※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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暴走ーEnvyー

 

『……なんなの、あれ……?』

 

 双葉は怜二のサポートとして展開していた感知装置(センサー)を通して、それを見ていた。

 

 先程までは怜二と視界を共有していたが、既にその回線は切断されている。

 

 原因不明の回線切断の刹那、双葉が見たのはな(・)に(・)も(・)な(・)い(・)場(・)所(・)を(・)呆(・)然(・)と(・)見(・)詰(・)め(・)て(・)い(・)た(・)怜(・)二(・)の(・)姿(・)であった。

 

 双葉はサポートを行う際、怜二と視界共有させたメインカメラの他に、戦場各所に展開した複数のサブカメラを用いてリアルタイムの情報収集を行っている。

 

 メインカメラの回線が切断された事で現在はサブカメラの一台をメインカメラの代用として使用しており、それと並行してメインカメラとの接続を取り戻そうとしていた。

 

 ……だが、異変は既に進行していた。

 

 怜二が異様な絶叫をあげたかと思うと、怜二の機体のデータがブレ(バグっ)て、徐々に変質していったのだ。

 

 青と白で構成されていた外装は暗緑色のカラーリングに変わり、機体のデザインはより鋭角的になっていく。

 

 背部が一瞬隆起したかと思えば、そこから悪魔の翼じみたアームが装甲を突き破るようにして出現した。

 

 頭部には赤黒いバイザーが装着され、その奥に覗くカメラアイは不気味な紅い光を宿している。

 

 姿勢も前傾姿勢となり、その姿は獰猛な獣を連想させた。

 

『一体、怜二に何が起こったというの……?』

 

 怜二の電子体反応は、消えていない。

 

 更に言えば、キャンサーの特有反応も感知出来ない。

 

 少なくとも、先程除去された筈のウイルスによってキャンサーに成り果てたワケではないらしい。

 

 ……だが、怜二に通信で呼びかけても応答はなく、怜二の機体は自分など眼中にないとばかりに二機のイニクィタティスを睨みつけている。

 

『Syaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

 ────突如、怜二の機体がおぞましい咆哮をあげる。

 

 その声は狂気に満ち、悪意に満ちていた。

 

 間違っても、あの怜二があげていい声ではない。

 

 あれは、違(・)う(・)も(・)の(・)だ。

 

 双葉が、そう確信した瞬間だった。

 

『SyaraA!』

 

異形と化した怜二の機体から、ラディカルスピナーが射出された。

 

 否、それは双葉の知るラディカルスピナーではない。

 

 赤黒いカラーリングに変わり、卍型の形状をしたそれは、まるで獲物を捕らえる鉤爪のようですらあった。

 

 無論、ただでそれを受けるイニクィタティス達ではない。

 

 イニクィタティスはチェーンソーから垂れ流していた液体を凝縮させ、以前も見た花型のオブジェクトを出現させる。

 

 ────だが、その防御に意味はなかった。

 

 卍型の刃がそのオブジェクトに触れた途端、オ(・)ブ(・)ジ(・)ェ(・)ク(・)ト(・)は(・)一(・)瞬(・)に(・)し(・)て(・)凍(・)結(・)、(・)破(・)砕(・)さ(・)れ(・)た(・)のだから。

 

(……っ!? まさか、オブジェクトに接触する瞬間だけあの武器の刃先部分に冷気を纏わせて、ラディカルスピナーそのものに凍結破砕能力を持たせた……? しかも、減速すらしていないとか、少なくとも怜二の反射神経じゃ不可能だった筈なのに……っ!)

 

 そう、今の光景は少なくとも双(・)葉(・)の(・)知(・)る(・)怜(・)二(・)では不可能な芸当の筈だ。

 

 怜二は確かに電脳適性が高く、反射神経も並外れている。

 

 武器を扱う精度も高く、大抵の武器は難なく扱う事が出来る。

 

 だが、此処まで規格外の反射神経を備えてはいなかった筈だ。

 

(……あの変貌が、その原因……? 一体、怜二に何が起きているの……?)

 

 双葉が言い知れない不安を抱く中、戦闘は無慈悲に進攻していく。

 

 オブジェクトを一瞬で突破したラディカルスピナーは、そのまま男性型イニクィタティスに直撃。

 

 傷口から全身を凍らされたイニクィタティスは次の瞬間には破砕し、粉々になる。

 

『bd'hu! ]q@q@3!』

 

 ……しかし、次の瞬間双葉は目を疑う光景を見る事になる。

 

 男性型イニクィタティスがいた場所に女性型イニクィタティスから流れ落ちた黒い液体が流入し、瞬時に男性型イニクィタティスの姿となったのだから。

 

(……どうやら、あの女性型が近くにいる場合は男性型は破壊されても瞬時に修復出来るみたいね。しかも、粉々になっても再生出来るとか……並の再生力じゃないわね。いえ、あの男性型だけはす(・)ぐ(・)に(・)作(・)り(・)直(・)せ(・)る(・)という事かしら)

 

 今の光景を見た限り、あの男性型は幾ら破壊しようが意味がない。

 

 文字通り瞬時に最創されてしまうのだから、女性型にとっては幾らでも使い捨てられる駒に過ぎない。

 

 しかも、あの再生速度では同(・)時(・)に(・)女(・)性(・)型(・)を(・)仕(・)留(・)め(・)る(・)くらいの事をしなければ終わりのないいたちごっこを続けるだけだ。

 

 そして、【統率個体】にスタミナという概念はない。

 

 人間と違って疲(・)労(・)を感じる事がないのだから、事実上奴らは無制限に活動出来る。

 

 幾ら機械の身体に換装したとしても、人間である限り精神的な疲労というものは蓄積する。

 

 故に、シュミクラムにはたとえエネルギーが充分にあったとしても精神的な活動限界というものが存在するのだ。

 

 心を持った人間が姿を変えただけの代物であるのだから、当然の話ではある。

 

 ……だが、【統率個体】はそうではない。

 

 元(・)がなんだったのかは知らないが、分類としては自立敵性体(エネミー)に近しいあれに精(・)神(・)的(・)な(・)疲(・)労(・)などというものがある筈がない。

 

 故に、エネルギーが尽きない限りは無制限な活動が可能なのだ。

 

 そして、この【未踏領域】は奴等のテリトリー。

 

 【遺跡】から直にエネルギーを受け取っている以上、エネルギー切れによる活動限界もないものと見ていい。

 

 持久戦になれば、負けるのは戦闘用電子体(こちら)なのだ。

 

『Syarakuseeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!』

 

 ……だが、怜二の機体はそんな事は関係ないとばかりに二機目のラディカルスピナーを射出しながらイニクィタティスに躍りかかった。

 

 今度はイニクィタティスも盾を精製する事なく、回避を選択した。

 

 先程盾としたオブジェクトを一瞬で突破されているのだから、当然の判断ではある。

 

 女性型イニクィタティスは男性型イニクィタティスをその場に残し、大きく後退した。

 

 男性型イニクィタティスは、ラディカルスピナーを回避しながら怜二の機体に斬りかかろうとして────その攻撃は、空を切る。

 

『SyahAA!!』

『f@tuZ!?』

 

 怜二の機体は消えたとしか思えない速度でその場から疾駆し、女性型イニクィタティスに肉薄。

 

 そのまま鉤爪のようなブレードを振り下ろし、女性型イニクィタティスを両断した。

 

 両断された断面からイニクィタティスの全身に冷気が広がって行き、その機体が凍り付いていく。

 

『u/.u3Z!』

 

 ……だが、女性型イニクィタティスは自らその身体を破棄。

 

 同時に男性型イニクィタティスの身体が二つに割れ、内部から女性型イニクィタティスが出現する。

 

 更に女性型イニクィタティスから流れ落ちた黒い液体によって、男性型イニクィタティスの機体は瞬時に修復。

 

 瞬く間に、イニクィタティスは二体に戻ってしまった。

 

(……っ!? 今のは、瞬(・)時(・)に(・)コ(・)ア(・)を(・)移(・)し(・)て(・)男(・)性(・)型(・)に(・)乗(・)り(・)移(・)っ(・)た(・)……っ!? じゃあ、本気であの二体は同時に仕留めないと駄目って事……っ!?)

 

 今イニクィタティスが見せた復活劇のカラクリを、双葉は瞬時に見抜いていた。

 

 女性型イニクィタティスは凍結破砕される直前、自身の心臓とも言うべきコアを男性型イニクィタティスの内部に転送したのだ。

 

 そして男性型イニクィタティスの機体を掌握し、自身の機体情報を書き加えた。

 

 後は男性型イニクィタティスの機体を媒介に自身の機体を再構築し、媒介としていた男性型イニクィタティスを自身の能力で修復したのだ。

 

 つまり、この二機はど(・)ち(・)ら(・)か(・)が(・)生(・)き(・)残(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)限(・)り(・)幾(・)ら(・)で(・)も(・)再(・)生(・)す(・)る(・)のである。

 

 完全に仕留める為には、二(・)体(・)を(・)全(・)く(・)同(・)じ(・)タ(・)イ(・)ミ(・)ン(・)グ(・)で(・)仕(・)留(・)め(・)る(・)必要があるのだが……。

 

(あの再生速度じゃ、全く同時に致命傷を与えなきゃ話にならない。けど、普通に考えればよほど息の合った仲間か、そうでなくても超級の技量を持った援(・)軍(・)が必要になる。でも、怜二は……)

 

 そう、怜二は他ならぬ自分の為に、チームメイトを集める事はしなかった。

 

 怜二が仲間を集める事を受け入れられず、散々妨害してしまったのは自分だ。

 

 双葉にはどうしても、自(・)分(・)以(・)外(・)を(・)頼(・)り(・)に(・)す(・)る(・)怜(・)二(・)を見たくなかったのだ。

 

 いわば、今怜二が窮地に陥っているのは自分の我儘(エゴ)の所為だ。

 

 自分の所為で、明確な攻略法が見えたにも関わらずあの忌むべき【統率個体】相手に怜二が負けてしまう。

 

 それは、双葉の心に暗い影を落とすには充分な事実だった。

 

『SyaHaHaHaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

 ────だが、異形と化した怜二の機体はそ(・)の(・)程(・)度(・)で止まる事はなかった。

 

 怜二の機体は四方八方にラディカルスピナーを打ち出し、イニクィタティスの移動経路を制限。

 

 そのまま、両腕にブレードを構えてイニクィタティスに飛び掛かった。

 

『xp.t3333333333333!』

 

 無論、イニクィタティスはそんな怜二の機体に迎撃の構えを取る。

 

 男性型と女性型は計六本ものチェーンソーブレードを振り上げ、怜二の機体(ヴァナルガンド)に向かって振り下ろす。

 

『SYaRakuseeeeeeeee!!』

『uZ!?』

『f@t、u……Z!?』

 

 ────だが、怜二の機体は両腕の二本のブレードと背部から伸びるアームを振るい、六本のチェーンソーを一息で両断。

 

 ブレードをその場に投げ捨て、その手に大鎌を握り一気に振り抜く。

 

 武器を失った二機のイニクィタティスは大鎌の一撃により、同時に両断。

 

 切断面から一気に冷気が広がり、機体を瞬時に凍結。

 

 コアを移す間もなく、二機のイニクィタティスは粉々に破砕された。

 

 ……此処に、双子座の悪魔は完全に討伐された。

 

 他ならぬ、怜二の手によって。

 

『うそ……怜二が、あの状況から【統率個体】を倒しちゃった……?』

 

 その光景を見ていた双葉は、思わず息を呑む。

 

 超級の実力を持った援軍の強力でもあったのならばいざ知らず、怜二が単独で【統率個体】の討伐という偉業を成し遂げてしまったのだ。

 

 一度は死にかけて、否……完全に死んだ筈だったところから、此処まで状況が覆ったのだ。

 

 信じられないという思いを抱くのも、無理はない。

 

 ……しかし、双葉の心は晴れなかった。

 

 何故なら、怜(・)二(・)の(・)機(・)体(・)は……未だ、元の姿には戻っていないのだから。

 

『SyAHaRaxaxaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

 視界に移る怜二の機体は、残虐性を滲ませた歓喜の咆哮をあげる。

 

 その姿はどう見ても双葉の知る怜二とは似ても似つかないものであり、あ(・)れ(・)は(・)本(・)当(・)に(・)怜(・)二(・)な(・)の(・)か(・)という疑念を双葉に抱かせた。

 

『怜二っ、もう敵はいないわ……っ! お願い、元に戻って……っ! 怜二……っ!』

 

 双葉は衝動的にオープンチャンネルを開き、怜二に呼び掛けた。

 

 そうでもしなければ、怜二が何処か遠くに行ってしまう。

 

 そんな恐怖が、双葉を駆り立てていた。

 

 ……双葉の呼びかけを受けた怜二の機体は、一瞬動きを止める。

 

 そして、その直後……そのカメラアイから、獰猛な悪意が双葉へと叩きつけられた。

 

 『KIKI,KiHaHaHaHaHaHaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

「……っ!?」

 

 ────それは、紛れもない欲望の発露。

 

 双葉を見る怜二だったものの視線には、明確な情欲が宿っていた。

 

 知らず、双葉は自らの身体を抱き締める。

 

 元より、双葉は己が全てを怜二に捧げる覚悟があった。

 

 怜二であれば、何をされてもいい。本気で、そう思っていた。

 

 ……けれど、こ(・)れ(・)は怜二ではない。

 

 少なくとも、双葉の知る怜二は……こんな、下卑た欲望塗れの視線を自分に向ける筈がない。

 

 今の怜二は、双葉が求める怜二ではなくなっている。

 

 それを自覚すると、双葉の心は言い様のない喪失感に襲われた。

 

 自分という人間が、足元から崩れていく感覚。

 

 最早意識を保つ事すら覚束なくなり、双葉の意識が暗闇に消える。

 

「────あらあら、随分妙な状況になってるじゃない」

 

 ──けれど、耳に響く涼やかな声が双葉の意識を縫い留めた。

 

 気付けば、視界の先に一機の戦闘用電子体(シュミクラム)が佇んでいる。

 

 それは、双葉の見た事のないタイプのシュミクラムだった。

 

 全体的なフォルムは兎を象っているようで、頭部から伸びた耳のようなパーツや、鋭い膝部刃(ニーブレード)を装備した折り畳まれた脚部がそれを物語っている。

 

 その機体は鋼鉄の体躯であるというのに妙に艶めかしく、流麗な機体のラインは女性的で、不思議な色香すら纏っていた。

 

 鋭利な彫像じみた美しさを持つその機体を呆然と眺めていると、表情画面が開く。

 

 そこには、何かしらの処理で目元を隠した、蒼い髪の美しい少女の顔が映し出されていた。

 

『─────初めまして。私は、六条有栖……『首狩り兎(ヴォーパルバニー)』と言った方が、通りがいいかしらね』

 

 少女は嫣然と微笑み、告げる。

 

 混沌と化した戦場に、一人の殺戮兎(しにがみ)が舞い降りた瞬間だった。





 はい、てなわけで有栖√とは大幅に展開が変わっております。

 何が起きたかは、勘の良いバルドファンなら勘付いた筈。

 まあ、この√は最初の√なので、謎はあんまし明かされないんですけどね。

 ちなみにバルドシリーズはパレット、フォース、スカイをやっております。

 スカイゼロはやってないので、そっちの設定なんかは知りません。

 なので、スカイゼロの設定はないものと扱って貰って結構です。
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