2056年 1月7日 1016時 カザフスタン
ヘリが着陸した衝撃で五十嵐は目を覚ました。仲間たちがヘリから降りていき、ハマーのエンジンをかける。ハマーは全部で5台。うち2台にはMk19グレネードランチャーが搭載され、3台にはブローニングM2重機関銃が搭載されている。また、後部の物入れには、食料や飲水、医療品や工具、スコップ、つるはし、そして爆薬や弾薬、信管、対戦車兵器などが入れられている。
「乗車しろ」
五十嵐が命令すると、仲間たちが一斉にハマーに乗った。グリフィンのCH-53Kが離陸し、基地へと戻っていく。AH-64Eは少しだけ周囲を飛び回ったあと、キングスタリオンのあとを追いかけ始めた。どうやら、敵がいないかどうか確認してくれたらしい。
五十嵐は、自分の自動小銃に弾倉を装填して、UMP45が運転するハマーの助手席に乗った。ハマーの車体には増加装甲がびっしりと取り付けられ、防弾ガラスが二重になっている。アメリカ軍などが、現地でハマーに様々な改造を施しているのを写真で見たことはあるが、この車両は、外見では、一瞬ではハマーだとわからない程にまでなっていた。
「さて、どこへ行けばいいのかわかってるの?」UMP45が五十嵐に訊く。
「ああ。ここから北東にまっすぐ進んでくれ。そこが第一目的地点だ」
五十嵐はタブレット端末で情報を確認していた。AR小隊が最後の確認された地点だ。45はエンジンをスタートさせ、車を発進させた。部隊の他の車両も続く。
「さて、指揮官。わかっているとは思うけど、いざとなったら私たちを身代わりにして逃げて、救援を待つのよ。私たちは、人間じゃない。個性や感情はあっても、所詮はAI搭載のサイボーグ、作り物よ」416が後部座席から話しかけてきた。
「とはいえ、僕だって、日本から遠く離れたこんな荒れ地で、一人で生き残れるとは思えない。おまけに、周りは敵だらけと来ているからな」
「水や食べ物が必要になったら、GHSSで届けてもらえばいいでしょ。GPSマーカーで連絡すれば、マスドライバーですぐに貰えるはずよ」
「そうと言っても限界はある。ここで生き残るには、君らの助けは必要だ。無闇に見殺しにしたりしたら、自分の命に関わってくる」
「わかっているじゃないの。まあ、話には聞くけど、人間の部隊指揮官は色々いるかららしいからね。私達は運良くいい人に出会えたけど、そうじゃない子たちもいる」
「サイボーグの君等からみたら、よくわからんだろ。人間ってのは」
「そうね。聞いた話だけど、自分が生き残るために戦術人形を何人も犠牲にした人もいれば、戦術人形を助けるために、自分を犠牲にした指揮官もいるみたい。それと、私達は"死んだ"としても、個性のバックアップは本部と支部のデータサーバーに記録されている。そこには、私達のAIが持つ個性、感情、そして記憶の全てが記録されているの」
「つまり、こういう事か。君等は死んだとしても、個性と記憶自体はクラウドで記録・保管されているから、サイボーグの体を再び製造して、バックアップされたAIのプログラムをインストールすれば"生き返る"ということなのか」
「そういうこと。だから、あなたが助かるためならば、私達を置いて逃げたり、"盾"として使っても構わない、ということよ」
「気が進まんな」
「そんな事を言っていた人は、大抵は長生きした試しはないわ。」
ハマーの銃座にはM60が座り、防弾盾に身を隠しながら、360°周囲を警戒していた。後ろのハマーではAEK-999、SV98とスプリングフィールドが同じようにしている。
2号車では、AM-RFBがタフブックを膝の上に載せ、先行しているUAVから送られてくる画像を確認していた。今のところ、野生の狐や野鳥、馬が確認できるだけで、敵の姿が無い。やがて、車の車列が見えてきた。トラックやワゴン、ジープが連なり、更には馬に乗った人々も見える。成人した男女や老人、子供など、様々な人々がいるようだ。
『指揮官、気になるものを見つけたんだけど何だろう。画像を送るね』
RFBの声が無線から聞こえてきた。五十嵐はタブレット端末を起動して、RFBから送られてきた無人機の画像を確認した。
「一般市民みたいだな。しかし、なんでこんなところを大勢で移動・・・・・・」
そこまで言いかけて五十嵐は気づいた。彼らは、恐らくは、鉄血の攻撃から逃れてきた難民たちだ。それも、ぱっと見た感じ、人数は間違いなく数百人単位のようだ。
『どうする?助けに行くの?』
五十嵐は考えた。この人数では、間違いなくこの難民たちを護衛しながら移動するなど、到底不可能なことだ。
「いや。任務を優先してくれ。この人数で、全員を護衛するのは無理だ。本部に位置だけ送って、救援部隊を送ってもらえるかどうかだけ伝えてくれ」
『うーん・・・・わかった。確かに、私達だけじゃ、みんなを助けるのは無理だよね』
2056年 1月7日 1021時 カザフスタン
赤い三角巾を頭に被り、茶色い髪を後ろに束ねた少女が、隠れ場所からそっと顔を覗かせた。どうやらここに敵はいないようだ。その小柄で細身な体型とは裏腹に、如何にも重く、大きなライフルを手に持っている。
先程、敵と交戦していた仲間たちとはぐれてしまった。狙撃ライフルである自分は、遠く離れた位置から援護していたためだ。その後、部隊との合流を図っていたが、無線機も無く、GPSビーコン装置も交戦時の混乱で無くしてしまっていた。手元にあるのは弾薬と食料、水だけだ。
スコープで周囲の様子を伺ってみると、周囲には荒れ地が広がるだけ。他には何もない。他のグリフィンの部隊と連絡を取る手段も無い。GPSと無線機さえあれば、GHSSやUAVで補給物資を送って貰う程度のことはできるのだが、それすら叶わない状況だ。周囲には雪が降り積もり、時折、凍った地面に足を取られそうになる。少女はサイボーグではあるが、彼女のAIには、最後まで可能な限り生き残るための手段を取るようとの命令がインストールされていた。だから、少女は自分が見つかる前に敵を撃ち倒し、まるでハゲタカのように死んだ兵士から弾薬や食料、その他装備品を剥ぎ取って生き延びようとしていた。
そうこうしているうちに、3日が過ぎていった。早いところ味方の部隊に合流しなければ、これ以上生き延びるのは困難になる。少女は、無人になった民家から手に入れた缶詰を缶切りでこじ開け、スプーンで甘いシロップ漬けの桃を口に運んだ。その間でも、遠くを見て、周囲に対する警戒を怠らない。少女は缶詰の中身を食べ終えると、空の缶を投げ捨てて、コンパスと地図を見て立ち上がり、現地司令部のある方向へと歩いていった。
2056年 1月7日 1034時 カザフスタン
『指揮官、ここで車を止めて』タフブックの画面を眺めていたRFBが無線機で伝えてきた。
正面には渓谷が広がり、道が狭くなっている。
「どうした?」
『ここで何か動きがあるのが無人機のカメラで見えたの。この辺りには、私達以外の部隊は来ていないはずだし、住民が住んでいる感じでも無いからねー』
「よし、全車両、停止!」
ハマーが停車した。仲間たちが周囲に展開し、防御体制を取った。SV98とG36はその場から離れ、狙撃陣地を探しに向かった。五十嵐はハマーの後部のコンテナを開けた。中にはM224迫撃砲と砲弾が入っている。
「45、手伝ってくれ」
五十嵐とUMP45は迫撃砲を組み立て、発射準備を整えた。RFBはタブレットの画面を見て無人機が送ってくる映像を確認した。
「あっ、いたいた。鉄血の奴らだ。狙撃兵がいるみたいだから、待ち伏せしていたのかな?」
「距離は?」五十嵐が訊いた。
「1340m。その迫撃砲で十分届くよ。今、計算するからちょっと待って」
RFBは迫撃砲射撃用のアプリを起動した。UAVから送られてくる敵の位置情報と自軍の位置情報を利用して、自動的に迫撃砲の射角を計算してくれるすぐれものだ。
「もうちょい上に向けて。あ、やりすぎ。ちょっと戻して・・・・・よし、いいよ」
『指揮官様、敵を確認しました。それなりに規模のある部隊です。やりますか?』
無線からG36の声が聞こえる。
「迫撃砲をぶっ放す。着弾したら、それを合図に攻撃を始めてくれ」
『わかりました。では、その通りに』