※この作品はR-18です。

ドールズフロントライン ルナティックウォー   作:F.Y

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出撃

 2056年 1月6日 2154時 カザフスタン アルマトイ国際空港

 

 B777-200LRが滑走路に着陸した衝撃で、五十嵐智基は目を覚ました。目の前のモニターに映るGPS地図を見てみると、どうやら目的地に着いたようだ。すでに辺りは真っ暗になっているようだ。

 

「ふわああああ、折角寝てたのに」

 

 コンパートメント越しにM14の声が聞こえてきた。

 

『こちら機長です。当機は目的地のカザフスタン共和国アルマトイ国際空港に着陸しました。現地の天気は曇り。気温はマイナス18度。滑走路は凍結しており、極めて滑りやすいので注意してください。シートベルトは、飛行機が完全に停止するまで締めたままにしておいて下さい。長旅、お疲れさまでした』

 

 やがて飛行機が停止したため、五十嵐は全ての装備を確認して身につけて、コンパートメントの扉を開けた。既に何人かの仲間たちは、準備を整えていた。

 

「あ、指揮官。お疲れなのぉ」

 

 M9ベレッタがこちらに気づいて手を振った。その赤いドレス姿では、物凄く寒いのでは、と五十嵐は思ったが、彼女たちはサイボーグだ。凍死したり、風邪を引いたりする事も無い。

 

「ほら、起きて起きて。早く行くよ」

 

 UMP45がG11を引きずるようにして飛行機の通路を歩いていた。飛行機の扉にタラップがかけられ、扉が開いた。暖かい機内に突き抜けるような冷気が流れ込んでくる。五十嵐と仲間たちは重い装備品を持ち、機外に出た。

空港にいる人は少なく、旅客機の離発着が行われている気配は無い。エプロンの向こうにはAn-124が2機、駐機している。ソ連から独立して、今年で30周年を迎えるこの国だが、今は戦闘状態だった。それも、相手は、正体不明の、サイボーグや無人兵器ときている。

 

突然の轟音に五十嵐は空を見上げた。アフターバーナーの輝きが幾つか見える。戦闘機だ。かなりの高速で飛んでいったので、あっという間にアフターバーナーの炎は見えなくなった。

 

「カザフスタンへようこそ。ミスター五十嵐」

 

 その声に五十嵐は振り返った。そこに立っていたのは、グリフィンの赤い制服を着たヘリアンだった。

 

「てっきり、本部に残って指揮を取っているかと思っていましたよ」

 

「クルーガーさんから、ここの司令部で指揮を取るよう命令を受けた。ここは、既に戦場だ」

 

「状況はどうなっていますか?」

 

「AR小隊のビーコン信号が途絶えた。だが、信号が途絶えた地域では、強烈な電波障害が発生中との報告を受けている。多分、そのせいだろう。電波障害は、かなり広範囲で確認されていて、今、作戦中の部隊と連絡を取ることすらままならない。例の鉄血の兵器、つまり"マルドゥーク"だが、未だに健在だ。つい18時間前にカザフスタン空軍の戦闘機部隊が"マルドゥーク"を空爆する作戦を行ったが、部隊は全滅。先ほど、攻撃部隊の第二陣が出撃したようだが、さて、どうなることやら。カザフ陸軍部隊が鉄血と交戦中だが、状況は一進一退といった様子だな。我々は君の他にも、部隊を10個中隊ここに派遣している。だが、AR小隊の捜索救難と"マルドゥーク"の偵察を行うのは君らだけだ。他の中隊は、掃討作戦や民間人保護、後方支援を行っている」

 

「それだけ余裕が無い、ということですか」

 

「ああ。その通りだ」

 

 駐機していたガルフストリームG550から、TAR-21やM249といった銃を持った少女たちを連れた30代くらいの女性が降りてきた。彼女たちは、エプロンで待機していたプーマ歩兵戦闘車に分乗し、すぐに出発した。

 

「彼女たちは、今から夜間のパトロール任務に出たところだ。鉄血は見境無く攻撃している。カザフスタンの軍や警察、我々、そして一般市民。カザフスタン国内にいる全員が、奴らの攻撃対象だ」

 

 ヘリアンの話を聞いていた五十嵐だが、一つだけ腑に落ちない点があった。五十嵐はここに到着する前に、グリフィンの偵察衛星が撮影した"マルドゥーク"の衛星写真を見た。あんな怪獣並みのサイズ大砲を、他人に一切知られないように建設するのは、ほぼ不可能では無いだろうか。あんな馬鹿デカイ兵器を建設していたら、嫌でも目立つし、何より、アメリカやロシアの偵察衛星の" 目"を誤魔化すことは困難だ。

 

「どうした、ミスター・イガラシ。何か気になることでも?」

 

 ヘリアンの瞳が、眼鏡の奥で光った。

 

「ええ。まずですが、こんな巨大なものを建設していたら、カザフスタン政府はもとより、アメリカやロシアの偵察衛星が捉えて、関心を寄せるでしょう。それがテロリストのものだとしたら、尚更ですよ。何故、建設中に破壊する、ということを誰もやらなかったのです?」

 

「そ、それは・・・・・だな」ヘリアンが、ややばつの悪そうな表情になった。「あれが出現するその時まで、誰も存在に気づかなかったからなのだよ」

 

「えっ!?」

 

 五十嵐は愕然となった。待て待て、そりゃおかしいだろ。一夜城じゃないんだぞ。現代の偵察技術で、建造中に確認できなかったなんて、あり得ないのでは?だが、一つの可能性を彼は思い付いた。

 

「いや・・・・・・待てよ、建造中に、あの地域一帯に強烈なジャミングがなされていたとかは・・・・」

 

「違う。これを見てくれ」

 

 ヘリアンが差し出したのは、1枚の写真だ。地形からは、"マルドゥーク"が建造された場所だということがわかる。日付は『0613 12/25 A.D.2056』とあった。2本の川と山脈に囲まれた谷だ。林が疎らに確認できるが、それ以外はまっさらだ。

 そして、2枚目の写真。2枚の写真に記された座標は同じものだった。そして、平地には例の"マルドゥーク"を中心とした要塞がある。日付は・・・・・・。

 

「そんなバカな」

 

 日付は『2231 01/03 A.D.2056』。つまり、鉄血は、一週間少々でこれを建造したことになる。一体、どんな技術を使えば、そんなことができるんだ。可能性があるとすれば、別の場所でモジュールユニットとして部品を幾つか製造し、現地でそれを組み立てた、というやり方だ。しかし、それには、巨大な構造物を釣り上げることができる、大型のヘリやVTOL機が必要になるはずだ。それも、CH-53KやMi-26並みの。

 

「一体、どういう技術を使ったのでしょうか」

 

「我々の情報部の、これは推測でしか無いが、マルドゥークは、地下で建造され、エレベーターのようなもので地表に出てきた、と考えられる」

 

それなら、ある程度は納得できる。だが、そんなものを地下で建造できるほど、鉄血製造工厰とやらの技術力は高いらしい。しかし、そんなオーバーテクノロジーをどうやって手にいれたのだろうか。

 

「こいつはまた・・・・・・」

 

「君らの作戦は、情報を持ち帰ることだ。CH-53ヘリで君らと、ハマーを空輸する。護衛にはAH-64アパッチも付ける。展開地点はここ。回収地点は10箇所を想定している。物資の補給には、ドローンとGHSSを使う。以上だ。出発は、明日の午前だ。それまで、ゆっくりと休んでくれ。以上だ」

 

 2056年 1月7日 0957時 カザフスタン

 

 CH-53KとAH-64Eが次々と離陸した。キングスタリオンのうちの何機かはスリングでハンヴィーを吊り下げている。ヘリだけで目標地点まで直行したら潜入がばれるので、ある程度離れた場所で五十嵐たちを降ろす予定だ。

 

 五十嵐は、ヘリのキャビンの中で20インチバレルのFN-SCAR-Hを点検した。この場合は、中~遠距離での戦いが主流になるため、5.56mmのMk262よりも7.62mmのM118の方が有利だと判断したためだ。接近戦になれば、ベレッタAPXを使えば良い。サイトは、AN/PVQ-31光学照準器と狙撃用にリューポルドMk4狙撃スコープを用意した。

 五十嵐は、ヘリが飛んでいる間、窓の外を見ていたが、仲間たちはぐっすりと眠っていた。休める時に休んでおくべきだ。どうせ、すぐに休んでいる暇は無くなる。五十嵐はそう考えながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。

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