2056年 1月24日 0908時 ウクライナ
中型の無人機が10機、ゆっくりと着陸した。ワイヤーで箱のようなものを吊っている。中身は全て弾薬だ。少し前にジャミングが回復し、前方展開基地と連絡を取ることができたのだ。
ブレナンと五十嵐は無人機が運んできた木箱を開け、中の弾薬や食料などを戦術人形たちに配った。
「どうやらジャミングが回復したみたいだな。いったい奴らは何処に電子ジャマーを仕掛けてやがったんだ?」スコット・ブレナンが外装が強化されたタブレット端末を操作しながら言う。
やがて五十嵐が持っている無線機から雑音が鳴り始めた。
『・・・・・・聞こえる?五十嵐君・・・・・』
五十嵐が無線の送信スイッチを押した。
「五十嵐です。呉さんですか?」
『あ、やっと連絡が取れた。そっちはどういう状況?』
「P中隊と合流しました。全員無事です。そちらは?MG23は見つかりましたか?」
『うん。それと、MGちゃんを探すついでに奴らの電子妨害施設を幾つかぶっ潰してきたわ。でもちょっと厄介なことになってるの。鉄血の部隊がこっちに向かってきていてね。援護を頼めるかしら?』
「・・・・・・どんな状況なんです?」
『実はね。MG23ちゃんは鉄血に捕まっていたんだけど、奴らをぶっ殺して取り返してきたの。でも、そのせいで奴らに狙われちゃって。今、撤退しているところ』
くそっ。一難去って、また一難だ。敵に狙われている仲間を助けねばならない。五十嵐は自分の装備を確認した。
「厄介事か?」ブレナンが言った。
「はい。J小隊が敵に追われていて、援護が必要みたいです」
「位置は?」
「ここです」五十嵐はタブレットに地図画面を表示させた。
「わかった。よし、助けに行こう。ミンのことはよく知っている。あいつを見殺しにするのは気分が悪いからな。そのBMP、ガソリンは残っているか?」
「どれだけ走れるかわかりませんが、それなりには残っています。ただ、弾薬は確認しないといけないですね」
「わかった。では、まずはそいつに乗せてもらえるか?」
「兵員輸送室にぎゅうぎゅう詰めになるかもしれません」
「なあに。構わんさ。またこのまま氷点下の中を延々と歩いて行軍し続けるよりはずっとマシだ」
「わかりました。では、行きましょう」
2056年 1月24日 0911時 ウクライナ
歩兵戦闘車が列を成して幹線道路を進み続けた。車通りは殆ど無く、時折、バイクで走る若者を数人見かけたくらいだ。まあ、わざわざこんな戦場のど真ん中にやって来るような物好きな一般人なんてほとんどいない。まともな考えの持ち主ならば、PMC、正規軍、鉄血が撃ち合いをやっているような場所に近づきたいとは思わないはずだ。
突如として大気を震わせる轟音が聞こえてきた。空を見上げるとSu-27Sが4機、編隊を組んで東の方へ飛んで行った。F-16やSu-27などの所謂第4世代ジェット戦闘機は、1970年代に初期型の配備が始まった化石のような存在であるものの、未だに延命改修や電子装備の近代化改修を繰り返して現役で飛び続けている。
「ウクライナ空軍か。ここ連日、鉄血の占領区域を爆撃していたが、どれ程効果がでているかはわからんな。おまけに、奴ら、ここにも幾つかジュピター砲の陣地を作っていた。軍もそれに随分やられたようだからな」ブレナンが空を見上げて言った。
『奴ら、スカウト以外の航空兵器を使っていたりしますか?』
「いや。どういう訳か今のところ、奴らが戦闘機や攻撃機の類いを投入していないようだ。理由はわからん。まあ、"蝶事件"時点で、奴らが持っていた航空兵器は攻撃ヘリが関の山だったからな。だが、最近は、人間が持っていた兵器を使うケースが減って、殺人ロボットやUCAVを投入している。多分、人間が使う兵器は効率が悪いと判断した結果だろう」
『そうですか。では、少なくとも制空権を簡単に奪われる危険は"今のところは"無いということですか』
「そう考えて構わないだろう。現に、俺たちの無人機は何一つ危険に晒される事なくこの辺りの空域を飛んでいる」
『わかりました。それで・・・・・・』
ジェットの轟音が辺りを包んだ。ブレナンがハッチを開けて空を見上げると、ウクライナ空軍のSu-25"フロッグフット"攻撃機が4機で編隊を組んで飛んでいく。見えたのは一瞬だが、翼の下のパイロンに爆弾やミサイルを搭載しているのを見たような気がした。
「あっちの方向には、確か鉄血の陣地があったな。あそこを空爆しに・・・・・・・」
ブレナンがそこまで言った時、地平線の向こうから炎の筋が空に向かって登って行った。地対空ミサイルだ。ミサイルは真っすぐSu-25の編隊に向かって飛んでいく。攻撃機はブレイクし、フレアを撒きながら回避機動をした。ミサイルはしつこく航空機を追い続け、3番機の翼に命中した。フロッグフットは瞬く間に炎に包まれる。2発のミサイルがフレアかチャフに騙され、地面へと落下していく。
「ちいっ。だが、正規軍も厳密には俺たちの味方とは言い切れないからな。助ける義理は無い」
その通りだ。正規軍は鉄血相手に戦っているが、PMCの味方をしている訳では無い。それについてはブリーフィングでヘリアンからも聞かされていた。実際、正規軍とPMCが衝突するケースはかなり多い。
Su-25が旋回し、再度攻撃アプローチに入る。だが、今度は空が数回青白く光った。その直後、特急列車が通過するような音が鳴り、攻撃機が3機とも撃墜された。
「畜生。この音はジュピターかよ。こんなところにまで建設してやがったとは」
五十嵐はジュピターのことは知っていた。AR小隊が行方不明になる原因を作った、鉄血の対地対空両用の大型レールガン。それがここでも建設されていたのだ。敵は世界各地のどんどん拠点を広げ、人類の生存区域を圧迫し続けている。
「知ってるか?奴らは、元々は人間がマザーAIを使って制御していたんだ。だが、そのマザーAI、エルダーブレインが暴走し、サイボーグとロボットを使って鉄血に所属していた人間を皆殺しにした。今や、奴らのロボットやサイボーグは、機械とAIによって制御された無人工場で生産されている。しかも、AIは、ロボットとサイボーグの戦闘結果のデータを収集し、後に製造する兵器のAIのプログラムにフィードバックしている」
『そして、戦闘データを兵器の改良に利用しているという訳ですか。より効率的に人間を殺せるように』
「ああ。俺はグリフィンにやってきて2年になる。ヘリアンやクルーガーが隠したがっていることも、色々掴んでいるしな。それについては、君にも追々話してやろう。中には、君には知ってもらわなきゃならない話もあるかなら」
『僕が知らなきゃならない話・・・・・・ですか』
「ああ。だが、ここではまずい。そうだな。二人だけで酒でも飲みながら話してやろう。年はいくつだ?」
『19です。日本じゃまだ飲めないですけどね』
「なあに。バレないように、こっそりやればいい話だ。それに、オーストラリアじゃもう飲める歳だしな。さて、早いところミンたちを見つけてやらないとな」
ブレナンはタブレット端末を操作した。ビーコン信号が正しければ、J正体は真っ直ぐこちらに向かって来ている。じきに合流できるはずだ。