BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
『消え、ろおおおおおおおおおおおおおお……っ!』
全てを貫く大槍と化した
堅牢な外殻を打ち破り、幾百、幾万の死者の塊で構成された内殻へと到達する。
死者達の絶叫をコマ送りのように聞き流しながら、有栖は中心核に向かって突き進む。
埒外のスピードに外装が罅割れる音を耳にしながらも、彼女は止まらない。
既に、この身は怪物を穿つ槍と化した。
一度放たれた槍は、標的を貫くまで止まってはならない。
故に、進む。
死者の群れを引き裂いて、高熱の内殻を突き抜けて、その中心核へ向かって。
そして、遂に有栖は到達する。
中心核と同化した、橘玲佳の潜む場所へと。
『来るなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……っ!!』
中心核と同化し、人ならざる姿となった玲佳の絶叫と共に、周囲の温度が一気に上昇する。
ただでさえ高熱を帯びている内殻が、玲佳の激情に呼応するかのようにその温度を引き上げる。
それはまるで火口の只中に飛び込んだかのような熱気であり、有栖の脚部装甲も端から溶解を始める。
『ああああああああああああああああああああああ……っ!!!』
だが、止まらない。
此処で止まれば、これまでの全てが無駄になる。
有栖の矜持に懸けても、それだけはしてはならない。
その身を灼く熱をものともせず、有栖は鬨の声をあげて
『がっ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……っ!!!???』
────そして、
おぞましい玲佳の絶叫と共に、
有栖は中心核を貫通し、そのまま内殻を突破。
流星の如く外殻を突き破り、【リヴァイアサン・エコー】に風穴を開けた。
────f@tuf@tuf@tuf@tuf@tuf@tuf@tu33333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333333……Z!!!???────
風穴を穿たれ、中心核を貫かれた【リヴァイアサン・エコー】はカメラアイを中心に、亀裂が外殻全体に広がっていく。
堅牢な外殻はその全てが罅割れ、ボロボロと崩れ落ちていく。
仮想世界に脅威を振り撒いた古の怪物が、その身を削り、消え果てていく。
罅割れ砕け落ちた外殻が、雨のように地上に降り注ぐ。
そして浮力を維持出来なくなった【リヴァイアサン・エコー】もまた、轟音と共に地面に墜落する。
地面に衝突した【リヴァイアサン・エコー】はその衝撃に耐えきれず、全身が砕け散り、四散する。
怪物は、倒れた。
【リヴァイアサン・エコー】は今この瞬間、完全なる
数多の時を超え、現代に蘇った怪物の、それが最期だった。
「有栖……っ!」
俺は【リヴァイアサン・エコー】の崩壊を確認すると、この偉業を成し遂げた少女の下へ駆け寄った。
瓦礫を掻き分け、有栖が落下した地点へ向かう。
『……怜二……』
「有、栖……」
…………そこで見た有栖の機体の姿は、酷いものだった。
全身の装甲が熱で溶解し、不快な熱臭を放っている。
腕は溶け落ちた装甲によって胴体に癒着し、一体化してしまっていた。
特に酷いのは、その両足だ。
装甲は完全に溶け落ち、膝から下のパーツもまた原型を残していない。
灼熱の
『…………酷い有り様ね。すぐにでも、ノインさんに診せるべきだわ』
「…………そうだな。すまん、有栖…………こうなる事を、予測出来なかった……」
此処までの損傷になれば、生身の身体にも影響が及んでいる可能性がある。
仮想でシュミクラムの手足が斬り落とされても、生身の身体へ直接影響を与える事はない。
仮想世界と現実世界は酷似しているが、厳密なルールは異なっている。
現実でシュミクラムに換装出来ないように、仮想でシュミクラムを破損しても生身の身体の手足が欠損する事はない。
…………だが、何事にも例外というものはある。
仮想で自らの身体となっている
当然、痛覚は通っているし感覚としても生身とそう変わらない。
故に、度を超えた痛みを受け続ければ、そのショックが生身の肉体の神経系に及ぶ事は有り得る。
有栖は、少なくない時間高熱の内殻にその身を晒し続けた。
更に、極度の高熱を内包していた中心核を、その身で貫いたのだ。
脚部のダメージが最も大きいのは、その時の影響だろう。
言い換えるなら、有栖はマグマの塊に足から突っ込んだようなものだ。
そんな真似をして、無事で済むワケがない。
早急な、治療が必要だった。
『…………大丈夫よ。見た目は酷いけど、致命傷は避けているわ。それに、この役目を請け負う事を決めたのは私よ。貴方に、落ち度はないわ』
表情画面を展開し、そう告げる有栖の顔は何処か弱弱しい。
その表情こそ笑みを形作っているが、それも何処かぎこちない。
恐らく、相当の痛みに襲われているのだろう。
優美な立ち振る舞いを忘れない有栖が、
その姿は痛々しく、とても正視出来るものではなかった。
「……有栖……」
それでも、目を背けるワケには行かなかった。
有栖がこんな姿になった原因は、間違いなく俺にある。
これだけは、有栖がなんと言おうと訂正する気はなかった。
そんな、俺の考えを悟ったのだろう。
有栖は諦めたような苦笑と共に、溜め息を吐いた。
『…………そんな顔しないで、怜二。大丈夫、大丈夫だから。だから、後悔だけはしないで頂戴』
だって、と有栖は告げる。
『貴方は、偉業を為した。私は、それを手伝った。その事実だけは、消さないで。今の貴方は、紛れもなく英雄なのだから』
「英雄、なんて…………そんなの、有栖の方が……」
『私は、あくまで一つの
それは、有栖なりの心からの称賛だったのだろう。
仮想で脅威を振り撒いた怪物は、今この場で討伐された。
それを成し得たのは、この場の全員の功績だ。
有栖は勿論、【ミョルニル】や【都市自警軍】の人々。
そして、俺と双葉。
誰一人欠けても、【リヴァイアサン・エコー】の討伐は不可能だっただろう。
偉業の、達成。
それを成し得た事だけは、認めなければならない。
有栖は、そう言っているのだ。
…………この戦いでは、多くの犠牲が出た。
【ミョルニル】もその隊員の多くを失い、【都市自警軍】も甚大な被害を被った。
そして、有栖の容態も気がかりだ。
そんな被害を出した戦いに、後悔がないと言えば嘘になる。
もっと、上手く出来たのではないか。
もっと、犠牲を少なくする事が出来たのではないか。
そう、考えずにはいられない。
しかし、結果にifはない。
ゲームと違って、
後悔したところで、起きた結果を覆す事は出来ないのだ。
故に、今ある結果を受け止めて、前に進む。
それだけが、今を生きる俺達に出来る
俺がそれを理解したのを、察したのだろう。
有栖は、柔らかい笑みを浮かべた。
『けど、動けないのは事実なのよね。悪いけれど、運んで貰っていいかしら?』
「ああ、お安い御用だ」
幸い、と言うべきか。
欠損が酷い有栖の機体は、俺の機体の力でも問題なく運べる。
全体的にシャープなデザインの有栖の機体は、重量もかなり低い。
それこそ、触れれば壊れてしまう硝子細工のようだった。
俺は有栖を担ぎ上げようと、彼女の機体に手を伸ばした。
『……っ!? 怜二、あれを見て……っ!』
「……っ!? あれは……っ!!」
双葉の焦ったような声に、振り向く。
視線の先にあったのは、崩れ落ちた【リヴァイアサン・エコー】、その残骸。
────残骸のあった場所に、
「なんだ、あれは……」
黒い【穴】としか言い様のないそれは時間と共に徐々に徐々に広がっており、蟻地獄のように周囲の構造物を飲み込み始めていた。
大穴の中には、無限の暗黒が広がっている。
暗く、果てのない永劫の暗闇。
まるでブラックホールのように、その暗闇が周囲の全てを喰らい尽くさんとしていた。
『詳細不明……っ! けど、あそこを中心に徐々にテクスチャが崩壊を始めてる……っ! このままだと、この区域一帯を飲み込むまで止まらないわ……っ! すぐにそこから離脱して、怜二……っ!』
「分かった……っ! 有栖、急ぐぞ……っ!」
俺はすぐに離脱を決め、有栖を担ぎ上げようと再度手を伸ばす。
「有栖……?」
だが、表情画面の有栖は一点を見詰めて呆然とした顔になっていた。
俺は嫌な予感を感じて、有栖の視線の先を振り向く。
「馬鹿、な……っ!?」
そこにいたのは、忘れもしない【兎】の形代。
死装束を纏った、兎型の機体。
────【シュラウド・ラビット】。
紛れもない、ジャビットの機体の姿だった。
さて、最後の最後、クライマックスの先の敵。
脱出を前にした最後の死闘は、王道だよね。