2056年 1月8日 1406時 カザフスタン
ようやく向こうからやって来る"人物"をZVIファルコンは狙撃スコープの視界に捉えた。黒い髪、黄色いジャケットに黒いスカート。手には自動小銃を持っている。一体誰だろう。だが、一般人とは思えない。それに、グリフィンの内部ネットワークのビーコンに反応したとなると、十中八九、相手は戦術人形だ。
「SV、見えますか?」ファルコンが隣にいる相棒に言う。
「見えてますよ。向こうは1人だけのようですね」
SV98は一度、ライフルのスコープから目を離し、双眼鏡で周囲の様子を確認した。他に動くものは無い。
「どうします?」ファルコンが言う。
「狙いは定めておいてください。指揮官に知らせないと。指揮官、やってきました。銃を持っているようです!」
2056年 1月8日 1409時 カザフスタン
雪と土の上に刻まれた、キャタピラとおぼしき轍が見えた。しかも、驚くべきことに、まだ新しそうだ。
よく目を凝らしてみると、向こうに建物のようなものが見える。こんな所に誰かがいるとは思えないが、何か使える物が残されている可能性はある。ちょっとした工具が手に入れば、銃の整備もできるだろう。食べ物と水は期待できそうに無いが。通じる電話はあるだろうか。それがあれば、グリフィンに連絡を取ることもできる。
きっと、生き残る術を得る、最後のチャンスになるはずだ。戦術人形、M16A1はそう考えた。まあ、レーションが手に入らなくても、酒が手に入れば、それはそれで上等だ。酒はいい。苦痛も、嫌なことも、忘れさせてくれる。その効果はあくまでも一時的なものに過ぎないにも関わらず、だ。そうだ。酒だ。グリフィンの本部にある、上等のジャックダニエルが一番だが、それは叶わない。
最後に家捜しした民家に、安物のウォッカの瓶が置かれているのを見つけたが、残念な事に、それは空っぽだった。消毒用エタノールを水で薄めて飲むことも考えたが、味は最低だ。だからやめた。単にアルコールを飲めれば良いという問題ではない。彼女にとって、酒は楽しまねばならないものであって、単純にアルコールを摂取できれば良いというものでは無かった。
今、やっと見つけた建物には、酒はあるだろうか。よく見ると、あれはガソリンスタンドのようだ。コンビニは・・・・・併設されている!あれならば、安ビールや安ウォッカ程度か。だが、その中でもある程度マシな銘柄を見つけられれば良い。
「あれは・・・・・戦車か?」
M16A1は呟くように言った。ガソリンスタンドのすぐそばに、戦車や装甲車が何台も置かれている。カザフスタン陸軍の部隊か?だとしたら、厄介事になりそうだ。屋根を見てみると、ライフルを持った二人のスナイパーが・・・・・・・。
「止まれ!」
ライフルをプローンで構えた人物が大声で言った。よく見ると、軍人でも無ければ、民兵でも無さそうだ。その正体は・・・・・・・。
「おい!あんたら、もしかして、グリフィンの戦術人形か!?」
その声に、二人の狙撃手は顔を見合わせた。
「おい、あんたらは戦術人形か、と聞いているんだ!」
狙撃手の一人が、ヘッドセットのマイクに何やら話している。多分、会話の相手は部隊の指揮官だろう、とM16は考えた。
やがて、赤いバンダナを頭に巻いた、でかい方の銃を持った狙撃手が言った。
「そこで待ちなさい」
ガソリンスタンドの扉が開き、4人の人物が出てきた。全員が自動小銃かサブマシンガンを持っている。その連中は・・・・・・。
「おい、お前は・・・・・・」
2056年 1月8日 1410時 カザフスタン
五十嵐は、416、UMP45、G36を連れて件の人物を迎えに外に出た。SV98とファルコンが見張っているから、1人で十分だと言ったが、45が護衛無しには外に出さない、と頑なに主張したため、根負けしたのだ。
「まさか、こんな所であんたに出くわすとはね」
416が目の前の人物を睨みながら言った。どうやら知り合いのようだ。
「知り合いか?」五十嵐が416に言う。
「ええ。こいつはAR小隊の隊長、M16A1。姉妹思いなところだけが取り柄。本性はというと、酒癖が悪く、粗暴で、酔った途端にすぐに男にも女にも手を出す。気を付けた方がいいわよ、指揮官」
「おいおい、捏造とは関心ならんな」M16が言い返す。
AR小隊。五十嵐は、話には聞いていた。自分が率いる中隊の中核となっている、404小隊と双璧をなす、グリフィンのエリート部隊。因みに、他のエリート部隊は、AK-47、PKP、Ots-12、56式といった戦術人形で構成されるAK小隊というのもいるという。
「事実を言ったまでよ。それで、あんた一人でここまで来たわけ?」416は、相変わらずつっけんどんな態度でM16に言った。
「ああ、その通りさ。全く、これだからバカ真面目なカタブツは」
「確か、輸送機が・・・・・レールガンに撃墜されたと聞いたが・・・・・・?」五十嵐が言う。
「その通りだぜ。で、気づいたら、墜落して、ぼろぼろになった飛行機の中にいた。生きているのが奇跡と言えるくらいだ。それから、妹たちを探して、鉄血の奴等を殺して歩きまわってた。そして、酒と食べ物を探し続けてやっと見つけたのが、この戦車の溜まり場になった、ボロいガソリンスタンドって訳だ。外の戦車はあんたらのかい?」
「ああ。放置されてたから、無人になった軍の駐屯地から頂いた。この混乱の中だ。どうせ、誰も気にしやしないさ」
五十嵐の言葉にM16は口笛を吹いた。
「すげえな。あんた、気に入ったよ。よし、それで、これからどうするんだ?」
「とりあえず・・・・・作戦の第一目標の一部はクリア・・・・・かな。作戦目標は、AR小隊の救出だったからな」
「そいつはどうも。で、これから妹たちの捜索か?ならば手伝わせてもらうぜ」
「待ちなさい。まずは、作戦本部に連絡を取るわ。あんたを見つけたことを知らせて、次の行動指針を決めるためにね。RFB、本部に繋いで」
416の言葉に、M16はやれやれ、といった様子でかぶりを振った。
2056年 1月8日 1111時(現地時間) シリア
シリアの砂漠に6本の四角柱を束ねたものを背負った台座のようなものがいくつも置かれていた。四角柱1本当たりの大きさは、長さ約40m、四角形一辺の長さは1mだ。
そのうちの1つが、いきなり回転し、四角柱から炎と煙が吹き出した。その直後、四角柱の中からミサイルが飛び出した。ミサイルはあっという間にマッハ10まで加速し、高度4600kmまで駆け上がった。ミサイルは宇宙空間で、アクティブレーダーとAIを作動させ、標的の人工衛星へ向かって行った。その標的の衛星には『Guriffin&Kluger』というロゴが描かれていた。
2056年 1月8日 1413時 カザフスタン
「あ・・・・・あれ?衛星無線機が繋がらないよ」
RFBが皆の方を見て言った。
「無線機の故障でしょうか?」G36が言う。
「いや。故障じゃないみたいだよ。でも、ハッキングやクラッキングされている感じでも無いみたい」
「他に考えられる原因は?」五十嵐が訊く。
「ジャミングか・・・・・・通信衛星の故障か、通信衛星が壊されたか、そのどれかかなぁ」RFBが答えた。
HQとの連絡手段が無くなった。その場合の行動指針は。
「よし、少し休んだら、作戦本部へ帰るぞ。全員、装備をチェックしろ」
「おい、待て!私の妹たちはどうなるんだ!?」五十嵐の命令にM16は抗議の声を上げた。
「これは、私たちが受けている命令の一つよ。本部との連絡手段が途絶えた場合、すぐに撤収すること」416がM16の声を遮る。
「ふざけるな!せっかく助けになる部隊を見つけたと思ったら、こんな仕打ち、あってた・・・・・・ぐあっ」
五十嵐に掴みかかったM16の鳩尾に、UMP45が正拳付きを食らわせた。気絶したM16を、G36と9A-91が引きずるように連行する。
「G36、手錠」
「わかりました」
UMP45の言葉に従い、G36はM16の両腕を後ろに回して、手錠で拘束した。彼女は9A-91と共に、M16をクルガネツ25の兵員輸送室に押し込む。
「さて、帰りましょう。戦車は途中でどこかに捨てて行くわよ。盗品だから、持って帰ったら何かと面倒だし」UMP45はそう言って、T-14の操縦室へ向かった。