2055年 7月26日 1113時 東京 神保町
警官が撃たれ倒れるまでの間、五十嵐は目の前の出来事全てが、まるでスローモーションに見えていた。頭が働かず、身体が動かない。だが、脳の片隅で、テロ事件が発生した、と認識はできていた。
女性の悲鳴で、我に返った。サバイバルゲームでの経験からか、それとも本で読みかじった知識から来たのか、五十嵐は路上駐車されているジープのエンジンブロックの陰に隠れた。通りにいる人々が一斉に走って逃げ出した。しかし、テロリストは、引き金を引き、逃げ惑う人々を容赦なく撃ち始めた。バタバタと人々が倒れ、空中に鮮血と肉片が舞い、アスファルトの地面に赤い水溜まりができる。
畜生!こいつら、もしかして、防衛産業関連企業の人間を殺していた奴らなのか。五十嵐は、車の陰にから、テロリストが持つ銃を確認した。なんと、それは箱形で、不恰好な、見たこともないものだった。サイズから推測すると、アサルトライフルの類いのようだ。ヘッケラー&コッホのG-11に似ているが、だいぶ違う形をしている。警察は、一体、何をしているのだろう。だが、日本の警官では、対処できる相手には思えなかった。
テロリストの一人が、こちらに近づいてきた。やばい、こっちに来る!くそっ、せめて、先ほど撃たれた警官の近くにいれば、ニューナンブM60を拾って反撃できたかもしれない。服装から考えると、テロリストは防弾服を着ているようには思えなかった。だとしたら.38スペシャル弾で負傷させることはできただろう。
テロリストが銃を構え、五十嵐に向けた。まさか、今日が命日になってしまうとは。まだ20年も生きていないというのに!南無阿弥陀仏!
だが、次の瞬間、フルオートで発射される銃声が聞こえてきた。テロリストが体を痙攣させ、やがて倒れる。早くも銃対かSATが出動したのか?後ろを振り返ると、長い茶髪をツインテールに結び、黒いコート、黒いスカート、そして銃口から硝煙を上げるサブマシンガンを持った少女が立っていた。彼女の足下には、薬莢が転がっている。
「45姉、遅いよ!あ、ターゲットは確保したよ」
少女は、後ろを振り返って言った。後ろからは、彼女に似た顔つきで、やや灰色がかかった長い髪をサイドテールに結んだ少女がやってきた。
「9、先走り過ぎよ!」
「でも、45姉、0.1秒遅れていたら、この人死んでいたよ」
"45姉"と呼ばれた少女が、五十嵐を見た。
「さて、死にたくなかったら、私たちに付いてきてもらおうかしら」
どこかで聞いたセリフだ、と五十嵐は思った。
その傍ら、"9"と呼ばれた少女は、スマホで会話をしていた。どうやら、仲間がいるらしい。
「あ、G-36?9だよ。第2ターゲットは確保したよ。そっちは・・・・・・えっ、マジ!?」
「9、どうしたの?」
「45姉、第1ターゲットと第3ターゲットは死亡だって!どうする!?」
「待って」
"45姉"は、スマホを取りだし、連絡を始めた。
「ペルシカさん。第2ターゲットを確保しました。しかし、第1ターゲットと第3ターゲットは死亡とのことです。第4ターゲットは・・・・・はい、わかりました。"破棄"ですね。では、第2ターゲットの護衛に全力を尽くします」
"45姉"は、五十嵐を見た。
「いい。これから仲間と合流するまでの間、私と妹であなたを護衛する。こっちとしては、あなたに死なれては困る。さあ、ついてきて!」
こうなったらヤケクソだ。それに、今は、この二人の少女"45姉"と"9"に付いていくのが最善の方法だと五十嵐は判断した。
「仲間が装甲車を用意している。それで埠頭まで行くわよ。そうしたら、船が迎えに来ているから、それに乗って司令部にあなたを連れていく!」
2055年 7月26日 1124時 東京 神保町
五十嵐と"9"、"45姉"は、暑い街中を早歩きで移動した。二人は、街中では目立つと判断したのか、流石に持っているサブマシンガンをコートの下に隠した。
通りは、パトカー、消防車、救急車で埋め尽くされていた。白昼の首都で銃撃事件が起きたのだ。政府は対応に追われるだろう。
街頭のテレビでは、臨時ニュースが流れ、人々はそれに釘付けになっていた。更に、立川市のアパートで爆発が起きたらしい。流れた映像には・・・・・。
「ああっ、おい!マジか!?ガスの元栓は閉めて出掛けたのに!」
映像には、真っ黒焦げになった、五十嵐が借りているアパートの一室が写っていた。
「あれ、あなたの家?」45姉が言った。
「ああ・・・・・」
「これで、はっきりしたわね。"鉄血"の奴ら、あなたを殺す気でいたのよ」
自分が狙われるだって?テロリスト集団に?全く身に覚えが無い。自分は、ただのサバイバルゲームが趣味で、銃マニアの学生だ。そんな奴を狙って、何になるんだ?
「さて、そろそろ・・・・・」
通りをピラーニャ装甲車が曲がって来た。車体には、タイルのようなものが張り付けてある。爆発反応装甲だ。ピラーニャが停車し、後部ハッチが開く。
「早く、乗って!」
中にいたのは、M60を持った細身の少女とAM-RFBを持った少女、M14を持った少女だ。五十嵐は、9と45姉に押されるようにしてピラーニャに乗り込んだ。