BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√ 作:デスイーター
黒い【穴】によって全てが飲み込まれていく【V.S.S】の構造体で、俺とジャビットの戦闘が開始された。
『行くぜぇ……っ!』
最初に動いたのは、ジャビット。
ジャビットは身体を沈み込ませ、天高く跳躍。
そのまま虚空を蹴り、中空を縦横無尽に駆け巡る。
(……落ち着け。あいつの動きを見極めて、反撃に繋げるんだ……っ!)
俺は思考を集中させ、攻撃を見極めるべく神経を尖らせる。
現在、俺はゲンハから反射神経の
その為、通常時とは感覚が何もかも違う。
集中を維持すれば全ての光景がスローモーションのように解析出来、神経の鋭敏さが通常時と比べて尋常ではない。
見える世界が、変わっている。
そう思えるだけの変化が、今の俺には訪れていた。
だが、反射神経は向上しても機動力自体が上がったワケではない。
埒外のスピードで戦場を駆けるジャビットに機動戦を挑むのは、自殺行為に他ならない。
だからこそ、迎撃の網を張る。
『ヒャハァ……ッ!』
そして遂に、ジャビットが加速を維持したまま中空を蹴り、俺に向かって急降下して来る。
そのスピードは、目で捉えていては間に合わない。
故に、俺は著しく上昇した反射神経を頼りに、腕を振り上げた。
『なにぃ……っ!?』
ガキン、と硬質な音が響く。
俺の振り上げたブレードが、ジャビットの振り下ろしたフットブレードを受け止めていた。
ジャビットのブレードは、有栖のそれとは違い
彼の【固有兵装】は現在、その機体の維持に回されている。
故にこそ、隙がある。
今この瞬間こそ、ジャビットに痛打を叩き込む絶好の好機……!
「はぁ……っ!」
俺はジャビットのフットブレードを受け止めていた自身のブレードを敢えて手放し、急に力を抜かれたジャビットの機体の体勢が一瞬、崩れる。
それを見逃さず、俺は手放したブレードを脚部で蹴り上げる。
『チッ……!』
結果、ブレードはジャビットの右腕掌に直撃。
俺は初めて、ジャビットにこの手で痛打を与える事に成功した。
(これで……っ!)
だが無論、これだけでは終わらない。
俺はブレードの
ジャビットの右腕に突き立ったブレードから冷気が広がり始め、【シュラウド・ラビット】が凍り付いて行く。
『野郎……っ!』
しかし、これだけで敗北する程ジャビットは甘くはなかった。
ブレードから冷気を送り込まれている事を瞬時に察したジャビットは、自ら右腕を切断。
すぐさま虚空を蹴り、上空に跳躍。
離れた場所まで一息で移動し、地面へ着地した。
『ハッ、大分マシになってるじゃねえか……っ! しかも、今のは最初に会った時の意趣返しかよ? やるねぇ……っ!』
「…………こっちも、ただ無為に時を過ごしていたワケじゃないからな」
ジャビットのからかうような言葉に、俺はそう答えた。
彼の言う通り、ブレードを蹴り上げてジャビットに痛打を与えたのは、彼と最初に接敵した時に槍を蹴りで投擲され被害者の女性ごと俺の機体の腕を貫かれた時と状況が似ている。
俺としてはそんなつもりはなかったが、結果的に意趣返しの形になった。
いや、恐らく無意識にでもそのつもりがあったのだろう。
これまで良い様にあしらわれてきた相手に、自分が何処まで通用するか。
それを俺は、知りたかったのだ。
そして、確信する。
俺は、ジャビットと
これまでのような
あの強敵相手に、行う事が出来る。
…………その事を、ジャビット自身も言外に認めている。
それが、俺には嬉しかったのだろう。
無論、これまでのジャビットの行いを許すつもりは断じてない。
ジャビット=アンサーペは救いようのない鬼畜外道であり、万が一、億が一にも和解の選択肢は有り得ない。
だが、それでも。
それでも、今この場では対等の
ならば、それに応えよう。
俺がこの手で、ジャビットを討ち獲るのだ。
『ヒャハハハハハハハハハハハ……ッ! さあ、着いて来れるかぁ……っ!?』
ジャビットは再び天高く跳躍し、滑空。
【兎】は縦横無尽に空を駆け巡り、俺の隙を伺っている。
しかし、今の攻防でジャビットは俺がただ狩られるだけの
故に、先程のような迎撃の難易度は段違いに上がっている。
ジャビットの眼は、標的を狙う狩猟者の眼だ。
最適なチャンスを、今も探し続けているに違いない。
だが、戦局が膠着する事は有り得ない。
何故なら、この戦場には
あの黒い【穴】は今も拡大を続けており、既に構造体の1/3が飲み込まれた。
加速度的に【穴】の規模が大きくなっている以上、長期戦を行う事は自殺行為だ。
俺もジャビットも、【穴】に呑まれて消え果てる。
俺も奴も、そんな結末は望んでいない。
故に、短期決戦。
あと数度、早ければ一度の攻防で、決着が着く。
リソースの消耗は、考慮するだけ無駄だ。
確かに【穴】の拡大率は早いが、走って逃げ切れない程ではない。
故に、俺はジャビットを倒す事が出来さえすればそのままこの場から離脱出来る。
動ける足さえ残っていれば、エネルギーの損耗はそこまで気にする必要はない。
そもそも、出し惜しみをして勝てる相手ではないのだから。
『シャハァ……ッ!』
俺の真上を陣取ったジャビットは、空中で脚部を振るい空気刃を射出。
更にその空気刃以上のスピードで、地上へ向け降下。
空気刃との二段構えで、俺にブレードを振り下ろして来る。
先程のようにブレードを受け止めたのでは、続く空気刃によって斬り裂かれる。
しかし空気刃は広範囲に放たれている為、大ぶりの回避を選択すれば逃げ回るだけで精一杯になるだろう。
それでは徐々に追い詰められるだけであり、ジリ貧になるのは目に見えている。
「凍結座標指定、
俺は掌を上に掲げ、ジャビットの目前に【固有兵装】で冷気の層を展開。
ジャビットが層に触れた瞬間、タイミングを合わせて冷気を凝縮。
一気に、ジャビットの全身を凍結させる。
逃げ道は、ジャビット自身が撃ち放った空気刃によって防がれている。
回避不能。
必殺の策を、ジャビットに仕掛ける……!
『ウラァ……ッ!』
「な……っ!?」
────だが、躱された。
ジャビットは不可視の冷気の層に触れる直前にその場で虚空を蹴り、反転。
描いていた機動を逆戻りし、空高く跳躍した。
「チィ……ッ!」
俺は仕方なく、地を蹴り跳躍。
ジャビットの後を追うように跳び上がり、一瞬前まで俺がいた場所を無数の空気の刃が通過する。
『貰ったァ……ッ!』
空中に跳び上がってしまった俺は、ジャビットからすれば格好の標的。
ジャビットはすぐさま脚部を振るい、空気刃を射出。
更に虚空を蹴って急降下し、今度こそ俺を仕留めんと死の刃が迫り来る。
空中機動など、夢のまた夢。
ジャビットのように虚空を蹴って移動する事は出来ず、ホバー移動では回避はとてもではないが間に合わない。
故に、詰み。
この戦況を見た誰もが、口を揃えてそう告げるだろう。
『今だ、やれ……っ!』
────ただ一人、俺の中で戦況を見守っていたゲンハただ一人以外には。
「
そして、それは俺も変わらない。
俺はライフゲージを大幅に消費し、ジャビットの脚部の直上に氷の
『なぁ……っ!?』
その【レール】に乗ってしまったジャビットは、進路を無理やり変更され、体勢を崩す。
再び虚空を蹴って逃れようとするが、遅い。
『があああああああああああぁぁぁぁ……っ!!!』
自らが射出した空気刃の射線に
動きが、止まった。
「行くぞ……っ!」
そして、ジャビットの機体が
俺は自身の足元に【レール】を精製し、バーニアを噴射。
急激な加速を得て、ジャビットの元へ打ち出される。
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……っ!!!」
『ラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……ッ!』
俺は、その右手にブレードを。
ジャビットは無理やり体躯を捻り、フットブレードを。
敵に突き立てるべく構え、振るう。
「……っ!」
『が……っ!?』
────そして、交差。
ジャビットのフットブレードは俺の右腕を斬り落とし────。
────俺の
渾身の、
右腕で攻撃すると見せ掛け、瞬時にブレードを持ち換えて本命の左で打ち貫く。
単純ながら、致命の一撃となったその策は。
引き上げられた反射神経が生んだ、この場限りの絶技。
右腕を囮とした、左腕での一撃。
言葉にすれば簡単なそれは、
最後まで他人の力に
刺し貫いたブレードから、冷気が広がっていく。
先程のように部位を斬り落として冷気を振り払う事は、もう出来ない。
『チィ、だせぇ終わり方だなオイ。全く、格好悪ぃったらありゃしねえ』
本当の死が訪れる秒読み段階にあるというのに、ジャビットの言葉は何処か穏やかで。
『────ま、悪くないよな。僕のような、悪党の終わり方としては、さ』
────何処か、満足気でもあった。
崩れ行く。
冷気が全身を覆い尽くし、氷の彫像となったジャビットの身体が崩れ行く。
足先から徐々に崩れて行く悪逆の【兎】の姿は何処か物哀しく。
そして同時に、一枚の絵画のような美しさがあった。
最後に残った頭部も、風に溶けるように崩れ去る。
それが、終わり。
数々の悪逆を為した、外道の盗掘者。
ジャビット=アンサーペの生涯の、本当の終着だった。