2056年 1月24日 0841時 ウクライナ ボリシブカ
スコット・ブレナンたちは、先程見つけたビルの中に隠れたものの、すぐに襲撃に備えざるを得なくなった。事の発端は、ビルの中に入る直前の事だ。列をなして移動しているところを、鉄血のスカウトに発見されてしまったのだ。そのスカウトをK31が撃ったが、外してしまい、結果的に敵に自分たちの位置を知らせてしまったのだ。
ブレナンはK31を責める気にはなれなかった。それよりも、押し寄せる敵を撃退し、生き残る事を優先せねばならない。
ブレナンたちが戦いの準備を進めていると、ビルの部屋の奥で物音が聞こえた。ブレナンが様子を見に行くと、そこには、6歳くらいの少女が2人と、彼女たちより3つか4つ歳上の少年が1人いた。通訳機を使って話を聞いてみると、どうやら、3人とも親とはぐれたらしい。敵が来るので隠れているよう言うと、少年はかぶりを振り、手にしたスコープ付きのモシン・ナガンを見せた。
「お兄ちゃん、見て。これ、パパから使い方を教えて貰ったんだ。何かあったら、これを使ってカーリンとナターリャを守れって。だから、僕も戦うよ」
「あの二人は?」ブレナンが訊いた。
「僕の妹たちだよ。僕はイワン。お兄ちゃんは?軍の人?」
「俺はスコット。軍じゃないで、PMCの人間だ。銃は俺に任せて、隠れているんだ」
「じゃあ、お兄ちゃんの銃と交換だよ。そうじゃなきゃ、言うことを聞かない」
ブレナンは考えた。子供を戦闘に巻き込むのはまずい。何かあったら、面倒を見きられない。
「くそっ」
そうこうしていると、StG44が駆け寄ってきた。
「指揮官、敵です!もう、すぐそこまで迫ってきています!」
「わかった。今行く」ブレナンはイワンを見た。「そこにいろ。ついてくるな」
ブレナンはすぐに戦いに加わった。その様子を見ていたイワンは、ブレナンの命令を破ることにした。
2056年 1月24日 0843時 ウクライナ ボリシブカ
再びジャミングが酷くなった。タブレットPCの地図画像が乱れる。だが、ターゲットは先程の場所からは動いていない。そこに行けば、間違いなく合流できるだろう。
「指揮官、あとは真っ直ぐ進んで。ターゲットはすぐそこよ」
416が五十嵐に指示を出した。通りには、破壊された自動車の他、市民や軍人、警察官の遺体が幾つも転がっている。道路は赤みがかかった薄氷と雪が混ざって、赤と白の斑模様が広がっている。これと同じようなことが、中央アジア、東ヨーロッパ、アフリカで起きているのだ。日本で呑気に学生生活を送っていたら、決して知ることが無かった現実。鉄血製造工廠は、作戦地域を拡大し、勢力を広めていた。
「なあ。奴らの目的は何なんだ?ペルシカさんも、ヘリアンさんも、そこのところをよく話してくれないんだ。どういう理由で、奴らはここまで戦争を拡大させているんだ?」
「はっきりしたことはわかっていない。でも、そうね。幾つかわかっている部分はあるわ。奴の大ボスみたいなのは、エルダーブレインとかいう超高性能AIと言われているわ。勿論、それを作って管理しているのは人間らしいのだけど。問題は、そのエルダーブレインを管理している人間が、どういう考えの人間なのか、というところよ」
まあ、かなり過激な考えの人間だろう。しかし、何らかの政治的主張をしていない事を考えると、単に金儲けのためにテロ活動をしているだけだろう。恐らく、強盗のように資源や金品を収奪して資金にしているのだろう。
「指揮官!待って!敵だよ!」
タブレット端末で無人機からの画像を見ていたRFBが叫んだ。五十嵐が画像を確認すると、救助を待っている部隊の方へ鉄血のサイボーグなどが向かっているのが見えた。かなりの数だ。
「畜生!」
「こっちには向かってはきていないよ。どうする?」
「機関砲の弾と対戦車ミサイルはどれだけある?」
「ちょっと待って。みんなに確認する」
暫くして全ての隊員から連絡が来た。
「十分あるみたい。あいつらを攻撃する?」
「ああ。だが、合図するまで待ってくれ。なるべく奴らの不意を突きたい」
「どうするの?」
「奴らに気づかれない辺りまで、ゆっくり近づけ。タイミングはこっちに任せてくれ」
「わかった」
2056年 1月24日 0846時 ウクライナ ボリシブカ
スコット・ブレナンは双眼鏡で敵を見た。リッパー、ヴェスピドの他、イージス、ニーマム、更には・・・・。
「畜生。マンティコアまでいるじゃないか。それも2体だ」
ブレナンは、ここに来る前にAT-5こと9M113コンクールス対戦車ミサイルを使いきってしまったことを後悔した。やはり、あの3発は残しておくべきだったか。
「あの時ジャガーを倒したミサイルは、1発は残しておけば良かったか。考えが甘かったな」
「でも、仕方ありませんわ。指揮官がミサイルでジャガーを破壊してくれなかったら、JS9は死んでいたんですよ」隣で銃を構えるStG44が返す。
「やっぱり最初に俺が言ったように、俺が奴に接近して、C4を貼り付けて爆破すれば良かったんだよ」
「そんな事をしたら、指揮官は死んでいたかも知れないのですよ。そうなったら、私たちはどうすればよいのです?」
確かに彼女の言う通りだ。指揮官である自分が戦死して、その後、他のグリフィンの指揮官に拾って貰えるとは限らない。
「考えても仕方がないか。1911、RPGはどれだけ残っているか?」
「ランチャーが2つに弾が18発です」
「畜生。全然足りないな。大事に使わないと。そうだな。マンティコアにRPGは使うな。撃ったところで弾の無駄だ」
「わかりました」
マンティコアを破壊するには、最悪でも120mmクラス戦車砲のHEAT弾か、TOWやコンクールスくらいの対戦ミサイル程度の装甲貫通力が必要だ。正規軍部隊も、奴らを破壊するのには攻撃ヘリや戦車を持ち出していた。
「いいか。やばくなったら、すぐに逃げ出せるようにしておけ!戦死は許さんからな!これは命令だ!」ブレナンがフロートマイクに向かって叫んだ。
2056年 1月24日 0848時 ウクライナ ボリシブカ
UMP45はBMP-3をローギアでかなりゆっくり前進させた。この20世紀末に解体した大国で設計された、まるで遺物のような装甲車は、何一つ問題を起こす事無く走り続けている。流石、数年間泥水に浸かっていたにも関わらず、ちょっと簡単なメンテをしたら何事も無かったかのように弾丸を発射するような自動小銃を設計した国が作る兵器だ。頑丈さには定評がある。
「指揮官様、いい知らせがあります。ターゲットを見つけました」
砲手席に座っているG36が五十嵐に報告した。
「よし。早いところ回収して、ここからとんずらして回収地点へ向かうことにしよう」
「しかし、悪い知らせもあります。敵もターゲットを見つけたようです。奴らはターゲットの方向に向かっています」
「ならば、先に奴らを排除しておくことにしよう。まずは、味方の安全を確保するんだ」
「わかりました。攻撃準備はできています」
「よし。僕の合図で撃て」
「お任せ下さい」
G36は、BMP-3の76mm砲に多目的榴弾が装填されているのを確認し、ペリスコープで狙いを付け、発射ボタンに手を置いた。