2056年 4月2日 1632時 ドバイ
五十嵐たちは先ほどの鉄血の襲撃をなんとか退けたが、脱出手段が殆ど無い状況に追い込まれていた。まず、脱出手段であるはずのヘリが撃墜されてしまった。そこで、五十嵐はRFBに小型ドローンを飛ばして様子を探らせるよう指示を出した。
まずは、撃墜されたヘリの搭乗員を救出せねばならない。だが、それには大きな問題が立ちふさがっていた。まず、徒歩で墜落地点に行くにはかなり時間がかかるという事だ。そして・・・・・。
「指揮官、これ見て」
RFBがタフブックの画面を見せた。UAVから送信されてくる画像には、撃墜されたヘリが映っている。AH-6Jのようだが、一部が割れたキャノピーにべっとりと付着した血液のせいで、中のパイロットの様子が見えない。だが、どうなっているのかはなんとなく想像できた。
「助けに行けそうか?このまま放っておくのはまずいけど・・・・・」
「残念だけど、そうもいかないみたい。これを見て」
RFBがキーボードを叩き、ドローンを操作した。小さな偵察機が上昇し、墜落地点のの俯瞰図を映し出す。そして、破壊されたヘリに鉄血のサイボーグの集団が向かっているのが見えた。
「どう考えても助けるのは無理だよね。突っ込んだら全滅しちゃうよこれ」
ヘリが爆発を起こし、炎上した。中の人間は今頃バーベキューになっているだろう。RFBは更にドローンを動かして外の様子を確認する。マンティコアの集団が通りを過ぎ去り、アイギスとネイマムが隊列を組み始めた。
「M4、どう思う?」五十嵐が意見を求めた。
「これは外に出るのはまずいですね。全員で戦っても、囲まれてオシマイです。救助を待つのが得策だと思います」
「その救助が来るかどうかも問題だけどね」
RFBはタフブックを操作した。救助部隊を呼び出さねばならない。だが。
「あ・・・・あれ?」
「RFB、どうした?」
五十嵐が仲間の方を見る。
「ネットワークに接続できなくなってる。何でだろ?指揮官、無線通じる?」
五十嵐は無線機を取り出し、スイッチを入れた。だが、どのチャンネルも雑音ばかりで、全く通じる気配が無い。ジャミングだ。鉄血が妨害電波をどこかから照射しているようだ。ECCM装置は持っていないし、それは小さいものでも車両搭載用のサイズなので、おいそれと用意できるようなものでは無い。
「ダメみたいだ。これはお手上げかもな」
足音が聞こえてきた。五十嵐がそれがする方に顔を向けると、SV98と9A-91がやってきた。
「指揮官、そこら中に敵がうようよしています。車でもヘリでも、脱出するのは危険そうです。それと、駐車場にハマーがありましたが、1両だけでした」
「どう考えても、籠城する他無さそうだな。後は、自分で何とかするか、救助を待つか。全く、こうなるとは思ってもいなかったよ」
「こういうのって、何て言うんだっけ?救助部隊が、救助されないといけなくなるって・・・・」
「ミイラ取りがミイラになる、だね。今まで作戦を順調にやってきたから、今回も上手くいくと思ったのに」
「無理はするべきじゃないぞ、指揮官。何、いざとなったら、あんたの盾になる覚悟はできてる。私たち、全員がな」
M16はそう言って、自分の装備品の点検を始めた。鉄血がこちらに気づけば、総攻撃を仕掛けて来るだろう。それにしっかりと備える他ない。まあ、そうなったら、できることなど、限られてはいるが。
2056年 4月2日 1639時 ドバイ
「ナインさん、そっちは何かありましたか?」
「9mm弾と5.56mm弾、7.62mmのNATO弾。それから7.62mm×39や5.45mm×39弾、7.62mm×54Rはあったけど、9mm×39は無いみたい」
「そうですか。50口径はありますか?」
「それも無し。ファルコンと9Aには悪いけどね。45姉、そっちは?」
「手榴弾が幾つかとC4にタイマー、信管が幾つか」
「まさか、RPGやカールグスタフの弾なんてのは無いよね?」
「無し、ね。残念だけど」
UMP9と45、TMPは武器庫から使えそうなものを探していた。先ほどの襲撃を退けたとき、かなりの弾薬を消耗してしまったからだ。
「45姉、これはどう?」
UMP9が差し出したのは、やや古い偵察ロボットだった。見た目は蜘蛛のようで、カメラが4つ、それぞれ別方向を映し出すように取り付けてある。機体にあるデータバスを確認したところ、手持ちのタフブックで操作できそうだ。
「ナイン、それ、何個あったの?」
「ええっと・・・・10個だね。でも、そのうちまともに動くのが何個かはわからないし、バッテリーも充電されてないから、使えるかどうかわからないよ」
「45さん、それにをこのC-4を載せるというのはどうですか?敵に突っ込ませて、リモコンで起爆するんです」TMPが提案する。
「でも、リモコン信管なんて持ってきたかしら?」
UMP45はタブレット端末を操作して、隊員それぞれの持ち物のデータを確認した。リモコン信管の『リ』の字も出てこない。
「仕方ないわ。タイマーでなんとかしましょう。調整が難しいけど」
「うーん。ま、後で指揮官に相談して、どうするか決めるしかないか」
2056年 4月2日 1643時 ドバイ
SV98はスコープ越しに通りの向こうを見た。炎上する何かの残骸があり、リッパーとヴェスパがそれを調べているのがわかる。彼女は引き金に指をかけ、スコープのクロスヘアの交点を敵集団のうち1体の頭に重ねた。
2056年 4月2日 同時刻 ドバイ
1台のアルマータT15歩兵戦闘車が轟音を立てながら広い通りを進んでいる。黒い履帯が力強く回り、道端に放置されていた赤いフェラーリを踏みつぶして煎餅のようにぺしゃんこにした。
T15の砲手席には95式が座り、その隣の車長席にいる呉明は車外カメラを使って周囲の様子を確認している。日は傾き始め、周囲は静まり返っている。通りには撃たれた市民や警察官、軍人の遺体が放置されたかのように転がっている。一体、何人の人が逃げ遅れたのだろうか。時折、銃声や爆発音が聞こえてくる。UAE陸軍はまだ交戦中なのだろうか。
不意に空の上を黒い影が現れ、呉は思わずハッチを開けて上空を確認した。くすんだ黄色と薄い茶色に塗装された4機のAH-64Dアパッチ・ロングボウ攻撃ヘリが轟音を上げながら飛んで行く。日は傾き始め、もうすぐ日没となるだろう。AN/PVS-14暗視ゴーグルとAN/PEQ-2A赤外線レーザーサイトを用意しておいてよかった。これが無ければ、いざ戦闘になった場合はかなり苦戦するだろう。仲間たちは、軍の戦闘用ロボットと違って元々は民生用の自律人形なので、視覚モジュールに暗視機能は無い。そのため、夜間での戦闘では暗視装置で視界を補ってやる必要がある。
「指揮官様、ここから先は・・・・・・、敵です!」
T15が進む先にマンティコアとネイマム、リッパーの集団がいた。呉は機関砲の発射ボタンを押し込み、敵に向けて発射する。30mmの大口径徹甲弾が敵を砕き、排除する。だが、後ろにいる敵に呉は気づかなかった。マンティコアが放った榴弾が歩兵戦闘車の後部装甲を浅く貫通し、APUを一部損傷させた。だが、エンジンは動いているし、電力は供給されているため、まだ走ることはできる。
「しまった!」
呉は車長席のオーバーライド機能を使い、コルネット対戦車ミサイルを放った。対戦車ミサイルはマンティコアを直撃し、機能停止に追い込んだ。更に機関砲でリッパーやネイマムを薙ぎ払う。そして、小銃弾が歩兵戦闘車の装甲板を叩く軽快な音が聞こえてくる。まだ残っている敵が反撃してきているのだ。
呉はチェーンガンの発射ボタンを押した。断続的に機関砲から劣化ウラン弾が放たれる。強固な装甲を持つ鉄血のロボット兵器も、30mmの劣化ウラン弾の直撃には耐えられず、煙を上げて機能停止した。
「79式!止まらないで!奴らを轢き殺して!」
歩兵戦闘車を運転していた79式は、呉の指示通りアクセルを踏み込んだ。アルマータT15の履帯が力強く回り、鉄血のサイボーグにのしかかった。轢き潰されたリッパーやヴェスパから勢いよく体液が流れ出し、千切れた腕や脚からは金属製の骨格がのぞいている。
歩兵戦闘車は機関銃を放ちながら敵をなぎ倒し、目的地へと進んでいく。その後ろには、機械油と人工血液が混ざり合った水たまりや、生体組織や金属、セラミックなどの欠片が残されている。
「指揮官様、どうします?」
「そのままターゲットまで突っ走って!あいつらを・・・・・・」
だが、1発のミサイルがアルマータT15の車体前部を直撃した。タンデム弾頭がエンジンを焼き切り、歩兵戦闘車は完全に停止した。
「しまった!みんな!降りて!」
G17とWA2000が後部ドアを開き、急いで車外に出た。AUGと79式が呉を引っ張り車外に出る。M1ガーランドはスコープを覗き込み、遠くにいるリッパーを狙撃する。8対の敵を斃したところで甲高い金属音を鳴らしながらクリップが飛ぶ。彼女はクリップをマガジンパウチから取り出し、銃に押し込んだ。MG23はフルオートで一気に弾幕を張り、弾薬ベルト1本をあっという間に丸々撃ち切った。
AUGと95式、97式が左右に展開し、敵に向かって射撃を始めた。SAT8が手榴弾を投げる。その爆発が巻き散らした金属の破片にリッパーとガードが切り裂かれる。
MG23が慌ててRPG7とその弾頭を装甲車から持ち出した。他にも手榴弾やC4、リモコン信管などが入ったザックを引っ張り出す。炎上するアルマータから装備を全て持ち出すことに成功した。
「撃って!撃って!」
呉と95式、AUGが炎上する装甲車を盾に反撃を開始した。小銃弾を受けた敵が倒れる。だが、敵もサブマシンガンやアサルトライフルで反撃してくる。鉛玉が金属の装甲板を叩く音が響いた。
敵があまりにも多いが、何としてもターゲットまでに辿り着かねばならない。さもなければ、友人の死に顔を拝む羽目になってしまうだろう。