2056年 1月24日 1002時 ウクライナ
畜生!仲間はもうすぐ目の前のところにいるというのに!敵の攻撃が激しく、そこに近づくことすらままならないとは!
スコット・ブレナンは五十嵐智基たちの信号を捉え、装甲車をかっ飛ばしてその地点まで向かったのだ。だが、敵が五十嵐たちを集中攻撃しており、助けに行くこと自体が危険であった。
「わーちゃん!敵を撃って!」
呉の命令通り、WA2000が敵の頭を撃ち抜く。敵の集団は古代ローマの重装歩兵のように一列に並び、五十嵐たちの方へ歩きながら激しく銃弾の雨を降らせている。
SV98とファルコン、M14も攻撃に加わる。自動火器では流れ弾がどこに飛んでいくかわからないため、下手に援護射撃ができない状況だ。
「・・・・・・・くっ」
UMP45がM26手榴弾を手に前進しようとしたが416に止められた。
「無理よ。あんなところに突っ込むのは自殺行為だわ」
「でも、9と指揮官が!」
「くそっ、あいつら、何でこっちに見向きもしないんだ?」ブレナンが銃を構えて撃ち、リッパーを撃ち倒した。だが、敵はかなりの数で撃っても焼け石に水の状態だ。
「うう。無人機に上手く接続できない。ジャミングのせいかな」
RFBはタフブックのキーボードを叩き、近くを滞空しているはずのMQ-47無人攻撃機との操縦リンクを確立しようとしていたが、鉄血が電子妨害をしかけているせいか、まったく上手くいかない状態だ。おまけに今度はジャガーの派生型と思しきロボットが現れた。そいつは背負っている大型のランチャーからミサイルを空に向かって撃ちだす。その数秒後、RFBのタフブックの画面が真っ黒になった。
「あいつ!対空ミサイルだ!無人機を撃ち落とされたよ!」
RFBの言葉にブレナンが振り返った。
「何だと!?」
「あの左側のジャガー!でかいランチャーが付いている奴!」
確かに、そいつが背負っているはずの迫撃砲が、もっとでかい武器に換装されていた。
「くそっ、改造型かよ!あんなものを持ち出してくるとは!」
「指揮官、これ。使っちゃいましょう」
RPDが背負っていたAT-4ロケットランチャーを渡した。最後の1つだ。
「よしきた」
ブレナンはAT-4を受け取り、ジャガーの改造型に狙いを定めた。しかし、後方の安全確認をしてトリガーに指をかけた途端、防弾チョッキの上に被弾してのけ反ってしまった。ロケット弾は雲の上に向かって飛んで行ってしまう。
「畜生!」
「指揮官!」RPDがブレナンを助け起こす。
「防弾チョッキの上だ!」
「ロケットが!どうします?」
「なんてこった・・・・・・・」
対戦車兵器無しにジャガーを破壊するのはほぼ不可能だ。手持ちの爆発物はM26破砕手榴弾とC4プラスチック爆薬だけ。ただ、M26は破壊力不足。C4をジャガーにダメージを与えられるように使うには奴らのど真ん中に突っ込んで仕掛ける必要がある。
「くそったれめ。RPD、援護頼めるか?」
「どうするつもりですか?」
「助けに行く」
「無茶言わないでください!」
「あいつは命の恩人だ。放って見殺しにできるか!」
ブレナンはAT-4を放り投げ、銃のボルトを引いた。
「待ってください、私も行きます」
スプリングフィールドがブレナンのところに駆け寄ってきた。9A-91とG36もいる。
「いや、ダメだ。危険すぎる。ぞろぞろ連れて歩いたら、それこそ狙い撃ちされてしまうからな。俺一人で行く」
2056年 1月24日 1006時 ウクライナ
五十嵐たちは敵の銃撃に晒され、一カ所に釘付けにされていた。被弾しないように隠れてながら撃ち返すのが精いっぱいだ。FALとSV98が遠くの敵を、五十嵐とUMP9が近くまで接近してきた敵を撃つ。3人の戦術人形は五十嵐を真ん中にそれぞれ120度ずつ視界を確保する。
「畜生!」
五十嵐は銃の弾倉を取り換え、薬室に初弾を送り込んだ。そろそろじり貧になってきた。近くの敵は全て撃ち倒したが、更に5kmほど先から敵の大群が押し寄せてきた。
「くっ」
FALが前に出た。彼女たちが何を考えているのかはわかる。最後まで指揮官である自分の盾になるつもりだ。彼女たちの思考は、そういう風にプログラムされている。UMP9が五十嵐のすぐ近くに立つ。
「指揮官、しゃがんで。いい?合図したらでそっちに走って逃げるのよ。敵はそうね。私とSVが阻止するわ。ナイン、最後まで頼むわよ」
「わかった」
敵がどんどんこちらに押し寄せてくる。間違いなく、勝ち目は無いだろう。畜生。アパッチ攻撃ヘリが何機かあれば、殲滅できそうなものだが、ここにはそんなものは無い。やがて、五十嵐たちの近くの木に赤い光点が反射して見えた。くそっ、イェーガーに射程内に入られたか。その光点の数が増えていく。
「走って!」
FALが叫ぶとUMP9と五十嵐は走った。その後ろから銃弾が追いかけてくる。FALとSV98が撃ち返すが焼け石に水だ。2人は五十嵐たちとは別方向に走り、敵の注意を反らそうとしていた。
「畜生!」
よく見てみると、敵の大半はFALとSVを追いかけていた。あんな数をたった二人で対処するのは無理だ。SV98が突然、ばたりと倒れる。被弾したようだ。
「SV!」
FALが彼女を引っ張る。SV98の左腕に銃弾が人工皮膚を掠めて行った時にできた、深い一筋の切り傷が刻まれ、人工血液が流れ出ている。
「畜生!」
五十嵐は彼女を助けに行こうとしたが、後ろからUMP9に引き倒された。
「ダメ!」
「だが」
敵はどんどん二人の仲間へと迫ってきていた。こんな時、アパッチ攻撃ヘリでもあれば・・・・・・・・。
『・・・・・・・・聞こえるか?B中隊。こちらスカイハンマー』
無線から聞きなじみの無い女性の声が聞こえてきた。その声に、一瞬、五十嵐がぎょっとなる。
『B中隊!こちらスカイハンマー。敵をレーザーでマークしろ!』
五十嵐はタクティカルベストのポケットを探り、小さなレーザーポインターを取り出し、敵の集団に向けて不可視光レーザーを当てる。
『確認した。それとビーコンでIFFを送信しろ』
五十嵐は自分とUMP9が身に着けている個人無線機のスイッチを押した。無線でSV98とFALにもそうするよう伝える。
『確認した。マーク』
無線の女性の声がそう言った3秒後、敵の周囲で雪と土が凄まじい勢いで舞いあがる。それが終わった時、そこにあったはサイボーグとUGVの残骸だけだった。
『そちらに救助部隊を送り込んでいる。少しだけその場で待機していてくれ。交信終了』
その声が聞こえなくなった直後、ターボプロップエンジンの音が上空を通り過ぎていくのを聞いた。ふと空を見上げると、見慣れた機影が曇り空を背景に通り過ぎていくのが見える。C-130か?いや、あれは、まさか。
「AC-130・・・・・・・だと?」
五十嵐は上空を旋回する機体をほんの数秒だけ見ていたが、すぐに我に返り、腰の救急パックのジッパーを開けながらSV98に駆け寄った。
「大丈夫か?」
「すみません。やられました」
「じっとしてろ」
五十嵐はSV98の傷に止血帯を当て、上から包帯を巻いた。そうしている間に、聞きなれたMV-22Bのプロップローターの音が聞こえてくる。ティルトローター機が着陸し、中から戦術人形と指揮官が出てきた。
「救助部隊だ。早く乗せるんだ」
指揮官は若いアフリカ系の男だった。周囲にはPP-90やOts-12を持った少女たちがいる。五十嵐はSV98を抱き上げてオスプレイへと向かう。すぐ上ではアパッチ攻撃ヘリが敵を威嚇するように低空飛行している。
「他に仲間は?」
「すぐそこだ」五十嵐が林のほうを指さすと、UMP45やブレナンたちが出てきた。
「よし!全員、急いで乗れ!」
五十嵐、ブレナン、呉は改めて点呼を取り、置き去りがいないことを確認してからオスプレイに乗り込んだ。オスプレイは対空ミサイルを避けるため、低空を飛び続け、AC-130は敵に睨みを利かせながら基地へと飛び去って行った。