2056年 1月10日 1113時 バチカン市国
サンピエトロ大聖堂の敷地は観光客でごった返していた。あちこちで記念撮影をしている人々がいる。そんな中を聖職者たちが歩き回っていた。派手な格好をした、ハルバートを持つ若者たちの姿も見える。彼らは、スイス人の衛兵たちだ。
衛兵と言っても、本格的な警備をする現代的な軍兵士と言うよりは、どちらかと言えば儀丈兵という色あいが強い。事実、あんな装備では、テロが発生したらまともに戦うのは、まず、無理だ。
「あの人たち・・・・・・何なの?」スイス人衛兵を見たUMP9が五十嵐に言った。
「スイス人の衛兵だよ。と、言っても、なんと言うか、警備のためにいるんだけど、今では、どっちかと言うと、儀礼的な意味の方が強いな。まあ、500年近く続いている伝統だから・・・・という意味なんだろうけど。まあ、本格的なテロが発生したら、イタリアの軍やカラビニエリが対処するんだろうけど」
「確かに、あれじゃ、まともに戦える格好とは思えませんが・・・・・・うーん・・・・・・・」
そう言うTMPの右手は、肩から下げた鞄の中に入れられていた。恐らく、銃のグリップを握っているのだろう。古風とは言え、武器を持った人間の存在に警戒しているようだ。
「さてと・・・・観光客が見て回れるのは、この辺りまでだからな。もうちょっとここでゆっくりするかい?それとも、他を見て回るかい?」
「指揮官はどうしたいの?」UMP9が言う。
「実は・・・・・色々見て回りたい場所が幾つかあるんだ。パンテオンにスペイン広場、コロッセオ、真実の口、まあ、ここからだと・・・・・サンタンジェロ城が一番近いか」
「何か、たくさんあるね!楽しそう!」UMP9は五十嵐の考えに乗り気のようだ。
「TMPは?」
「もうちょっとここを見てみたいです。後は、指揮官のお好きなように」
「よし、じゃあ、TMPに付き合って、サンピエトロをもう少し歩いて回るか。その後、サンタンジェロ城に行こう!」
「その間にご飯も食べないと。指揮官、何食べる?」UMP9が五十嵐を見る。
「そうだな・・・・・・1200までサンピエトロを見学。サンタンジェロに向かう途中で何か食べて、午後からサンタンジェロ城を見物!そうしよう!」
2056年 1月10日 1117時 イタリア ローマ グリフィン支部
ヘリポートに1機のS-70ヘリが着陸し、中からJ小隊の隊長である呉明と9人の戦術人形たちが降りてきた。更に1機、S-92ヘリも着陸する。中からは、死体袋を丁重に抱えた6人のグリフィンの職員たちが降りてきた。へリアンたちが、彼女らを敬礼して迎える。
呉たちは、カザフスタンで鉄血の大型兵器"マルドゥーク"の情報を偵察している作戦中に、頭を撃ち抜かれて放置されていたグリフィンのO中隊の指揮官、ナイジェル・ホーパーの変わり果てた姿を見つけたのだ。呉はホーパーの遺体を回収し、このローマ支局まで運んできたのだ。
「ご苦労だった。何とかここに連れて帰ってあげられたのは幸いだったな」
「ええ。しかし、彼の仲間たちは・・・・・・」
呉はホーパーの遺体を抱えて霊安室へ連れていく職員たちを見て言った。
「1人は、ある中隊指揮官が作戦中に見つけて救出した。しかし、他の10人は・・・・・・・」
「ホーパーは手足を縛られたまま、銃で撃たれて洞窟の外に放り出されていました。一応、洞窟の中を捜索してみました。しかし、中はもぬけの殻でした」
「そうだったか」
へリアンは、ホーパーの仲間たちが今頃どうなっているのか、すぐに想像がついた。奴隷扱いされているか、売り飛ばされたか、それとも殺されたか。ホーパーの部隊に所属していた戦術人形は、一人だけ生き残りがいた。ホーパーが生死不明だったため、データ上ではまだO中隊の所属として扱っていたが、今後は正式にB中隊の所属とする手続きをしよう。
ヨーロッパに関しては、鉄血による侵攻は、中央アジアや西アジアに比べたら、まだ本格的とは言えない。それどころか、まだまだ平和な日常を保ち続けている。奴らの侵略は、ここで食い止めねばならない。
台湾出身のJ小隊の指揮官である呉明は、自分の右腕的存在である79式を連れて宿舎へと向かった。後ろからば、95式と97式という、姉妹の戦術人形がついてきている。彼女はタブレットPCを鞄から取りだし、この支部に関する情報を確認した。ここにいる3個中隊は、全員が休暇中扱いだ。さて・・・・・B中隊の指揮官は、まだグリフィンにやってきて1年も経っていない新米のようだ。自分よりも2つばかり年下だ。名前から推測すると、日本人のようだ。
さて、もう一人の指揮官は・・・・・その名前を見て、呉は顔をしかめた。T中隊の指揮官、スペイン出身のハビエル・コルテス。顔は端正でがっしりとした体つきで、いかにも女性から人気がありそうな見た目だが、はっきり言って、呉はこの男には近づきたくなかったし、自分の仲間たちにも近づけさせたく無かった。
コルテスは、呉が指揮官訓練生だった時から知っている人間だが、なりふり構わず女性に言い寄り、手を出すような奴だ。その反面、戦術指揮官としての腕前は確かだ。
「ねー、指揮官!お外で遊んできてもいい!?」
97式が呉の周りを跳ね回りながら言った。
「ちょっと待って。まずは、荷物を宿舎に置いてからにしよう。それから私が連れていってあげるから、我慢して」
「わーい、やったー!」
「ふん、いい気なものね」
そんな97式の様子を見て言ったのは、スコープ付きの不恰好な銃を持った長い黒髪の少女。ワルサーWA2000だ。
「わーちゃんは?一緒に来る?」
「ちょっと、その名前で呼ばないでってば!ううん。ここで大人しくすることにするわ」
「わかった。他に付いて行きたい子は?」
「私が行きます。護衛が必要でしょうから」
そう言って呉に近寄ってきたのはステアーAUGだ。
「わかったわ。その代わり、二人とも銃はケースの中に入れておくのよ。街中でそんなものを剥き身で持ち歩かせる訳にはいかないわ」
「うん。わかった。ちょっと待っててね。ケース持ってくるから」
97式はそう言ってJ小隊の宿舎に向かって駆け出した。
J小隊のメンバー
呉明(指揮官)
79式
95式
97式
ステアーAUG
ワルサーWA2000
MG23
G17
SAT8
M1ガーランド