるわ。指示を受け次第、私は槍となりましょう≫
二人が、指示を求めている。
俺に、最後の一押しを頼んでいる。
最早、迷う事はない。
俺は、二人に、告げる。
「────行くぞ。作戦、開始だ」
『『
そして、最後の攻撃が、始まる。