2056年 4月2日 1516時 ドバイ
ヘリの部隊が全滅するのはあっという間だった。ブラックホークもキラーエッグも地面に落ちて炎上している。程なくして更に追い打ちをかけるように、爆発音が数回、ヘリの墜落地点で鳴り始める。爆発の規模からして、ジャガーの迫撃砲が着弾したものと思われる。
「くそっ、マジかよ!ヘリが!」
立て続けに銃声が鳴った。SV98とM14が射撃を開始したようだ。
『指揮官!こっちに敵が来ます!』
無線からSV98の声が聞こえてきた。それには銃声が混じっている。416とUMP45が五十嵐を引っ張り、建物の中に引きずり込むようにして連れていく。その場にいた全員が建物に入るなり、コンクリートの壁を銃弾が叩き、窓ガラスが割れる。
「伏せて!伏せて!」
G36と416が床に伏せる五十嵐に覆いかぶさった。弾丸が漆喰に食い込み、中のキャビネットやロッカーに当たって金属音を響かせる。
「SV!M14!あいつらを撃って!早く!」
416が無線のスロートマイクに向かって叫んぶと同時に鋭い銃声が聞こえてきた。どうやら屋根の上の仲間たちが攻撃を開始したようだ。
2056年 4月2日 1517時 ドバイ
「うわっ!いくら何でも、敵が多すぎるよ!」
QBU-88が目についた敵を片っ端から撃ちながらぼやいた。7.62mm弾や30-06弾などがリッパーやヴェスパの頭に命中し、生体組織や強化プラスチック、炭素繊維の欠片をそこら辺に撒き散らす。
「指揮官!M60とAEKを屋根に連れてきて下さい!私たちだけだと敵を排除しきれません!」
スプリングフィールドがスロートマイクのスイッチを押して叫ぶ。彼女の銃は旧式であるが、ピカティニーレールが取り付けられ、それにはリューポルドVX-6HDという21世紀型のスコープが乗っている。
ズドン!ひと際大きな銃声が鳴る。ファルコンが50BMG弾を放った音だ。重く、大きな徹甲弾は迫ってきたネイマムの装甲を撃ち抜き、機能停止に追い込む。
「指揮官!聞こえてますか!?」
2056年 4月2日 1517時 ドバイ
五十嵐たちは床に這いつくばり、身動きが取れない状況だった。窓から猛烈な勢いで弾丸が飛び込み、建物の中を破壊していく。壁に取り付けられた液晶スクリーンが粉々になり、通信機器やロッカーが割れる。暫くして銃撃が途絶えた。どうやら、ガトリングガンの弾薬ベルトを使いきったらしい。
416とG36が、指揮官が怪我をしていないかどうか確かめるため、五十嵐の首や腕、脚をまさぐった。切り傷一つどころか、服が破れている箇所も無い。
「まずいわね。みんな、立ち上がっちゃダメよ。匍匐前進で階段に向かって!一階にいたらまずいわ!」
その場にいる全員が腹ばいになり、ほぼ地面に全身を擦るようにして階段を目指した。銃弾が空気を切り裂き、建物の中にあるものを破壊する。少しでも頭を上げたら、即、あの世行きだ。
『指揮官!聞こえますか!?M60とAEKを屋上に連れてきてくれないと、全滅してしまいます!』
しかし、少しでも顔を上げたら銃弾が命中してしまいそうな状態だ。それどころか、指一本動かすのも危険とも言える。
「M16、その盾を貸して下さい!」
「ほらよ!」
M16が背負っていたライオットシールドをG36の方に滑らせた。チタンと鋼鉄の合金とセラミック、ケブラーの三層構造でできた巨大な盾を掴み、角度を付けて立てかけた。全員が階段に向かってゆっくりと進んでいくが、416があることに気づいた。
「ダメよ!みんな、止まって!」
階段の方を見ると、それには幾つもの銃弾の跡が刻まれ、それがどんどん増えていくのがわかった。そこに向かうと、弾丸の直撃を食らってしまう。
完全に釘付け状態だ。ちょっとでも下手に動くと銃弾の餌食になりかねない。こうなったら、屋上にいるSV98たちに敵を排除してもらわねばならない。問題は、どれだけの数の敵がこっちにいるのかわからないということだ。
2056年 4月2日 1520時 ドバイ
呉明は通りの向こうの様子をそって確認した。銃声は聞こえてこないが、その代わり、破壊された車両や銃弾に斃れた人々の死体が数多く転がっている。すこし太陽が傾き、西から差し込んでくる強い陽光が目を焼く。
通りの向こうの様子をスコープで覗っていたWA2000が合図すると、79式を先頭に呉と95式、97式が200m先に放置されている大きなトラックまで走った。4人が目的のポイントまで到達すると、G17、AUG、SAT8、M1ガーランドも続く。
早いところ味方と合流して脱出せねばならない。しかしながら、そう上手くもいかないのが現状だ。そこら中敵だらけで、少しでも下手に動くと狙い撃ちされかねない。
呉はRPG-7かSMAWを持ってこなかったことをかなり悔いた。アイギスやネイマムの姿は今のところ確認していないが、ここには派遣されているはずだ。仕方が無い。可能であれば、軍が置き去りにした装備を頂いていくことにしよう。
「みんな。もし、使えそうなロケットランチャーが転がっているのを見つけたら拾えるだけ拾って」
「指揮官、何でRPGを持ってこなかったんですか?」79式が呉に訊く。
「私としたことが、慌てすぎたのよ。もうちょっとよく考えて装備を選ぶべきだったわ。爆発物を手榴弾とC4だけに頼るだなんて」
暫くすると、ヘリの羽音が聞こえてきた。MH-6JリトルバードとAH-6Jキラーエッグが2機ずつだ。それは上空を飛び回り、戦場を監視しているようだ。また、機体両サイドにベンチシートがあり、それには4人の重武装したグリフィンの戦闘員が乗っている。
その戦闘員のうちの一人が呉たちに気づき、片手を上げた。97式が飛び跳ねながら彼に手を降る。彼らは親指を立てて見せる。やがて4機のヘリは方向転換し、南の方へと向かって行く。
呉たちはヘリの姿が小さくなっていくのを暫く見ていた。だが、ビルの間から煙を引きながら何かが空に向かって飛んで行く。それが地対空ミサイルであることに気づくのに時間はかからなかった。
ミサイルは小さなヘリのすぐ近くで近接信管を作動させた。ミサイル自体の外殻の破片と弾頭の内部に仕込んであった金属のフラグメントが空中にばら撒かれる。それは、あっという間に小さなヘリをズタズタに切り裂き、中のパイロットを即死させた。AH-6Jの1機が方向転換し、2.75インチ口径ロケットを放った。弾頭の榴弾が炸裂し、煙が上がるのが見える。だが、その反撃も無駄に終わった。小さな攻撃ヘリが向いている方向とは反対方向から煙の筋が伸びていく。
地対空ミサイルはAH-6Jに命中し、完全に破壊した。これで呉たちの上にいた航空部隊は全滅してしまった。
「ちょっと、嘘でしょ!?」
呉は愕然とした様子で空を見上げた。まさか制空権を掌握できていないとは思ってもいなかったのだ。鉄血が配備した地対空ミサイルを排除しきれていなかったのだ。呉は慌てて無線機のスイッチを押した。
2056年 4月2日 1526時 UAE ドバイ国際空港
カリーナは通信機を手に慌ただしく連絡を取っていた。暫くすると、ゲートが開き車列が入ってくる。その車列は基地の医療部隊のテントのすぐ前に停車した。車の中からCX4ストームサブマシンガンを持った少女に肩を支えられた若い男が降りてきた。
「怪我人だよ!衛生兵!早く!」
K-11複合自動小銃を持つ少女が大声で叫ぶ。その声に気づいた赤十字の腕章を付けたグリフィンの職員たちが駆け寄る。
「ほら、担架に乗せるよ、指揮官。この程度の怪我なら、それほど時間がかからずに治るさ。せーのっ」
若い男は担架に乗せられ、赤十字のマークが取り付けられた建物の中に運ばれていく。その後を十人以上もの戦術人形たちが付いて行った。
「カリーナさん!」
後方幕僚班の一人が報告のために駆け寄ってきた。
「航空支援部隊がやられました!代わりに無人機を出します!」
その言葉と同時に、数機のMQ-8Bが離陸した。スタブウィングにはAGM-114Kヘルファイア対戦車ミサイルやGBU-44ヴァイパーストライク誘導爆弾が搭載されている。
先程出撃した部隊はボロボロの状態で戻ってきた。指揮官は負傷しただけで済んだが、一部の戦術人形は予備の素体にバックアップしたメンタルモデルをインストールし直す必要がある。
ここまで酷くやられるのは予想外だった。また有人機での航空部隊を出すには、敵の対空兵器を排除する必要がある。
ここでの作戦の指揮を一任されているカリーナは、無人機しか出すことができないと判断した。無人機である程度敵を叩いて、あとはリスクはあるが、ヘリ部隊を再び出す他ない。
しかし、それには時間がかかる。作戦を決行するにも、ヘリアンの承認が必要になるだろう。それまでに、派遣している部隊が持ちこたえてくれればの話になってくるのだが・・・・・。