※この作品はR-18です。

ドールズフロントライン ルナティックウォー   作:F.Y

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発見された斥候

 2056年 1月23日 0953時 ボスニア・ヘルツェゴビナ グリフィン訓練施設

 

 3機のEC-665タイガー攻撃ヘリに護衛された2機のNH-90汎用ヘリが雪原に着陸し、回転するローターの風圧で雪を巻き上げる。ヘリの横のスライドドアが開き、五十嵐智基と呉明、戦術人形たちが降りてきた。ヘリが再び離陸するまでの間、五十嵐たちはしゃがんでダウンウォッシュを避ける。ヘリは盛大に人間と人形たちに雪を浴びせながら飛び去って行った。

 ヘリが飛び去って行くと、五十嵐はFN-SCAR-Lのボルトを引き、薬室に5.56㎜弾が装填されているのを確かめた。ホルスターからシグP320を引き抜き、こちらの状態も確かめる。

 

「さてと。今日の訓練は、拠点制圧よ。奴らが占領している地域を急襲して、ぶっ潰す。あの攻撃ヘリはこの後、前方展開拠点で補給して戻ってくるわ。必要ならば無線で呼ぶことね。補給が終わったら、前方拠点で待機しているから」

 

「そいつは心強いですね。リーパーは?」

 

「無人機はヘロンだけ。リーパーは今回は無しよ。その代わり、前方展開拠点にタイガー攻撃ヘリが待機しているから、必要な時に呼んで敵をぶっ飛ばしてもらうことにしましょ。物資は例によって無人機でのお届けよ」

 

 呉の言葉に五十嵐は頷いた。

 

「わかりました。では、目標までのルートを確認しましょう」

 

 五十嵐は外装が強化されたタブレット端末を取り出し、GPS画面を呼び出した。攻撃目標までの最適なルートを計算する。そして、続いて上空を飛んでいるヘロンに接続し、俯瞰画像を確認した。

 

「ここからだと、北西周りのルートをたどると遮蔽物が多くて安全そうですね。それと、狙撃チームは北の向こうの丘と東の斜面に配置しましょう。そこからならば、向こうを見下ろして援護してもらうことができますよ」

 

「今回は、強襲チームと同行よ。道中は5メートル間隔で移動。あまり離れていると、天候が悪くなったら後で合流できなくなるから。以上よ」

 

バルカン半島は、まだ冬の寒さが厳しい季節だ。日本でも、比較的暖かい場所で育った五十嵐には、氷点下の気温はかなり体に堪える。

 

「くっそ。保温着を用意しなかったら、もっと酷い目に遭っていたな。まだ晴れているのは幸いだが、すぐに荒れる可能性はあるからな」

 

「寒かったら、私にくっついてればいいんだよ。この前のカザフスタンの時みたいにさ」UMP9が言う。

 

「懐かれてるわね。良かったじゃない」呉がにっこりとした顔で二人を見ていた。

 

「まあ、悪い気はしませんけどね」五十嵐は、一度、度入りのアイウェアを外し、白いバラグラヴァを被ってからかけ直した。

 

「それじゃ、5m間隔で移動。雪で足下が悪いし、凍って滑りやすいから十分注意して。それと、氷が張っているからと言って、間違っても川や沼の上は歩かないように。氷が薄い所を踏んだら、冗談抜きに水の中に落ちて死ぬわよ。気温が低いから、バッテリーの減りやすさに気をつけて。行くわよ」

 

 2056年 1月23日 1011時 ボスニア・ヘルツェゴビナ グリフィン訓練施設

 

 部隊は雪道をクロスカントリー用のスキーを履いて歩き続けた。自衛隊や米軍などでも採用されているタイプのものだ。呉は、台湾という暖かい国で育ったせいか、スキーでの移動に苦労していた。一方の五十嵐は、冬はよく両親に連れられて石川県や富山県へスキーに行っていたので、スキーを履いたままの移動には慣れていた。

 雪道は雪上車が頻繁に行き来していた影響なのか、ある程度は踏み固められ、スキーでの移動がしやすい状態だった。

 

「指揮官、そんなに早く歩かれても困る。ペースを落として」416が隣で歩く五十嵐を見て言った。

 

「ああ、すまん。ちょっと早すぎたか」

 

「あまり先走られると、護衛できなくなる。私たちの護衛無しで生きて帰れないでしょ。それと、私たちだって、指揮官の命令無しにはできることも限られる。私たちは、あなたの命令しか受け入れない。例えここで指揮官が死んでも、呉の命令には従わない。そうプログラムされている」

 

「それじゃ、そうだな。もし、僕が死ぬか、再起不能になった場合は呉さんの命令に従え。これでいいか」

 

「考えたわね。まあ、それがあなたの命令というのならば、従うわ。みんなにも伝えておく。でも、あなたを死なせるつもりは微塵も無い。この身に代えてもね」

 

 いやいや。重すぎるって。確かに、最初の実戦は運良く死なずに済んだ。だが、この先はどうなるかは全くわからないものだ。

 

「まーあ、最初の10回の作戦出撃を生き残ったら、生存率が急に上がるって話もあるじゃん。ええっと、指揮官は後9回だね。大丈夫、大丈夫。ちゃんと守ってあげるから」UMP9がにっこり笑って言う。

 

 五十嵐は、右手で持っていた方のストックをザックのホルダーに引っ掻けた。最初は両手に1つずつ持っていたが、それではいざというときに銃を使うことができないからだ。

 勿論、片手でSCAR-Lを撃つことはできないため、拳銃を使うことになる。拳銃の片手撃ちは、正確な照準と反動の制御を考えた場合、あまりよろしくは無いが、実戦ではそうせざるを得ない状況が多くなる。市街地・室内戦闘訓練では、建物や車などの陰から射撃する必要があるため、五十嵐は片手撃ちの訓練に時間をかなり費やしていた。

 更に、銃を持つ手をスイッチングする訓練もしていたが、これはまだ上手くできていない。実際の戦闘では、右手から左手に銃を持ち替える必要がある状況になることが多いが、利き手ではない左手での射撃がどうもターゲットにしっかりと弾が当たらないのだ。特に、拳銃を左手だけで撃つと、反動を上手く制御できず、排莢不良を発生させてしまうことも多い。

 

「さて、斥候を出しましょう。AUG、97式、任せるわよ」

 

「わかりました」

 

「やったー、じゃあ行ってくるね!」

 

 97式は姉の制止も聞かず、一人で先へと突っ走っていったため、AUGが慌てて彼女を追いかけていった。

 

「あれで斥候になるのかな」

 

「多分、無理ね」416が五十嵐にそう返した。

 

「あれだけ騒がしいと、すぐ敵に見つかるだろうな」

 

「妹はよくそうなるんですよ。でも、何故か下手の横好きで、斥候に出たがるのです」95式が嘆息しながら五十嵐に言った。

 

「あんたも苦労人ね」とUMP45。

 

『し、指揮官!敵だよ!』無線から97式の声と銃声が聞こえてきた。

 

「落ち着きなさい。まずは、敵の数と、どんな奴がいるかを・・・・・・」

 

『ち、違うの!こっちに向かって敵がぞろぞろ突進してきたの!』

 

 どうやら見つかってしまったようだ。

 

「早くこっちに戻って来なさい!後は何とかするから!」

 

 呉はそう言って無線を切り、五十嵐たちの方を見た。

 

「早速厄介事よ。97式とAUGが敵を引き連れて戻ってくるから、迎撃の準備をするわよ。狙撃チームをあっちの丘の上に配置して、射撃チームはその下に。そうね。M60ちゃんとAEK-999ちゃんは、手前で敵を待ち構えて、見つけたら十字砲火で殲滅。以上よ」

 

 呉の指示に従い、五十嵐と戦術人形たちが配置に向かう。

 

「それと、みんな。わかっているとは思うけど、くれぐれも間違っても97式とAUGを撃っちゃ駄目よ。撃つ時は、相手をよく確認するのよ」

 

 誤射だけは、確実に避けねばならない。五十嵐は、配置に付くと、伏射の姿勢を取り、SCAR-Lのセレクターがセミオートになっているのを確認した。

 

 仲間たちは、それぞれ3~4人ごとのグループに固まって、50mずつほど間隔を空けて配置に付いた。五十嵐の隣には、UMP9とスプリングフィールドがいる。

 

「あーあ、やっちゃったね。97式だっけ?どんな事したら、偵察中に敵に見つかるのさ」UMP9は呆れた様子だった。

 

「さあな。サバゲーでは、隠れながら移動して、なるべく遠くから敵を観察するんだが・・・・・・」

 

「こっちに来ましたよ・・・・・・・何ですか、あの大群は!」

 

 双眼鏡で向こうを見ていたスプリングフィールドが驚愕の声を上げた。五十嵐も双眼鏡で確認する。必死な様子でこちらに向かってくる97式とAUGの後ろからは、ざっと数えて数十体もの"敵"が迫ってきていた。

 

「ヘリアンさん、どんだけ"敵兵"を用意したんだ・・・・・。まあ、いい。間違っても味方を撃つな。射撃開始!」

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