※この作品はR-18です。

ドールズフロントライン ルナティックウォー   作:F.Y

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突然の任務

 2056年 1月23日 0959時 ボスニア・ヘルツェゴヴィナ グリフィン訓練施設

 

 セミオートで銃が発射される音が山の中で響き渡った。97式とAUGを追いかけ、津波のように押し寄せてくる"敵"の集団のうちの何体かが倒れた。本来ならAEKとM60に命令して、弾幕を張って敵をなぎ倒して貰うのだが、味方が目の前にいる以上、誤射の恐れのあるフルオートでの弾幕射撃を行うのは難しい。

 

「97式!AUG!どこか適当な場所に隠れなさい!」呉が無線に向かって怒鳴った。

 

 こういう状況で役に立つのは、長い射程を持ち、かつ、精密さに優れた狙撃ライフルだ。

 

「SV、ファルコン、任せるぞ」五十嵐がスロートマイクを通して司令を出す。

 

『任せて下さい!』

 

『まーかせて!やっつけてやるよ!』

 

 すぐに7.62mmNATO弾が発射される鋭い銃声が響いた。再び"敵"が倒れる。

 

「わーちゃん!あいつらを撃って!」

 

 呉が無線に向かって言うと、更に銃声が鳴り"敵"がバタバタと倒れた。流石、セミオートスナイパーライフルの最高傑作の一つと呼ばれているワルサーWA2000だ。素早く、正確に標的を撃ち、仕留めていく。

 一方、ボルトアクションの銃であるSV98とファルコンは苦戦していた。射撃自体は正確だが、速射性に難があった。特に、薬室しか無い状態に等しいファルコンは1発1発手込めで装填し、射撃をしていた。SVとファルコンが敵を2体倒している間に、WA2000は6体も倒していた。瞬く間に"敵兵"は殲滅され、仲間たちの安全は確保された。

 

「ふん。どうよ。私にかかればこんなもんね」

 

「ありゃあ。M14とRFBがスコープ付けたらこんなになるのかなぁ。私じゃ無理だよこれは」WAの鮮やかな速射を隣で見ていたファルコンが言う。

 

「あんたは?ああ。威力と射程ばかりの、精密さは最悪なあのバカでかい弾を使う銃か」

 

「でもさぁ、7.62mmじゃ、マンティコアやイージスの装甲を破れないでしょ。任務中に鉢合わせになったらどうするのさ」

 

「そういう時は、対戦車兵器を用意するのよ。カールグスタフとか、ジャベリンとか」呉がファルコンに言って、AUGに向き直った。。

 

「さて、AUG。どうだったの?」

 

「私たちは、林の中を偵察していました。かなり見通しが悪く、97式を捕まえた後は、慎重に進んでいたのですが、雪の中からいきなり"敵"が出てきました。それも何十体もの。最初は銃を撃ちながら倒していきましたが、焼け石に水でした。次から次に敵が現れ、攻撃してきたため、引き上げざるを得ませんでした」

 

「敵が隠れて待ち構えていた訳ね。しかも、雪の中に隠れていた、と。随分凝ったシナリオね。まあ、いいわ。二人とも無事だったんだし。さて、次は慎重に進むわよ。前進」

 

 2056年 1月23日 1203時 ボスニア・ヘルツェゴビナ グリフィン訓練施設

 

 戦術人形たちは、サイボーグであるものの、自身が晒される外部環境の状態をデータとして観測し、記録し、暑さや寒さとして感覚神経回路にフィードバックされる。更に、極端な暑さや寒さは電子頭脳を危険に晒すため、AIには人間と同じように、寒さや暑さを避ける行動を取るようプログラムされている。そのため、一行は、演習場内のシェルターで休憩を取っていた。ここならば、雨風をしのぐことができる。

 

「実戦だとこうもいかないけど、こういうのがあるのはありがたいな」

 

 五十嵐はやや狭いシェルターの中を見回した。中には、調理器具、冷暖房器具、通信装置が備え付けられている。万が一、遭難した場合は、こういった場所で救助を待つことになるだろう。

 

「そういう時は、空き家を失敬するのよ。第一、鉄血に侵攻されているような場所だと、民間人はほとんどいないわ。家は放置されているわね」

 

 確かに呉の言う通りだ。グリフィンは作戦地域でシェルターの建設を進めてはいるものの、数は十分とは言えない。しかし、空き家はある。鉄血に追われて、家を捨てざるを得なかった人々が暮らしていた。

 

「指揮官様、寒くはないですか?」

 

 G36が手に持った毛布を五十嵐の肩に掛けた。他の仲間たちは、銃の状態を確認している。

 

「ああ、ちょっとな。ありがたい」

 

「寒いなら、くっついててあげるよ。カザフスタンの時みたいにさ。てか、寒いからくっつく」UMP9が五十嵐の隣に座り、体を寄せてきた。

 

「懐かれてるのね。良かったじゃない」

 

 呉はそう言って、窓の外を見た。空は青く晴れ渡り、雲も一つ無い。外では、95式と416、AEKが歩哨として歩き回り、更にシェルターの上にはWA2000とSV98が見張りをしている。

 

「子羊ちゃん、SVと交代してくるね」

 

 ファルコンが銃を手にシェルターの外に出た。ややあって、SV98が中に入ってくる。

 

「敵がいる様子は今のところ無いです。天候は良いですし、次の攻撃目標を・・・・・・」

 

 SV98がそこまで言ったところで小さな重低音が聞こえてきた。それはどんどん大きくなり、耳障りな音となって周囲を包んだ。

 

「指揮官、あれ」

 

 UMP45が指差した先の上空に、小さな黒い点が幾つか浮かんでいるのが見えた。それはどんどんこちらに近づいてくる。五十嵐が双眼鏡で確認すると、その小さな点の正体が艶消しのオリーブグリーンに塗られたS-70だということが判明した。

 

「あれは・・・・・味方のヘリか?まだ訓練日程が終わるはずじゃなかったけど・・・・・・」

 

 4機のS-70ヘリは五十嵐たちのすぐ直上に来ると、着陸し、そのうちの1機のヘリのキャビンのドアが開いた。中から防寒着を来たヘリアンが降りてくる。S-70のコックピットの右側からは、長い棒のようなものが伸びていた。

 

「訓練ご苦労。日程は途中だが、実は・・・・・・・だな、君らに緊急任務だ」

 

 へリアンは五十嵐と呉を呼んだ。

 

「君らには、ここからすぐにルーマニアの前方展開基地に向かってもらう。任務の場所はウクライナだ。実は、ここで交戦中の部隊が行方不明になった。君たちには、彼女たちの捜索救難を行ってもらう」

 

 へリアンはタブレット端末を操作し、画面を呼び出した。それには、10代後半か20代初めくらいと思しき年齢の男性と戦術人形たちの顔が表示されている。

 

「行方不明になったのはP中隊。連中の掃討作戦を行っていたが、3日前から定時連絡が途絶えてしまっている。何らかのトラブルに巻き込まれた可能性があると我々は考えている」

 

「ビーコンの反応は?どうなんです?」

 

「それも途絶えている。捜索救難には現地の別動隊も参加している。まずは・・・・・・ルーマニアのコンスタンツァ、ミハイル・コルガニツァ国際空港に向かってもらう。現地への展開方法は、そこで説明を受けてくれ」

 

「わかりました。それで、ヘリに乗って、燃料補給したら飛行機でルーマニアへは直接ですか?」

 

「ああ、そうだ。これから空港まで直行だ。但し・・・・・ちょっとしたものを見ることになるがな」

 

 2056年 1月23日 1004時 ボスニア・ヘルツェゴヴィナ上空

 

 2機のS-70はサラエボへ向けて山岳地帯を飛び続けた。かなりの速度が出ている。五十嵐がふと、コックピットを見ると、燃料計のメーターがEに近いことに気づいた。頭の中でH-60ヘリのスペックを確認した。待てよ。これだと、空港まで燃料が足りなくないか。五十嵐がへリアンの方を見た。

 

「どうした、ミスター」

 

「あの・・・・・これだと、どう考えてもH-60のスペック上、燃料を補給しないと、サラエボに着く前に墜落ですが・・・・・・・」

 

「ああ、そうだ。だから、燃料を補給する」

 

「でも、この辺にヘリポートなんて無いですよね。一体、どこにタンクローリーなんて置いているんです?」

 

「燃料はきちんと補給するから安心しろ」

 

「しかし・・・・・・・」

 

 不安げに窓の外を見た五十嵐が何かに気づいた。ヘリの前方を、大きな高翼の飛行機がゆっくりと飛んでいる。S-70は、その飛行機の方へどんどん近づいて行った。目を凝らすと、その飛行機はC-130のようだ。翼の下には、妙な形をしたポッドが吊るされており、そこから細長い棒状のようなものが伸びてきた。まさか。

 

「空中給油ですか!」

 

「え?指揮官、何?」五十嵐の肩にもたれかかって眠っていたUMP9が飛び起きた。

 

「あ、すまん・・・・・・」

 

「ああ。その通りだ。こんなヘリだと、こうでもしない限りは長距離を飛べないからな」

 

 S-70のパイロットは、ヘリの給油プローブを気流で暴れるホースドローグユニットに極めてスムーズに接続した。思わず見とれるほど鮮やかな腕前だ。

 

「ああ。補足しておくと、今日のパイロットは、アメリカ陸軍のナイトストーカーズ出身の腕利きだ。安心したか?」

 

 勿論、五十嵐はナイトストーカーズのことは知っている。アメリカ陸軍においては、ヘリによる航空機動作戦では右に出るものはいない特殊部隊だ。

 給油を終えると、パイロットは五十嵐の方を見て親指を立てて、にやりと笑って見せた。なんてこった。まさか、本で読んだ程度のことしか知らない特殊部隊の出身者が、すぐ近くにいただなんて。タンクが満タンになるまで燃料を補給したS-70は、そのまま目的地へ向けて飛行を続けた。

 

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