2056年 1月8日 1311時 カザフスタン
五十嵐は416たちからの報告を受けた後、移動すると言った。AM-RFBが通信機とタブレットPCを繋いで無線の反応をスキャンしたどこかの、M4A1のビーコンを発見したのだ。彼女の反応は、今はしっかりとロックオンしているのだ。
「それで、方位と距離は?」416が言った。
「ここから北東に300km行ったところ。あいつ、移動しているから、早く見つけないと見失っちゃうよ!」
「それで、探しに行くの?指揮官」
「M4A1とやらを見つけるのが、最優先事項だろ?RFB、HQには伝えたか?」
「ヘリアンさんにメールしたよ。あ、返信が来た。今すぐ合流して、作戦本部に帰還しろ、だって。でも、ちょっと問題もあるよ。マルドゥークに撃たれる可能性が高いから、ヘリは出せないって。陸路で基地に戻れって」
「ちょっと待って。ここからだと、荒野をかなりの距離を歩かなきゃいけなくなるわよ。そんなの、まず、無理よ」と、416。
「ああ。でも、ちょっと待ってろ。さっき、無人機でそのための"足"を見つけたからね」
416は、やや得意げに言った五十嵐を訳がわからない、といった感じの表情で見た。一体、この人は何を考えているの?
「あ、指揮官!戻ってきたよ!指揮官の言った通りだったね!」
ライフルのスコープで向こうを見ていたSV98が、こちらを振り返った。416と9A-91、TMPはまだ状況が掴めず、お互いの顔をきょとんとした顔で見た。だが、やがて爆音が聞こえてきた。大きく、重い車が近づいてきているようだ。地面にも、その振動が伝わる。
そして、416は見た。向こうからやって来たのは、キャタピラの脚が付いた、セラミックやチタニウムなどを、2枚の分厚い鉄板で挟んだ皮膚を持つ猛獣だ。125mmの穴が空いた、長い鉄の鼻を持っている。1頭だけではない。こいつの同類が、他に3頭、そして、別の鋼の猛獣がもう1頭いる。
「指揮官、おまたせー!これ、凄いよ!大砲も、エンジンも、全部動くよ!」
先頭の猛獣の主砲の下のハッチが開き、UMP9が顔を出した。彼女の姉が隣にいる。
「な・・・・・・・何よ、この化け物は・・・・・」
416は、目の前の怪物たちを呆然と見上げた。
「T-14アルマータ主力戦車。あっちはクルガネツ25B-11歩兵戦闘車。それにしてもびっくりだよね!ロシア軍のおじさんたち、まじで全部置いてきぼりにしてるんだから!」M14がご機嫌な様子で答えた。
「これなら、鉄血の奴等もイチコロなのぉ!凄いなのぉ!」ベレッタM9がクルガネツ25の上で、ぴょんぴょん飛びはねながら言った。
「ま・・・・まあ、確かにそれはそうだけど・・・・・」戦車を見る416の顔がひきつっている。
「それに、このまま歩いて進軍するとなると、体力が持たないからな。燃料は十分かな?」五十嵐が戦車を見上げて言う。
「十分あるよ。メーターもほぼ満タンに近いし。でも、ガス欠になったら捨てるしかないわね」UMP9が言った。
「よし、それじゃ、頂いていくとするか。それに、車体のどこにもマーキングが無いってことは、何か違法な作戦に使われるためなのか、それとも密輸ようなのかのどっちかだろう。ナンバープレートも無いからな」
416はやれやれ、と言った様子で仲間たちを見回した。
「まあ、このまま徒歩で先を行くよりはマシなんじゃない?多少銃で撃たれた程度じゃびくともしないでしょうし」
「そうと決まったら出発だな。装備はクルガネツの中に入れてくれ。さて、出発するぞ」
2056年 1月8日 1318時 カザフスタン
五十嵐智基はアルマータT-14の人員ユニットの中にいた。中はかなり狭く、車体の中の装甲カプセルの中に3人掛けのリクライニングシートに座る格好となっている。車内はぎちぎちで、左右にいるUMPの姉妹と密着状態だ。だが、五十嵐にとっては、一生乗ることはないと思っていたロシア陸軍の最新鋭戦車に乗ることができた、という夢のような体験ができているという思いの方が先行していた。
「ほーほう。モニターはこんな風になっているのか。これでカメラを動かして、360度回転させて外を見るのか。そして、火器管制システムはあれか。オーバーライド・モードか。なるほど。ハンターキラーができるんだな。防御システムはこれか。煙幕とレーザー警報装置、ミリ波レーダー検知装置もあるのか」
「指揮官、9、モニターをしっかり確認してよ。こんなのでも、鉄血の対戦車ミサイルにやられたらひとたまりも無いわよ」
確かにその通りだ。だが、五十嵐たちには強い味方があった。
「五十嵐からRFB、聞こえるか?」
『聞こえるよー、指揮官。無人機?』
クルガネツ25の兵員輸送室にいるRFBが答えた。
「ああ。アクセスできたか?」
『バッチリバッチリ。ラクダやトカゲまではっきり見えるよ』
「よし。敵を見つけたら知らせてくれ。もし見つけたら先制攻撃を仕掛ける。先手必勝だ」
『まっかせてー!でも、ロシア軍のデータリンク装置に、こっちのソフトを繋げなかったの。そこまでできたら便利だったのになー』
「帰ったら、そういうことができないかどうかペルシカさんに提案してみよう。鹵獲した兵器のデータリンクソフトウェアに侵入して、書き換えるマルウェアがあれば、今後の作戦もかなりやりやすくなると思う」
『ほんとねー。まーあ、やってることは違法か、違法スレスレだけどね』
「まあ、それを取り締まる警察なり軍なりが、それまでに残っているかどうかも問題だけどな」
『そうだよねー。さっきネットニュースで見たけど、イランとパキスタンが鉄血の攻撃を受けて崩壊寸前だってさ』
五十嵐の顔が青ざめた。パキスタンは核保有国だ。もし、核弾頭と短距離弾道ミサイルのガウリが鉄血の手に渡ったらとんでもないことになる。
「そいつはまずいぞ。パキスタンは核兵器を持っている。鉄血がそれを手に入れたら最悪だ。無差別に核攻撃を仕掛けられる危険がある」
『なにそれ!超やばいじゃん!核って、一つ使うだけで街が一つ無くなっちゃうんでしょ!?』
「ああ。これは、早いところ奪還しないとな。さて・・・・・・」
『待って。指揮官、この先に鉄血の奴らがいるみたい!』
「全車、戦闘準備。敵、12時方向。多目的榴弾を装填しろ。さあ、陸戦の王者の破壊力を、奴らに見せてやろう!」