※この作品はR-18です。

ドールズフロントライン ルナティックウォー   作:F.Y

24 / 107
若干スプラッタ表現注意


救難信号

 2056年 1月8日 1346時 カザフスタン

 

 小隊の仲間たちととはぐれてしまい、どれくらいの時間が経っただろうか。弾薬も食料も乏しく、これ以上戦うことは困難になってきた。30分程前、一縷の望みを託し、ビーコン信号を一度だけ発信してみた。彼女は銃から弾倉を取り外し、残弾を確認した。5.56㎜弾は残り少なくなってきていた。ネットワーク通信機が無いため、GHSSに頼ることはできない。

 

「くそっ、バッテリーも残り少ないか。このままだとまずいな」

 

 その戦術人形は、非常に高い戦闘能力を持っていた。その為、姉妹たちと散り散りになった今でも、一人で鉄血を排除し、生き残ってきた。だが、一人で戦うのも、もう限界になりかけていた。食料も飲み水も残り少ない。

 彼女と妹たちは人間の指揮官の助け無しに活動する唯一の部隊だ。グリフィンの普通の指揮系統からは完全に独立し、4人だけで戦うエリート部隊。

 輸送機が撃墜された後、すぐに敵は襲い掛かってきた。末の妹であるM4SOPMODの姿はその時点では無く、M4とAR15とは、鉄血のリッパーとイェーガーで編成された小隊と交戦しているときにはぐれてしまった。2人が一緒に行動していてくれれば良いのだが。

 統合多目的バッテリーはできる限り節約せねばならない。これは、無線機、GPS、タフブックPC、タブレットPC、おおよそグリフィンが部隊に支給する電子機器にすべて共通して利用できるものだ。

 

 彼女は銃を構え、歩き続けた。やがて、無線機から味方のビーコン信号を拾ったことを知らせるポーン、ポーンという電子音が鳴った。

 

「味方が・・・・・・・ここにいるのか?」

 

 2056年 1月8日 1347時 カザフスタン

 

 五十嵐たちは、一旦、戦車や装甲車から降りて、軽油を補給していた。幸いにも、道端で放置されていたセルフ式ガソリンスタンドを見つけたのだ。補給を提案したのは五十嵐だ。戦車や歩兵戦闘車は、恐ろしいくらい燃料をがぶ飲みするのだ。

 ガソリンはそのまま残されている。キリル文字と数字で、リッターあたりの値段が表示されていたが、この状況だ。全員一致で料金は踏み倒すことにした。

 

「んー、なんだこれ?無人機が変な信号を拾ったよ」

 

 タフブックを操作しているRFBが独り言のように言った。

 

「RFB、その信号の発信源と種類を特定できますか?」G36が言う。

 

 RFBの指が、タフブックのキーボードの上で猛烈な勢いで舞った。

 

「うーん。まだちょっと弱いから、詳しい送信場所はできないかもしれない。でも、方向は特定できたよ。それと、これは・・・・・・・グリフィンの救難信号だよ!」

 

 その言葉に全員がRFBを見た。

 

「救難信号だって!?」

 

「うん。無人機を向こうへ飛ばしたら、もっと正確に位置や距離、部隊の所属がわかると思う」

 

「指揮官、どうするの?」416が五十嵐を見た。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 五十嵐は無線機で指令部に連絡を取った。

 

「ヘリアンさん、五十嵐です。グリフィンの救難信号を捉えました・・・・・・・・・では、はい。そうします」

 

 五十嵐は仲間たちを見た。

 

「よし、新しい命令だ。救難信号を発信した戦術人形を救出し、回収地点に向かえ」

 

「りょーかーい。でも、ガソリンを補給してからだね」M9が五十嵐を見て言った。

 

「ああ。それと・・・・・」

 

「指揮官様、お探しのものはこれですね」

 

 G36が、オレンジ色の大きなポリタンクを2つ、持ってきた。ホースも付いている。

 

「そう、そいつだ。あとどれくらいあった?」

 

「裏の倉庫に山のように残されていましたよ」

 

「よし、そいつに軽油を入れられるだけ入れて、頂戴するとしよう」

 

「わかりました」

 

「あーあ、私たち、すっかり強盗団か武装ゲリラみたいになっちゃったね。戦車もガソリンも盗んじゃって」

 

 五十嵐の隣にいたUMP9が指揮官を見て言った。

 

「カザフスタン軍の連中、今頃大騒ぎしているだろうな。最新鋭の戦車や装甲車が、ごっそり盗まれたんだから」

 

「でもさー、軍隊って、今、機能してるのかな?ほら。さっき、道端にヘリとかトラックとか、あと・・・・・自走砲とかが、ごっそり置きっぱなしになってたでしょ」

 

「ああ。おまけに、AKとかRPGとかも、ごろごろ転がっていたからな」

 

 今までカザフスタンの各所を見てきたが、先日、戦闘機を見かけて以降、警察や軍隊が鉄血と戦っている様子は無かった。それどころか、一方的に侵略されまくっている様子だ。

 もう軍隊は負けてしまったのだろうか。試しにラジオを使ったり、PCで衛星テレビ放送に接続したりするのを試したが、何も聞こえず、映像が映ったりすることも無かった。恐らく、放送局が陥落したのだろう。

 

「SV、ファルコン、そっちはどうだ?敵が近づいてくる様子か?」五十嵐は、ガソリンスタンドの屋根の上で狙撃ライフルを構える二人に向かって言った。

 

「異常無しです。ご安心を」SV98の声が聞こえてきた。

 

「こっちも何も無いよ。まだゆっくりしても大丈夫」

 

「わかった。何かが近づいてきたら知らせてくれ」

 

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。何のために私とファルコンを屋根に登らせたのですか」

 

 確かにその通りだった。

 

 2056年 1月8日 1351時 カザフスタン

 

 ビーコンの信号を頼りに歩き続け、ようやく舗装された道路を見つけた。所々に放置された車が見える。戦術人形は、一度、ビーコンの方向を確認した。ここから右に曲がり、真っ直ぐ行けば良さそうだ。

 そろそろ水も食料も尽きかけている。どんなに節約しても、もう1晩から1日が限界だ。それにしても、人間たちは、何故、自分をこんな不便な体に設計したのだろうか。腹も減る、喉も乾く、疲れる、眠くなる。おまけに、怒りも、喜びも、楽しみも、悲しみも感じる。末の妹のメンタルがバックアップごと崩壊し、完全な"死亡"を宣告された時は、姉妹ともども、電子頭脳とCPUが焼き切れると思うくらいの悲しみを味わった。

 

 あんな思いをするのはもう御免だ。離ればなれになった3人の妹たちは、必ず自分が助け出す。だが、それには自分一人では無理な話だ。癪に障るが、妹たちを助けるのに、誰の手を借りるのが一番なのか、彼女はよくわかっていた。

 

 2021年 1月8日 1422時 カザフスタン

 

 ようやく車両とポリタンクのガソリンが満タンになった。ポリタンクは戦車の後ろの籠と歩兵戦闘車の兵員輸送室に入れる。さて、件の救難信号の発信源は・・・。

 

「こっちに近づいている?」

 

 RFBのPCの画面を覗きこんだ416が言った。

 

「距離は?」

 

 隣にいた9A-91が言う。

 

「もう、すぐそこまで来ているよ。もしかしたら・・・・・」

 

「目標、南から接近!一人!」上からSV98の声が聞こえた。

 

「全員、戦闘準備!」

 

 スプリングフィールドの一声で、B中隊のメンバーが一斉に銃を構えた。ボルトやスライドが引かれ、プラスチックや金属が擦れるガチャガチャとした音が鳴る。

 

「念のため、360度警戒!あの一人は陽動かも知れないわ!」

 

 UMP45がそう言って、2人ずつの組を作らせ全周囲を警戒させた。

 

 2056年 1月8日 1322時 タジキスタン某所

 

 姉と妹たちは、上手く逃げられただろうか。自分は逃走に失敗し、撃たれて捕まった。

 

 撃たれた肩の傷口からは、白い人工血液が流れ出て、固まった痕がある。しかも、奴等はあまつさえ、そこに何度も焼きごてをねじ込んできた。その度に強烈な痛みが襲いかかり、人工筋肉が焼ける嫌な臭いが鼻を突き、彼女は悲鳴を上げた。

 

 今は、ベッドか長い机の上に縛り付けられ、何やら訳のわからない薬剤を点滴をされているということしかわからない。何故なら、目隠しをされているからだ。

 

「さて、そろそろ傷を焼くのも飽きてきたな。次はどうするか」

 

 やや低い女の声が聞こえてきた。私はその正体を知っている。鉄血の幹部、スケアクロウ。

 

「そうだな。せっかくだし、これを試してみるとするか」

 

 何かが電気モーターで回転する音が聞こえる。

 

 スケアクロウは電気ドリルを両手に1つずつ持ち、手術台に頑丈な金属ワイヤーで、両手両足を広げた状態で縛り付けた戦術人形、AR-15に近づき、左の踝に左手に持つドリルを突き刺し何度も捻った。

 

 更に、右手に持った方のドリルで彼女の左膝を貫き、何度も抜き差しした。人工筋肉の破片と人工血液が手術台と床に飛び散る。その度に、AR-15は痛みに絶叫する。

 

 続いてスケアクロウが手にしたのは、やや小さな電気丸ノコだ。

 

 スケアクロウはそれを使い、AR-15の左手の親指以外の4本を全て切り飛ばした。更に、左手の手首から二の腕にかけてを切り開いていく。

 

「ひぎゃああああああ!あああああ!」

 

「ほーう、なかなかいい声で鳴くじゃないか。もっと聞かせてくれ。そうだ。せっかくだし、これを使ってみよう」

 

 スケアクロウは、注射器を手に持ち、中の薬剤を一気にAR-15の体内に流し込んだ。

 

「一応、人間向けの薬だが、人形にも効くとドリーマーは言っていたからな。こいつは、体の知覚が倍になる薬だ。人間たちはセックスで使うようだが、拷問に使ったら・・・・・・・どうなるか楽しみだ」

 

 拷問(と言うより、じわじわとした解体に近い行為)が続く間、薬剤によって痛覚が増大させられたAR-15が上げるこの世のものとは思えない叫び声は、地下の拷問部屋の外に出ることは無く、誰にも届くことは無かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。