2056年 2月5日 1911時 S15地区某所
武器、弾薬、食料、暗視装置、バッテリー、工具、セムテックス、リモコン信管、クレイモア、RPG-7、等々。必要な装備は満足とは言えないが、ある程度は揃った。ターゲットの位置情報は変わらない。敵も無人機を探していることを考えると、正面から突っ込んでデータの回収を行うのは危険だ。
「ちょっと回り道になるけど、このルートが一番安全のはずよ。敵から身を隠しながら進んで、こっちからはかなりの視界を確保できるわ」
ルートを選んだのは、すっかりこの中隊の参謀になってしまった416だった。
「よし。RFB、レイヴンは?」
「バッチリバッチリ。まさか、あのガラクタ置き場にこんなのが眠っていただなんてね」
例の作戦拠点の地下室は宝の山だった。プラスチック爆弾、リモコン信管、クレイモア、RPG。そして、RQ-11Bレイヴン無人偵察機まであったのだ。しかも、別の部屋には、MQ-1プレデターとMQ-9リーパー用のコンソールまで置かれていた。残念なことに、それは完全に故障していた上に、肝心のリーパーやヘルファイアミサイル等が物置に無かったのだが。
「よし、1機飛ばそう。この先、敵がいないとも限らない」
「そうだね。じゃあ、準備しよう」
RFBはタフブックを開き、USBケーブルでPCとレイヴンを繋いでから無人機管制用アプリケーションを起動させた。PCと無人機の同期は2分以内に完了し、このUAVをPCでコントロールできるようになった。
「飛ばせるのは1時間ちょっとまでだよ」RFBがPCのキーボードを叩きながら言う。
「どうせ使い捨てだ」
五十嵐はレイヴンのスイッチを入れた。小さなモーターが十分に回ったところで、このラジコン飛行機を投げた。白い無人機は、静かな音を立てて空に向かう。
RFBは無人機を操作して進行ルート上を先行させた。起動させたタフブックを持ち歩くのは骨が折れる上に、敵の攻撃を受けたらとっさに銃を使うことができなくなるが、先にターゲットを発見することを優先するためと五十嵐は割りきった。それに、無人機で敵を先に発見できれば、SV98かファルコンに狙撃して貰えば良い。416とG36が先頭を歩き、9A-91、G11が後に続く。五十嵐の護衛はUMP45とUMP9、スプリングフィールドが務め、最後尾の警戒はスオミとFAL、M14が行う。B中隊は目標へと進軍を開始した。
2056年 2月5日 1916時 S15地区某所
処置が完了し、ウロボロスは戦術人形の背中の傷を生体パテで埋めた。想像以上に厄介な作業だった。何せ、こいつを殺してしまってはならないのだ。鉄血のハイエンドモデルはPCを操作し、この戦術人形が完全なマリオネットになっているかどうかを確認する。AIのメンタルモデルは入れ替わり、以前の彼女の"人格"は消失していた。
完璧だ。後は、こいつに烙印された銃を持たせるだけだ。テーブルの上に置かれているのはサブマシンガンと.40S&W弾。意思を失った戦術人形は、焦点の合わない目で辺りを見回す。ウロボロスがキーボードを叩くと、戦術人形は弾倉に弾薬を込め始めた。
戦術人形の電子頭脳と脊椎に埋め込まれた小さなチップが、彼女のメンタルモデルの状態をリアルタイムでPCに送信してくる。しかし、だ。この実験はかなり骨が折れた。
「よし、起きなさい」
戦術人形は命令通り立ち上がった。
「あの扉まで歩きなさい」
戦術人形は命令に従う。
「こっちを向きなさい」
戦術人形は焦点が全く合っていない目でウロボロスを見る。ウロボロスは無線機を手に取った。
「ウロボロスです。実験は順調に進んでいます。そっちはどうですか?」
『あら。思ったより早く完了したのですね。私はこれからアルケミストと共に、ここから離れる予定です』
「わかりました。後はお任せを。それよりも、奴らが探している無人機はどうします?」
『捨て置きなさい。しかし・・・・・そうですね。奴らを誘き寄せる餌に使う事はできますね。まあ、あなたにお任せしますわ』
「いいでしょう。まあ、私はエルダーブレイン直属のあなたとは違い、所詮は低級モデル。それに、こいつの試験運用もしたいと思っていたところですから」
『あなたのことですから、別のグリフィンの人形を手に入れて、同じ実験をするつもりなのでしょう?』
「その通りです。ところで、カザフスタンで捕らえたアレはどうしています?」
『まだ殺してはいませんが、"廃人"の一歩手前にまで来ています。あなたがやり過ぎたせいで』
「それは失礼。しかし、あと3人の行方がわかっていないのが厄介ですね」
『あら、音速が遅いですね。1人はグリフィンの奴らが回収したらしいですよ。ただ、あとの2人。こいつらが厄介者ですから、骨が折れることは間違いないでしょう。一人はチームリーダー。もう一人は恐れを知らない戦闘狂。この2人に逃げられる前に、サイボーグやロボットをどれだけ破壊されたか忘れたのですか?』
「勿論、覚えていますわ。では、後程」
2056年 2月5日 1922時 S14地区
CH-47Dチヌーク輸送ヘリとAH-64Eアパッチ攻撃ヘリがグリフィンの前方展開基地のヘリパッドに着陸した。チヌークの後部にあるランプが下がり、中からスコット・ブレナンが率いるP中隊のメンバーが降りてきた。
「おい、ヘリアントス!何でいきなり作戦区域を変更したりした!それと、こいつは何者だ!こんな人形がいるだなんて聞いていないぞ!」
ブレナンはヘリのローター音が鳴る中、大声で叫びながらM16A1を顎でしゃくる。
「B中隊と連絡が途絶えた!撃墜された無人機の捜索中だった頃だ!」
「なんだと!」
ブレナンの表情が引きつる。B中隊と言えば、東ヨーロッパで自分たちを助けてくれた部隊だ。
「わかった。場所は?」
「ついてこい」
ブレナンはStG44を連れてヘリアンについて行った。M16A1も後から続く。この前方展開拠点は簡易的な宿舎と武武器庫、ヘリパッド、倉庫程度しか設置されていない。
「B中隊は撃墜された我々の無人偵察機を捜索中に行方不明になった。その偵察機にはSIGINT/ELINT装備が積まれていて、鉄血の無線信号やWi-Fi、無線LANの情報をかき集めていた」
「やれやれ。そんな任務を1個中隊だけにやらせること自体が無茶ってもんだ。装備は?」
「そこの倉庫に全部しまってある。好きなのを持っていけ」
「わかった。何でもかんでも根こそぎ持っていくからな」
ブレナンたちは武器弾薬、暗視装置、食料、固形燃料、カイロ、水、浄水剤、ナイフ、電子装備、寒冷地用バッテリーをどんどんバッグパックの中に詰め込んでいった。棚の物品が見る見るうちに無くなっていく。
「指揮官、こいつも持っていくといいかもしれんぞ」
MDRがブレナンに差し出したのはEMP弾。スイッチを入れて5秒で作動し、半径3m以内にある電子装備を全て無効化する。
「よし。それで・・・・・RPD、M34WPは持ったか?」
「はい。ここに1ケースありますよ。M67とM84はどうします?」
「ベルトサスペンダーに入るだけ入れろ。それと、プラスチック爆薬とリモコン信管も忘れるな」
「見て見て、指揮官!C4がこんなにあったよ!」P7が灰色の粘土の塊のようなものをブレナンに差し出す。
「全部カバンに詰めろ。それと、ケブラーのロープとカラビナを幾つか用意しろ。ラぺリングで突入しないといけない状況になるかもしれないからな」
「ピトンとピッケル、アンカーガンはどうします?」M1911が提案する。
「それもだ」
装備を整えたブレナンたちは待機していたチヌークに乗り込んだ。ヘリはすぐに飛び立っていく。彼らを見送ったヘリアンが司令部に向かって歩き出すと、需品係の職員が大慌てでヘリアンのところに駆け寄ってきた。
「ヘリアンさん!何ですか、あの連中は!本当に倉庫の中の物を根こそぎ持っていかれましたよ!あの寒冷地バッテリーは貴重品なんですよ!」
ヘリアンはその物品係の抗議を無視してその場から立ち去った。すぐに違う部隊への物資を手配する必要があるからだ。そんな些細なことに構っている余裕は無い。