2056年 2月2日 0903時 ウクライナ グリフィン支部
J小隊を回収した後、基地に帰還してからは、五十嵐は風呂に入って指令部へ簡単な作戦の報告を出してから、個室のベッドで倒れこむようにして眠ったのだった。それから数日間、1日でG11並みの睡眠時間を取っていた。
あの日、J小隊との合流を目指している途中で鉄血の部隊と鉢合わせになり、撃ち合いになったのだ。その過程で、何とか怪我人を出さずに済んだ。
普段なら既に起きている時間だが、今日まではヘリアンがB中隊、P中隊、J小隊の3部隊を休暇扱いにしてくれたため、ぐっすりと朝寝をすることにした。いつもは0700時にけたたましい音を鳴らし、五十嵐を苛つかせる目覚まし時計のアラームも、今日は沈黙していた。
五十嵐は布団を自分の体に巻き付けながら寝返りをうとうとした。だが、どうしたことだ。何かが布団に引っかかり、動かない。
苛立たしげに、布団を無理に引っ張る。すると、背中に柔らかいものが当たり、耳に風が当たる。いや、風ではない。寝息だ。五十嵐はぎょっとなって後ろを見た。すると、後ろで眠っていたUMP9が抱きついてきた。
「うーん、しき・・・・・かん・・・・・、うー」
そんな寝言を言っている。五十嵐は混乱した。間違いなく、昨夜、この部屋にいたのは自分一人だったはずだ。いや、待てよ。昨日は、ブレナンから寝酒を貰ったんだった。
『こいつはとっておきの酒だ。これ1本で800ユーロはするような代物だからな。実際、かなり貴重品だが、あまりもったいぶって残しておくのもなんだからな。まあ、ちょっと遅めの生還の祝杯ってわけだ』
そう言って、ブレナンは持ってきたラム酒を2つのグラスに注いだのだった。酒を飲むのは、実はそれが初めてであったが、かなり美味い酒で、二人で大きめのボトルをあっという間に空にしてしまい、その後、ブレナンが帰って行ったところまでは覚えている。
だが、その後は記憶が曖昧だ。アルコールで酩酊し、あの後、誰が部屋にやって来ただなんて把握していない。しかし、だ。その場にUMP9はいなかったはずだ。なのに、何でここにいるんだ?
UMP9のシャツの前はややはだけ、そこから白い肌と下着が見えている。いや、ちょっと・・・どころか本当にシャレにならん。こんなところを45か416に見れたら確実に殺される。そんなことを考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
ベッドから這い出ようとすると、UMP9が両手両足に力を込めてくるので、解放されるまで2、3分程かかってしまった。
五十嵐は、とりあえず半裸のUMP9を毛布で覆い、セーターの上からフラックジャケットを羽織り、きつい度が入った透明なESSのアイウェアをかけてドアを開けた。
「おはようございます。そろそろ起こすべきだと思いまして。朝食の用意ができていますが、いかがされますか?」
そこにいたのはG36だ。
「む・・・・・・むう・・・・・」
「まだ頭が冴えていないようですね。おまけに、目が赤いですよ。それから、ちょっとお酒の臭いがしますね。顔を洗って、コーヒーを飲んで、指揮官様のお好きな、蜂蜜と牛乳をかけたシリアルを食べればすっきりされますよ」
「ん・・・・そう、するか。昨日・・・・・ああ、調子に乗って飲みすぎたな・・・・・はわわ」
五十嵐が欠伸をする。
「いくらお好きでも、程々にしてくださいよ。では、後程」
G36はそう言って出て言った。仕方が無い。まずはG36の言うとおりにしよう。着替えて顔を洗って電気カミソリで髭を剃り、ベッドのすぐ近くにある机の引き出しにある拳銃を確認した。鍵をかけてはいない。いざというときに、すぐに取り出せるようにするためだ。中にあるのはグロック19、H&KのVP9とUSP9、ワルサーP99/QA、SIGのP320とP226だ。
今日はVP9を選んだ。ハイドラショック弾を装填した弾倉を腰のマガジンパウチに入れる。ベッドの右隣にあるガンロッカーには、それぞれACOGを取り付けたFN-SCAR-L、タボールTAR-21、AK-12、レミントンM870、リューポルドVX-6HD4-24HD×52mmSFイルミという狙撃スコープが取り付けられたサコーM85フィンライトが収められている。金庫にはM84閃光手榴弾やM26破砕手榴弾、M18発煙手榴弾、クレイモア、C4と各種信管もあるが、まあ、緊急時以外に使うことはないだろう。さて、まずは目の前の問題をどうにかせねば。
「おーい、起きろー」
五十嵐はUMP9のシャツのボタンを締めてやってから、軽く体を揺すった。
「う・・・・うーん。あ、指揮官おはよー」
「おはようじゃなくてさ。何でいつの間にかここにいるのさ」
「あれ?部屋間違えたかな?」
「いやいや、間違えたかなじゃなくてさ」
「夜にM16に会って、それからみんなでお酒飲んで・・・・・後は覚えてないや」
五十嵐は嘆息した。あの粗暴そうな人形がここにいるのか。
「M16?何でここに」
「今はペルシカのパシリをやらされてるって愚痴ってた」
「やれやれ。全く。二度とやるなよ」
「何それ。私と添い寝するのそんなに嫌だったの」UMP9は不満そうにむくれた。
「そういうのじゃ無くてだな」
そこまで言うと、ドアがノックされ、五十嵐が今、一番入って来て欲しくない仲間がやって来た。416だ。
「あら。9、ここにいたの?45が探してたわよ。指揮官、ヘリアンから伝言よ。朝食を食べたら、B中隊は第一ブリーフィングルームに集合ですって・・・・・何よその嫌いなものを無理やり口に押し込まれて食べさせられた子供のような顔は」
やれやれ。今日までは休暇のはずなのだが、1日分取り消しか。
「わかった。すぐに行く」
2056年 2月2日 1130時 ウクライナ グリフィン支部
「さて、集まったな。本日、現時点を持ってB中隊の休暇を取り消しとする。緊急事態だが、状況を完全に把握できている訳では無い。だが、404小隊にとってはいつもの事だろ。勿論、ミスターイガラシ。君と、その他の仲間たちも作戦に加わってもらう」
ブリーフィングルームの、天板がタッチパネル画面になったハイテクな机をぐるりと囲むようにB中隊のメンバーが立っていた。ヘリアンがそれを操作する。
「我々がS15地区と呼んでいる場所で無人機が撃墜された。その無人機はかなり重要な情報を掴んで来たゆえ、必ず回収してもらいたい」
五十嵐は無人機のデータを確認した。高倍率・高解像度の光学カメラと赤外線カメラ、電子情報受信アンテナ、無線通信傍受アンテナ、超大容量SSDを搭載した最新鋭のものだ。見た目は黒ごま味の生八つ橋みたいな型をしている。
「これって、見た目からしてステルスですよね。同じ周回コースを飛んでいたから、マルチスタティックレーダーか赤外線監視装置で捕捉されたりしたんですか?または、データ送受信ネットワークか衛星遠隔操作システムに侵入されて、位置を割り出されたとかですか?」五十嵐がヘリアンに訊いた。
「さあな。奴らに発見された原因は、この際大した問題じゃない。とにかく、奴らこれを発見される前に回収してもらいたい。ああ、念のため言っておくが、無人機そのものって訳ではない。重要なのは、無人機が収集していたデータの方だ」
「わかりました。SSDを抜き出すか、中のデータをコピーするかしてから、無人機自体は"処理"ですね」
「そんなところだ。さて、現地へは飛行機で行ってもらう。ミスター・イガラシ、武器は慎重に選べ。もしかしたら、輸送無人機の支援を常に受けられなくなるかもしれないからな」