※この作品はR-18です。

ドールズフロントライン ルナティックウォー   作:F.Y

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助けに来たのはどぶネズミたち

 2056年 4月2日 2004時 ドバイ

 

 スコット・ブレナンたちは、相も変わらず市内の地下にある送電網のメンテナンス用トンネルの中を移動していた。まるで、どぶネズミにでもなったような気分である。幸いにも、鉄血の連中はこの地面の下に隠されている迷路の存在を知らないのか、それとも放置していても問題は無いと判断したのか、ダイナゲートやスカウト1匹にすら遭遇することなく、順調に目的地に到達できそうだ。

 ところが、問題もある。地下にいる分、上空を飛んでいるはずの無人偵察機からの映像をタブレットPCで受信することができず、地上の状況を確認することができない。

 

「指揮官、そこのマンホールから外に出た方がいいよ。そこから出れば、支部はすぐすこだよ」

 

 トンネルに振動が伝わり、パラパラと埃が落ちてきた。榴弾砲が着弾したようだ。

 

「ようし。じゃあ、とっとと地上に出よう。こんなところにいたら、気が滅入ってしまいそうだ」

 

 ブレナンはスリングで吊り下げている自動小銃を背中に回し、地上に続く梯子をすぐに上り始めた。そのすぐ後ろからステンとAR70、StG44と戦術人形たちが続く。

 ブレナンはマンホールの蓋を僅かに開け、暗視ゴーグルで外の様子を窺った。敵は今のところ、通りをうろついている様子は無い。ブレナンは素早く通りに出て、マンホールの蓋を外し、後から続く仲間たちに手を貸してやる。

 

 ブレナンの合図で戦術人形たちが通りに展開した。時折銃声が鳴り、爆発音が連続する。ここも"ネオソ連"を組織している東ヨーロッパと変わらない。第三次世界大戦後、ベラルーシ、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、モルドヴァといった国は、旧ロシア連邦と半分併合されたような状態となり、今や他の国々から"ネオソ連"と呼ばれるようになった。ロシアはバルト三国とジョージア、ウクライナにも"ネオソ連"に加わるよう呼び掛けたものの、これら5か国はきっぱりとこれを拒否した。

 "ネオソ連"は現在、鉄血の撃破を名目に東欧に軍を派遣しているが、ヨーロッパ諸国はこれに不快感を示している。かつてのEUに代わって組織された汎ヨーロッパ連合は、経済的なつながりよりも安全保障面での結びつきを重視する傾向にある。NATOは未だに健在だが、今、ヨーロッパはアメリカからの影響力を弱めようとする傾向が強い。

 周囲は真っ暗で、暗視ゴーグルと赤外線レーザーサイト無しではまともに戦うのは難しい。ブレナンはAN/PEQ-15のスイッチを入れた。赤外線と不可視光レーザーが前方を照らす。しかし、これは光源増幅式の暗視ゴーグルを持っている者だけが受けられる恩恵であって、肉眼だけでは真っ暗にしか見えない。仲間たちもブレナンと同様に暗視ゴーグルを装着していた。

 

「それにしても、サイボーグだというのに随分不便なんだな。ペルシカから暗視用の視覚モジュールを組み込んでもらわなかったのか?」ブレナンが隣にいたStG44に小声で話しかける。

 

「残念ながら、私たちは元々民生用のサイボーグですし、そういった改造はできないようになっていますので」

 

 やれやれ。PMCに所属しているとはいえ、これが民生用自律人形の限界か。グリフィンに自律人形を提供しているIOPとしては、あまり改造をやり過ぎて、当局に目を付けられるのを避けたいのかもしれない。

 

 目の前の光景は、ここに到着して見てきたものと全く変わらない。破壊された車にボロボロになった建物、そして、銃弾でハチの巣になったり焼かれて炭化した人間の死体とサイボーグの残骸。

 全くイカレてる。ブレナンは、お気にいりの冒険活劇小説のような体験をしたくて、大学を中退してまでPMCの世界に向かったが、ここまでヤバい目に遭うとは思っていなかった。

 ブレナンは何かお守りであるかのようにホルスターからグロック19を引き抜き、スライドを少し引いて薬室に9mmのホローポイント弾が装填されているのを確認した。ニーマムやイージス、マンティコアの装甲を撃ち抜くことはできないが、他のサイボーグやプラウラー、ジャガーなど装甲の薄いロボット兵器には効果がある。

 ブレナンは鉄血の兵器についてのデータを見た時、破壊されたくなけりゃ装甲を思いっきり分厚くして銃弾が通用しないようにすればよいだろう、と意見したことがあった。だが、その言葉を聞いた元軍人であるジェラルド・グリッドレイはそれをあっさりと否定した。曰く『確かに装甲を分厚くすればするほど、防御力を確保できて攻撃に耐えられるだろう。だが、当然ながら、その分動きが鈍くなる。だから、装甲板で強化された敵を見たら、落ち着いて徹甲弾を装填して狙い撃ちすれば良い』ということだ。

 

 ブレナンは周囲をぐるりと見回した。GPSが無ければ、ここがドバイ市のどこなのか全くわからない。ブレナンは小さな端末をポケットから取り出し、位置情報を受信しようとした。だが、ジャミングを受けているのか、内部データにある地図以外、何も表示されていないし、wi-fiもGPSもデータ通信も、全て受信不可、という表示が出ていた。

 

「ファッキン、サノバビッチ。GPSもネットも、全部ダメになってる」

 

 ブレナンは周囲を見回し、ザックから防水加工されたドバイ市の地図を取り出した。道路標識を目印に、ここがどこなのかを確認しようとする。GPSに頼り切った作戦行動ばかりしてきたツケがここで回ってきた。

 

「ええと・・・・ここの通りが・・・・・」

 

 道路標識は破壊され、読み取ることすら困難な状態だ。ブレナンは肩をすくめ、仲間たちの方を見た。

 

「あーあ、こりゃ悲惨だね。ここまで滅茶苦茶なのを見るのも久しぶりだよ」

 

 MDRが古い端末を取り出し、写真を撮り始めた。

 

 一方、ブレナンは脱出手段の検討をしていた。空は押さえられているから、ヘリを呼んで空路からの脱出は極めて危険だ。だとしたら、手段は一つ。そこら辺で動くワゴン車やトラック、バス、可能であれば装甲兵員輸送車を調達して、陸路でグリフィンの支配地域へ向かうことだ。

 

「JS9、目的地に着いたら、先に使えそうな車を探そう。バスやトラック、できれば装甲兵員輸送車がいい。ガソリンがどれだけ入っているかが問題だが、こんな所をもたもた歩くよりはずっとマシだ」

 

「了解です。ガソリンスタンドもついでに探して、ハイオクガソリンもついでに頂いておきましょうか?」

 

「それがいい。MDRとP7、ガバを連れていけ。4人ならば、4台は動かせるだろ。邪魔な車があったら、押し退けて動かせ。敵がそこら中にいるだろうから注意しろ」

 

「わかりました。しかし、間もなく目的地ですよ」

 

 ブレナンはJS9の視線を追った。事前ブリーフィングで、カリーナから見せられた画像と全く同じ建物が立っているのが見える。

 

「よし、それじゃ、早速始めよう。それと、あれに近づく前に、俺たちがいることをあいつらに知らせないとな。味方に間違って狙撃されて、あの世行きだなんてまっぴらごめんだからな。無線、使えるか?」ブレナンがステンに訊く。

 

「ダメみたいですが、ツェナーネットなら使えそうですよ」

 

「わかった。じゃあ、それで連絡を取ってくれ」

 

「了解です。それじゃ、私が起きるまで、見張りお願いしますよ」

 

 ステンはメンタルモデルをセカンダリレベルに落とし、ツェナープロトコルを起動し、向こうにいる戦術人形に連絡を取ろうとした。

 

 2056年 4月2日 2011時 ドバイ

 

 M4は机の上の地図を眺め、脱出経路になりそうな場所を検討していた。地図上に赤いバツ印が書き込まれている地点は、敵のトーチカや拠点が設置された場所だ。

偵察をしていたTMP曰く、正面から突っ込んで排除し、突破するのはこの人数では無理だそうだ。

 

「こいつはまた難しいな。ジャベリンやRPGじゃ全く足りない」五十嵐が頭を抱える。

 

「ミサイルどころか、戦闘機で空爆して貰いながら、戦車の車列で突っ込まないと厳しいんじゃないの?」UMP45が、ほとんど五十嵐の体の左側面にぴったりと密着するような姿勢で地図を見下ろしながら言う。

 

「どっちにしろ、正面から攻撃するのは危険です。何か、良い手は・・・・・ちょっと待ってください。誰かが連絡しようとしています」G36が作業をする手を止め、メンタルモデルをセカンダリレベルに落とした。

 

『もしもし?』

 

『もしもーし?あ、繋がった。あなた、B中隊の人形?』

 

『そうですが、あなたは?』

 

『私?P中隊の人形だよ。実は、私たち、すぐ近くまでやって来たの!指揮官が、あなたたちを脱出させるようにするから、そこでしばらく待ってて!』

 

『わかりました。それでは待機します。通信終了』

 

 G36は、メンタルモデルをプライマリレベルに上げた。椅子に座って、目を開けたまま眠っているように見えたG36が立ち上がる。

 

「指揮官!救援部隊です!もうすぐこっちに来るようです!」

 

 やっと来たか。誰だかは知らないが、こんなやばい場所から連れ出して貰えるならば、五十嵐としては何一つ異存は無い。

 

「やった!M4、みんなを集めてくれ!それと、武器の用意をして、戦いに備えろと!」

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