2056年 2月5日 2023時 S14地区
真っ暗な雪原を進み続けた。GPNVGのおかげで夜中なのに、かなり明るい視界を確保できている。目的地は近く、もうじき無人機を発見することができそうだ。
「あれだね。って・・・・・」
RFBはタフブックの画面を見ながら、ターゲットの位置を確認していた。が、その場所が問題だった。それは、見たことも無いような、不気味な工場のようなものが建っていた。
「何だあれは?気味が悪いな」
AEK-999がその建物を見上げて言う。
「敵の施設か?」
五十嵐が言う。
「多分、そう。だとしたら、敵がそこにもう運び込んだ後なのかも」
「だけど、誰もいないみたいだよ」
「調べてみる価値はありそうだが・・・・・416、どうする?」
「リスクは高いわ。でも、行くしかなさそうね。でも、まずそうだったら、すぐに引き上げるわよ」
「よし。そうしよう」
2056年 2月5日 2027時 S14地区
ブレナンは今しがた迫撃砲弾の雨を降らせた区域の状況を確認していた。そこら中に焼け焦げたサイボーグの体や砲弾の破片がばら撒かれ、凍り始めた体液の跡がある。足元でリッパーが1体、這いずり回っていたので、ブレナンは拳銃を抜いてそいつの頭を撃ってとどめを刺した。
「他に残っている敵はいるか?」
「みんな死んでいるみたいですね。ですが・・・・・」ステンがそこまで言った途端、雪の中から5体のリッパーが飛び出してきた。どうやら、死んだふりをして、ブレナンたちが接近してくるのを待っていたらしい。
「くそっ!」
「指揮官!」
M1911が両手に1丁ずつ拳銃を持って飛び出し、リッパーの集団の中に入ると踊るような動きをしながら銃を連続で撃った。2丁の大きな自動拳銃のスライドが下がって動かなくなると同時に、5体のリッパーは地面に倒れた。
「1911、今のは・・・・・?」
「あっ、これ、この前、指揮官から借りたDVDで見たんですよ!私にもできるかなーって、ずっと練習していたんですけど、まさか役に立つ時が来るとは思いませんでした!」
ブレナンは、1911が何の映画を見てこんなことをしたのかわかった。あの古い映画を見せたのは失敗だったかもしれない。しかし、だ。そのおかげで助かったのもまた、事実だ。
「普通、あんなのを真似する奴なんていないぞ。あれができるのは、CGとワイヤーアクションのおかげってもんだ」
「わかっていますよ。でも、私のおかげで助かったでしょ」
「ああ、その通りだ」
「おーい、指揮官、これを見てくれ」
MDRがタフブックを持ってブレナンに駆け寄ってきた。画面には地図とビーコン信号が表示されている。
「見つけたか。さて、連中と合流することにしよう」
2056年 2月5日 2035時 S14地区
五十嵐たちは銃を構え、建物の中に慎重に入って行った。中には様々な機械やコンソールなどがあり、モニターには意味不明な記号や数字の羅列が映し出されている。
「何だこれは・・・・・・鉄血の施設か?」
五十嵐はその辺の机の上にある装置を手に持って言った。その端末は壊れて全く動かなくなっているようだ。その装置の銘板を見て見たが、数字とアルファベット、恐らく英語だ。それに加えて意味不明な文字が描かれている。
「誰か、これを読めるか?」
「何よこの意味不明な文字は。私の言語ソフトは英語と日本語にしか対応していないわ」416が五十嵐が差し出した装置の文字を見て言う。
「鉄血が使っている言語かな」
「だと思うわ。でも、奴らは対峙する人間がどんな民族かで話す言葉を変えているとかいう情報があるのよね」
「待て待て、奴ら、人間の言葉を理解しているのか?」
「まだ教えていなかったわね。あいつらを作り出したのはあなたたち人間よ。忘れたの?AIに人間の言語を解析し、使用するソフトウェアが備わっていても不思議ではないわ」
その通りだった。しかし、だ。鉄血に関わっている人間が何をしているのか、そのことを五十嵐は全く聞かされていなかった。恐らく、戦い自体はサイボーグ任せで、人間は安全な後方で指揮を執っているのだろう。ところが・・・・・・。
その時、うめき声が聞こえてきた。416が銃を構え、声がする方へと近づいていく。五十嵐は彼女を援護すべく、その後ろから付いて行く。
声の主は机の後ろにいた。その男の白衣は血で赤黒く染まり、体には銃創が幾つもある。生きているのが奇跡と思えるくらいだ。
「だ・・・・・誰だ・・・・?貴様は・・・・・」
男は白人で、年は40代の前半くらいに見える。腹部には大きな傷があり、そこから内臓の一部がこぼれ出ていた。
「おっさん、鉄血の人間か?」五十嵐が訊く。
「ああ・・・・そうだ」
「何があった?」
男は鼻を鳴らして笑った。
「ふん。まさか、叛乱に遭うとはな。俺たちが操ってきた人形が、突然人間を撃ち始めた。ついさっきのことだ。理由はわからん。とにかく、奴らは銃をぶっ放して、主人であったはずの人間を殺し始めた。多分、他の施設でも同じことが起きているだろう」
416は机の上のPCを操作した。そして、メールソフトを開き、何か情報がないかどうか確認する。
「指揮官、これを見て」
416の声で、五十嵐がそのPCの画面を見た。
2056 2/5 2001
宛 グレゴリー・トーマス・ワーグナー博士
どういう訳か知らんが、サイボーグが研究員や技術者を襲い、攻撃を始めた。
スイッチを切ろうとしたが、その前に次々と殺されていく。
ハイエンドモデルは全て作戦に出してしまっている。
位置情報を確認しようとしたが、全く掴めない。恐らく、ビーコンのスイッチを切ったのだろう。
もう奴らは我々の言う事を聞かないだろう。好き勝手に暴れだし、人間を殺し始めた。
恐らく、これが最後のメッセージになるだろう。
奴らは施設は破壊せず、人間だけを殺している。もしかしたら、エルダーブレイン自身が、我々人間を不要なものだと判断したのだろう。
これから、奴らは自己増殖して、世界中あらゆる場所を攻撃するだろう。
もう奴らを止める手立ては、我々には無いに等しい状態だ。
このまま奴らを放っておいたら、第三次世界大戦と同等の被害が出る可能性もある。
何人かの武装部隊がエルダーブレインのスイッチを切りに向かったが、それ以降連絡が無い。
ここが奴らに破壊され、我々が皆殺しにされるのも時間の問題だ。
もう仲間が大勢殺されている。もし、
ここで文章は途切れていた。つい24分前の出来事だ。五十嵐が男の方を見ると、彼は既にこと切れていた。
「ワーグナー博士っていうのは?」
「この人のことじゃない?」
UMP45が先程の男の名札を手に取って言った。その名札には"Wagner, Gregory T"と書かれている。
ふと、机に置かれていた無線機から雑音が鳴った。416とG36が銃を向ける。
『・・・・・・セクター11・・・・えるか?・・・・ちら、セ・・・・・』
無線機から男の声が、銃声のBGM付きで流れてきた。
『・・・・つらがは・・・・た。み・・・・ろされ・・・・。ぶ・・・・・・はしっ・・・・た。ぜん・・・・・てっ・・・・・た。いそ・・・・・』
再び雑音が鳴り、声が途切れた。
五十嵐は状況を整理した。まず、鉄血製造工廠は、ある人間が立ち上げたテロ組織であり、サイボーグやUAVなどを使い、各地でテロ行為を行っていた。
しかし、たった今、何らかの原因でサイボーグが反乱を起こし、人間を殺傷している。考えられる理由は、AIの不具合。もしくは、サイボーグ等のAIが、人間を不要と考え、排除を開始した。まるで、古いSF小説のあるフレーズを具現化したかのような状況だ。
五十嵐はある恐るべき結論に行き当たり、隣にいるUMP45の顔を見た。もし・・・・・・。
「指揮官が何を考えているくらいわかる。もし、私が指揮官に銃を向けるようなことをした時は、私を撃って」
2056年 2月5日 2037時 S14地区
邪魔な人間は全て片付けたが、どうやらネズミが紛れ込んできたようだ。スケアクロウは監視カメラを操作し、侵入者を観察した。恐らくは、グリフィンの人形と人間。排除せねばならない。
ふと、施設外周部の状況をリアルタイムで写し出しているモニターを見ると、別の侵入者が現れるのを確認した。奴らの仲間か。
鉄血のハイエンドモデルは、2つの敵グループに兵器を差し向けることにした。外の奴らは、自分が直々に相手をしてやろう。建物内部に入ってきた奴らには、あの"玩具"を差し向けることにしよう。例えあれが役に立たなかったとしても、実戦データを蓄積する、良い機会だ。