2056年 1月24日 0913時 ウクライナ
五十嵐とSV98、FAL、UMP9が林の中を慎重に進んだ。後方にはブレナンたちを残している。今頃、彼らは防御体制を整えているはずだ。
「あれかな?あの峰の上の方だ」
五十嵐が双眼鏡で人影を幾つか確認した。武器を持ち、こちらに走って向かってくる。
「そのようですね・・・・・・いました!」
SV98は五十嵐に体をぴったりと寄せ、ニーリングの姿勢でライフルを構えた。スコープではっきりとJ小隊のメンバーの姿を確認した。今のところは、全員無事のようだ。
「よし。では、作戦通りに。僕らは常に動き回って奴らを撹乱。SV、合図したら1体撃て。撃ったらすぐに移動」
「わかりました!任せてください!」
五十嵐は無線機のスイッチを押し、別動隊の状況の確認をすることにした。
「M60、スオミ、416、G11、AEK、位置についたか?」
『配置完了!』
『準備完了です!いつでも大丈夫です!』
『大丈夫よ。後は私に任せて』
「間違っても味方を撃つなよ。では、作戦開始」
だが、そうしている間に、向こうの仲間が2人、倒れた。まずい!事態は、もはや一刻の猶予も無い。
「SV、準備はいいか?」
「いいですよ」
「やれ」
SV98は銃のトリガーを引いた。その0.03秒後、リッパーの頭が破裂する。
「移動だ!」
五十嵐たち4人は走り出した。作戦開始だ。
2056年 1月24日 0914時 ウクライナ
呉明たちは逃げるのに必死で、すぐ後ろに迫ってきた敵の1体が撃たれて倒れたことに気づかなかった。それよりも、今は逃げるのが先決だ。
幸い、自分たちを追ってきているのは、リッパーとダイナゲート、プラウラーだけだ。これにイェーガーやヴェスピドが加わっていたら、たちまち射撃の的になってしまっていただろう。
「みんな!真っ直ぐ走っちゃだめ!ジグザグに、でたらめに走って!」
周りに有効な遮蔽物が無い場合、銃弾を避ける時の鉄則の一つだ。できる限り不規則に動き、敵にリードでの射線を確保させないようにする。
暫く走っていると、足下の周りの雪が飛び散った。もう敵の銃の有効射程内まで追い付かれたようだ。
「くっ!」
呉たちは必死で向こうの林を目指した。あそこまで行けば、木がある程度は遮蔽物になってくれるはずだ。
もうすぐ林の入り口に達しようとした時、呉の隣にいたM1ガーランドが悲鳴を上げて倒れた。
「M1!」
呉は飛んでくる銃弾を無視して仲間に駆け寄った。M1は左の肩と左太腿を撃たれていた。傷口から人工血液が流れ出している。
「指揮官!」AUGが呉とM1に駆け寄った。
「私は大丈夫!それより!」
AUGはすぐに呉の意図を悟り、二人でM1ガーランドを抱えて走り出した。95式と79式が後ろを向き、フルオートで牽制の弾幕を張る。
「お姉ちゃん!」
「97式!いいから指揮官と逃げなさい!」
「でも・・・・・きゃぁ!」
「97式!」
97式は左ふくらはぎ、右肩、左脇腹に被弾して倒れた。95式は妹を助けようとしたが、彼女もまた、被弾して倒れる。
「95式!」
呉は、M1をAUGとMG23に任せて2人を助けに行こうとしたが、WA2000に止められた。
「ちょっと!何考えているのよ!」
「3人を置いて行ける訳ないでしょ!」
「私とあんただけで?無理に決まってるでしょ!」
「でも・・・・・」
「早く!」
WAが呉を引っ張った時、95式と97式に迫っていた敵の頭が破裂した。続いて、他の敵も数秒間隔でバタバタと倒れていく。WA2000にとっては、それだけの援護で十分だった。銃を構え、迫り来る敵を狙い射ちする。呉と79式は姉妹を抱きかかえ、走った。
ヴェスピドとリッパーの集団は、目の前の獲物を逃がしてなるものかと、猛烈な勢いで呉たちを追いかけ始めた。だが、鉄血のサイボーグの集団から見て右側の林から、猛烈な勢いで鉛弾の強風が吹き込んできた。サイボーグの群れは、あっという間に人工生体組織の残骸に変わった。
呉は林を見た。一体誰だろうと、そこに銃を向け、警戒する。
「こっちだよ!ついてきて!」
呉は、なんとなく聞き覚えのある声が聞こえた方向を向いた。そこでは、RFB、G36、スプリングフィールドがしゃがんで銃を構え、警戒していた。
呉は95式と97式を支え、疲れきった体に鞭を打ち、仲間の方向に向かった。後ろで爆発音が聞こえる。手榴弾だ。
RFBたちが先導した先には、2両のBMP3歩兵戦闘車が待っていた。周りにはStG44とAR70、MDR、RPD、Mk48がいる。呉はM1ガーランドと95式、97式を兵員輸送室へ押し込み、ベンチと床に寝かせた。外を見ると、RFBたちが敵に銃撃を浴びせながらこちらに向かってきた。
「やあ、ミン」
運転席にいたブレナンが後ろを見て言った。
「スコット!五十嵐君は!?」
「向こうで敵と交戦中だ!早く仲間を乗せろ!回収しに行くぞ!」
2両目の装甲車にRFBたちが乗り込んだ。車長席にいたTMPがそれを確認する。
「出して下さい!」
「よしきた!TMP、心配しなくていいぞ!君の指揮官は、ちゃんと迎えに行くからな!」
ブレナンはBMP3のアクセルを開放し、急加速で前進させた。装甲車のエンジンが唸りを上げ、排気口から黒煙を立ち昇らせながら前進する。
「それで。脱出する算段はできているのかしら?あ、わーちゃん、そこの救急箱を取って!」
呉はWA2000から救急箱を受け取り、止血帯を95式の傷口に張り付ける。
「ああ・・・・・ちょっと待て」
『・・・・・・聞こえるか?B中隊!こちらHQ、聞こえるか?』
無線からヘリアンの声が聞こえてきた。
「J小隊、呉です」
『どうなった?Q中隊は見つかったか?』
「Q中隊とは合流しました。今、B中隊と合流して回収地点へ向かいます!」
『わかった。回収部隊を待機させてある。回収して欲しい時にマーカーで指示しろ』
「了解です!通信終了」
呉はUMP45を見た。
「大丈夫。あなたの妹と指揮官は必ず回収する」
2054年 1月24日 0918時 ルーマニア ミハイル・コルガニチャヌ国際空港
AC-130Uガンシップが2機、ターボプロップエンジンを回してエプロンから滑走路に向かい始めた。そのエプロンでは、CH-47Fチヌーク輸送ヘリと護衛のAH-64Eアパッチ攻撃ヘリが離陸準備を整えている。これらの航空機は全てグリフィン&クルーガー社の持ち物だ。マーシャラーが大きく両腕を動かし、航空機を誘導する。
『コルガニチャヌタワーよりスカイハンマー01へ。離陸を許可する』
『スカイハンマー01、離陸する』
機体の左側に機関砲や榴弾砲を搭載した、輸送機ベースの攻撃機がゆっくりと空へ舞い上がった。
『タワーよりスカイハンマー02、離陸を許可する』
『02了解。離陸する』
大型攻撃機が離陸する様子をヘリアンがエプロンで見ていた。巨大な飛行機は低い鉛色の雲の上へあっという間に吸い込まれ、見えなくなった。
「おやおや、あんなものまで投入するとは、余程重要な作戦が進んでいるようだな」
その声にヘリアンは振り返った。その声の主は、エフゲニー・パヴロヴィッチ・パヴリチェンコという若者だ。今では、ジューコフスキー・セキュリティというPMCに所属しているらしい。元々はグリフィン&クルーガーに所属しておりヘリアンの部下で中隊指揮官だったが、その後、この男はある同僚と考え方の違いで対立し、グリフィンを辞めて独立したのだ。
「なぜお前がここにいる、パヴリチェンコ」
「たまたま立ち寄っただけだ。それにしても、あのブレナンとかいうオーストラリア人の甘ちゃんはまだいるのか?」
「お前には関係ない話のはずだ」
「ああ、確かにそうだな。それにしても、あいつはおかしな奴だ。人形なんて、はっきり言って作り物だ。感情はあっても、それは所詮はペルシカがAIのプログラムを設計した時に作った偽物に過ぎない。そうだろ?」
「貴様には理解できないだろう。それだけの話だ」
「ああ、そうかい。だがな、ヘリアントス、あいつらは人間では無い。どう扱ったって構わんはずだ」
「よくそれで人形に殺されずに済んだな」
「ふん、俺はな、奴らを俺に逆らえないように教育していたからな。まあ、ブレナンの野郎は恐怖政治をしていた、とかほざいていたがな」
パヴリチェンコはそう言って、エプロンの向こうでローターを回しているMi-17汎用ヘリコプターへと歩いて行った。
「あばよ。では、人形遊びが好きなコアラの兄ちゃんによろしくな」