2056年 1月23日 1733時 ルーマニア ミハイル・コルガ二チャヌ国際空港
S-70が次々とエプロンに着陸した。ルーマニアの空港の中では、比較的大きな空港ではあるが、飛行機の離発着はそれほど多くは無いようだ。ヨーロッパ各国の航空会社のA320やB777などが確認できるが、数は多くない。
「変ね。前に来た時は、もっと飛行機がたくさんいたはずなのに」
呉明はヘリの窓から空港の様子を見て言った。エプロンに置かれている航空機は、An-26が1機とG550が2機、Mi-8が2機とベル412が1機、B777とA320が1機ずつ、DHC-8が2機とかなり少ない。確かに、国際便を運航している空港ならば、旅客機がそこそこいてもおかしくは無い。
「よし、こっちだ」
ヘリアンが五十嵐たちをエプロンの一角へ案内した。An-26の周囲では整備員たちが歩き回り、燃料の補給と機体の整備を行っている。
「本来は訓練を続けるはずだが、そんな状態ではなくなった。それでは状況を説明しよう」
ヘリアンはタブレットPCを取りだし、起動させた。
「先程話したように、ウクライナに派遣しているP中隊が行方不明になった。ウクライナは、現在、鉄血の大部隊の侵攻に晒されており、正規軍部隊は旗色が悪く、民間人は虐殺される一方だ。支援のために、我々はP中隊、V中隊を派遣したが、V中隊は壊滅。指揮官は重傷を負って帰還したが、命に別状は無い。戦術人形たちも負傷し、入院治療中だ。一方、P中隊とは、全く連絡が取れない状況だ」
「あまり考えたくは無いですが、P中隊はもしかしたら・・・・・・・」
「ああ。ミスターイガラシ。あまり考えたくは無いが、我々もその可能性は想定している。しかし、全員が健在して連絡手段を失ったまま、救助を待っている可能性も捨てきれない。そう思わないか?」
それは可能性の問題だ。だが、自分が作戦中に仲間たちと離ればなれになったら?きっと自分一人では脱出せず、まずは仲間たちを探すだろう。
「確かに、ヘリアンさんの言う通りですね。生存の可能性がある以上、見捨てる訳にはいかないですね」
「その通りだ。更に、今回はあまり時間に余裕が無い状況だ。よって、作戦を早く進めるため、航空機からのHAHOでの空挺降下による潜入を行う」
「空挺・・・・・・・・えっ!?待ってください。空挺降下の訓練だなんて、ちっとも受けて無いですよ!」
「確かにな。だから、君は仲間とタンデムで降下してもらう」
タンデムって、あれか。スカイダイビングの体験とかで、インストラクターとハーネスで繋がれた状態で降りるやつだ。
「ひぇっ」
「とは言え、素人を夜間に降下させるのは危険だ。我々だって無理な作戦は行わない。よって、作戦開始は明日の朝とする。一日中雲が無い快晴の予報だからな。空挺降下にはこの上無い天気のはずだ」
なんてこった。待てよ。呉は空挺降下の経験はあるのか?そう思った五十嵐は呉を見た。
「あ、空挺降下のこと?私は資格持ちよ。グリフィンの中でのだけど。と、言っても、訓練プログラムはアメリカ陸軍の第82空挺師団のものをもとにしているから、修了したら、立派な空挺隊員になれるわよ」
うわぁ。グリーンベレー隊員の養成部隊とも呼ばれるエリート部隊の訓練プログラムがベースとは、相当きつい訓練だったはずだ。
「そいつはまた・・・・・・・」
「さて、ヘリアン。明日になったら出発ね。じゃあ、それまでに装備と計画を確認しましょうか」
2056年 1月23日 1921時 ルーマニア ミハイル・コルガニチャヌ国際空港
がらんとしたロビーのベンチで五十嵐は横になって眠っていた。空港の職員は既に退避したのか、人の気配が全くしない。FN-SCARは弾倉を外した状態でベンチの横のテーブルに置いてあるが、右手は胸のホルスターに収まっているシグP226のグリップに置いている。
やがて、リノリウムの床をコンコンと叩く靴音が聞こえてきたのでビクリと反応し、P226のグリップを握り、上体を起こした。廊下の向こうから毛布を持ったスプリングフィールドが歩いてきた。
「・・・・・・・むぅ、他のみんなは?」
「9A-91とG36、AEKが見張りに立っています。それと、指揮官、気づかれていました?」スプリングフィールドはクスクス笑いながら言う。
「・・・・・・・・何?」
そこまで言って、五十嵐は自分の頭をUMP9の太腿に乗せていたことに気づいた。彼女は座ったまま眠っている。
「彼女、指揮官の護衛は私がやる、と言ってきかなかったのですよ」
「ありゃあ」
五十嵐は起き上がり、UMP9をベンチに横たえさせてから、スプリングフィールドから受け取った毛布をかけてやった。
「さてと・・・・・見張りの交代にでも出るか」
「駄目ですよ。何も言わずに離れたら、彼女、不安になりますよ。近くにいてあげてください」
「あ、お二人さん。仲良くしてた?」
続いてやってきたのはM14だ。
「ああ」
「明日からは大変だから、しっかり休んどかないと。次はいつ、普通に休めるかわからないよ」
「わかっているさ。装備は?」
「もう飛行機に積んであるよ。指揮官、それはそうと、ご飯は食べた?」
「いや、まだだよ」
「じゃあ、食堂に行こうよ。暖かい料理が揃っているよ」
「ちょっと待ってくれ」
五十嵐は軽くUMP9の体を揺すると、彼女はすぐに起きた。
「う・・・・・・ふあぁぁぁ。よく寝た。指揮官、何?」
「何か食べに行くか?これから食堂に行くんだが」
UMP9はがばっと起きて、五十嵐の左腕を掴んだ。
「あっ、行く行く!指揮官のおごりね!」
「経費だよ」五十嵐はそう言って、グリフィンから支給されたクレジットカードを見せた。
2056年 1月23日 1736時 ウクライナ
無線も駄目、GPSも駄目、ビーコン発信器も駄目。正に、八方塞がりだ、とP中隊の指揮官、スコット・ブレナンは落胆した。
ブレナンはオーストラリア出身で、大学を中退してグリフィンに入った。彼は、兼ねてからPMCへ強い憧れを持っていた。大抵の場合、PMCは軍や警察、政府の諜報組織などににおいて一定以上の経験と実績を要求されていた。だが、グリフィンは違った。親に黙って大学を辞め、半ば根なし草のような生活を送っていた自分をすぐに引き取ってくれたのだ。
それからというもの、グリフィンでの生活は、ブレナンにとって、人生を豊かにしてくれるものだった。素晴らしい仲間たち、未知の敵、エキサイティングな毎日。
だが、今は、そんな悠長な事を言っている場合では無かった。指令部との連絡が途絶えてしまい、物資もこの先を考えると十分とは言えない。
「畜生、駄目だ。奴ら、相当強烈なジャミングを仕掛けてやがる」
「焦っても仕方ありませんわ、指揮官。救助を待ちましょう」
そう言ったのは、黒い帽子、黒いジャケットに、黒いタイトなミニスカートを身につけ、自動小銃を持つ長い金髪の少女だ。
「だけど、このまま救助が来ないと、全滅しちまうぞ、StG44」
「わかっています。でも、こんな時こそ、冷静に考えないといけませんわ」
「ああ・・・・・・そうだな。他のみんなは?特にMP5は?」
「MP5の怪我は大丈夫です。それと、K31とM1911が見張りをしています。ステンMk2には休むよう言っておきました」
「良かった。さて、この先の方針を、ちゃんと決めないとな」
P中隊メンバー
スコット・ブレナン
StG44
MP5
P7
K31
M1911
AR70
ステンMk2
JS9
M200
SG510
MDR
RPD