※この作品はR-18です。

BALDR GENESIS~Revive of Future World~双葉√   作:デスイーター

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狩兎ーVorpal bunnyー

 

『【首刈り兎(ボーパルバニー)】、ですって……?』

 

 双葉は突如目の前に現れたシュミクラムの乗り手である、表情画面に映る少女の言葉を聞き目を見開いた。

 

 彼女の告げた【首狩り兎】という異名、その名は確かに有名だ……悪い意味で、だが。

 

 【首狩り兎】とは、探索者序列19位に位置するい探索者の持つ異名……いや、忌み名に近い。

 

 曰く、【首狩り兎】はエネミーだけではなく盗掘者、果ては敵対した探索者の首を悉く刎ねるシリアルキラー、殺人鬼の類である。

 

 【盗掘者】は時として探索者を害する事がある為、襲われた場合は自衛の結果殺しても罪には問われない事になっている。

 

 しかし、【首狩り兎】はその制度を逆用し、盗(・)掘(・)者(・)を(・)狩(・)り(・)立(・)て(・)る(・)事(・)を(・)趣(・)味(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)らしい。

 

 確かに盗掘者は探索者にとって害悪極まりない為、盗掘者が殺された所で心を痛める者は誰もいない。

 

 だが、わざわざその盗掘者を狩り立て、その悉くを娯(・)楽(・)として殺戮するなどという行為は流石に常軌を逸している。

 

 実際に、彼女が盗掘者を狩り殺す場面を目撃している者が何人もいる為、彼女が盗(・)掘(・)者(・)狩(・)り(・)に興じている事は確かだ。

 

 恐らく探索者殺しの噂については、そういった素行に尾ひれが付いたのだろう。

 

 幾ら何でも、理由なく探索者を殺して置いて探索者証を剥奪されない筈がないからだ。

 

 探索者証には、所有者が撃(・)破(・)した対象を自動記録する機能がある。

 

 これは報酬査定の際にキャンサーの討伐数等を確認する為のものだが、同時に【遺跡】内で他の探索者を殺害すれば、その記録が残るという事でもある。

 

 あくまで撃(・)破(・)……即ち対象の機能停止を記録する為ちょっとした小競り合いであればいいが、流石に殺(・)害(・)してしまえばばっちり記録に残ってしまう。

 

 この記録を消す手段は基本的には存在しない為、【遺跡】の報酬を換金する為にギルドに赴く必要がある以上、同業者を殺してしまった探索者は最早ギルドを利用出来なくなる。

 

 ギルドに換金の為に探索者証を提出すれば、自分の犯行が露見してしまうからだ。

 

 そうなると、その探索者は最早盗掘者に身を落とす他なくなる。

 

 実際、盗掘者の中にはそういった元(・)探(・)索(・)者(・)は一定数存在する。

 

 止むに已まれぬ事情で盗掘者に身を落とした者は、確かにいるのだ。

 

 ……だが、この少女はそんな事は関係ないとばかりに盗掘者を殺戮している。

 

 故に、【首刈り兎(ボーパルバニー)】。

 

 敵対者の首を無慈悲に斬り落とす、残忍な狩人に付いた忌み名である。

 

 そしてもう一つ、彼女には特筆すべき点がある。

 

 他ならぬ、彼女が操るシュミクラムだ。

 

(……これが、【ラビットシリーズ】……)

 

 双葉は改めて、彼女の駆るシュミクラム……機体名【ヴォーパル・ラビット】を見据えた。

 

 白と黒を基調としたカラーリングのその機体は機械の身体ながら何処か艶やかな色香を纏っており、同時に鋭利な殺意を内に秘めている。

 

 ────【ラビットシリーズ】とは、電子体工学の天才、ドクター・ゼクスの作り出した特殊なシュミクラムの総称である。

 

 全6体存在すると言われているそのシュミクラム群は通常のシュミクラムとは隔絶した力を持ち、乗りこなせれば敵はいないとさえ言われている。

 

 ……あくまで、乗(・)り(・)こ(・)な(・)せ(・)れ(・)ば(・)の話ではあるが。

 

 【ラビットシリーズ】はその強力無比な性能と引き換えにかなりピ(・)ー(・)キ(・)ー(・)な機体であり、双葉の知る限り乗りこなした者は殆どいない。

 

 ────そして、目の前の少女はその数少ない例(・)外(・)にあたる存在だ。

 

 双葉の解析結果は、目の前のシュミクラムが紛れもなく【ラビットシリーズ】の一機であり、故に目の前の存在はあの悪名高い【首狩り兎】に間違いない。

 

 そんな相手が何故こんなタイミングで現れたのか、全く分からない。

 

 ……双葉は、警戒のレベルを一段階引き上げた。

 

 元より怜二とノイン以外全て敵、というのが双葉の基本的な価値基準だ。

 

 だからこそ誰が相手であろうと警戒レベルを引き下げる事はないのだが、この相手は特に注意しなければならないと双葉の勘が……女の勘が、そう言っていた。

 

 まるで、油(・)断(・)す(・)れ(・)ば(・)何(・)か(・)大(・)切(・)な(・)も(・)の(・)を(・)取(・)ら(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)ような、言い知れぬ焦燥が双葉を襲っていたのだ。

 

 何故、そんな事を感じたのかは分からない。

 

 けれど、双葉はこの直感を信じる事にした。

 

 どの道、目の前の女が怪しい事に変わりはないのだから。

 

『………序列19位様が、今更何の用なの? こっちは【統率個体】相手に頑張っていたのに、高みの見物でもしてたワケ?』

『ふふ、人聞きの悪い言い方をしないで欲しいわね。私はたまたま、此処に立ち寄っただけよ。それに、結果的に援軍は必要なかったでしょう? あの【統率個体】を、単騎で仕留めて見せたのだからね』

 

 ……有栖の言葉に、双葉はあからさまに眉を吊り上げた。

 

 この言い方だと、有栖は何処からかは分からないが怜二と【統率個体】の戦いを見ていたように思える。

 

 それならば怜二に起きた異(・)常(・)も目撃している筈であり、それを敢えてスルーして援(・)軍(・)は(・)要(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)などとほざくあたり大した性根である。

 

『……よくも抜け抜けと。見ていたなら、今の状況くらい分かるでしょう?』

『ええ、そうね。原因は分からないけれど、貴方のパートナーは今正気を失っている。有り体に言って、暴走状態ね。飢えた獣のようで、中々ワイルドじゃない』

 

 有栖は双葉との会話を継続しながら、異形と化した怜二の機体を見詰めている。

 

 怜二の機体は突然の闖入者に驚き────否、新(・)た(・)な(・)獲(・)物(・)を(・)見(・)つ(・)け(・)て(・)舌(・)な(・)め(・)ず(・)り(・)で(・)も(・)し(・)て(・)い(・)る(・)か(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)有栖の機体を凝視し、臨戦態勢となっている。

 

 ……あくまで推測ではあるが、今の怜二は闘争本能や残虐性が極限まで解放された状態にある。

 

 そんな状態で次(・)の(・)対(・)戦(・)相(・)手(・)が現れれば、興奮状態になるのは自明の理である。

 

『……ッ! だったら、分かってるでしょ……っ!? 今アンタが現れた事で、あの怜二はアンタを敵(・)と認識した……っ! だから……っ!』

『────ええ、襲い掛かって来るでしょうね。だからこそ、貴方にこうして話しかけているのよ』

『え……?』

 

 言葉の意味が分からず、双葉が一瞬硬直する。

 

 有栖はそんな双葉を微笑を浮かべながら見詰め、その提(・)案(・)を口にした。

 

『だから、貴方に聞いているの。私に、彼(・)を(・)助(・)け(・)て(・)欲(・)し(・)い(・)か(・)ど(・)う(・)か(・)をね』

『は……っ!?』

 

 あまりにも予想外の言葉に、双葉は思わず瞠目する。

 

 だが、有栖は前言を撤回する様子はない。

 

 本気で、自分に怜(・)二(・)の(・)救(・)出(・)を(・)依(・)頼(・)す(・)る(・)か(・)ど(・)う(・)か(・)を聞いているのだ。

 

『……一体、何のつもり……? そんな事をしても、貴方にメリットはないでしょう?』

『メリット、ねえ……そうね、面(・)白(・)い(・)も(・)の(・)を(・)見(・)せ(・)て(・)貰(・)っ(・)た(・)お(・)礼(・)なんてのはどうかしら? 曲がりなりにも、あの【統率個体】の討伐戦なんてものを見せて貰ったのだもの。その過(・)程(・)も興味深かったし、見物料だとでも思って貰えれば結構よ』

 

 有栖はあくまで軽くそう告げるが、双葉はその言葉の幾らかは本音が混じっているように思えた。

 

 ……恐らくではあるが、有栖は怜二に興味を持ったからこそこうして姿を見せたのだ。

 

 そして、予想が正しければ……この女は、自(・)分(・)達(・)に(・)恩(・)を(・)売(・)ろ(・)う(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 要は有栖は、今回助けに入った事を恩(・)に(・)感(・)じ(・)て(・)欲(・)し(・)い(・)が為にやって来たのだ。

 

 その恩(・)をどう利用しようとしているかは分からないが、少なくとも自分達に害を為す事が目的では無い筈だ。

 

 あくまでこの少女は、怜二に対する興(・)味(・)本(・)位(・)で此処に来た筈だ。

 

 ならばその目的は、今後何かに付き合わせる予定があるか……もしくは、仲(・)間(・)に(・)な(・)る(・)事だろう。

 

 ……ズキリと、双葉の胸の内が痛む。

 

 そ(・)れ(・)は嫌だと、双葉の女の本能が五月蠅い程叫んでいる。

 

 特級プログラマである双葉の眼には、隠蔽処理を施している有栖の素顔が既に見えている。

 

 どう控えめに言っても、絶世の、と付くであろう超級の美少女だ。

 

 胸の大きさこそ双葉の圧勝ではあるが、彫刻じみた怜悧な美貌は見る者を惹きつけて止まないだろう。

 

 この女が正気の怜二の前に現れた時、怜二が思わず見惚れてしまうだろう、と確信するくらいには。

 

 ……それは、嫌だ。

 

 怜二の心に、自分以外の女が入って来るのは……どうしようもなく、嫌だ。

 

 けれど、双葉の理性はこうも告げている。

 

 此(・)処(・)で(・)彼(・)女(・)の(・)手(・)を(・)取(・)る(・)以(・)外(・)、(・)怜(・)二(・)を(・)助(・)け(・)る(・)道(・)は(・)な(・)い(・)と。

 

 有栖の余裕は、そういった事情を理解しているからこそだ。

 

 此処は、【未踏領域】。

 

 他の探索者が早々助けに来られる場所ではなく、そもそも自分の所為で探索者同士の交友関係が殆どないに等しい怜二を助けてくれるような当てなどいる筈がない。

 

 この女の手を取らなければ、怜二は永遠に帰って来ない。

 

 どう取り繕っても、それだけは事実なのだ。

 

 ……その事実が、どうしようもなく忌々しい。

 

 特級プログラマなどと呼ばれていても、彼女が出来るのはあくまでサ(・)ポ(・)ー(・)ト(・)。

 

 直接戦場に乗り込んで戦う力がない以上、彼女単体で出来る事は非常に少ない。

 

 普段サポートしている怜二が正気を失っている状態にある以上、戦闘をこなせる戦(・)闘(・)員(・)が必要なのは明白だ。

 

 こと戦(・)闘(・)力(・)については、この女以上の存在は早々いない。

 

 序列19位の持つ意味は、それだけ重いのだ。

 

 故に、双葉に出来る選択は二つだけだ。

 

 意地を張ってこのまま怜二を失うか、様々なものと引き換えにこの女の手を取るか。

 

(……そんなの、選択の余地なんてないじゃない……っ!)

 

 双葉にとって、怜二は世界の全てであると言い換えても良い。

 

 無論、自分をあ(・)そ(・)こ(・)から助け出し今の生活を与えてくれたノインには返しきれない恩がある。

 

 けれど、自分にとって一番大切なものは────矢張り、怜二なのだ。

 

 怜二がいるからこそ、双葉が生きている意(・)味(・)がある。

 

 怜二がいるからこそ、双葉は自(・)分(・)を保ってられる。

 

 怜二のいない世界に、双葉が生きる意(・)義(・)はない。

 

 故に、どんな犠牲を払ってでも────怜二は、助け出さなければならないのだ。

 

 ……覚悟は、決まった。

 

 心も、決めた。

 

 あとは、それを口にするだけだ。

 

「────────分かった。六条有栖、貴方に怜(・)二(・)の(・)救(・)出(・)を(・)依(・)頼(・)す(・)る(・)わ。頼めるかしら?」

『────ええ、勿論。要請は受諾したわ。今から私とこのヴォーパル・ラビットが、貴方の力になりましょう』

 

 『依頼』は、受諾された。

 

 有栖が、彼女の機体が、戦意を伴って怜二の機体と対峙する。

 

 悪魔じみた外見と化してしまった怜二の機体と流麗なフォルムを持つ兎型の有栖の機体が、その視線を交錯させる。

 

 ────開戦(オープン・コンバット)────

 

 ──そして、悪魔と兎の舞踏会が、始まった。





 というわけで暴走主人公機VS有栖戦です。ゲーム的にはこの戦闘だけ有栖の機体を操作する事になりますね。

 やっぱり、ヒロインは主人公とバトるものだよね!
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