2055年 7月26日 1218時 晴海埠頭
装甲車が、開けられたゲートを走り抜けた。近くには、サングラス、ベレー帽、Tシャツ、カーゴズボン姿の屈強な男たちがいた。銃は持っていないようだ。
桟橋には、スウィフト級高速輸送艦を、5、6倍は拡大させたような巨大な船が2隻、確認できる。
「あれに乗って行くよ。船酔いはする方?」AM-RFBが五十嵐に訊く。
「さあな。あまり船に乗った事が無いから」
「一応、医務室はあるし、医療中隊もいるから大丈夫か。さあ、乗るよ」
装甲車が、輸送艦のランプを上り、車庫に入った。M14が巧みにハンドルを動かし、中にあるAAV-7の隣にぴったりと寄せる。続いて、もう1台のピラーニャが横付けした。装甲車の後部ドアが開く。
「さ、降りて降りて。自己紹介もしなくちゃね」UMP-9が五十嵐に降りるよう促した。
五十嵐の前に、16人の少女たちが並んだ。みなそれぞれ、別々の銃を持っている。
輸送艦は、後部のランプドアが閉じると、すぐに動き出した。どうやら、連中は急いでいるらしい。
「ええっと、改めて。私たちは、民間軍事会社、グリフィン&クルーガー社に所属する戦術人形。まあ、サイボーグみたいなものだよ。でも、振る舞いも生活様式も、思考も感情も、人間と変わらないからね。さて、私はUMP9。あなたから向かって左から、私のお姉ちゃんのUMP45、従姉妹の416とG11。私たち4人は404小隊。そして、FNC、FAL、ベレッタM9、M60、SV98、スプリングフィールドM1903、スオミKP31、M14、USP、G36、AM-RFB、ジェリコ941。あと4人いるんだけど、訳ありでここにはいない」
「五十嵐智基だ。と、言っても、みんな知っているかも知れないが・・・・・」
「ええ、知っていますとも。あなたを連れ出す前に、ある程度のプロファイルは読みましたから」G-36が言う。
「それで。何のために僕を誘拐したんだ?」
「誘拐とは人聞きが悪いですね。私たちがあなたを保護しなければ、死んでいたんですよ?」スプリングフィールドが言う。
「悪かったな。でも、テロリストに狙われるような事をした覚えは無いぞ」
「ええっと、それなんだけどね」AM-RFBが前に出て話し始めた。「こっちの手違いで、君のPCに私たちの重要情報を誤送信しちゃったの。それを鉄血に嗅ぎ付けられた。情報を回収し、あなたも、その情報を知っているものと見なして、保護する作戦を決行したの。間違っても、民間人を巻き込まないようにね」
AM-RFBは続けた。
「でも、計画は失敗した。鉄血の連中は、あなたが重要人物だと見なし、暗殺を実行した。ペルシカさんが、一般人を巻き込む訳にはいかないと判断して、あなたの保護を決定した。勿論、情報は送るべき人にもちゃんと送ったの。その人たちも保護する予定だったんだけと失敗しちゃってね。鉄血の連中はあなた以外の保護対象だった人間を皆殺しにした。一般人を連れてくるのはどうなのかという意見もあったけど・・・・・ペルシカさんは、あなたに利用価値があると判断したみたいね」
屈強な男の一人が、大小のプラスチックのケースを2つ、五十嵐に差し出した。ケースを開けると大きなケースにはブッシュマスターACR、小さなケースにはベレッタAPXが入っていた。AM-RFBが再び話し始めた。
「あなたには、これから訓練を受けてもらう。リタイアも落第も無し。合格するまで、とことん付き合ってもらうってさ。勿論、報酬は用意するわ。毎月、決まったお金をあなたの銀行口座に振り込む。給料は、基本給プラス歩合制だって。まあ、危ない任務になればなるほど、たくさんお給料が貰えるってこと。それと、衣食住を100%保証する。そして、戦術人形の中で気に入った子を1人」
どんな報酬だよ、最後のそれ。
「で、僕には何をしろって言うんだ?」
「私たちと一緒に戦ってもらう。私たちの4人の仲間が、中央アジアでの作戦中に行方不明になったの。当面の間は、その仲間を探すのを手伝ってもらう。以上よ」
簡単に言えば、傭兵になれってことか。それって、一歩、いや、半歩間違ったら死ぬやつだろ。
「それと・・・・・あなたには、私たちのチームの戦術指揮官になって貰うって」
なんだと。
「・・・・・もう一回言ってくれ」
「つまり、今から、あなたが私たちのボスになるってこと」
正気かこいつら。ド素人をチームリーダーにするだなんて、どうかしているぞ。
「おいおい。それならば、自衛隊とか在日米軍とか・・・・・」
「ダメですよ。軍人や警察官を連れてきたら、私たちのことがすぐに表沙汰になってしまいます。それだけは、絶対に避けなきゃいけないのです。つまり、"銃や兵器についてそこそこの知識を持ち、かつ、突然いなくなっても、ひどく表沙汰になりにくい人間"でなければならないのです」G36が言った。
「それが、僕だってことか」五十嵐はかぶりを振った。だが、彼には選択の余地は無かった。
「仕方がない。他にどうしようも無いからな」
「やったー!」
「よろしくねー!」
少女たちが騒ぎ始めた。やがて、外から船の低い警笛が聞こえてきた。窓越しに外を見ると、1隻の駆逐艦が近づいてくるのが見えた。シルエットから判断すると、スプルーアンス級に似ている。いや、それそのものだった。
「あれは護衛だよ」UMP9が言って、五十嵐に双眼鏡を渡した。
五十嵐は、渡された双眼鏡で灰色の駆逐艦を見た。艦首近くに『1D-003』というアルファベットと数字、そして船体の中程に『Griffin&Kryuger』という文字が白いペンキでステンシルされている。見たところ、前部に127mm砲、船体の中程にRGM-84ハープーン対艦ミサイル、後部にMk29ミサイル発射システムが見える。ここからは見えないが、主砲の後ろにはMk41VLSも装備されていた。やれやれ。民間企業が駆逐艦を持つとは、恐れ入った。
2055年 7月26日 1203時 太平洋
それから2時間後。艦隊は南下していた。五十嵐には個室が与えられた。そこには、机と2脚の椅子、ベッド、インターネットに繋がったPC、ラジオ、クローゼット、冷蔵庫、電子レンジがある。他には、シャワールームとトイレが備え付けてあった。
そして、五十嵐の前には、机を挟んで軍服姿の眼鏡をかけた、20代半ばから後半くらいの年齢とおぼしき女性が座っている。
「五十嵐智基だな。私はヘリアン。グリフィン&クルーガーの幹部だ。今日から、戦闘部隊の直接指揮を君に任せる。勿論、必要なサポートは、我々から最大限にさせてもらう。手違いで重要情報を君に送ったばかりに、巻き込んでしまった。だが、もう後には引けなくなった。私たちの保護下に置かなければ、間違いなく、君は鉄血に殺されるだろう」
ヘリアンは一度、言葉を切った。
「さて、早速で悪いが、銃の扱いに慣れて貰おう。それが、君の命を守る、唯一のものだからな。銃は受け取ったな?」
「あ、ええ。APXとACRを」
「よし。では、それを持って、甲板まで来てくれ。射撃訓練だ」