2056年 4月2日 1927時 ドバイ
12.7㎜弾がジャミング装置を撃ち抜いた。しかし、命中した場所が悪かったのか、まだそれは作動しているようだった。
「指揮官さん、もう1発撃ちます」
M200はボルトを引き、弾倉から巨大な弾薬を薬室へ送り込み、引き金を引いた。凄まじい轟音とも言うべき銃声が鳴る。ブレナンは耳を塞いでおいて良かった、と思った。そうでなければ、銃声に耳をやられて暫く使い物にならなくなったであろう。ブレナンは無線機を作動させた。若干の雑音が鳴っているが、さっきよりはマシになった感じはある。
「やっぱりあれが悪さをしているみたいだな。だけど、一つ一つ片づけるのは時間がかかってしょうがないか。一気に電力を落とさないとダメなようだ」
「だからと言って、この町の電源を全部落とす気ですか?」M200が言う。
「はー?何考えているのさ、指揮官。そんなの無理無理。普通に考えて、発電所を空爆して吹っ飛ばさないといけないよ」MDRは相変わらず、左手で物凄く旧式の携帯電話を弄っている。もう化石とも言えるような代物だが、彼女は独自の回路やバッテリー、マイクロチップなどをそれに組み込んで、使用可能な状態を保っていた。
「まあ、見つけ次第ぶっ壊しておくしか無いな。セムテックスとタイマー信管、リモコン信管はどれだけあるか?」ブレナンがMDRに訊く。
「それなりに用意しておいたよ。小さい建物なら丸ごと吹っ飛ばせるくらいには」
「よし、いい子だ。それに、色々な場所で爆弾テロを仕掛けておけば、奴らはそれに気を取られてあちこち分散されるかもしれない」
突然、赤い光が空に向かって幾つも伸びていった。鉄血の対空兵器が放つ曳光弾やミサイルだ。暫くすると、空で爆発が起きるのが見える。そのうちの一つがかなりはっきりとブレナンたちは確認できた。UH-60と思しきヘリが炎上し、3ブロックほど南の通りの方へと落下していくのが見えたからだ。
「畜生!ここはヤバい!隠れるんだ!」
ハイウェイに撃墜されたAH-64Eアパッチ・ガーディアン攻撃ヘリが激突し、大爆発を起こす。残念ながら、パイロットもガンナーもコックピットの中でバーベキューになってしまっているだろう。続いて、UH-60Mブラックホークが炎上したままビルの屋上にハードランディングする。
「こっちです!」
JS9がブレナンの左腕を引っ張り、1ブロック離れた場所にある、高い塀で囲まれた大きな建物の中に向かう。鉄筋コンクリートでできた、そこそこ頑丈そうな造りをしていた。他の仲間たちも同様にその建物に向かう。
2056年 4月2日 1929時 ドバイ
ブレナンたちが避難したのは消防署のようだった。放置された消防車や救急車が車庫にあり、消防用ホースや防火服、消火用の斧、頑丈なアラミド繊維でできたロープなどがそのままの状態で置いてある。
「いや、参った。軍の部隊もここまでやられるか」
「ええ・・・・?カリーナさんは、軍の戦力は鉄血を上回っていたとか言っていたじゃないですか」ステンがブレナンをやや訝し気な表情で見る。
「どうせ情報部の連中が分析を間違えたんだろ。珍しくも無いだろ」
「うう・・・・、何でこんな目にあうんですか・・・・」
MP5はしょげた様子で事務所にある椅子に座った。
「全くだ。これが済んだらヘリアンにいつもの7、8倍額の報酬を請求してやらんとな。そうでもしないと割に合わん」
「随分と吹っ掛けますね」RPDが目を細める。
「ああ。こいつを終わらせたら、キリバスかパラオにでも行ってのんびり過ごすか、シンガポールかモナコ辺りで豪遊するか、まあ、どっちでもいいか」
「うーん、ちょっとまずいかも。そこら中敵だらけになってきたよ」
窓から周囲を監視していたP7が暗視装置を持って戻ってきた。
「勘弁してくれ。ミイラ取りがミイラになっちゃ世話無いぞ」
「指揮官、ちょっといいですか?」
JS9が何かを見つけたらしく、ブレナンを消防署の1階にある部屋に連れ込んだ。
2056年 4月2日 1937時 ドバイ
JS9が見つけたのは、消防署の1階部分にあるマンホールの蓋だった。だが、そのマンホールは下水道では無く、地下に埋設されている送電網のトンネルへと伸びていた。それは、どうやらメンテナンスを行う作業員が入っていくためのものらしい。
ブレナンとJS9はマンホールの蓋を開け、強烈な光を放つタクティカルライトで中を照らした。作業員が中に入って行けるように梯子があり、その地下送電網のトンネルを移動すれば、無暗に敵と交戦することなく市内を移動できそうだ。
「なるほど、こいつはいい。タブレットに映す戦術マップの設定をGPSから慣性航法にすれば、どこに向かっているのかもだいたいわかるな。みんなを呼んできてくれ」
「わかりました」
2056年 4月2日 1941時 ドバイ 送電トンネル
スコット・ブレナンたちは送電網のトンネルへと梯子を使って降り始めた。最初にJS9とStG44、RPDがトンネルに降りて周囲を警戒する。続いてK31とMP5がトンネルに到達したところで、ブレナン、ステン、AR70の番となった。ブレナンが先を行き、二人が後から付いてくる形だ。
「ちっ、結局穴倉だな。この前のフィンランドの時もそうだったな」
トンネルに降りたブレナンは暗視ゴーグルを装着し、ケミカルライトを折って発光させた。他の隊員たちもブレナンに倣う。
「あれは本当に酷かったよねー。軍はボロボロだし、鉄血は津波みたいに押し寄せて来るし」
「ああ、グリッドレイが来てくれなかったら、マジで死んでいたかもしれん」
トンネルはメンテナンス要員が入って行けるようにかなり広いが、内部を照らすはずのLEDライトは全て死んでいた。
「よし、この中ならマンティコアやストライカーみたいなデカブツは入って来れないだろうが、スカウトやダイナゲートがうろうろしているかもしれないから気を付けろ。それから、千切れてるケーブルには触るな。感電して大変なことになるからな」
用意していた暗視ゴーグルは最新型で、ノイズは殆どなく、視野も裸眼とそれほど変わらない。ここで持ってきたM72ロケットランチャーをぶっ放すのは無理だ。手榴弾を使うもの注意する必要がある。
暫く歩いていると、地面が揺れてボロボロと埃が降ってきた。砲弾がすぐ真上で着弾したようだ。
「指揮官、これいきなり上が崩れたりしないよね」
K31は普段使っているライフルを背中に回し、サイドアームのP320を両手で構えていた。
「そいつは神のみぞ知るところだな。さてと、ここからだとその右のトンネルに入って真っすぐだな。そこに行けば、支部に辿り着けるはずだ」
2056年 4月2日 1955時 ドバイ グリフィン支部
ベレッタM9とTMPは暗視装置を身に着け、脚立を使って塀をよじ登り、そっと外の様子を窺った。やはり周囲は敵だらけで、迂闊に外へ出て行ける様子ではない。
「ちょっと、M9さん。あまり乗り出さないでくださいよ。敵に見つかっちゃうじゃないですか」
下で脚立を支えているTMPが下から小声で話しかける。
「うーん、敵はいないみたいなの」
ベレッタM9は脚立を下り、地面に飛び降りた。TMPと二人で長い脚立を片づけ、建物の中に戻ろうとする。
『二人とも何やってるのさ。早く戻ってよ。見張りはこっちに任せていれば問題ないからさ』
無線からM14の声が聞こえてきた。屋根の上には彼女とQBU-88が見張りについている。
「うー、わかったなの」
遠くから自動火器の音が断続的に聞こえてきた。軍と鉄血が交戦しているのか、それとも鉄血が市民を一方的に攻撃しているのかどうかはわからない。
TMPとM9は二人で梯子を抱え、コトコトと建物に向かって走る。空は雲が全く無く、月明かりと星の瞬きのおかげで暗視ゴーグルが必要無いと思えるくらい周囲の様子がはっきりとわかった。
助けが来ないことには、全く身動きが取れないが、その助けが来るかどうかも怪しい状況だ。通信手段は無く、援軍を呼ぶのも殆ど困難だ。
一方で、五十嵐の方は、食堂のテーブルの前で地図を眺め、脱出経路を確認していた。が、先程、RFBが飛ばした小型無人機からの映像を確認した限り、どう考えてもヘリがやって来ない限りは脱出するのは無理そうだ。しかしながら、制空権は鉄血側にある状況だ。
「考えれば考えるほど厳しいわねこれは」
416がM14が持っているカメラから送られてくる映像を確認してそう言った。赤外線カメラなので、画像は白黒に描かれている。大きな通りではマンティコアが隊列を成して行進し、イェーガーが高い建物の屋上に配置され始めた。更にMi-17やZ-8といったヘリが飛来して、更なる鉄血の援軍がやって来る。支部の武器庫を漁って見たが、グレイルやスティンガーといった携行式地対空ミサイルの在庫は全く無かった。
「そのグレネードランチャーは修理できるかな?」
五十嵐が見たのは、床の上で分解されているヘッケラー&コッホGMWだ。ベルトリンク式の40mmグレネードを毎分340発の速度で撃ち出す。ところが、調べたところ、給弾システムと機関部が故障してしまっていて、使い物にならない状態だ。
「ダメね。TMPが一生懸命分解して部品を調べたりしていたけど、スペアパーツが無いとどうにもならないって。そのスペアも倉庫に無いわよ」
「ロシアの対戦車ミサイルもあったんだけど、最初の襲撃でマンティコアの大群がやって来たから、私たちが全部使っちゃったわ。悪いわね」
五十嵐の向かい側に座っているニーナ・クリモヴァが肩をすくめた。それを聞いた五十嵐はため息をついて、両肘を机の上に置き、両手で顎を支えた。
クリモヴァはこの若い日本人の顔を改めて眺めた。黒い髪は短く刈られ、透明なアイウェアが光を反射しているため気づかなかったが、その瞳は黒みのかかった濃い茶色をしている。実年齢よりもやや幼く見え、もし、このような状況でなければ口説いてみたくなる、どちらかと言えば可愛らしい部類に入る顔だ。
「あーあ。こりゃ助けが来るのを待っても無理か。仕方が無い、ジャミングが弱まる瞬間を狙って救難信号を出すのも難しそうだし。こうなったら、脱出路を確認して、一気に戦場を駆け抜けるしかない」
現実的に、それしか選択肢は無いのは目に見えている。
「仕方が無いわね。リスクはあるけど、他に手段があるかと言えば、無いわ。それじゃ、どのルートを脱出路にするのか決めないといけないわね」
「ようし。416、M4と45を呼んできてくれ。今から脱出ルートを決める。他のみんなには、装備を点検して、戦いに備えるように言っておいて」
「わかった。それと、武器庫の中は?」
「漁っておくよう言っておいて。5人くらいにやらせておけばいい」
「任せて」
416はそう言って、部屋を出た。彼女は完璧であることを自負しているが、実際のところ、416以上に優秀な参謀役はこの場にはいない。このまずい状況から抜け出すには、間違いなく416の力は必要不可欠だ。
暫くすると、M4とUMP45を連れた416がやって来た。
「それで、何か名案でも思い付いた?」45が言う。
「いや、それがさっぱりだよ。それで、仕方ないから、敵が一番手薄そうな場所を見つけて強行突破することにした」
「大丈夫なの?それ」UMP45が目を細める。
「他にいい案は?」
「無いわね」416が肩をすくめる。
「それじゃ、そうしよう。他のみんなを集めて、何処を突破するか考えよう」