2055年 12月11日 1001時 ルーマニア ブカレスト
五十嵐智基は、ブッシュマスターACRを撃ち、目の前の鉄血兵を撃ち倒した。UMP45とUMP9も銃を3点射し、敵を殺す。
後ろから敵が現れたが、いきなりその敵の頭が破裂し、血と脳漿、頭蓋骨の破片を地面にぶちまけながら倒れた。撃ったのは、通りの向こうのビルから援護していたSV98だ。彼女の隣では、G36がスポッターの役目をしている。
「SV、11時方向、白いビルの5階、向かって左から3番目の窓に敵スナイパーです。やっつけないと、指揮官様たちが危険です」
「任せて・・・・・ああ、見つけた」
SV98はスコープのエレベーションノブを回し、着弾点を調整した。敵にしっかりと狙いをつけて、深呼吸し、引き金を絞る。
放たれた7.62mmAPM弾はきっちり523m飛んだのち、鉄血人形の狙撃ライフルのスコープを貫通。そして、目玉を破裂させ、視神経を切断し、大脳の中を進み、頭蓋骨を割って脳組織と共に再び大気の中へ飛び出した。
「他に敵は?」
「いないようです。そろそろ移動しましょう」
「りょーかい」
G36とSV98は慣れた様子でロープを伝い、5階の窓から地面に降り立った。二人はタブレット端末を見て、次の狙撃ポイントへと移動する。
「そこのビルに行きましょう。狙撃ポイントまでは私が護衛します。いいですね」
「わかってる。頼んだよ!」
前方では、五十嵐たちが銃を撃ちながら敵を排除し続けていた。鉄血の人形兵士がバタバタと倒れ、UGVが動きを止める。ルーマニア軍の装甲車がミサイル攻撃を受け、爆発した。
2055年 12月11日 1012時 ルーマニア ブカレスト
ルーマニア陸軍のTR-85戦車とMLVM歩兵戦闘車が前進しながら鉄血の部隊を押し下げていた。通りの乗用車やトラックもそのまま押しのけていく。
「行け!行け!行け!奴らを皆殺しにしろ!」
撃たれて倒れた鉄血兵が、足を引きずりながら後退しようとした。その後ろから戦車が迫り、履帯で轢き潰して行った。地面にドロドロとした真っ赤な染みが広がる。
この国を守るのは、我々の役目だ。妙なサイボーグを連れた、民間軍事会社の奴らの世話になりっぱなしになりやしない。流石に軍だけで守りきるのは難しいが、NATOの戦闘部隊が支援に来るまでの間、時間を稼げばいい。
2055年 12月11日 0912時 ベルギー ブリュッセル NATO本部
「諸君。これは非常に由々しき事態だ。正体不明の武装勢力が、東ヨーロッパと中央アジアで侵攻を開始している。現在の所、現地の軍が対応に当たっているが、かなり苦戦しているようだ」
NATO理事長ハインリヒ・フォン・フェーヴェルが集まった理事たちに言った。後ろのスクリーンではヨーロッパの地図が表示され、東南部の辺りが赤く塗られている。
「ロシアじゃないのか?」誰かが言った。
「どうやら・・・・・ロシアも侵攻されているようだ。カザフスタンで暴れている連中の細胞が、ロシア軍を襲撃し、そのままロシア領内へと侵攻を開始したらしい」
フェーヴェルは一度、言葉を切った。
「奴らは"鉄血製造工廠"と名乗っている。どういう連中なのか、目的は何なにかは、全くもって不明。現在は、現地の軍が制圧を始めているが、苦戦しているようだ。それと・・・・・ロッキードマーチンとEADS、ダッソー、タレス・ネーデルラント、サーブ、MBDA、カザン・ヘリコプター、ハリコフトラクター、成都飛機工業公司の幹部が殺されたり、行方不明になったりした事件を覚えているか」
集まったNATOの理事の数名が頷いた。
「それは、8割方奴らの仕業だというのがインターポールから入った情報だ。諸君、我々は早急に対応を取らねばならない」
「それともう一つ。これは未確認の情報なんだが・・・あるPMCがその鉄血製造工廠と抗争を繰り広げているらしい」
「なんだと」
「どういうことだ・・・・・・」
「おい」イギリスの代表が言った。「つまり・・・・それは、我々が・・・・・その民間軍事会社とテロ組織との抗争に介入する、ということなのか?」
「連中の正体は不明。だが、幾つかの国の資産家などが、その連中に出資したりしているとの未確認情報もある。しかし、重要なのはそこではない。まずは、その鉄血製造工廠とかいうテロ組織をどうにかせねばならない。奴らの戦力も、どういう人間が所属しているのかも、全くわかっていない」
「それで、テロ組織と抗争している民間軍事会社というのは何者なんだ?」
「社名は不明。だが、目下、各国の情報機関が調査を行っている。勿論、表向きは、警備会社か普通のPMCの業務を行っているだろう。連中の情報保全はかなりしっかりしているだろうから、調査には時間がかかるだろう」
2055年 12月11日 1718時 オーストラリア 16LAB社
ショットガンを持った2人の少女がペルシカの後をついて行っていた。彼女の後ろからはカリーナという少女がついてきている。
「あーあ。何で私たちだけ置いてきぼりなのさー」
イサカM37という少女がペルシカに文句を言った。
「仕方ないだろ。あんたたちに所属させる部隊は、もう任務中だ。それに、あんたたちは"生まれた"ばっかりだ。訓練も受けずに実戦部隊に合流しても、足手まといになるだけだ」
「ま、仕方ないよ。ここで訓練して、早く実戦に参加できるようにしよ」そう言ったのはベネリM1014という少女だ。
「でもさ、ペルシカ。任務中ってことは、もう私達がどの部隊に行くのか決まってるんだよね?」
「ああ。あんたたちが配属されるのは・・・・・この部隊だよ」
ペルシカがタブレット端末でメンバーの顔を見せた。
「どれどれ・・・・・HKのUMPの姉妹にAM-RFB、最新式の銃に・・・・・スオミKP31にスプリングフィールドのボルトアクション?なにこの博物館みたいな部隊」M1014がしかめっ面で言った。
「指揮官は若い男だよ。気にいるといいね」
「へーえ、まあ、おっさんよりはマシか」M37が言う。
「さて、明日からは早速訓練をしてもらうよ。敵の侵攻速度が思ったより早くてね。グリフィンが生み出した人形を早くどんどん実戦投入しろとうるさいんだ」
「なにそれきっつそう」とM37。
「文字通り、グリフィンはあっちこっちに部隊を送り込んで大忙しさ。鉄血の奴らが世界規模でテロを引き起こしているからね」
「年末なのに、戦争戦争、嫌になっちゃう」
「こっちだって同じ気持ちだよ。早いところ、鉄血の奴らを撃滅して、終わらせたいところだ」
2055年 12月11日 1022時 ルーマニア ブカレスト
M14が目の前にいる最後の敵を撃ち倒した。そろそろ合流地点に近づいてきているはずだ。足元には、倒された鉄血兵、破壊された無人兵器、そして兵士の遺体が転がっている。
「指揮官大丈夫?」UMP9が心配そうに五十嵐の顔を覗き込んできた。
「ん?ああ、大丈夫だ。平気だよ」
多分、ここから生きて帰ったら、自分はカウンセリング行きになるな、と五十嵐は思った。なにせ、全く従軍経験の無い若者を、凄まじい戦場に送り込んだのだから。
「ビーコンの反応が強くなってきたよ。ジェリコたちはこの辺りにいるみたい」
AM-RFBがこっちをふり返って言う。後ろではM60と416、G11が通りに銃を向けて警戒している。辺りは崩れた建物、鉄屑になった乗用車やトラック、そして人間の遺体だらけだ。
「位置は特定できる?」416が言う。
「ちょっと待って、できるかもしれない」
RFBはタブレット端末をUSBケーブルでタフブックにつなぎ、猛烈な勢いでキーを叩き始めた。
「見つけた!ええと・・・・あの灰色のビルの3階にいるよ!」
「よし。まずは周辺の安全確保。そして、突入して仲間を確保。その後、離脱のためのヘリを要請する。以上だ!かかれ!」
そして、五十嵐は無線機のスイッチを押した。
「こちらB中隊。T中隊、聞こえるか?そちらがいるビルの前にたどり着いた。窓から発煙筒を焚いてくれるか?」
2055年 12月11日 1024時 ルーマニア ブカレスト
「助けが来たよ!AEK、発煙筒は!?」9A91が相棒に言う。
「あの緑色のリュックの中だ」
9A91は発煙筒と防水マッチを取り出した。窓際まで走り、火を点ける。発煙筒から毒々しい真っ赤な煙がもくもくと立ち上った。
2055年 12月11日 1024時 ルーマニア ブカレスト
「確認した。突入する」
五十嵐はACRのボルトを引き、薬室の中を確かめた。後ろからはUMP9、UMP45、FNCがついてきている。
「みんなは周辺の安全を確保してくれ。それとM60は回収用のヘリを呼んでくれ」
「了解です、指揮官」M60が無線機のスイッチを入れ、他のメンバーが通りに展開する。
「敵!12時方向!」HK416が銃を撃ち始めた。鉄血兵が5.56mm弾を食らって倒れる。G36とAM-RFBも射撃を開始した。
「指揮官、AEKたちに発煙筒を捨てさせて!目立って標的になるわ!」FALが無線機に向かって怒鳴った。
2020年 12月11日 1025時 ルーマニア ブカレスト
FALの声はAEK999にも聞こえていた。無線機の周波数をすでに合わせていたのだ。
「9A、発煙筒を捨てろ!」
その言葉と同時に、発煙筒が外に投げ捨てられる。外から激しい銃声が聞こえてきた。壁に弾丸が着弾する。AEKは窓から敵を銃撃し始めた。弾薬は乏しいが、敵を排除しなければ、迎えのヘリが降りられない。AEKが銃を断続的に連射して、敵を殺す。
「9A、先に降りてあの指揮官たちと合流しろ!」
2055年 12月11日 1029時 ルーマニア ブカレスト
「こんな時に!何であんなのが来るのよー!」
SV98が見上げた先の上空に現れたのは、鉄血のガンシップだ。ガトリング砲を備え、頑丈な装甲に覆われている。
「全員、隠れて!」
UMP45の声に、一斉に中隊のメンバーが物陰へ移動する。
「指揮官、敵のガンシップ!やっつけないと脱出できないよ!」
五十嵐にも、416の声が無線を通して聞こえていた。五十嵐は、救助に向かいながらも少し考えた。
「誰かUAVの操縦装置は持っているか?」
『あ、もってるよ!どうするの?』AM-RFBが答える。
「近くにいるUAVの操作をオーバーライドして攻撃させるんだ」
『わかった!任せて!』
鉄血のガンシップから激しく銃弾の雨が降ってきた。戦術人形たちは、身を隠すのが精一杯で、反撃することすらままならない。
「RFB、まだなの?」M60が反撃しながら言う。7.62mm弾はガンシップの装甲に弾かれ、 かすり傷一つ負わせることすらできない。
「あ、アメリカ軍のリーパー発見!武装は・・・・ヘルファイア4発!よーし、プロテクトを破って、ちょちょいのちょいっと!」
2055年 12月10日 0329時 アメリカ ネリス空軍基地
「大佐、リーパーのコントロールが効きません。一体、これは?」
空軍兵は、驚愕した。無人機がこちらの操作から外れ、勝手に飛行を始めたのだ。
「どうした?」
「これはまるで・・・・・・操縦を乗っ取られたような・・・・・」
「おい」大佐は、リーパーから送信されてくる画像を見て言った。「あれは何だ?」
2055年 12月11日 1032時 ルーマニア ブカレスト
「ミサイルロックオン、ファイア!」AM-RFBがPCを操作すると、アメリカ軍の無人機から対戦車ミサイルが発射された。ミサイルはガンシップを破壊し、地面に叩き落とした。
「やったね!さ、早くヘリを呼んで」
「わかった」五十嵐は無線機を手に持った。
「B中隊よりHQへ」
『B中隊、こちらHQ、どうぞ』
「目標確保。今から座標を送る。周辺の安全は確保されている」
『HQ了解、迎えと護衛のヘリを寄越す。座標を確認した。20分で到着する』
「B中隊了解、20分だな仲間に待機させておく。通信終了」