2056年 2月5日 1233時 ツェナーネットワーク
フルオートで発射される銃の音と共にダイナゲートの群れが破壊される。勿論、実際に破壊されてもいないし、弾丸を消費してもいない。
「ふう。こんなもんかな。他に敵はいる?」AEK-999が味方を振り返って言った。
「いないみたいですね。さて、早く45たちを探しましょう」
G36は周囲を見回して言った。全く。これがネットワークのデータが行き交う空間だという実感が未だにわかない。それにしても、鉄血はここにどうやって攻撃用ユニットを送り込んできているのだろうか。
それに、敵もこのネットワーク上に侵入してきているということは、油断ができない。間違いなく、無人機のデータを手に入れようと躍起になっているはずだ。
「だけど、この中で無人機の信号を見つけたら、どうやってデータを保存するんだ?」
「見つけるだけでいいわ。見つけたら、向こうであのデールとシーアとやらが向こうで保存してくれるから。忘れたの?」G11を引っ張りながらいつの間にか現れた416が五十嵐の疑問に答えた。
「帰る時は・・・・・確か、シーアは起こしてくれるとか言っていたな」
「そうね。それと、早く45も見つけないと。このままバラバラで行動し続けるのはまずいわ」
「ああ。信号を辿るのは後回しでも、」
「待って、指揮官。何か聞こえない?」
416がそう言って、耳を澄ませた。五十嵐は仲間たちに静かにしているようにハンドサインで指示を出す。じっと静かにしていると、銃を連射する音が微かに聞こえてきた。方向を確定させるため、しっかりと聞き続ける。
「あっちだわ。行きましょう」
2056年 2月5日 1233時 ツェナーネットワーク
UMP45は迫りくる敵に向かって銃を撃ち、ハチの巣にした。無人機の信号なんてちっとも見つかりやしない上に、仲間を全く見かけない。
「くっ、まずい。逃げないと」
45は敵に向かって手榴弾を投げ、牽制して元来た"道"を戻っていった。思ったよりも敵が多い。だが、現実世界と違い、GPSも道を記憶することも役に立たない。目の前にはダイナゲートの群れ。更にその後ろからはリッパーもやって来る。
しかし、見渡す限り、妙な光だけが見える空間が広がっている。どこに行けばよいのか、ちっとも見当がつかない。後ろからは敵が迫ってきている。そして、リッパーとダイナゲートの集団の後ろから、赤い達磨のような奴まで現れた。UMP45はそいつに銃弾を浴びせたが、全て固い体に弾かれてしまった。
こいつをまともに相手にするのはまずい。逃げるのが先決だ。45はそいつに"赤豆"というあだ名を心の中で付けた。取り合えず、リッパーとダイナゲートだけでも片づけておこう。45は持っている銃に新しい弾倉を装填し、フルオートで迫りくる敵のロボットとサイボーグを片づけた。"赤豆"は予想通り、浴びせられる.45ACPのホローポイント弾の雨をものともせずこちらに突進してくる。見渡す限り、おかしな光だけが見える空間だ。暫く走っていると、銃弾が金属の何かに当たって弾き飛ばされる音がした。その直後、かなり大きな銃声がした。
2056年 2月5日 1238時 ツェナーネットワーク
ファルコンは銃のボルトを引いて、新しい50口径の徹甲弾を装填した。UMP45を追いかけている敵に狙いを定め、再び引き金を引く。
「うわっ、ファルコンの弾が効かないなんて、どうなってるのあいつ」
彼女はスコープ越しに敵を観察した。その敵は逃げているUMP45に向かって、猛烈な勢いで突進している。再び狙いを定め、引き金を引いた。今度は敵の体に穴が開くをの確認できた。
「子羊ちゃん。ファルコンの弾が貫通したよ。でも、あいつ1発食らった程度なら平気みたい」
「みんな、ここで待ってろ。ファルコン、援護を頼む」
五十嵐は背負っていたショットガンを手に持ち、ポンプを動かして12ゲージの00バック弾を徹甲スラグ弾に交換した。
「わかった。任せてね」
「待ちなさい」416が自分の銃身の下に取り付けたAG36グレネードランチャーに40㎜グレネードを押し込んで言った。
「1人じゃ無理よ。それに、ファルコンの徹甲弾が効いたのならば、40mmのHEATだって効くはずよ」
「わかった。FAL、M28ライフルグレネードはあるか?」
「当然よ。2人であいつにグレネードをぶち込んで、粉々にしてやるのね」
「ああ。頼むぞ」
2056年 2月5日 1239時 ツェナーネットワーク
UMP45は既に息が上がり、これ以上走って逃げていくのが難しくなってくるのを感じた。後ろからは黒い巨大な影が猛烈な勢いで迫ってくる。だが、電子のベールの向こうに人がいるのが見えてきた。もしかしたら。そう思った45は最後の力を全身に込めて、それに向かって走って行った。間違いない。向こうに仲間がいる。だが、敵も45を逃がすものかと加速してくる。足がもつれ、前のめりに倒れそうになった時だった。
「45、伏せろ!」UMP45は即座にその言葉に従った。
2056年 2月5日 1239時 ツェナーネットワーク
五十嵐は"地面"に伏せたUMP45の隣に膝立ちになり、迫ってくる黒い物体に立て続けに00バック弾を撃ち込んだ。直径約8mmの金属の粒が弾かれる金属音が鳴る。その直後、22mmライフルグレネードと40㎜グレネードが、UMP45に襲い掛かってこようとした敵に命中した。40mmグレネードの爆発は敵を一瞬だけ足止めする程度の効果しかなかったが、ライフルグレネードのHEAT弾は敵の装甲を針状ジェットで焼き切り、小さな穴を空けた。丸い黒い塊は、その場で転がって動かなくなった。
「45姉!」
UMP9が自分の姉に駆け寄り、助け起こした。
「・・・・・ナイン。指揮官も」
「大丈夫か?怪我していないか?」
「うん。大丈夫」
「45を少し休ませてから出発しよう。ところで、無人機のCPUにアクセスするにはどうしたらいいんだ?」
「特別、何もする事は無いわ。ただCPUのIPをここで見つければいいだけ。そうすれば、無人機が墜落した場所もあのシーアが特定して、記録してくれる。それが終わったら起こしてくれるはずよ」416が指揮官の疑問に答えた。
「なるほどねえ。それにしても、VRゲームの延長線みたいなもので、こんなことができるとはな」
五十嵐は、こういった技術にはやや疎いところがある。まさか、サイボーグならば電子頭脳をネットワークに直結することはできるということは知っていたが、ドリームマシンを通じて人間の意識もネットワーク上の電子空間に 送り出すことができるとは思ってもいなかったのだ。
「そうね。指揮官の場合、ドリームマシンにインストールしている人間に夢を見せるソフトウェアに、ツェナーネットワークに直結させるプログラムを設定しといる、といったところね。これは、ハッカーがよくやる手の一つよ。人間の意識をプログラムとして侵入させるから、人間は頭で何をしたいかというのを考えるだけでいい。ドリームマシンにコンピューターを直結させて、人間が"見た"ものを全てSSDやHDDに自動的に記録させる設定にしておけばいいだけ。そうすれば、ネットワーク上のデータをどんどん抜き取ることができる」
「そうなると、ウィルスセキュリティソフトやファイアウォールのソースコードが丸見えになるから、それを収集して、改竄したり、弱点を見つけて、すり抜けることができるウィルスやワームを作って侵入することもできる、という訳か」
「そういう事よ。あら、これは。どうやら目標のものはこれみたいね。これだけの量のデータから見つけるには、何日かかることやらと思っていたけど、意外と早く見つかったのは幸運だわ」
416はネットワーク世界の文字や記号の羅列の中に、目的のものがあるのを見つけた。暫くすると、その記号の列の色が反転する。
「何だこれ?数式?座標だとは思えないな」
「だと思うわ。多分、この数式の解が、例の無人機の位置を示しているはずよ」
「うわぁ。悪いが、それは任せるよ。数学は酷く苦手だから。さて、後は、目を覚まして、目標に向かうだけだな」